語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【濱嘉之】中国の最優先課題/環境問題 ~『聖域侵犯』~

2016年08月27日 | 小説・戯曲
<「(前略)ところで青山、一つ教えてくれ。中国にとって今一番大事なことはなんだ?」
 藤中が神妙な顔つきになって訊ねた。大和田も青山の顔を覗き込むように見ていた。
「必死になっているのは環境問題だ。そして公害・環境問題の解決のためには空気、水、土の浄化が最優先だな」
「空気、水、土というとどうしても農業を思い起こしてしまうが・・・・中国の富裕層は自国産の食料を口にしないと言われて久しいからな」
 大和田が言うと藤中も続いた。
「香港では自国が作った野菜を毒菜と言っているらしいぜ」
「そんなことを言っても日本のファミレスのほとんどが中国産の野菜を使っている。ファミレスを使わない者はいいが、子供を抱えた家族にとってファミレスは大事な食事の場となっている場合が多いからな」
 青山が他人事のように言ったので藤中が質問した。
「それでもファミレスは潰れるどころか増えているんじゃないのか?」
「それは仕方ないことだ。ファミレスで食事をすることが悪いとは言っていない。ただリスクを負う覚悟が必要だと言うだけだ。それほど中国の多くの土壌は汚染されている」
「空気はどうなんだ?」
「ニュースを見ればわかるだろう。昨年末にパリで開かれたCOP21がいい例だ」
 COP21の正式名称は「国連気候変動枠組み条約第21回締結会議」である。
 これに参加した中国政府代表団副団長が2020年以降の地球温暖化対策の新たな国際枠組みに関し、中国自身が途上国グループに所属する立場から「歴史的責任に基づき、(各国が取り組む対策に)差をつけることが必要だ」と強調し「過去に温室効果ガスを大量に排出してきた先進国が、より重い責任を負うべきだ」と改めて主張した。
 中国の代表団幹部が自ら自国を発展途上国と認めたのだ。
 さらに中国政府の気候変動事務特別代表もまた「先進国が開発途上国に十分な資金・技術支援を行うかどうかが成功のカギだ」としながら、中国を「発展途上国代表」と自負した。そして年1千億ドル(約12兆円)の拠出が決まっている発展途上国向けの環境対策資金についても「中国は自発的に支援を続けているが、先進国の資金援助は義務だ」と強調している。
 藤中が口を歪めて言った。
 「発展途上国ねえ。発展途上国仲間のアフリカでは国家の幹部を金で釣りながら、イミテーションの武器をばら撒いて紛争を煽っている国だからな」
「よく知っているじゃないか。それでいて都合が悪いと発展途上国に先祖返りだ。第一次産業従事者の人口比率を見れば確かに発展途上国には間違いないんだけどな」
 青山が冷静に答えると大和田が言った。
「近隣国家にとって大気汚染だけでもいい迷惑なんだが・・・・北京ではPM2・5を含む汚染指数が600を超えた日が何度かあったらしいんだ。中国でも最悪レベルの『危険』が301から500だから、600超えの異常さがよくわかる」
 青山が頷きながら後を続けた。
「中国代表団に同行した中国関係者は『国民の関心は温暖化より目の前のスモッグに集まっている』と言っていたそうだ。国民の間で地球温暖化に対する関心などほとんどない一方、健康に直結する大気汚染には極めて敏感になりつつあることを政府も認めているそうだ」
「環境は他人任せか・・・・」
「いや自分たちでできることはやったというところを見せてやらなければ、アフリカをはじめとした本当の発展途上国は付いて来ない。金の分捕り方を教えて、その使い方をメイドインチャイナで売り込むのが奴らのこれまでの手口だ」
 青山は冷静ながら中国に対しては実に厳しい言い方をした。藤中が自分の考えを確認するように訊ねた。
「そのメイドインチャイナがパクりというか、技術を盗むことにつながるんだ?」>

□濱嘉之『聖域侵犯 警視庁公安部・青山望』(文春文庫、2016)
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【詩歌】会津八一『自註鹿鳴集』 ~奈良~

2016年08月27日 | 詩歌
 みみ しふ と ぬかづく ひと も みわやま の この あきかぜ を きか ざらめ や も
 (耳しふと額づく人も三輪山のこの秋風を聞かざらめやも)

