語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【佐藤優】武器としての教養、闘い方、対話の技術 ~知の教室・抄(2)~

2015年11月30日 | ●佐藤優
第5講座 武器としての教養を考える
 (a)教養は最大の武器である
 <日本語の「教養」という言葉は、19世紀末から20世紀初頭に使われ始めた比較的新しい言葉です。この言葉に最も近い外国語は、ビルドゥング(Bildung)というドイツ語でしょう。これは単なる知識の集積ではなく、「知的能力を開発し、生成していく」という時間的な要素が含まれる概念です。
 単に物知りだというだけでは、教養があるとはいえません。ウィキペディアの内容が頭に入っていても、それはただのオタクをなんら変わらないからです。
 (中略)中世神学の世界には、「総合知に対立する博識」という格言がありました。断片的な知識を積み重ねたところで、それは単なる博識に過ぎず、総合的な知、つまり「教養」にはならないということです。断片的な知識をつなげて体系的な「物語」にする能力が必要なのです>

 (b)ファシズムから何を学べるか--『ムッソリーニ』を読む
 <ファシズムの提唱者であるムッソリーニの知的水準が高いことに照応して、ファシズムの理論的水準もかなり高いのである。ナチズムが、ドイツ人を中心とするアーリア人が優秀であるという荒唐無稽な神話で世界を支配しようとした。イタリアのファシズムはこのような人種神話と無縁である>

 (c)独学者ヒトラーの罠
 <確かに前日読んだ本の内容について、翌朝、誰かと話をしたり、読書ノートを作成すると記憶に正確に定着する>

 (d)「心の書」を持つということ
 <時代がおかしな方向に進んでいるとき、自分だけが局外にいて、正論を主張することはキリスト教的でないとフロマートカは考えた。国家や民族が誤った道を進むときは、神学者もいっしょにその道を歩み、内側から軌道修正を図るべきとフロマートカは考えた>

 (e)21世紀最大の発見「ユダの福音書」
 <ドイツ、アメリカ、日本の牧師たちは大学・大学院で神学的訓練を受ける。しかし牧師が教会の現場において、学術的神学の言説を一般信者に対して説いても、簡単に通用するわけではない。そこで牧師たちは仕方なく、神学とは無縁の常識的なキリスト教の枠組みを踏み外さずに説教を行っているのである。この引き裂かれた感覚は神学を学んだ者にしかわからない>

第6講座 佐藤優式・闘い方を学ぶ
 (a)私の駆け出し時代 欧亜局ソヴィエト連邦課
 <研修生が担当する業務で、いちばん大変なのはクレーマーからの電話の対応だ。当時、大阪から毎日のように電話をかけ、日本の対ソ外交がけしからんと延々と二、三時間演説をする初老の男性がいた。ソ連課員はみんな閉口し、この人物からの電話については、五分話を聞いたら、後は受話器を放り出しておくということになっていた。初老の男性はそのようなソ連課員の対応に激昂して、「お前ら、東京まで行ってぶっ殺してやるゾ」と毎日二十回近く電話をかけてくるようになった。
 ロシア・スクールの先輩から、「佐藤、お前は牧師としての訓練を受けているんだから、このオッサンを何とかして黙らせろ」と言われた。私はその初老の男性の話を小一時間聞いたところで、「家族を出してくれないか」と頼んだ。そうすると奥さんが電話に出た。奥さんの話では、「夫はシベリアの抑留者で、炭坑で強制労働に従事したため身体を壊したにもかかわらず、恩給がもらえないので、その怒りを外務省ソ連課や大阪のソ連領事館に電話をしてぶちまけている」とのことだった。
 その話を聞いて、私は厚生省の恩給欠格者を担当する係官と話をし、この初老の男性と連絡をとってもらった。それから数日経って、この男性の夫人から、「恩給の手続きをとってもらいました。ほんとうにありがとうございます」というお礼の電話がかかってきた。その後、初老の男性からの嫌がらせ電話はなくなった>

