大学進学率は高いのが良いのか

 最近驚いたことの一つに韓国の大学(高等教育機関)進学率の高さがある。郷秋<Gauche>の記憶では10年ほど前には当時の日本より少し高い50%程度だったと記憶していたが、一週間ほど前にWebPageで韓国の女性の大学進学率が90%を超えていると云う記事を見かけた。調べてみると確かに高く、89%と云う進学率は世界一のようある。

大学進学率上位10カ国(2004年)と中退率(2005年、国名の後ろの括弧内)
1位 89% 大韓民国(5%?)
2位 87% フィンランド(28%)
3位 82% アメリカ(53%)
3位 82% スウェーデン(31%)
5位 80% ノルウェー (35%)
6位 72% オーストラリア(28%)
6位 72% ギリシャ(-)
6位 72% ニュージーランド(46%)
9位 71% ラトビア(-)
10位 70% スロベニア(35%)
33位 54% 日本(10%)

出典:進学率はhttp://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%80%B2%E5%AD%A6%E7%8E%87、退学率は
http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/3928a.html による(韓国を除く)。

 大学進学率の高い国ほど退学率も高いことにお気づきいただけただろうか。進学率・退学率共に高いアメリカ合衆国の場合、大学を卒業するのは入学者の半数以下の47%であり、退学者を当初から大学に進学しなかったこととして大学進学率を見ると39%となる。同様に調整した進学率はフィンランド63%、日本は49%となる。韓国はどうかと云えば、ハングルのページで「5%」と云う数値を見つけたが、もしこれが事実だとすると85%と云う驚異的な数字となる。

注:日本以外では伝統的な大学入学者世代、つまり18歳の大学進学者の割合が日本に比し少なく所謂社会人入学者が多いことから、退学者を除いた大学進学率がそのまま大学卒業者率とは云いにくいが、日本においては大学入学者の多くは高等学校卒業直後の世代であることから、中途退学者を除いた進学率は、22歳人口の大学卒業者率と言い換えても大きな差はないものと思われる。

 主として退学率の問題などから日本の大学は「入るは難しいが出るのは易しい」と云われる。つまり、一度入ってしまえば4年間遊んで暮らしても余程のことがなければ卒業できると云うことである。そうなると心配になるのは大学卒業生の質保障である。製造物責任法に倣えば、大学は卒業生の質の保証をし、「不良品(者)」については時に損害賠償責任を負わなければならないが、これがなんとも心許ないのが日本の多くの大学。そこで文部科学省が云い出したのが、聞きなれない「学士力」である。少々長いが全文を引用する。

各専攻分野を通じて培う「学士力」-学士課程共通の「学習成果」に関する参考指針-

趣旨
 分野横断的に我が国の学士課程教育が共通して目指す「学習成果」についての参考指針として示したもの。個々の大学における学位授与の方針等の作成や分野別の質保証の枠組み作りを促進・支援することを目的とする。

1.知識・理解
 専攻する特定の学問分野における基本的な知識を体系的に理解するとともに、その知識体系の意味と自己の存在を歴史・社会・自然と関連付けて理解する。
(1)多文化・異文化に関する知識の理解
(2)人類の文化、社会と自然に関する知識の理解

2.汎用的技能
 知的活動でも職業生活や社会生活でも必要な技能
(1)コミュニケーション・スキル
 日本語と特定の外国語を用いて、読み、書き、聞き、話すことができる。
(2)数量的スキル
 自然や社会的事象について、シンボルを活用して分析し、理解し、表現することができる。
(3)情報リテラシー
 ICTを用いて、多様な情報を収集・分析して適正に判断し、モラルに則って効果的に活用することができる。
(4)論理的思考力
 情報や知識を複眼的、論理的に分析し、表現できる。
(5)問題解決力
 問題を発見し、解決に必要な情報を収集・分析・整理し、その問題を確実に解決できる。

3.態度・志向性
(1)自己管理力
 自らを律して行動できる。
(2)チームワーク、リーダーシップ
 他者と協調・協働して行動できる。また、他者に方向性を示し、目標の実現のために動員できる。
(3)倫理観
 自己の良心と社会の規範やルールに従って行動できる。
(4)市民としての社会的責任
 社会の一員としての意識を持ち、義務と権利を適正に行使しつつ、社会の発展のために積極的に関与できる。
(5)生涯学習力
 卒業後も自律・自立して学習できる。