【語意】
 三輪の金屋・・・・奈良・桜井市金屋、三輪山の南麓。
 石仏・・・・八一は「薬師の一面が移されて2面になりしものか。」と書いている。現在では右が釈迦如来、左が弥勒菩薩と言われている。重要文化財。
 村媼・・・・村の老女、いなかの老女。
 みみしふ・・・・耳の聞こえない。“しふ”とは感覚器官が働きを失うこと。
 ぬかづく・・・・額突く。ひたいを地につけて拝むこと。
 みわやま・・・・奈良県桜井市の南東部にそびえる、なだらかな円錐形の美しい姿をした標高467mの山で、古代から神の鎮座する山、神名備(かむなび)とされて信仰の対象となっている。
 きかざらめやも・・・・聞かないことなどない。「やも」は反語の意を表す。

【歌意】
 耳を病んで苦しんでいる里の老女が、頭を地につけてこのみ仏に祈っている。三輪山から吹き降ろす秋風の音をこの老女は聞かないのだろうか、いやきっと聞いているに違いない。

【解説】
 八一が訪れた時、石仏は路傍の木立にただ立てかけられていただけ、吹き降ろす秋風のもと、耳を病む老女の祈る姿という素朴で寂しい情景だけがあった。だが、「聞かざらめやも」に込められた反語の中に、強い希望と「三輪山=神の力」を感じ取ることが出来るような気がする。
 現在の石仏は写真のような頑丈なコンクリートの堂の中にあって、この歌の当時の趣を味わうことは出来ない。周辺は山の辺の道(遊歩道)として整備され、訪れる人も多い。

【補注】三輪の金屋( 『自註鹿鳴集』による)
 三輪山の南なる弥勒谷(みろくだに)といふところに、高さ六七尺、幅三尺ばかりの板状の石に仏像を刻したるもの二枚あり。(中略)路傍の木立に立てかけ、その前に燭台、花瓶、供物、および耳を疾(や)める里人の納めものと見ゆる形ばかりなる錐など置きてありき。(後略)

□「会津八一の歌」(「会津八一の歌と解説」)

 *

・猿沢池にて
 わぎもこ が きぬかけやなぎ み まく ほり いけ を めぐりぬ かさ さし ながら

・中宮寺
 みほとけ の あご と ひぢ とに あまでら の あさ の ひかり の ともしきろ かも

・唐招提寺にて
 おほてら の まろき はしら の つきかげ を つち に ふみ つつ もの を こそ おもへ

・春日野にて
 かすがの に おしてる つき の ほがらか に あき の ゆふべ と なり に ける かも

 そらみつ やまと の かた に かりね して ひたすら こふ は とほき よ の ひと

・その他
 ふるてら の はしら に のこる たびびと の な を よみ ゆけど しる ひと も なし

 うちふして もの もふ くさ の まくらべ を あした の しか の むれ わたり つつ

 そらみつ やまと の かた に かりね して ひたすら こふ は とほき よ の ひと

 ふるてら の はしら に のこる たびびと の な を よみ ゆけど しる ひと も なし

□会津八一『自註鹿鳴集』(新潮文庫、1969/岩波文庫、1998)

 *

 会津八一(あいづ やいち)
 1881.8.1~1956.11.21、新潟市生まれ。歌人、書家、美術史家。 
 東京専門学校高等予科(早稲田大学の前身)で学び、坪内逍遥、ラフカディオ・ハーンの講義を受ける。卒業後郷里に帰って教鞭をとっていたが、坪内逍遥の招きで、早稲田中学の英語教師となり、後に早稲田大学文学部講師、教授となる。
 明治41年はじめて奈良旅行したことで仏教美術に関心を持ち、その後も研究のためしばしば奈良を訪れた。はじめ俳句を作っていたが、奈良旅行をしたあたりから歌を多く詠み、大正13年第一歌集『南京新唱』を出版する。なお書は独特の風格を持ち一家をなしている。
 掲載作は昭和28年、新潮社より刊行された最後の著作『自註鹿鳴集』に収載されたもの(『會津八一全集 第5巻』(中央公論社、昭和57年)。
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 【参考】
【詩歌】比叡山(抄) ~自註鹿鳴集~