 (b)検察との闘い方、教えます 【堀江貴文×佐藤優】
 <たしかに、元特捜検事の郷原信郎さんが検察庁や裁判所から公証人利権を外したら、大変なことになると言っていました。天下り先として公証人がある。ヤメ検の中には、検察官として成績が悪いから、途中でやめて弁護士や公証人になった連中がいる。だから、公証人利権がなくなったら、検察はガタガタになる、と。
 外務省では途中で辞めるのはたいてい成績が悪い役人です。成績がいいやつは、威張りながら金を稼げるから公証人になる>

 (c)知は生きる手段である
 <(モスクワにおける)あの七年間で僕が見たものは、官僚機構では国家を守れないという現実です。1991年8月にソ連のクーデター未遂事件が起こった時も、共産党中央委員会へ偵察に行ったけど、みんな、いつものと同じように仕事していた。しかし、国家というのは崩れていく。一般社会が官僚たちのことを
「ヤツら」と思うようになったら、国家って内側から崩れる。霞が関も一緒です>

 (d)時流にこびない反逆者たち 【鹿島茂×佐藤優】
 <アウトローが生まれないのはなぜかというと、全体がアウトロー化しているからです。NHK職員のインサイダー取引も、霞が関で勤務中に株取引している奴も、情けないですよ>

 (e)世界を相手に闘う方法 【藤原正彦×水木楊×佐藤優】
 <簡単に言うとゲームのルールが転換したんです。石光や明石のような活動が、1930年代以降どの国で可能かというと、ソ連やイギリスなどカウンターインテリジェンス(防諜)体制の整った先進国では無理ですね。ソ連の場合、警察や諜報機関を統括するNKVD(内務人民委員部)ができて都市住民全員に国内パスポートを持たせるようになってからは、突出した人間が個人プレーで情報活動をやるのは難しくなった。ただ、外交官は合法ですから、社交によって人間関係を作り、情報をとることがメインになったんです>

第7講座 対話のテクニックを磨く
 (a)福島と沖縄から「日本」を考える 【玄侑宗久×佐藤優】
 <本来、政治の世界では、言葉の使い方で禁止されている用法があります。「絶対に当たる天気予報を今から言いましょう。明日の天気は晴れか、晴れ以外のいずれかです」というものです。これは論理学でいうところの恒真命題で、論理関数にどんなデータを入れても全部プラスの答えが出てくる。ただし、天気に関する情報は何もない。これを政治で絶対に使ったらいけない。ところが、占い師はよく使う。「あなた、悔い改めないと来年の今頃、地獄に落ちるわよ」というやつです。来年の今頃、地獄に落ちていたら、私の予言が当たったからだ。落ちていなければ、私の予言を聞いたからだ、と>

 (b)ホラーマンガから現代を読み解く 【伊藤潤二×佐藤優】
 <(伊藤潤二『うずまき』は)今の世の中には、自己愛が過剰なために幸せになれない人が一杯いますが、その典型のような物語です>

 (c)ローマ滅亡に学ぶ国家の資格 【塩野七生×池内恵×佐藤優】
 <イスラム世界に強硬な対決姿勢を示しているアメリカのネオコンたちも、9・11テロ後に、ローマの衰亡史を研究したといわれていますね>

□佐藤優『知の教室 ~教養は最強の武器である~』(文春文庫、2015)
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン

 【参考】
【佐藤優】知的技術、情報を拾う・使う、知をビジネスに ~知の教室・抄(1)~
【佐藤優】多忙なビジネスマンに明かす心得 ~情報収集術(2)~
【佐藤優】多忙なビジネスマンに明かす心得 ~情報収集術(1)~
【佐藤優】日本のインテリジェンス機能、必要な貯金額、副業の是非 ~知の教室~
【佐藤優】世の中でどう生き抜くかを考えるのが教養 ~知の教室~
【佐藤優】『知の教室 ~教養は最強の武器である~』目次
【佐藤優】『佐藤優の実践ゼミ』目次
『佐藤優の実践ゼミ 「地アタマ」を鍛える!』
 ★『佐藤優の実践ゼミ 「地アタマ」を鍛える!』目次はこちら

