語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【濱嘉之】中国の最優先課題/環境問題 ~『聖域侵犯』~

2016年08月27日 | 小説・戯曲
<「(前略)ところで青山、一つ教えてくれ。中国にとって今一番大事なことはなんだ?」
 藤中が神妙な顔つきになって訊ねた。大和田も青山の顔を覗き込むように見ていた。
「必死になっているのは環境問題だ。そして公害・環境問題の解決のためには空気、水、土の浄化が最優先だな」
「空気、水、土というとどうしても農業を思い起こしてしまうが・・・・中国の富裕層は自国産の食料を口にしないと言われて久しいからな」
 大和田が言うと藤中も続いた。
「香港では自国が作った野菜を毒菜と言っているらしいぜ」
「そんなことを言っても日本のファミレスのほとんどが中国産の野菜を使っている。ファミレスを使わない者はいいが、子供を抱えた家族にとってファミレスは大事な食事の場となっている場合が多いからな」
 青山が他人事のように言ったので藤中が質問した。
「それでもファミレスは潰れるどころか増えているんじゃないのか?」
「それは仕方ないことだ。ファミレスで食事をすることが悪いとは言っていない。ただリスクを負う覚悟が必要だと言うだけだ。それほど中国の多くの土壌は汚染されている」
「空気はどうなんだ?」
「ニュースを見ればわかるだろう。昨年末にパリで開かれたCOP21がいい例だ」
 COP21の正式名称は「国連気候変動枠組み条約第21回締結会議」である。
 これに参加した中国政府代表団副団長が2020年以降の地球温暖化対策の新たな国際枠組みに関し、中国自身が途上国グループに所属する立場から「歴史的責任に基づき、(各国が取り組む対策に)差をつけることが必要だ」と強調し「過去に温室効果ガスを大量に排出してきた先進国が、より重い責任を負うべきだ」と改めて主張した。
 中国の代表団幹部が自ら自国を発展途上国と認めたのだ。
 さらに中国政府の気候変動事務特別代表もまた「先進国が開発途上国に十分な資金・技術支援を行うかどうかが成功のカギだ」としながら、中国を「発展途上国代表」と自負した。そして年1千億ドル(約12兆円)の拠出が決まっている発展途上国向けの環境対策資金についても「中国は自発的に支援を続けているが、先進国の資金援助は義務だ」と強調している。
 藤中が口を歪めて言った。
 「発展途上国ねえ。発展途上国仲間のアフリカでは国家の幹部を金で釣りながら、イミテーションの武器をばら撒いて紛争を煽っている国だからな」
「よく知っているじゃないか。それでいて都合が悪いと発展途上国に先祖返りだ。第一次産業従事者の人口比率を見れば確かに発展途上国には間違いないんだけどな」
 青山が冷静に答えると大和田が言った。
「近隣国家にとって大気汚染だけでもいい迷惑なんだが・・・・北京ではPM2・5を含む汚染指数が600を超えた日が何度かあったらしいんだ。中国でも最悪レベルの『危険』が301から500だから、600超えの異常さがよくわかる」
 青山が頷きながら後を続けた。
「中国代表団に同行した中国関係者は『国民の関心は温暖化より目の前のスモッグに集まっている』と言っていたそうだ。国民の間で地球温暖化に対する関心などほとんどない一方、健康に直結する大気汚染には極めて敏感になりつつあることを政府も認めているそうだ」
「環境は他人任せか・・・・」
「いや自分たちでできることはやったというところを見せてやらなければ、アフリカをはじめとした本当の発展途上国は付いて来ない。金の分捕り方を教えて、その使い方をメイドインチャイナで売り込むのが奴らのこれまでの手口だ」
 青山は冷静ながら中国に対しては実に厳しい言い方をした。藤中が自分の考えを確認するように訊ねた。
「そのメイドインチャイナがパクりというか、技術を盗むことにつながるんだ?」>

□濱嘉之『聖域侵犯 警視庁公安部・青山望』(文春文庫、2016)
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