【ウィリアム・F・ノーラン】『ダシール・ハメット伝』

2016年08月27日 | ノンフィクション
 
 ハメットに傾倒した著者の、傾倒ぶりがうかがわれる伝記。作家論(ミステリーを書くことに興味を失った事情)としても部分的には作品論(たとえば『影なき男』の特徴)としても読める。
 単なる思い入れで書かれているわけではない。著者は本書に先立つこと十数年前にダシール・ハメット書誌を刊行している。
 職歴はもとより若き日の読書傾向といった細部の事実も掘り起こし、さらにはハメット作品の映画化に関する裏話を通じて当時の米国映画産業の一側面をも描きつくす。
 米国を一時席巻したマッカーシー旋風の残酷さを新ためて感じる。正義感と才能を併せもつ作家が、国家からいわれなき迫害を受け、社会に絶望し、自堕落な生活に流れ、アル中に陥った。
 とはいえ、全体を通じて感じられるのは、自分なりの倫理を最後まで守りとおした気骨のある一作家の生涯である。

□ウィリアム・F・ノーラン(小鷹信光・訳)『ダシール・ハメット伝』(晶文社、1988)
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 【参考】
【言論】マッカーシズムの教訓 ~政治権力と言論~
【本】ドルトン・トランボの闘い ~赤狩り時代のオスカー~
書評:『ジョニーは戦争へ行った』
書評:『眠れない時代』
【本】中野利子『外交官E・H・ノーマン その栄光と屈辱の日々1909-1957』
【映画談義】『真昼の決闘』 ~大衆操作~
【読書余滴】「High Noon」 ~『真昼の決闘』~

【佐藤優】イスラエルとユダヤ人に関するノート ~目次~

2016年08月27日 | ●佐藤優
 
 まえがき

Ⅰ 私とイスラエルについての省察ノート
 1話 なぜ私はイスラエルが好きか
 2話 旧約聖書の再発見とヨムキプール戦争の教訓
 3話 獄中の私を支えてくれたイスラエルの友人たち

Ⅱ ロシアとイスラエルの考察ノート
 4話 モスクワのオランダ大使館領事部
 5話 ナティーブの対ソ秘密工作
 6話 ロシア・グルジア戦争を分析するイスラエル専門家の視点の重要性
 7話 プーチン露大統領のイスラエル訪問の意義
 8話 イスラエル外交に働く目に見えない力
 9話 シャロン元首相とロシア

Ⅲ 日本とイスラエルの考察ノート
 10話 『スギハラ・ダラー』から杉原千畝を読み解く
 11話 東日本大震災をどう考えるか
 12話 福島第一原発事故に関するあるイスラエル人との会話
 13話 F35問題をめぐる武器輸出三原則の解釈がイスラエルに与える影響
 14話 国家安全保障会議(日本版NSC)とイスラエル・ハイテク産業
 15話 画期的な日本・イスラエル共同声明

Ⅳ イラン、シリア、北朝鮮の考察ノート
 16話 中立国と情報工作
 17話 イラン危機と日本
 18話 イスラエルとイランの関係をどう見るか
 19話 イランと「国交断絶」したカナダに学べ 
 20話 孫崎亨・元外務省国際情報局長のイラン観について
 21話 北朝鮮によるシリアの核開発支援にイスラエルはどう対処
 22話 シリア情勢を巡る日本の独自外交

Ⅴキリスト教神学生への手紙
 23話 ある神学生への手紙--『トーラーの名において』の評価 
 24話 あるキリスト教神学生からのメール--ユダヤ民族の否定について 
 25話 反ユダヤ主義の歴史について1
 26話 反ユダヤ主義の歴史について2
 27話 キリスト教とイスラエル--『キリストの火に』を読む
 28話 ホロコースト生き残りの証言

