語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【佐藤優】日本のインテリジェンス機能、必要な貯金額、副業の是非 ~知の教室~

2015年11月27日 | ●佐藤優
 (Q1)日本にもインテリジェンスオフィサーはいますか? いるとしたら外国のように機能しているのでしょうか? それとも外務省職員が兼ねている程度ですか?
 A : インテリジェンス機能は日本にもあって、日本には外交一元化という建前がありますから、基本的には外務省の人がやっています。
 しかし、対テロとしては警察庁が外国と密に連絡をとりながらやっているし、赤軍対策の伝統があるから能力は高いです。
 防衛省の人たちも防衛駐在官として外に出ており、それなりのインテリジェンス能力を持っています。
 そもそもインテリジェンス力というのは、国力から著しくは乖離しません。日本は中国にGDPで第二位の座を奪われたとはいえ、世界第三位の経済大国です。経済力というのは、現在は国力とほぼ等しいんです。
 だから、日本のインテリジェンス能力が極度に劣るということはならない訳です。たとえば、リチャード・ウィッテルのドローンに関する情報を日本語で誰でも読めるというのが、裾野での日本のインテリジェンス能力です。
 仮に私(佐藤優)がタガログ語、もしくは朝鮮語しか知らないということになると、入手できる情報の量というのははるかに少なくなります。

 (Q2)20年後、子供一人を大学に出し、その時に両親、妻の親を含め4人の介護、自分と妻の老後の費用を考えると、30代40代50代の時の夫婦の預金はどのくらいあれば人生逃げ切れると思いますか?
 A : 50代だったら、1億5千万円だと思います。有料の老人ホームに入るとしてですが。
 40代で1億4千万、30代でも1億4千万・・・・。
 要するに、今の市場価格でおっしゃるような人生プランですと、1億5千万円というのが目安だと思います。
 とすると、何かを諦めなければいけない(笑)。健康に留意して、特養に入りやすい地域に引っ越すとか。

 (Q3)最近、本業以外のセーフティーネット、副業ということをよく耳にしますが、いささか容易な気がします。
 A : 副業は、できるのだったらやっておいたほうがいいと思います。本業がどうなるか分からないから。
 ただ、年の総収入の5%以内にとどめること。それ以上を目指すと副業で済まなくなります。それくらいの感覚で副業をやるのは別の世界のビジネス論理を汁ことが出来るからいいかもしれません。
 金儲けだけを目的にしたらいけないけれど、金儲けは悪いことではありません。お金は自律性を担保するために非常に重要です。
 実は、それを教えてくれるのがマルクス経済学なんです。全てのものは商品となり、貨幣と交換される。マルクスは、盟友であるエンゲルスという資本家に食べさせてもらっていたんですよ。

 (Q4)聖書の言葉で「受けるより与えるほうが幸いである」とありますが、これは個人だけでなく、国家にも適用できるのでしょうか?
 A : できません。
 聖書に書いてある指針は、集団ではなく、あくまで個人に対して、特定の名前を呼び出されたその人間に対しての、具体的な状況のなかでの言葉だからです。国家とか民族に神様の啓示が降りてくると考えるのはキリスト教の考え方ではありません。
 ただ、そういう考え方で勘違いしてキリスト教を受けとめた天才的な神学者がいます。フリードリヒ・ゴーガルテンという人。彼の「我は三一の神を信ず」という戦前の本に私(佐藤優)が解説をつけて新教出版社から復刻しましたが、ゴーガルテンは民族に啓示が降りるという形で自分の論を組み立ててしまったので、結局ナチス・ドイツを支持するドイツ的キリスト者という分派の創設に協力することになってしまったのです。

□佐藤優『知の教室 ~教養は最強の武器である~』(文春文庫、2015)の「第10講座」の「第二部:来場者の質問に答える」
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 【参考】
【佐藤優】世の中でどう生き抜くかを考えるのが教養 ~知の教室~
【佐藤優】『知の教室 ~教養は最強の武器である~』目次
【佐藤優】『佐藤優の実践ゼミ』目次
『佐藤優の実践ゼミ 「地アタマ」を鍛える!』
 ★『佐藤優の実践ゼミ 「地アタマ」を鍛える!』目次はこちら

