書籍之海 漂流記

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川澄哲也 「元代の 『擬蒙漢語』と現代の青海・甘粛方言」

2015年08月25日 | 東洋史
 『京都大学言語学研究』22、2003年12月掲載、同誌301-324頁

 非常に教えられるところ大だった。

 「擬蒙漢語」とは、従来「蒙文直訳体」或いは「漢児言語」と呼ばれてきた漢語のことである。

 〔青海・甘粛方言は〕古くから蒙古語系 、或いはチベ ット語系の言語と接触を繰り返しており、擬蒙漢語との比較には最適の漢語である。

 擬蒙漢語の性質に関しては、「実際に使用されていた言語」という意見と、「蒙古語文書を翻訳するための文体」という二つの見解が対立している。

 先行研究において意見が―致しなかった要因としては、次の二点が考えられる。
  ①語学的 見地からの論拠が提出されてこなかった。
  ②標準的な漢語との比較しかなされてこなかった。

 〔両者の比較・分析過程は省略〕上記の諸現象はいずれも、周辺言語との接触の結果起きた言語変容であると考えられる。これらの事例に加え、第3節であげた同時代資料による直接的証拠をあわせ考えると、擬蒙漢語のような特殊な構造をもった漢語が元朝時代、実際に用いられていたと考えることができる。