 あとがき

□佐藤優『イスラエルとユダヤ人に関するノート』(ミルトス、2015)
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 【参考】
【佐藤優】ロシア大統領府長官にワイノ氏就任の意味 ~北方領土交渉~
【佐藤優】西郷と大久保はなぜ決裂したのか ~征韓論争~
【佐藤優】開発独裁とは違う明治維新 ~目的は複数、リーダーも複数~
【佐藤優】岩倉使節団が使った費用、100億円 ~明治初期~
【佐藤優】反省より不快示すロシア ~五輪ドーピング問題~
【佐藤優】 改憲を語るリスクと語らないリスク ~改憲問題~
【佐藤優】+池上彰 エリートには貧困が見えない ~貧困対策は教育~
【佐藤優】スコットランドの動静と沖縄の日本離れの加速
【佐藤優】沖縄の全基地閉鎖要求・・・・を待ち望む中央官僚の策謀
【佐藤優】ナチスドイツ・ロシア・中国・北朝鮮 ~世界の独裁者~
【佐藤優】急進展する日露関係 ~安倍首相が取り組むべき宿題~
【佐藤優】日露首脳会談をめぐる外務省内の暗闘 ~北方領土返還の可能性~
【佐藤優】殺しあいを生む「格差」と「貧困」 ~「殺しあう」世界の読み方~
【佐藤優】一時中止は沖縄側の勝利だが ~辺野古新基地建設~
【佐藤優】情報のプロならどうするか ~「私用メール」問題~
【佐藤優】テロリズムに対する統一戦線構築 ~カトリックとロシア正教~
【佐藤優】北方領土「出口論」を安倍首相は訪露で訴えよ
【佐藤優】ラブロフ露外相の真意 ~日本政府が怒った「強硬発言」~
【佐藤優】プーチンが彼を「殺した」のか? ~英報告書の波紋~
【佐藤優】北朝鮮による核実験と辺野古基地問題
【佐藤優】サウジとイランと「国交断絶」の引き金になった男 ~ニムル師~
【佐藤優】矛盾したことを平気で言う「植民地担当相」 ~島尻安伊子~
【佐藤優】陰険で根暗な前任、人柄が悪くて能力のある新任 ~駐露大使~
【佐藤優】世界史の基礎を身につける法、決断力の磨き方
【佐藤優】国内で育ったテロリストは潰せない ~米国の排外主義的気運~
【佐藤優】沖縄が敗訴したら起きること ~辺野古代執行訴訟~
【佐藤優】知を身につける ~行為から思考へ~
【佐藤優】プーチンの「外交ゲーム」に呑まれて
【佐藤優】世界イスラム革命の無差別攻撃 ~日本でテロ(3)~
【佐藤優】日本でもテロが起きる可能性 ~日本でテロ(2)~
【佐藤優】『日本でテロが起きる日』まえがきと目次 ~日本でテロ(1)~
【佐藤優】小泉劇場と「戦後保守」・北方領土、反知性主義を脱構築
【佐藤優】【中東】「スリーパー」はテロの指令を待っている
【佐藤優】東京オリンピックに係るインテリジェンス ~知の武装・抄~
【佐藤優】分析力の鍛錬、事例、実践例 ~知の教室・抄(3)~
【佐藤優】武器としての教養、闘い方、対話の技術 ~知の教室・抄(2)~
【佐藤優】知的技術、情報を拾う・使う、知をビジネスに ~知の教室・抄(1)~
【佐藤優】多忙なビジネスマンに明かす心得 ~情報収集術(2)~
【佐藤優】多忙なビジネスマンに明かす心得 ~情報収集術(1)~
【佐藤優】日本のインテリジェンス機能、必要な貯金額、副業の是非 ~知の教室~
【佐藤優】世の中でどう生き抜くかを考えるのが教養 ~知の教室~
【佐藤優】『知の教室 ~教養は最強の武器である~』目次
【佐藤優】『佐藤優の実践ゼミ』目次
『佐藤優の実践ゼミ 「地アタマ」を鍛える!』
 ★『佐藤優の実践ゼミ 「地アタマ」を鍛える!』目次はこちら
【佐藤優】サハリン・樺太史、酸素魚雷と潜水艦・伊400型、飼い猫の数
【佐藤優】第2次世界大戦、日ソ戦の悲惨 ~知を磨く読書~
【佐藤優】すべては国益のため--冷徹な「計算」 ~プーチン~
【佐藤優】安倍政権、沖縄へ警視庁機動隊投入 ~ソ連の手口と酷似~
【佐藤優】世の中でどう生き抜くかを考えるのが教養 ~知の教室~
【佐藤優】冷静な分析と憂国の情、ドストエフスキーの闇、最良のネコ入門書
【佐藤優】「クルド人」がトルコに怒る理由 ~日本でも衝突~
【佐藤優】異なるパラダイムが同時進行 ~激変する国際秩序~
【佐藤優】被虐待児の自立、ほんとうの法華経、外務官僚の反知性主義
【佐藤優】日本人が苦手な類比的思考 ~昭和史(10)~
【佐藤優】地政学の目で中国を読む ~昭和史(9)~
【佐藤優】これから重要なのは地政学と未来学 ~昭和史(8)~
【佐藤優】近代戦は個人の能力よりチーム力 ~昭和史(7)~
