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日本における教育格差の執拗な提示

2019-07-20 15:54:54 | 読書ノート
松岡亮二『教育格差:階層・地域・学歴』ちくま新書, 筑摩書房, 2019.

  日本における教育格差を、幼児教育・小学校・中学校・高校の各ステージで検証するという360頁に及ぶ厚い新書版である。学術書ではないが、図表が満載かつ文章も図表の説明がほとんどで、こういうのに読み慣れていないと辛い本だろう。著者は早稲田大学所属の若手研究者である。

  書籍全体を通じて、学力、意欲、勉強時間、所属学校の偏差値などなどについての、階層別のデータがこれでもかこれでもかと繰り出される。その結論は、日本は国際的にみて凡庸な教育格差社会であり、他の国がそうであるように親の社会経済的地位や居住地域によって教育水準が決まってしまう、ということである。その差は、幼児期から始まり、高校までずっと維持されるという。(ただし、最終学歴獲得・初職・現職を通じて、格差が拡大するわけではなく、維持されて平行移動するとのことである)。

  人生の最初の段階でライフコースが決まってしまうというわけで、就学前の教育介入を、解決案として著者は考えているようだ。果たしてこれに格差を縮小するような効果があるのだろうか(幼児期の非認知能力育成が、勤勉な人格を作り上げるという話はよく聞くけれども)。効果があったとしても、上位層は「下位層への就学前介入政策」を出し抜く方法をすぐ考えるだろうから、大して格差は縮まらないという気もする。

  とはいえ、日本の教育格差の状況が客観的に示された優れた本である。あと、データ重視ではあるけれども、格差が放置されることによって「血が流れている」と表現されるなど、ところどころ熱い文章にも出会う。この点は好みがわかれるだろう。
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