「Ⅰー4 建物を木でつくる」 日本の木造建築工法の展開

2019-03-15 08:57:03 | 日本の木造建築工法の展開

 「日本の木造建築工法の展開」   

  PDF「Ⅰー4建物を木でつくる」 A4版3頁 (PCの方は、左上の「開く」をクリックし、さらに「Word Onlineで開く」をクリックしてください。)

 

  Ⅰ-4 建物を木でつくる・・・・木でつくるのは日本だけではない

  わが国の建物は、はるか昔から、庶民の住まいも寝殿造も、社寺、城、商家や農家の土蔵なども、ほとんどすべてが、柱と横材:梁・桁:を組み合わせてつくる方法でつくられてきました。

 この方法は最初に柱と梁・桁で建物の骨格:軸組(じくぐみ):をつくるため軸組工法と呼ぶのが普通です。  わが国の軸組工法は二千年近い歴史があり、固有の風土に応じて大きく進化発展してきています。 

 通常、軸組工法、① 最初に建物の骨格をつくり、② 次に屋根をかけ、③ 骨格:軸組の間に壁や出入口や窓:を設ける、という順番で仕事が進みます。屋根が先行するため、雨の多い地域に向いています(2×4工法:枠組工法やログハウス工法は、壁部分をつくった後でないと屋根工事ができない)。

  軸組工法は、アジアでは中国大陸など、西欧でもイギリス、ドイツ、スイスなど、森林に恵まれた地域で普通に見られる建て方です。下の写真はその一例です。 

  

中国・四川省の住居(建設時期不明)老房子(江蘇美術出版社)より   スイスの町家(18世紀)Fachwerk in der Schweiz (Birkhauser )より

 

  

 イギリス ケント州の農家 (中世後半) 同左 茅葺の例 The Medieval Houses of KENT (Royal Commission on The Historical Monumennts of England )より

 軸組工法では、壁を軸組の間に多材を埋める方法でつくるため、多くの場合、国や地域によらず、写真のように、軸組:柱や梁・桁をそのまま表に表します。 

 これを、真壁(しんかべ)(芯壁)仕上げと呼びます。

 日本の城郭や土蔵なども、外部では軸組が見えませんが、内部では柱や梁が表しになっています。 なお、アルプス山麓の地域には、下のようなログハウスが多く見られます。写真は ALTE BAUERNHAUSER IN DEN DOLOMITEN(CALLWEY)より

 

 現在、わが国でつくられている木造建築には、軸組工法の他に、「2×4工法:枠組工法」「パネル工法」「ログハウス工法」があります。

 「2×4工法:枠組工法」「パネル工法」は、日本でつくられるようになって半世紀足らずです。 「ログハウス」は、類似のものに、東大寺・正倉院に代表される古代の校倉(あぜくら)があります。なお、柱と柱の間に、軸組の工事とともに厚い板を落し込んで壁をつくる「落し板工法」がありますが(原理的には真壁の一工法です)、この場合は、屋根を架ける前に壁が仕上がるため、「2×4工法」「パネル工法」「ログハウス工法」と同様に、工事中の養生が必要になります。        

  現在、軸組工法は、「在来軸組工法」あるいは略して「在来工法」と呼ばれ、一般には、「現在の建築基準法が規定している木造軸組工法」のことを指しています。

 しかし、「在来」の語は「これまで行なわれてきたことすべて」を指すように受け取られるため誤解の因になっています(語の本来の意味では、桂離宮は在来の工法でつくられている、と言うことができますが、しかしそれは「建築基準法」の規定する工法ではありませんから、そこに大きな誤解が生じてしまいます)。そこでここでは、柱と梁・桁で軸組をつくるという工法の特徴を示す軸組工法と呼ぶことにします。註 「伝統」という語も多様な解釈がされているため、誤解を避けるために、ここでは使いません。

 最近、日本の木造住宅、とりわけ軸組工法の家屋は、欧米に比べて寿命が短く、その長寿命化が必要だ、あるいは2×4工法に比べ耐震性や省エネルギーの点で劣るかのように言われています。 それとともに、木造建築:軸組工法のつくりかたについて、数多くの情報が飛びかい、木造の建物のつくりかたや考えかたに混乱をひき起こしていると言っても言い過ぎではありません。