 

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【食】世界中でバッシング? ~加工肉での発がん性リスク~

2015年11月27日 | 医療・保健・福祉・介護
 (1)10月26日、世界保健機関(WHO)の外部組織の国際癌研究機関(IARC)は、発癌性の評価で、加工肉(ベーコン・ハム・ソーセージ・コンビーフなど)を一番リスクの高い
   「グループ1(人に対して発癌性がある)」
に、レッドミート(赤肉)を二番目にリスクの高い
    「グループ2A(人に対しておそらく発癌性がある)」
に分類すると発表した。
 赤肉は、脂肪分の少ない赤身肉ではなく、
    「牛肉、豚肉、羊肉、馬肉、山羊肉などすべての哺乳動物の肉」
のことである。さらに、加工肉は
    「一日50g摂取するごとに、大腸癌のリスクが18%増加する」、
赤身肉は、
    「1日100g摂取するごとに、大腸癌のリスクが17%増加する」
としている。

 (2)すると、世界中からIARCに対してバッシングが起こった。
   「結論ありきでデータを歪曲した」【北米食肉協会】
   「ソーセージを食べることを恐れるべきではない」【ドイツ農相】
   「笑い種(ぐさ)」【オーストラリア農相】
など、食肉の大生産国や大消費国では、まるで「IARCはウソつき科学者集団」かのように批判した。そのためWHOは、「加工肉を食べないように要請するものではない」という声明を出さざるを得なくなった。

 (3)日本のマスコミ、専門家の間でも、どちらかというと批判的なコメントが多い。
 巨大な利益が絡む食肉と食肉加工肉だけに、「そのとおりだ」と肯定する意見は少ない。
 しかし、冷静に考えて、IARCが公表したことが間違ったとは言えない。 

 (4)日本の食品安全委員会は、
 「IARCの分類は発癌性を示す証拠があるかどうかを重視しており、ハザード(ヒトの研究に影響を及ぼす可能性のあるもの)の毒性の影響の強さや曝露量(食べる量)はあまり考慮していない。これをもって「食肉や加工肉のリスクが高い」とは言えない。多くの種類の食品をバランスよく食べることが大切だ」
 との見解を示している。
 つまり、リスクの大小は別として「発癌性がある」という見解を否定しているわけではない。

 (5)「2013年の調査では、日本人の赤肉・加工肉の摂取量は1日あたり63g(赤肉50g、加工肉13g)なので、大腸癌の発生に関して、日本人の平均摂取量の範囲であれば、リスクは無いか、あっても小さい」【国立がん研究センター】
 さらに、「食肉には、たんぱく質、ビタミンB、鉄、亜鉛などの健康維持に有用な成分も含まれているが、飽和脂肪酸も含まれているので、摂りすぎは動脈硬化からくる心筋梗塞のリスクが高くなり、少なければ脳卒中のリスクを高める」【同】

 (6)食品安全委員会と国立がん研究センターの両者が言っているのは、
   「食べる量が多くなければ問題ないだろう」
ということだ。逆に言えば、 
   「食べる量が多ければ問題だ」
ということだ。
 今回指摘されている赤肉と加工肉も、摂取量が多ければ
   「心筋梗塞だけでなく、大腸癌のリスクも高くなる」
というのが正しい見方ではあるまいか。加工肉13gはソーセージなら1本、ハムなら2枚程度だ。肉を食べてはいけないというわけではないが、
   「肉大好き人間は要注意」
ということになる。

 (8)「食肉は安全」というよりも「食肉はこういったリスクがある」ということを正直に伝えるべきだ。
 冷静なリスク評価を消費者に伝えたほうが、結果的には生産者や経済界にとっても利益になる。

□垣屋達哉「世界中でバッシングが巻き起こる 加工肉での発がん性リスク」(「週刊金曜日」2015年11月20日号)
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