語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【詩歌】E・ケストナー「即物的な物語詩」 ~人生処方詩集~

2015年11月02日 | 詩歌
 おたがいをよく知って 八年目に
 (よく知っていたと言っていい)
 急に ふたりの愛情が なくなった
 ほかの人たちが 帽子か ステッキを なくすように

 ふたりは 悲しみ 陽気にだましあった
 何ごともなかったように キッスをしてみた
 そして 顔を見合わせ 途方にくれた
 そのとき とうとう 彼女が泣いた 彼はそばに立っていた

 窓から 汽船に 合図ができた
 彼は言った もう四時十五分過ぎだよ
 どこかでコーヒーを飲む時間だ
 隣りで だれか ピアノのけいこをしていた

 彼らは その町の いちばん小さなカフェーへ出かけた
 そして 彼らのコーヒー茶碗を かきまわした
 夕方になっても まだそこにいた
 彼らは ふたりきりで坐っていた そして 全然 口をきかなかった
 そして まるっきり そのわけが わからなかった

□エーリヒ・ケストナー(小松太郎・訳)「即物的な物語詩」(『人生処方詩集』、岩波文庫、2014)
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 【参考】
【詩歌】E・ケストナー「ホテルでの男性合唱」 ~人生処方詩集~
【詩歌】E・ケストナー「絶望第一号」 ~人生処方詩集~
【詩歌】E・ケストナー「顔を交換する夢」 ~人生処方詩集~
【詩歌】戦争を礼賛する牧師 ~E・ケストナーによる諷刺~




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