新・ほろ酔い気分

酔っているような気分のまま、
愚にもつかない身辺雑記や俳句で遊んでおります。
お目に留めて下されば嬉しいです。

里の秋

2007年08月30日 20時01分22秒 | 日記・エッセイ・コラム

 明日で8月は終わり。
 今日は雨模様だったせいか、少し涼しくなってきた感じだ。もっとも気象庁によると、このまま涼しくなっていくわけではないらしい。

 でも本物の秋は、もうそこまで来ている。

 好きな童謡に、「里の秋」がある。「静かな 静かな 里の秋」と歌い出すあの歌だ。

 この童謡は、昭和20年12月に発表された。復員してくる元将兵を励ます歌として、NHKラジオから流された歌だ。

  静かな 静かな 里の秋
  お背戸に 木の実の落ちる夜は
  ああ 母さんとただふたり
  クリの実 煮てます 囲炉裏端(いろりばた)

  あかるい あかるい 星の空
  なきなき 夜鴨(よがも)の 渡る夜は
  ああ 父さんの あの笑顔
  クリの実 たべては 思い出す

  さよなら さよなら 椰子(やし)の島
  ふねにゆられて 帰られる
  ああ 父さんよ ごぶじでと
  今夜も 母さんと 祈ります

 静かな美しいメロデイーの曲だ。
「音羽ゆりかご会」の童謡歌手、川田正子さんが唄った。

 まだ小学生5年生(実は国民学校5年生)だった私は、心が洗われるような、すーっと引き込まれるような感じで聞いていた。その時の状況を、今もかすかに覚えている。
 なぜか切ない調べだ。
 軍歌中心だった軍国少年にとって、衝撃があったに違いない。

 ポツダム宣言を受諾した年の暮、「復員将兵を待つ家族を励ます会」で発表された歌なので、「ああ父さんのあの笑顔」は、復員船の中の父さんだとばかり思っていた。

 「母さんとわたしが待ってます、元気で帰ってきてください」。

 そのように感じて、私は胸をふるわせて聞き、そして唄っていた。

 しかしあとで知ったことによると、作詞者の海沼実の元の詩は、戦地の兵隊さんを励ます歌として、作詞されていたのだそうだ。
 戦地の将兵の志気を鼓舞するための詩は、作曲される時間もなく終戦を迎え、復員船の元将兵を待つ歌に変わって発表された。
 
 元の詩は、次のとおり。

  きれいな きれいな 椰子の島
  しっかり 護って下さいと
  ああ 父さんの ご武運を
  今夜も ひとりで 祈ります

  大きく 大きく なったなら
  兵隊さんだよ うれしいな
  ねえ 母さんよ 僕だって
  必ず お国を 護ります

 戦争中の私は、このような元歌通りの軍国少年だった。きっと戦時中であれば、違和感もなく元歌を歌ったに違いない。当然のことながら、元気な曲がつけられたろう。

 そんな私も、12月の川田正子さんの歌声を、「父さん」の帰りを待つ女の子の気持ちで聞き、心ふるえていたのだ。
 
 やはり、時代が作り出す「空気」は恐ろしい。 

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