4.統合的な学習経験と創造的思考力
 これまでに獲得した知識・技能・態度等を総合的に活用し、自らが立てた新たな課題にそれらを適用し、その課題を解決する能力

- 転載ここまで -

出典:http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu10/siryo/08043009/004.htm

 これらを身に付けていない者は、文科省としては大学卒業者と認めないぞと云いたいところなのだろうが卒業証書を出すのは各大学であるから、文科省としては許認可権をちらつかせて、いや、葵の御紋の印籠を振りかざすようにして各大学にこのようにしろよと号令をかけているのである。

 そんなこんなを考えたとき、韓国の大学進学率89%と云う数字が何を物語っているのかである。わずか20年で日本を追い越し世界一の大学進学率となった韓国は今や超学歴社会なのだと云う。つまり大学を卒業していなければ会社勤めはままならず、卒業はしてみたものの評価の低い大学であったりすれば就職さえも難しいのだという。そんな事情から教育熱は日本の比ではないらしいが、大学進学率50%の日本でさえも、本来大学に来るべきではない者までもが大学生となっている、あるいは、大学生の質が低下したと云われて久しいのである。

 その日本の大学の実態はと云えば、リメディアル教育(高等学校段階の学習内容を大学入学後に学ぶ「補修授業」)の必要性が叫ばれ、実際に少なくない大学が導入してから10年近くを経過している(多くの大学では専門の教員は置かずに予備校の講師に授業を担当させているという)。工学部に入った学生が1/3+1/4と云った分数の足し算が出来なかったとか、文学部の学生が未曾有を「みぞうゆう」、踏襲を「ふしゅう」と誤読するなど、元へ、これは大学生ではなく某国の元首相の話だが、いずれにせよ学力低下の例は枚挙にいとまがないのである。

 大学進学率が30%を超えた1970年代から大学生の学力低下と共に幼稚化が問題にされ始めたが、それでも「右手に朝日ジャーナル、左手に平凡パンチ」と云われた時代はまだ良かったのである。「平凡パンチ的学生生活」を楽しみながらも、それでも世の中の出来事に興味を持つ世代・時代であったのだから。それを考えると大学紛争鎮静化を手放しでは喜んではいられなかったのだなぁ。

 話がすっかり横道にそれたが、そろそろ今日の郷秋<Gauche>的結論を書いておこう。
結論1:大学進学率と退学率、その数値だけを取り上げて是非を問うことに意味はない。
結論2:大学教育の評価は卒業生の質を持って語るべきである。
結論3:各大学の評価は、入試のおける偏差値ではなくその卒業生の質を持って語るべきである

 先にあげた「学士力」は、大学卒業生の質の低下(それは同時に将来の国際競争力低下を意味する)に危機感をもった文科省が策定したものだが、当然のことが書かれた内容そのものに対する異論は少ないことだろ。問題は1200もある国公私立の大学・短期大学がこの「学士力」を自校のカリキュラムの中でどのように展開し、どのようなサポート体制を構築し、自校ならではの特色をどのように発揮できるかにかかってくるだろうと、郷秋<Gauche>は考える。

 しかしだ、文科省が策定した「学士力」には数値目標が掲げられていない。数値目標なしにこれを達成せよと云ってみたところで所詮「絵に描いた餅」なんじゃないかなぁ。

注1:郷秋<Gauche>が「大学」と書いた中には短期大学及び高等専門学校を含んでいる。
注2:進学率・退学率等の数値の出典は明記した通りだが、調査年次が異なる、数値算出の基準が明らかでないなど、いささか正確さに欠けるきらいはあるが、「傾向」を見る上では十分なものだと判断し引用した。


 例によって記事本文とは何の関係もない今日の一枚は、昨年12月中旬にモトスミ(元住吉)の写真を幾枚かご覧いただいた時に掲載し忘れていたもの。ブレーメン通りの賑わいの一方、こんなうらぶれた通りもあるのが元住吉。
 GX200で撮ったものですが、一度シャッターボタンを押してしまと次の一枚までのタイムラグが大きくシャッターチャンスを逃してしまいます。こんな場面でE-P2は活躍してくれそうです。
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