 


【佐藤優】知的技術、情報を拾う・使う、知をビジネスに ~知の教室・抄(1)~

2015年11月30日 | ●佐藤優
第1講座 佐藤優の知的技術のヒント
 (a)佐藤優の“脳力”
 <私は朝5時に起床し、起きたその瞬間から仕事にとりかかります。(中略)睡眠は中学1年生以来3時間だったのですが、最近は健康を考えて4時間に延ばしました>
 <私は毎月300冊の本を読みますが、(中略)新たな知識となる情報は2割程度。その2割を補充すればいいと考えるわけです>

 (b)佐藤優の本棚
 <今までに本代として使った金額は、学生時代が総額500万円ぐらい。卒業後は、月に15万円で年間180万円、それが30年ですから、ざっくり言って6,000万円というところでしょうか>
 <熟読の方法は、3回読むことです。1回目は、線を引きながら読む。2回目は、特に大事なところを線で囲む。それをノートに書き写す。3回目は、結論部分を3回読んだ上での全体の通読となります。これは余程大事な本の場合です>
 <思いついたことの書き込み、ページの折り曲げ、付箋なども多用すべきです>
 <知識人や学者の著作を読むと、大抵の場合、そのバックボーンにある“思考の鋳型”みたいなものが分かりますね>

第2講座 情報を拾う、情報を使う
 (a)僕たちの情報収拾術 【池上彰×佐藤優】
 <ただ基本的に読むのは紙です。どうしてかというと、三次元の立体物だからです。本は折り目をつけたり、書き込みをしたりして、“汚く”読んだほうがいい。そうすると、どのへんに何が書いてあったかが記憶に残る>

 (b)情報戦を制する世界の常識 【西本正明×佐藤優】
 <(引用者注・旧ソ連が)そこまで職業訓練するのは、じつは再就職を考えてのことなんです。転職できるノウハウを持ってないやつは事故が起きた時、精神的余裕を失って組織と戦争を起こす。だから二つの職を持つようアドバイスしているという。イギリスもイスラエルもそうですよ。常にトラブルが起きることを想定して予防線を張っているんですね>

第3講座 知をビジネスに取り込む
 (a)凡人が生き抜く話術7ヵ条
 <相手との距離感は、イントネーションも含め、会話全体で測っていくものですが、端的に距離感を表すのが敬語です。尊敬語や謙譲語の使い分けなど、難しく考える必要はありません。近代以降、身分制がなくなり、日本の社会はフラット化しました。謙譲語や尊敬語は使い分けられなくても、かまわない。丁寧語をきちんと使えることが新たな敬語のルールです>

 (b)困難な時こそ読む「聖書」の言葉
 <日本では、近代化と同時期にキリスト教が本格的に導入された。そのため近代文明の根底を流れる合理主義とキリスト教は相性がよいと受け止められがちだが、これは本質的な誤解である。キリスト教の特徴は、理性や学問に究極的価値を認めない反知性主義の宗教だ>

 (c)リーダーシップの要諦は『太平記』にあり
 <具体的に、後醍醐天皇と楠木正成の関係を見てみよう。正成は、合理的観点から戦略と戦術を考える。味方が劣勢なときに、虚勢を張って自滅するような戦いは避けるべきであると考える。正成は、<『多くの愚者が述べたてる意見よりは、一人の賢者の意見に従うほうがよい』という言葉がありますから、道理をわきまえぬ人の非難は、必ずしもお心に掛けられるべきではありません。ひたすらに戦うべきところは、それを判断して進撃し、合戦に勝機はないと知ったときは退くことこそ、良将と申すのでありましょう。ですから、『虎を素手で殺そうとしたり、大河を徒歩で渡ろうとしたりする危険を冒して、死んでも後悔しないような者とは、事をともに行うことはできない』と、孔子も門人の子路を戒めていらっしゃいます。>(長谷川端校注・訳『太平記② 新編日本古典文学全集55』小学館、1996年、307頁)というような思考をする>

