語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【宮沢賢治】討議『銀河鉄道の夜』とは何か

2016年08月22日 | 小説・戯曲

 (1)本書の目次は、
  Ⅰ
   討議Ⅰ 『銀河鉄道の夜』とは何か
   討議資料
    なぜ<カンパネルラの死に遭ふ>か  銀河鉄道の彼方・序説    天沢退次郎
    『銀河鉄道の夜』研究のための二つの資料    入沢康夫編
  Ⅱ
   討議Ⅱ 銀河鉄道の「時」 ふたたび『銀河鉄道の夜』とは何か
  Ⅲ
   関連レポート
   『銀河鉄道の夜』覚書                  天沢退次郎
   「薤露青」解説                      天沢退次郎
   「青木大学士」の運命                  天沢退次郎
   黒インク手入れの意味                 入沢康夫
   『銀河鉄道の夜』の本文の変遷についての対話  入沢康夫

  付録資料★筑摩昭和42年版全集所収『銀河鉄道の夜』(本文と後記)

 (2)本書は、『銀河鉄道の夜』(以下『夜』と略する)をめぐって入沢康夫及び天沢退次郎が①1970年及び②1973年に行った2つの対談(詩誌「ユリイカ」に掲載)に若干のレポートを補足して構成される。
 2つの対談で異なるのは、依拠するテキストだ。
 ①1970年の対談(討議Ⅰ)のテキストは、刊行済みの文献だ。すなわち、筑摩書房版全集(1967年)にもっぱら依りつつ(『銀河鉄道の夜』の本文と後記の全文を本書に付す)、十字屋書店版全集(1939年)、筑摩書房版全集(1956年)、岩波文庫(1950年)、岩波文庫改版(1966年)、「昭和文学全集14 宮沢賢治集」(角川書店、1953年)、「宮沢賢治童話全集6」(岩波書店、1965年)を参照する。
 ②1973年の対談(討議Ⅱ)では直筆原稿がテキストだ。

 (3)宮沢賢治は、自作について推敲につぐ推敲を重ねる作家・詩人だった。短い生涯に多産だったし、推敲を重ねたから、『銀河鉄道の夜』にも誤字(「ハルレヤ」)があるし、原稿が欠落した箇所(ことに5枚分の欠落)もある。歴代の全集等の編集者は、彼らなりに解釈を加えつつ、まとまった作品として読者に提示できるように再構成してきた。
 ①討議Ⅰは、作品の読みを深める作業である。互いをよく知る前衛詩人にして仏文学者同士らしく、マラルメやブランショ等を援用しつつ、あるいはナボコフ『ヨーロッパ文学講義』のように読解に資する地図ないし列車内の乗車位置図を作成して議論を進める。しかし、多くはふつうの読者でも注意深ければ気づくような指摘だ。たとえば、ジョバンニが夢から醒めた終わり近く、ふいに、しかも初めて登場する「あのブルカニロ博士」の「あの」の言いまわしから、元の原稿にはブルカニロ博士が登場する場面があって、削除されたのに違いない、削除されたとすればこの箇所だ、などという推定だ。とはいえ、ふつうの読者と違って、天沢たちは、疑問を読み流さないで徹底的に追求する。この一歩の違いは大きい。
 ①討議Ⅰで提示された疑問、矛盾は、その後2人が直接原稿にあたることでほぼ解消された。原稿から2人が再構成した『銀河鉄道の夜』は、筑摩書房版全集(1967年)とは36箇所も異なる(改行、句読点、表記、ルビ等の異同は含まない)。
 ②討議Ⅱは、こうした文献批判をふまえて行われた。ペンの色(鉛筆も含む)、原稿の裏のメモ(別の原稿を含む)等の手がかりから、執筆順、執筆年代、賢治の意図を推定し、こうした作業から深められた読みが披露される。他の作品にも文献批判の手が及んだから、『銀河鉄道の夜』と他の作品との関連も同様の深みから読みこなされる。「あのブルカニロ博士」にしても、夢に出てくる「セロのような声」「講義した歴史学者」と三位一体であることが指摘される。

 (4)付録の克明な資料や補足的な考察が、2つの濃密な対談に厚みを加えている。
 『宮沢賢治の彼方へ』ほかの賢治論で斬新な洞察を読書界にもたらした天沢は、テキストの厳密な考証を通じて、地味ながらいっそう確かな考察を展開させた。同様に、入沢もまた。
 念のためにいうと、本書のタイトルをなす『銀河鉄道の夜』とは何か、とは要するに、定稿はどれか、ということだ。いや、定稿という考え方は『銀河鉄道の夜』には当てはまらないらしい。原稿によって賢治の推敲の過程を綿密に追求した結果、『銀河鉄道の夜』には大きく4つの層があり、それぞれ固有の言語空間を構成することが明らかになったからだ。