【佐藤優】戦略なき組織は敗北も自覚できない ~昭和史(6)~
【佐藤優】人材の枠を狭めると組織は滅ぶ ~昭和史(5)~
【佐藤優】企画、実行、評価を分けろ ~昭和史(4)~
【佐藤優】いざという時ほど基礎的学習が役に立つ ~昭和史(3)~
【佐藤優】現場にツケを回す上司のキーワードは「工夫しろ」 ~昭和史(2)~
【佐藤優】実戦なき組織は官僚化する ~昭和史(1)~
【佐藤優】バチカン教理省神父の告白 ~同性愛~
【佐藤優】進むEUの政治統合、七三一部隊、政治家のお遍路
【佐藤優】【米国】がこれから進むべき道 ~公約撤回~
【佐藤優】同志社大学神学部 私はいかに学び、考え、議論したか」「【佐藤優】プーチンのメッセージ
【佐藤優】ロシア人の受け止め方 ~ノーベル文学賞~
【佐藤優】×池上彰「新・教育論」
【佐藤優】沖縄・日本から分離か、安倍「改憲」を撃つ、親日派のいた英国となぜ開戦
【佐藤優】シリアで始まったグレート・ゲーム ~「疑わしきは殺す」~
【佐藤優】沖縄の自己決定権確立に大貢献 ~翁長国連演説~
【佐藤優】現実の問題を解決する能力 ~知を磨く読書~
【佐藤優】琉球独立宣言、よみがえる民族主義に備えよ、ウクライナ日記
【佐藤優】『知の教室 ~教養は最強の武器である~』目次
【佐藤優】ネット右翼の終わり、解釈改憲のからくり、ナチスの戦争
【佐藤優】「学力」の経済学、統計と予言、数学と戦略思考
【佐藤優】聖地で起きた「大事故」 ~イランが怒る理由~
【佐藤優】テロ対策、特高の現実 ~知を磨く読書~
【佐藤優】フランスにイスラム教の政権が生まれたら恐怖 ~『服従』~
【佐藤優】ロシアを怒らせた安倍政権の「外交スタンス」
【佐藤優】コネ社会ロシアに関する備忘録 ~知を磨く読書~
【佐藤優】ロシア、日本との約束を反故 ~対日関係悪化~
【佐藤優】ロシアと提携して中国を索制するカードを失った
【佐藤優】中国政府の「神話」に敗れた日本
【佐藤優】日本外交の無力さが露呈 ~ロシア首相の北方領土訪問~
【佐藤優】「アンテナ」が壊れた官邸と外務省 ~北方領土問題~
【佐藤優】基地への見解違いすぎる ~沖縄と政府の集中協議~
【佐藤優】慌てる政府の稚拙な手法には動じない ~翁長雄志~
【佐藤優】安倍外交に立ちはだかる壁 ~ロシア~
【佐藤優】正しいのはオバマか、ネタニヤフか ~イランの核問題~
【佐藤優】日中を衝突させたい米国の思惑 ~安倍“暴走”内閣(10)~
【佐藤優】国際法を無視する安倍政権 ~安倍“暴走”内閣(9)~
【佐藤優】日本に安保法制改正をやらせる米国 ~安倍“暴走”内閣(8)~
【佐藤優】民主主義と相性のよくない安倍政権 ~安倍“暴走”内閣(7)~
【佐藤優】官僚の首根っこを押さえる内閣人事局 ~安倍“暴走”内閣(6)~
【佐藤優】円安を喜び、ルーブル安を危惧する日本人の愚劣 ~安倍“暴走”内閣(5)~
【佐藤優】中小企業100万社を潰す竹中平蔵 ~安倍“暴走”内閣(4)~
【佐藤優】自民党を操る米国の策謀 ~安倍“暴走”内閣(3)~
【佐藤優】自民党の全体主義的スローガン ~安倍“暴走”内閣(2)~
【佐藤優】安倍“暴走”内閣で窮地に立つ日本 ~安倍“暴走”内閣(1)~
【佐藤優】ある外務官僚の「嘘」 ~藤崎一郎・元駐米大使~
【佐藤優】自民党の沖縄差別 ~安倍政権の言論弾圧~
【書評】佐藤優『超したたか勉強術』
【佐藤優】脳の記憶容量を大きく変える技術 ~超したたか勉強術(2)~
【佐藤優】表現力と読解力を向上させる技術 ~超したたか勉強術~
【佐藤優】恐ろしい本 ~元少年Aの手記『絶歌』~
【佐藤優】集団的自衛権にオーストラリアが出てくる理由 ~日本経済の軍事化~
【佐藤優】ロシアが警戒する日本とウクライナの「接近」 ~あれかこれか~
【佐藤優】【沖縄】知事訪米を機に変わった米国の「安保マフィア」
【佐藤優】ハワイ州知事の「消極的対応」は本当か? ~沖縄~
【佐藤優】米国をとるかロシアをとるか ~日本の「曖昧戦術」~
【佐藤優】エジプトで「死刑の嵐」が吹き荒れている
【佐藤優】エリートには貧困が見えない ~貧困対策は教育~
【佐藤優】バチカンの果たす「役割」 ~米国・キューバ関係~
【佐藤優】日米安保(2) ~改訂のない適用範囲拡大は無理筋~
【佐藤優】日米安保(1) ~安倍首相の米国議会演説~
【佐藤優】日米安保(1) ~安倍首相の米国議会演説~
【佐藤優】外相の認識を問う ~プーチンからの「シグナル」~
【佐藤優】ヒラリーとオバマの「大きな違い」