 (d)世界史のリーダーたち 【山内昌之×佐藤優】
 <(オーストリア・ハンガリー帝国からの独立運動を組織してチェコスロバキア共和国を建国したトマーシュ・マサリクは)また、ソ連に対しては「ロシア帝国が軍服を裏返して着ただけの赤色帝国主義者にすぎない」という冷徹で、かつユーモアのセンスを感じさせる洞察を示しています>

第4講座 知の幹を作る最低限の読書
 (a)日本の古典に立ち返れ
 <「日本に必要なもの」として、私は中学、高校における古文と漢文の教育を強化することをあげたい。
 現下の国際政治では、各国が露骨に国益を追求する帝国主義が復活しはじめている。アメリカ、中国、ロシアという三大帝国主義国に囲まれているという地政学的状況から日本は逃れることができない。21世紀に日本国家と日本民族が生き残っていくためには、まずわれわれ日本人が、日本人としての気概と誇りを取り戻さなくてはならない。教育基本法に愛国心を書けば、愛国心がつくなどというのは、典型的な小官僚の発想だ。真の愛国心は、各人の心の中から湧いてくるものだ。
 (中略)革命による王朝交代ができないという特徴をもった日本では、どんな権力者でも権威を独占することはできないことが鍵であることに気づいた。そこから寛容の精神と多元性、すなわち他者と共存共栄する英知が生まれる。『平家物語』『太平記』『神皇正統記』『大日本史』などを読み解くことで、その英知を体得し、現実の外交に生かすのだ>

 (b)ビジネスマンが読むべき30冊 【斎藤美奈子×米光一成×佐藤優】
 <(教養とは)『「教養」とは何か』の著者、ヨーロッパ中世史の阿部謹也さんは世の中に入っていくときに「そこで自分はどうやって生き抜くかを考えるのが教養である」と行っている。知識を増やすことではなく、世の中での自分の位置を考えていくのが教養だと。少年の成長物語をビルドゥングスロマンと呼ぶでしょ。それをなぜ教養小説と訳すのかわからなかったのですが、この本を読んでやっと意味がわかった>【斎藤美奈子】

 (c)宗教を知り、自分を知る
 <宗教とは言い換えるなら、理性を超えた存在や感情に対する畏敬の念。私は日本人ほど宗教的な民族はいないと思っています。お宮参りも宗教的な行為だし、厄年を気にするのもそう。大晦日にNHK紅白歌合戦を見て、その後『ゆく年くる年』で除夜の鐘を聞くのも、カオスとコスモスを一度に体験する宗教的なイベントといえる。世界的に見て、占いがこれほど氾濫している国は珍しい。血液型も自己啓発もスピリチュアルも、私から見るとすべて宗教的なものを求めている証なんです>

 (d)魂を揺さぶる現代日本文学の収穫
 <悪魔とは、悪を人格的に体現した存在だ。悪は抽象的存在でなく、人間と人間の関係から生まれる。従って、悪があるところには必ず悪魔がいるのだ>

□佐藤優『知の教室 ~教養は最強の武器である~』(文春文庫、2015)
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン

 【参考】
【佐藤優】多忙なビジネスマンに明かす心得 ~情報収集術(2)~
【佐藤優】多忙なビジネスマンに明かす心得 ~情報収集術(1)~
【佐藤優】日本のインテリジェンス機能、必要な貯金額、副業の是非 ~知の教室~
【佐藤優】世の中でどう生き抜くかを考えるのが教養 ~知の教室~
【佐藤優】『知の教室 ~教養は最強の武器である~』目次
【佐藤優】『佐藤優の実践ゼミ』目次
『佐藤優の実践ゼミ 「地アタマ」を鍛える!』
 ★『佐藤優の実践ゼミ 「地アタマ」を鍛える!』目次はこちら