 (5)こうした綿密なテキスト・クリティークは『銀河鉄道の夜』以外にも及び、「校本宮沢賢治全集」(『銀河鉄道の夜』は第10巻に所収、筑摩書房、1974)として結実した。
 さらにその後の研究の成果を踏まえて「〈新〉校本宮沢賢治全集」(『銀河鉄道の夜』は第9巻に所収、筑摩書房、1995)が刊行された。

□入沢康夫、天沢退次郎『討議『銀河鉄道の夜』とは何か 新装版』 (青土社、1990)
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【言葉】市民的抵抗

2016年08月22日 | 批評・思想
 
 支配は支配であるかぎり、すでに言いふるされたように、統制と束縛を意味しているが、同時に何らかの意味での“保護”をも意味している。だから支配の思想に対して、抵抗の思想に立つということは、この“保護”に囲いこまれないことを意味している。

□久野収「マックス・ホルクハイマー -集団的抵抗の思想-」(マックス・ホルクハイマー(久野収・訳)『哲学の社会的機能』、晶文社、1974)
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【中江兆民】政治家を罵る

2016年08月22日 | 批評・思想
 
 早稲田伯、壮快愛すべし。しかれどもまた宰相の材にあらず。目前の智富みて後日の慮に乏し、故に百敗ありて一成なし。野にありて相場師たらしめば、正にその材を竭(つく)すことを得べし。けだし糸平、阿部彦の雄これのみ。
 山県は小黠(しょうかつ)、松方は至愚、西郷は怯懦、余の元老は筆を汚すに足る者莫(な)し。伊藤以下皆死し去ること一日早ければ、一日国家の益となるべし。

□中江兆民『一年有半』(岩波文庫、1995)
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【本】藤沢周平について 一覧

2016年08月22日 | 小説・戯曲
【本】藤沢周平と時代小説 ~『海坂藩の侍たち』~
【本】藤沢周平「用心棒日月抄」シリーズ ~解説~
書評:『荒れ野』 ~藤沢周平の見事な詐術~
【読書余滴】藤沢周平の端正な文体

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【保健】学んで4時間後に運動すると記憶が定着 ~記憶術~

2016年08月22日 | 医療・保健・福祉・介護
 (1)受験生には踏ん張りどころの夏休み。親も落ち着かないだろう。
 そんなときは家族で身体を動かすとよい。

 (2)勉強したことをしっかり記憶するには、学習4時間後に運動をするとよい・・・・先日オランダから、そういう研究報告があった。
 本研究に参加したのは、オランダ・ラドバウト大学に在籍する72人(平均年齢22歳、女性48人、男性24人)。BMI(体格指数)平均22の標準体型で、身体を動かすのは週に4、5時間ほどという「ごく普通」の学生たちだ。
 参加者は抽象的な形の配列を記憶し、再現するプログラムを40分間こなし、直後に1回目の記憶テストを行った。その後、無作為に3グループに分けられた。
  (a)学習直後に運動する群
  (b)4時間後に運動する群
  (c)運動しない群
 運動はエアロバイクを使った有酸素運動。ペダルを踏みながら会話ができる程度の強度(最大心拍数の60%)で2~3分、続いてアゴが上がる強度(最大心拍数の80%)で5分間ペダルを漕ぐというインターバルトレーニングを35分間行った。
 被験者は、学習し終えた48時間後に2回目の記憶テストと同時に、脳の活動領域を画像かするMRI検査を受けた。
 2回目のテストの結果、(b)群が48時間後の記憶をもっとも保持していたことが示された。さらに、(b)群のMRI画像で、長期記憶と学習を掌る「海馬体」が活性化されていることが分かった。

 (3)研究者は、「学習後に適当な時間をおいて運動すると、長期記憶が改善する」としているが、メカニズムは不明のまま。
 動物実験では、高い強度の運動時に分泌されるドーパミンやノルアドレナリンなどの神経伝達物質が記憶の定着に一役買っていると指摘されている。ただし、肝心の「なぜ間をおくとよいのか?」という疑問の回答は見当たらない。
 とにかく、「よく学び、よく遊べ」という順番には一面の真理があるらしい。涼しい午前中に勉強し、その後、夏の夕暮れを楽しみながら身体を動かすと、学習曲線が上昇するかもしれない。