【佐藤優】「自殺願望」で片付けるには重すぎる ~ドイツ機墜落~
【佐藤優】【沖縄】キャラウェイ高等弁務官と菅官房長官 ~「自治は神話」~
【佐藤優】戦勝70周年で甦ったソ連の「独裁者」 ~帝国主義の復活~
【佐藤優】明らかになったロシアの新たな「核戦略」 ~ミハイル・ワニン~
【佐藤優】北方領土返還の布石となるか ~鳩山元首相のクリミア訪問~
【佐藤優】米軍による日本への深刻な主権侵害 ~山城議長への私人逮捕~
【佐藤優】米大使襲撃の背景 ~韓国の空気~
【佐藤優】暗殺された「反プーチン」政治家の過去 ~ボリス・ネムツォフ~
【佐藤優】ウクライナ問題に新たな枠組み ~独・仏・露と怒れる米国~
【佐藤優】守られなかった「停戦合意」 ~ウクライナ~
【佐藤優】【ピケティ】『21世紀の資本』が避けている論点
【ピケティ】本では手薄な問題(旧植民地ほか) ~佐藤優によるインタビュー~
【佐藤優】優先順序は「イスラム国」かウクライナか ~ドイツの判断~
【佐藤優】ヨルダン政府に仕掛けた情報戦 ~「イスラム国」~
【佐藤優】ウクライナによる「歴史の見直し」をロシアが警戒 ~戦後70年~
【佐藤優】国際情勢の見方や分析 ~モサドとロシア対外諜報庁(SVR)~
【佐藤優】「イスラム国」が世界革命に本気で着手した
【佐藤優】「イスラム国」の正体 ~国家の新しいあり方~
【佐藤優】スンニー派とシーア派 ~「イスラム国」で中東が大混乱(4)~
【佐藤優】サウジアラビア ~「イスラム国」で中東が大混乱(3)~
【佐藤優】米国とイランの接近  ~「イスラム国」で中東が大混乱(2)~
【佐藤優】シリア問題 ~「イスラム国」で中東が大混乱(1)~
【佐藤優】イスラム過激派による自爆テロをどう理解するか ~『邪宗門』~
【佐藤優】の実践ゼミ(抄)
【佐藤優】の略歴
【佐藤優】表面的情報に惑わされるな ~英諜報機関トップによる警告~
【佐藤優】世界各地のテロリストが「大規模テロ」に走る理由
【佐藤優】ロシアが中立国へ送った「シグナル」 ~ペーテル・フルトクビスト~
【佐藤優】戦争の時代としての21世紀
【佐藤優】「拷問」を行わない諜報機関はない ~CIA尋問官のリンチ~
【佐藤優】米国の「人種差別」は終わっていない ~白人至上主義~
【佐藤優】【原発】推進を図るロシア ~セルゲイ・キリエンコ~
【佐藤優】【沖縄】辺野古への新基地建設は絶対に不可能だ
【佐藤優】沖縄の人の間で急速に広がる「変化」の本質 ~民族問題~
【佐藤優】「イスラム国」という組織の本質 ~アブバクル・バグダディ~
【佐藤優】ウクライナ東部 選挙で選ばれた「謎の男」 ~アレクサンドル・ザハルチェンコ~
【佐藤優】ロシアの隣国フィンランドの「処世術」 ~冷戦時代も今も~
【佐藤優】さりげなくテレビに出た「対日工作担当」 ~アナートリー・コーシキン~
【佐藤優】外交オンチの福田元首相 ~中国政府が示した「条件」~
【佐藤優】この機会に「国名表記」を変えるべき理由 ~ギオルギ・マルグベラシビリ~
【佐藤優】安倍政権の孤立主義的外交 ~米国は中東の泥沼へ再び~
【佐藤優】安倍政権の消極的外交 ~プーチンの勝利~
【佐藤優】ロシアはウクライナで「勝った」のか ~セルゲイ・ラブロフ~
【佐藤優】貪欲な資本主義へ抵抗の芽 ~揺らぐ国民国家~
【佐藤優】スコットランド「独立運動」は終わらず
「森訪露」で浮かび上がった路線対立
【佐藤優】イスラエルとパレスチナ、戦いの「発端」 ~サレフ・アル=アールーリ~
【佐藤優】水面下で進むアメリカvs.ドイツの「スパイ戦」
【佐藤優】ロシアの「報復」 ~日本が対象から外された理由~
【佐藤優】ウクライナ政権の「ネオナチ」と「任侠団体」 ~ビタリー・クリチコ~
【佐藤優】東西冷戦を終わらせた現実主義者の死 ~シェワルナゼ~
【佐藤優】日本は「戦争ができる」国になったのか ~閣議決定の限界~
【ウクライナ】内戦に米国の傭兵が関与 ~CIA~
【佐藤優】日本が「軍事貢献」を要求される日 ~イラクの過激派~
【佐藤優】イランがイラク情勢を懸念する理由 ~ハサン・ロウハニ~
【佐藤優】新・帝国時代の到来を端的に示すG7コミュニケ
【佐藤優】集団的自衛権、憲法改正 ~ウクライナから沖縄へ(4)~ 
【佐藤優】スコットランド、ベルギー、沖縄 ~ウクライナから沖縄へ(3)~ 
【佐藤優】遠隔地ナショナリズム ~ウクライナから沖縄へ(2)~
【佐藤優】ユニエイト教会 ~ウクライナから沖縄へ(1)~ 

