生命減る迅さに秋の水流れ 馬場駿吉
作者の目は「川の流れ」を見ているのではない。
迅く流れている澄んだ水を見ているのだ。その瞬間、瞬間に形を変えながら流れている水に、わが身の生命を感じたのだろうか。
鴨長明の方丈記は、
「ゆく川の流れは絶えずして、しかも、もとの水にあらず。
よどみに浮かぶうたかたは、かつ消え、かつ結びて、久しくとどまりたる例(ためし)なし」
と、書き始めた。
方丈記の「川の流れ」は、秋の水に限ったことではない。しかし、「久しくとどまりたる例なし」となれば、私は秋の川を感じてしまう。
句の作者は、「久しくとどまる例」のない川の澄んだ水を見ている。その澄んだ水に、限りある生命を感じたのだ。
流木に如何なる記憶秋深し ひよどり 一平