□井出ゆきえ(医学ライター)「受験生を抱えるご両親へ/記憶の定着に4時間後の運動 ~カラダご医見番・ライフスタイル編 No.310~」(「週刊ダイヤモンド」2016年7月30日号)
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 【参考】
【保健】飲む抗癌剤で生存率改善へ ~膵臓癌の再発を抑制~
【保健】恐竜も腫瘍を患う ~癌は進化の宿命~
【保健】高血圧にはモーツァルト ~安静に寝ているより効果的~
【保健】塞栓症リスクが低いピルは?/エストロゲン量と黄体ホルモンで違い
【保健】悲しいと食べすぎる ~食べ放題は幸せなときに~
【保健】「夏の蚊対策国民運動」 ~ジカ熱対策~
【保健】2型糖尿病発症にも民族差/アジア系は「BMI23」でリスク
【保健】ジャガイモに高血圧リスク/ノンオイルでも要注意 
【保健】ADHDに「ゲーム療法」?/2製品が臨床試験へ
【保健】男性は運送業、女性は医療・介護 ~メタボになりやすい業種~
【保健】健康生活の王道は「食」 ~食事バランスガイドと死亡率~
【保健】眼底検査で何がわかるか ~眼疾患だけではない~
【保健】弾性ストッキングが効果的 ~エコノミークラス症候群対策~
【保健】マインドフルネスで腰痛改善 ~認知行動療法と同じ効果~
【保健】歯磨きが心血管疾患を予防 ~毎食後で発症リスクを軽減~
【保健】ガン=生存時代の就労支援 ~治療と仕事の両立に指針~
【保健】糖尿病患者の降圧目標値 ~140mmHgでよい?~
【保健】睡眠不足でスナック菓子を渇望、体重増加 ~大麻並みの快楽
【保健】コーラ1缶で薬の吸収率がアップ ~抗癌剤の薬効~
【保健】その一言で妻の2型糖尿病リスクが減少 ~「先に寝ていて」~
【保健】先進国では認知症が減少? ~予防の鍵は生活習慣の改善~
【保健】生活設計は長期戦か短期決戦か ~癌の臓器別・病期別生存率~
【保健】イチゴとオレンジはEDに効く ~米国の研究報告~
【保健】高齢者の服薬適正化にGL ~容易な多剤併用に警鐘~
【保健】朝食抜きに脳卒中リスク 阪大など調査 大規模調査で1.18倍高
【保健】下剤は脳・心血管疾患リスク> ~背景にストレスや運動不足~
【保健】高脂肪食でシナプスが消失? ~動物実験~
【保健】2型糖尿病とフライド・ポテトとの関係 ~ポテトは煮物で~
【保健】世帯の所得と健康リスクの関係 ~食習慣と飲酒習慣~
【保健】抗がん剤の価格差は最大4倍以上 ~WHOの調査~
【保健】より危険な睡眠時無呼吸 ~脳・心疾患のリスク増~
【保健】初日の出の心身的効果 ~鬱対策は光を浴びて~
【保健】日本人肥満男性の食事と運動 ~糖尿病予防~
【保健】適性な「降圧目標値」 ~120未満で関連疾患が3割低下~
【保健】自由な裁量権でスリムに ~ストレスでメタボ~
【保健】目の老化には赤と緑と橙色 ~加齢黄斑変性症の予防~
【保健】早期発見のためにエコーと併用 ~乳がん検診~
【保健】骨折予防はカルシウムのほかに・・・・
【保健】前糖尿病患者は食習慣の改善を ~全国糖尿病週間~
【保健】糖質制限より脂質制限? ~体脂肪を減らす~
【保健】受動喫煙が歯周病リスクに ~ただし男性のみ~
【保健】貧乏ゆすりが命を救う? ~マナーより健康~
【保健】「高収入の勝ち組」の健康リスク? ~50歳以上の有害な飲酒~
【保健】照明用白色LEDのブルーライトは安全か?
【保健】目の愛護デー ~緑内障による失明を予防~
【保健】長時間労働は脳卒中リスク ~週41~48時間でも上昇~
【保健】ほぼ毎日食べると、死亡リスクが14%減少 ~唐辛子~
【保健】水族館でリラックス効果 ~血圧・心拍数に好影響~
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