お母さん きょう洗濯物をうけとりました
どんなにお負けしても ぎりぎりいっぱい というとこでした
郵便屋は もう一分で まにあわないとこでした
どう思います ぼくのカラーはだぶだぶです
ふしぎはありません ヒルダとの問題で 休むまもないのですから
この月給では ぼくは結婚しません
ぼくは そのことを彼女に説明しました そして 今 彼女は はっきり了解しました
これ以上 彼女は待ちません でないと 彼女は齢(とし)をとりすぎます
お手紙によると ぼくが お母さんの手紙を読まないとのこと
そして お母さんは もう はがきだけしかよこさないとのこと
お手紙によると ぼくはお母さんのことを わすれてしまった と思っていらっしゃるとのこと
思いちがいです とんでもない・・・・
どんなに もっとたびたび もっとくわしく書きたいかしれません
いつもの あんな週報だけでなしに
ぼくは思っていました ぼくがお母さんを愛していることを お母さんはご存じだと
この前の手紙でみると お母さんは それをご存じないのです
ぼくは いま すわりどおしで計算し 帳面づけをしています
五桁の数字を そして いくらやっても ほとんどきりがなさそうです
何か ひとつ ほかの仕事をさがすべきでしょうか
いちばんいいのは どこか ほかの都会で
ぼくは とにかく ばかではありません でもなかなか うまくいかないのです
ぼくは 生きてはいますが たいして生きているような気がしないのです
ぼくは 一つの支線で生きているのです
これは わびしいばかりではありません 気もすすまないのです
お手紙によると 日曜日には ブレスラウから来るようですね
ときに あれはどうなりました ぼくがおねがいした
洗濯婦は お雇いになりましたか
ブレスラウの人たちが来たら ぼくからよろしくいってください
そして 誕生日に またプレゼントを送ったりなさらないでください
そのお金は 節約なさってください ぼくにはちゃんとわかっているのですから
そして たよりがすくなすぎるときは ぼくのいうことを信じてください
ぼくは ほとんどしょっちゅう お母さんのことを思っているのです ごきげんよう あなたの息子より
□エーリヒ・ケストナー(小松太郎・訳)「簿記係が母親へ」(『人生処方詩集』、岩波文庫、2014)
↓クリック、プリーズ。↓
【参考】
「【詩歌】E・ケストナー「即物的な物語詩」 ~人生処方詩集~」
「【詩歌】E・ケストナー「ホテルでの男性合唱」 ~人生処方詩集~」
「【詩歌】E・ケストナー「絶望第一号」 ~人生処方詩集~」
「【詩歌】E・ケストナー「顔を交換する夢」 ~人生処方詩集~」
「【詩歌】戦争を礼賛する牧師 ~E・ケストナーによる諷刺~」
どんなにお負けしても ぎりぎりいっぱい というとこでした
郵便屋は もう一分で まにあわないとこでした
どう思います ぼくのカラーはだぶだぶです
ふしぎはありません ヒルダとの問題で 休むまもないのですから
この月給では ぼくは結婚しません
ぼくは そのことを彼女に説明しました そして 今 彼女は はっきり了解しました
これ以上 彼女は待ちません でないと 彼女は齢(とし)をとりすぎます
お手紙によると ぼくが お母さんの手紙を読まないとのこと
そして お母さんは もう はがきだけしかよこさないとのこと
お手紙によると ぼくはお母さんのことを わすれてしまった と思っていらっしゃるとのこと
思いちがいです とんでもない・・・・
どんなに もっとたびたび もっとくわしく書きたいかしれません
いつもの あんな週報だけでなしに
ぼくは思っていました ぼくがお母さんを愛していることを お母さんはご存じだと
この前の手紙でみると お母さんは それをご存じないのです
ぼくは いま すわりどおしで計算し 帳面づけをしています
五桁の数字を そして いくらやっても ほとんどきりがなさそうです
何か ひとつ ほかの仕事をさがすべきでしょうか
いちばんいいのは どこか ほかの都会で
ぼくは とにかく ばかではありません でもなかなか うまくいかないのです
ぼくは 生きてはいますが たいして生きているような気がしないのです
ぼくは 一つの支線で生きているのです
これは わびしいばかりではありません 気もすすまないのです
お手紙によると 日曜日には ブレスラウから来るようですね
ときに あれはどうなりました ぼくがおねがいした
洗濯婦は お雇いになりましたか
ブレスラウの人たちが来たら ぼくからよろしくいってください
そして 誕生日に またプレゼントを送ったりなさらないでください
そのお金は 節約なさってください ぼくにはちゃんとわかっているのですから
そして たよりがすくなすぎるときは ぼくのいうことを信じてください
ぼくは ほとんどしょっちゅう お母さんのことを思っているのです ごきげんよう あなたの息子より
□エーリヒ・ケストナー(小松太郎・訳)「簿記係が母親へ」(『人生処方詩集』、岩波文庫、2014)
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【参考】
「【詩歌】E・ケストナー「即物的な物語詩」 ~人生処方詩集~」
「【詩歌】E・ケストナー「ホテルでの男性合唱」 ~人生処方詩集~」
「【詩歌】E・ケストナー「絶望第一号」 ~人生処方詩集~」
「【詩歌】E・ケストナー「顔を交換する夢」 ~人生処方詩集~」
「【詩歌】戦争を礼賛する牧師 ~E・ケストナーによる諷刺~」