続・設計の「思想」・・・・「京都駅」ビルは駅か?

2008-07-12 10:50:42 | 設計法
駅の話、駅の設計について書いたので、その続き。

新しい「京都駅」ができた翌年であったか、京都・奈良を訪ねる機会があった。
そのとき通過した新「京都駅ビル」には、真底驚いたことを覚えている。
この設計者は、「駅」という場所を何と心得ているのか、と思わざるを得なかったのである。

   註 新京都駅ビルについては、その高さや外観とかについて
      いろいろな「評論」がなされていたと思うが、その際、
      「駅」としての当否はまったく語られなかった、と記憶している。

上掲の図は、「JR時刻表」に掲載されている「京都駅構内図」である。説明のた
めに手を加えてある。

私はいつも、京都駅では地上レベルを使ってきた。バスを使うことが多いからだ(その昔は市電・・・・、市電の方が分りやすかった!)。
京都に着くと、大阪側にある跨線橋を渡って0番線ホームに降り、中央口の改札を出る。乗るときはこの逆。跨線橋が「近鉄京都線(奈良行)」へ直結しているからでもある。これがいつものパターン。

そこで、そのときもこのパターンをとった。
しかし、中央改札口を出て驚いた。乗降客の通る空間の幅がきわめて狭く、おまけに乗降客の流れをわざと妨げるかのように、人の流れに直交するエスカレータがある(上掲の図の赤い点線の円で囲んだ場所。改札を出た正面にあたる)。
つまり、駅など多数の人が利用するいわゆる公共の建物では必須のコンコースがないに等しい。
乗降客の流れに対して直交するということは、明らかに乗降客の流れとは無関係。このエスカレータは何のためにあるのだ?

先代の駅の場合では、中央改札の外側には大きな空間:コンコースが広がっていた。
先代の駅ビルは二階建て、二階に観光デパートが入っていた。観光デパートへの上がり口:階段は、広いコンコースの脇、乗降客の流れを乱さない位置にあった。これで十分役に立っていたのである。
先代の駅ビル設計者は、「駅」が分っていた、「建物の備えるべき根本的な要件」を知っていたのである。


端的に言えば、新駅ビルの設計者は、「駅の設計の基本要件」すなわち「乗降客のスムーズな流れの創出」とはまったく無縁な設計をしてしまったのだ。むしろ、わざわざスムーズな流れを乱すことに精を出している・・・・。

この建物は、競技設計であった。
ということは、この設計案・設計者を選んだ「審査委員会」自体、「駅の設計の基本要件」を「無視していた」、あるいは「考えなかった」、あるいは「知らなかった」と理解してよいだろう。


ところで、京都に暮す人に訊ねてみたところ、「近鉄京都線」を使わないかぎり、いつも、東京側にある「東地下通路」を使うのだそうである(図の青線の楕円で囲んだところ)。地下鉄にも便利だし、第一流れがスムーズだから、とのこと。納得!。

ちなみに、東京駅八重洲口も、かつてはきわめて分りやすかった。南、中央、北の3本のホーム下を通る通路を束ねる南北に広がる分りやすいコンコースがあったのである。今は、いろんなモノがコンコース内に設けられ、見通しも悪く分りにくくなった。つまりコンコースがなくなった。案内標識にたよるしかなくなった。それとて分りにくい。JR東日本と東海がいわば分捕り合戦をしているせいもあるかもしれない。
いずれにしろ、乗降客の流れや利便は、どこか遠くへ忘れ去られてしまっている。

   註 以前にも「建物の備えるべき根本的な要件」を忘れた設計について
      書いた。
      こういう「兆候」「症候」は、「現代病」の一種なのかもしれない。
      「道・・・・道に迷うのは何故?:人と空間の関係」参照。


なお、先代の京都駅ビル、かつての東京駅八重洲口は、先々代の旧版「建築設計資料集成」に平面図が載っているはずである。

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