語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【佐藤優】地図と統計、本は紙と電子版で ~情報収集術(2)~

2015年11月28日 | ●佐藤優
 (承前)

 (5)情報収集とか勉強をするとき、女性が最も苦手とするのが地図と統計だ。それと、最近、数学にコンプレックスを持っている人も多い。実は、国際情勢とか政治を見るときにも、数学で養った論理的な思考力はカギになる。苦手なものに目をつぶって回避するのもひとつの生き方だが、いまはあらゆる仕事で数学の比重が高まっているから、それも難しい。たとえば、岡部恒治/戸瀬信之/西村和雄・編『分数ができない大学生』(ちくま文庫)を最低限読んでおくべきだ。
 この本は話題になった。
 やはり数学的思考力がある人は最終的に強い。たとえば、彼氏に二股をかけられたときとか、情緒的な言葉じゃなくて、理詰めできちんと追求できることが大事。
 歴史については、高校の教科書を読むのがいい。専門校などで使う日本史A、世界史Aは、解説がしっかりしている。ビジネスパーソンは海外に出ると外国人から日本の歴史についてよく訊かれる。自分の国の話ができないと、ビジネスでも信用されない。だから、大人になって勉強するときは、高校の数学、現代文、歴史、このあたりが肝になる。
 あと大事なのは知ったかぶりをしないこと。小さなプライドを守るより、素直に「それってどういうことですか?」と訊いてみることだ。それに対してどこまでちゃんと答えてくれるかで、相手の誠実さもわかる。
 知ったかぶりをしちゃってヤバイなと思ったら、後できちんと調べる習慣をつけること。世界のさまざまな問題について勉強するなら、池上彰『知らないと恥をかく世界の大問題』シリーズもおすすめ。

 (6)佐藤優は、よく参照する本については、紙と電子版の両方を買う。
 基本的に読むのは紙だ。三次元の立体物だからだ。本は折り目をつけたり、書き込みをしたりして、“汚く”読んだほうがいい。そうすると、どのへんに何が書いてあったかが記憶に残る。
 ただ、細かい数字やデータなどは電子書籍で検索したほうが早い。だから、一見無駄に見えても、教養をつけるという意味では両方買ったほうがいい。
 情報を集めるのにお金をケチっちゃいけない。本は最後まで読む必要はない。つまらない本を無理して読むのは時間の無駄。お金より時間のほうが貴重だ。
 ただ、最後までページをめくっておくと意外に記憶に残る。

 (7)本を買うとき書店に行くことも大事。何らかの問題意識が頭の片隅にあると、背表紙のタイトルが向こうから飛び込んでくる。学問の世界のセレンディピティ(思いがけないものを発見する能力)といっしょだ。
 世の中に情報は際限なくある。教養人として「ここまで得られればいい」という見切りも必要だ。時間もコストも度外視して、ひたすら情報を集めるのはオタクの領域だ。
 そういう意味では、いつもアウトプットを意識したほうがいい。読んだ本について人に語ろうと思ったら、内容を頭の中できちんと整理する。おしゃべり好きな人は仕入れた知識をどんどん人に話すのがいい。情報はポンプの誘い水といっしょで、アウトプットの道ができれば、インプットの効率も自然によくなる。
 つまり、動機を持つのが大事だ。「おしゃべりで負けたくない」でもいい。そういう動機があれば、向上心にもつながる。
 動機は「よりよく生きるため」でもいい。正しい情報の見方、扱い方を知っていれば、無駄な情報に振り回されて人生の貴重な時間を潰すこともなくなる。多様な見方ができるようになれば、精神的に柔軟になれるし、人生が豊かになる。たとえば、上司や取引先の人と食事に行っても、話題を提供して場を盛り上げたり、楽しい時間を過ごすことができる。それは自分の生活の充実にもつながっていく。
 
 (8)いまの閉塞状況を打破するには、日本人はこれから外に出ていくしかなくなる。
 そのとき、情報や思考力を持っていなかったらどうしようもない。そこで振り落とされないための武器が新聞を読むことであり、数学や歴史を勉強することなのだ。自分の欠損部分を冷静にチェックして勉強することだ。そうすればキャリアアップにもつながるし、おもしろいことが増えてくるはず。

□佐藤優『知の教室 ~教養は最強の武器である~』(文春文庫、2015)の「第2講座」の池上彰×佐藤優「多忙なビジネスマンに明かす心得 僕たちの情報収集術」
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 【参考】
【佐藤優】多忙なビジネスマンに明かす心得 ~情報収集術(1)~
【佐藤優】日本のインテリジェンス機能、必要な貯金額、副業の是非 ~知の教室~
【佐藤優】世の中でどう生き抜くかを考えるのが教養 ~知の教室~
【佐藤優】『知の教室 ~教養は最強の武器である~』目次
【佐藤優】『佐藤優の実践ゼミ』目次
『佐藤優の実践ゼミ 「地アタマ」を鍛える!』
 ★『佐藤優の実践ゼミ 「地アタマ」を鍛える!』目次はこちら

 

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【佐藤優】多忙なビジネスマンに明かす心得 ~情報収集術(1)~