 Ⅰ-0で見たように、日本は、古来、多雨多湿で、さらに頻繁に地震や台風に見舞われる独特の環境にあります。それゆえ、そのような環境に応じた暮し方、そのような環境に適した建物づくりについて、考え、工夫を積み重ねてきた長い歴史があり、技術にも多くの蓄積があります。

 残念ながら、世の中に流布されている木造の建物についての情報は、この長い体験で培われた技術の蓄積を踏まえているとは言い難いのが現状です(「はじめに」で紹介した論考で桐敷真次郎氏も言われているように、建築基準法自体も技術の蓄積を踏まえてはいません)。

 桐島氏は「日本建築といっても、社寺と住宅とは異なるし、住宅といっても、本格的な書院造や民家と、貸家・建売り・バラックの類とはまるで違う。しかし、・・・・建物の維持管理には一定の通則があるようで、毎年の点検、10年毎の小修理、30~50年毎の大修理、100~300年で解体修理というのが一般的な手入れの仕方である。社寺・宮殿のような文化財建造物でも、ほぼ似たような数字があげられている。ていねいな維持管理をすれば、木造建築の寿命もかなりのものとなるのである」と述べていますが、実際、寺社建築には、法隆寺伽藍に代表される1000年を越えてなお健在の建物が多数あります。

しかし、法隆寺の場合は、当初の建物が現在まで保たれているわけではなく、何度も修理・修繕が行われ、多くの部材は古式を継承して取替えられています。一方、東大寺南大門のように、ほぼ建設当初の材のままで800年以上も健在の例もあります。いずれも多くの地震に遭ってはいますが、倒壊・損壊するようなことは起きていません。

  住宅には1000年を越えた例はありませんが、古井家など、各地に数百年以上暮し続けられた住居がときどきの暮し方に応じて改造・修繕を繰り返しながら、多数現存しています。 それゆえ、木造軸組工法でつくられる建物は寿命が短い、というのは正しくはありません。

 下図は、先に紹介した15世紀末に建てられた古井家の間取りの変遷図です。 古井家は代々、改造を繰り返しながら約400年間暮してきました(「修理工事報告書」より転載)。

 この建物では、長手(桁行)方向の二通り五通り八通りと、短手(梁行)方向のろ通りに通りち通りを通り、そしてか通りが主要な構造のため、改造工事では手をつけていません。

 江戸時代:元禄(17世紀末)の改造ではおもてちゃのまにわ内に並んでいた柱を取り去る大工事がされていますが、主要な構造には変更がありません。以降の改造のときでも同じです(2番目以下の図)。

 このように、当初の建物に改造を行い暮し続けることができた理由として次の3点が挙げられます。すなわち① 地業(ぢぎょう)(地盤整備、基礎)に留意している。 註 地業(ぢぎょう)は、古くは地形 ② 当初の建物の架構が簡潔な形で、なおかつ、立体になるように組まれている。 ③ 「主要な架構」と「空間の使い分け:間仕切りの位置」が対応している。 ④ 改造・修繕が可能な工法でつくられている。

 つまり、これらのことは、木造で丈夫で長持ちする建物をつくるには、この条件を充たすこと必要である、という事実を示しているのです。このように改造しながら暮し続けることは、木造軸組工法以外の工法では先ず不可能です。 石造や煉瓦造、RC造はもとより、木造でも2×4工法、ログハウス工法は、一旦仕上がった建物の改造は簡単にはできません(軸組工法でも落し板工法も同様です)。

 つまり、改造・改修・修理によって長く使えるのが、木造軸組工法のおおきな特徴なのです。 ただし、建築基準法の規定する木造軸組工法では、改造・改修・修理は簡単にはできません。

 木造軸組工法のこの特徴・特性を十分に活用するには、主要材料である木・木材についての適確な知識を身につけている必要があり、日本の建物づくりにかかわってきた人びとは、その幾多の経験により、この知識を十分に見につけ、活用しています。 

 

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