【保健】茶カテキンによる肝障害でノルウェーがサプリメント含有量規制へ

2016年08月27日 | 医療・保健・福祉・介護
 (1)茶カテキンの健康食品は、「体脂肪を減らす」「悪玉コレステロールを減らす」などの効能で販売されている。
 一方、海外では、茶カテキンによる肝臓障害の副作用が問題になっている。

 (2)2016年3月、ノルウェー国立公衆衛生研究所が、世界でも初めてサプリメントとしての茶カテキンの基準値を発表した。その値は、体重60kgの大人の場合1日24mgに相当する量だ。普通のお茶に含まれる量は、1杯当たり約68mgだ。この基準値によれば、お茶1杯さえ飲めない。
 どう考えればよいか。
 日本のようにお茶を日常的に飲む習慣のないノルウェーでは、茶カテキンをサプリメントとして摂取した場合の安全性だけを評価している。具体的には、動物実験で毒性が出なかった最大量から、100分の1の安全係数をかけて導きだされたものだ。農薬や食品添加物の安全摂取量を評価する場合に使われるやり方だ。
 しかし、食品に含まれる成分に適用すると、普通に食品に含まれる量でも安全とは言い切れないということになる場合がある。その結果、その基準ではお茶1杯さえ飲めないということになったようだ。ノルウェーの評価書の中でも「サプリメントとして1日当たり一度に摂取した場合の有害影響を起こす可能性がある量」と記載されている。規制の対象は、あくまでもサプリメントとして上乗せされる量ということのようだ。