2015年11月28日 | ●佐藤優
 (1)いまの女性は本当に忙しくて、情報収集といえば通勤途中にスマホでYahoo!のトップニュースをチェックするぐらい。
 Yahoo!のトップニュースは8つトピックが並んでいるが、下の2つはスポーツ・芸能関係だ。
 ネットニュースはやめよう。ネットだと自分が過去にクリックした項目が蓄積されているから、自分の関心あるテーマばかり上に来たりする。
 Yahoo!のニュース担当者によれば、コソボ独立のニュースなどではページビューがぜんぜん上がらなかったが、韓国や中国批判のトピックを入れると、ものすごくアクセスがあった。
 そうやって同質化現象が進んで行く。書店にも近隣諸国の悪口を書いた本が大量に並んで、外国人からは病的だと見られている。

 (2)ネットは確かに便利だが、上手な付き合い方が必要だ。新聞記事に出てくる発表資料の全文を確認する際など。やはり情報収集の基本は、新聞を読むことにある。
  (a)ただ、ニュースによっては、例えばウクライナ革命の報道では新聞各社の体力の差がはっきり出る。初動でロシア語が堪能な記者2人を現地に送った朝日新聞は圧倒的に強い。産経新聞は外電に頼りながら、徹底的に「論」で勝負している。ほかは中途半端。
  (b)さらに、新聞の報道を正しく理解するには、ソ連の赤軍による西ウクライナのガリツィア地方占領とその後の抗争、ロシア正教によるカトリック教徒への弾圧など、歴史的な背景を知らないといけない。一方、ロシア仕様のハイテク軍需産業や宇宙産業の工場がウクライナ国内に残っているから、ウクライナがNATOに加わることを何としてもプーチン政権は阻止しなければならないわけだ。そういうバックグラウンドの情報がないと、ウクライナ革命のニュースは読み解けない。
  (c)もうひとつ重要なのは、日本への影響だ。日本政府はプーチン大統領との信頼関係をベースにして、北方領土問題を解決しようとしていた。ところが、米国はロシアに圧力をかけるにあたって日本に共同歩調を求めてくる。
 その狭間で選択を迫られると、日本人には遠い話だと思っていたウクライナ情勢が、実は北方領土問題につながってくる。安倍総理はどうするか? この思考のつながりに面白さを感じるられるかどうかがポイントだ。
 職場でウクライナの話題になったとき、「北方領土への影響もありますね」とツッコミを入れたら、きっと一目置かれる。これから付き合おうとしている男に、「ウクライナ」という言葉を出して、反応を見てみれば、その男のクラスがわかる。
 
 (3)最低限チェックしておけばいい基準メディアを絞るのは難しい。自然科学系なら朝日とNHKが信頼できるかもしれないが、政治となると、そうはいかない。経済もいまは宗教のようなもので、アベノミクスを信じるか信じないかという観点で新聞が分かれている。だから、いろんな情報に接して、自分で座標軸を創るしかない。
 普通の人は、とりあえず2紙の読み比べから始めるといい。
 1紙は朝日がいい。官僚的でいやみったらしいところもあるが、そのぶん手堅い取材をするので事実関係の間違いは少ない。もう1紙はサンケイエクスプレスあたりもいい。最近起きていることを時系列で振り返りながらじっくり読ませる記事が多い。
 とにかくいまは、意見が真っ二つに分かれちゃっているから、1紙だけ読んでいると、全体像が見えてこない。

 (4)これからの時代、中産階級は二分化されて、上層は富裕層に近づき、下層はプロレタリアートに近づく。その分水嶺が「新聞を読んでいるかどうか」になってくる。
 イギリスだと、どの新聞を読んでいるかで階層がわかる。
 日本の場合、一般紙のほとんどが高級紙だから、新聞を読んでいる=アッパーミドル以上だ。それに対して、ネットとスマホに頼っている人は将来のプロレタリアート予備軍。つまり、上に行きたかったら新聞を読め。その点はよ~く考えたほうがいい。
 読み方のコツは、新聞の場合、一覧性があるのが最大の長所なわけだから、それこそ見出しだけパーッと見ていくだけでもいい。とくに朝忙しいときは、そんなに時間をかける必要はない。夜改めて読めばいい。
 見出しを見る習慣がつくと、関心のある記事は自然に眼に飛び込んでくるようになる。
 見出しで気になる記事があったら、手でビリビリ破ってクリアファイルに入れておく。しばらく寝かせてから見返し、本当に大事だったらスクラップブックに貼り、いらなかったら古紙回収に出す。何が本当に大事なのかの判断を時間に任すのだ。これなら気軽にできるので、忙しい人におすすめだ。

□佐藤優『知の教室 ~教養は最強の武器である~』(文春文庫、2015)の「第2講座」の池上彰×佐藤優「多忙なビジネスマンに明かす心得 僕たちの情報収集術」
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 【参考】
【佐藤優】日本のインテリジェンス機能、必要な貯金額、副業の是非 ~知の教室~
【佐藤優】世の中でどう生き抜くかを考えるのが教養 ~知の教室~
【佐藤優】『知の教室 ~教養は最強の武器である~』目次
【佐藤優】『佐藤優の実践ゼミ』目次
『佐藤優の実践ゼミ 「地アタマ」を鍛える!』
 ★『佐藤優の実践ゼミ 「地アタマ」を鍛える!』目次はこちら

 

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