 (3)実は日本でも、食品成分の健康食品への利用について、上限値がつけられたケースがある。大豆に含まれるイソラボンがそれで、食品安全委員会が2006年5月に発表している。
 日本人が慣れ親しんでいるお茶についても、従来の飲料としてお茶として飲む分の範囲であれば安全性は担保されると考えてよかろうが、その安全な摂取量の範囲は意外と狭い可能性がある。体脂肪を減らすなど特別な効果を期待させてサプリメントや健康食品に使用される場合、上限値の設定などの評価は必要だ。

 (4)動物実験では、空腹時に一度大量に飲むことで、食事と一緒に少しずつ飲む場合と比べて毒性が10倍以上も強くなることが報告されている。血中濃度が急激に上がることで肝臓に負担を与えると考えられる。
 日本では1日10杯以上のお茶を毎日飲む人たちがいるが、空腹時に一度に10杯立て続けに飲むケースはまれだろう。通常、食事時や、何か食べながら飲む場合が圧倒的に多いだろう。

 (5)日本の茶カテキン商品には、「食事と一緒でなくても構いません」「いつ飲んでも大丈夫」と強調しているが、せめて「空腹時には避けたほうがよい」という注意喚起は必要だ。
 ノルウェーの摂取基準に照らし合わせると、市販の茶カテキンサプリメントは、軒並み10倍以上超過している。花王「ヘルシア」などの飲料は、お茶の代わりに飲むことになるのでまだマシだが、サプリメントの場合、日常のお茶に加えて摂取量が上乗せされることになるので、より注意が必要だ。 

□植田武智(科学ジャーナリスト)「茶カテキンによる肝障害でノルウェーがサプリメント含有量規制へ」(「週刊金曜日」2016年7月22日号)
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【ロバート・ゴダード】『閉じられた環』 ~複雑に入り組んだ謎~

2016年08月27日 | 小説・戯曲
 
 古い倉庫を始末し、新しく設置した際、古い倉庫から出てきた本の一。

 (1)ゴダードの長編第7作目、邦訳としては第9作目の作品。
 解説の紹介からはじめたい。関口苑生による解説は、ちょっとしたゴダード論である。いわく、ゴダードの魅力は、複雑に入り組んだ謎の構築、それを解明する方法、その両方におけるプロットの巧緻にある。主人公は職業的な探偵ではなくて、読者とともに謎の解明にあたる。最初、一見単純に見える謎を探求するうちに、第二、第三の謎がつむぎだされて読者を混迷の極みへいざなう。その際、背後に漂う何やら不気味なものが緊張感を高める。最大の魅力は、小説の外側ですでに惹起した事件と小説の内側で現在起こっている事件との関連が物語られる過程である、云々。
 本書でも、このゴダード節がたっぷりと奏でられる。

 (2)1931年の夏、悪事がばれて米国を逃げ出した二人の詐欺師、主人公ガイ・ホートンとマックス・ウィンゲートは、英国へ向かう豪華客船でダイアナ・チャーンウッドと知り合う。彼女は、20を越える有力企業に対する国際的投資家フェビアンのひとり娘であった。これを知り、カモにするべく接近し、首尾よくよしみを通じる。だが、誤算が生じた。月の女神と同じ名をもつこの美女に、マックスが本気で惚れこんだのである。彼女も恋におちる。
 英国に着いて、マックスは結婚の許可を彼女の父親に求めるが、一蹴される。詐欺師の前科を喝破されていたのだ。
 しからば駆け落ち・・・・となる直前、フェビアンが殺害された。マックスは逃亡して、行方が知れない。ガイは真相を探りはじめる。
 これが発端だ。

 (3)ここで、関口苑生がふれなかった、ゴダードのもう一つの魅力にふれておきたい。
 すなわち、情念の多層構造である。一方に男女の恋愛があり、他方に家族愛がある。愛はすばらしい。だが、表層の愛の底に、違ったものが蠢く。遠大な計画に基づいてたてられた計算による冷徹な意思があり、愛しつつ憎悪するアンビヴァレンスもある。こうした多様な情念の力学が多様な人間関係、複雑なプロットを生む。本書も例外ではない。

□ロバート・ゴダード(幸田敦子・訳)『閉じられた環(上・下)』(講談社文庫、1999)
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