頭の中は魑魅魍魎

いつの間にやらブックレビューばかり

『彼女のかけら』カリン・スローター

2019-02-27 | days
アンディ31歳、惰性で生きている。目の前で男が二人の女性を殺害した。すると母親のローラが犯人のナイフ素手で受けて制圧し殺した。その後、ローラは襲撃されそうになり、その際にアンディは逃げるように言われた。メールも電話も一切自分からはしないように、貸倉庫の場所や逃げる方法も指示され。携帯電話や大金があった。平凡な女性だと思っていた母の過去を辿ると・・・

うーむ。そんなに悪くはないのだけれど
他のカリン・スローターの珠玉の名作と比べるとちと落ちる。

主人公アンディにいまひとつ魅力が感じられないのが大きい。同一作者によるウィル・トレントには魅力が感じられるのに。

2018年の現在と1986年の過去が交互に語られる。過去にローラが直面した問題は読み応えがあるのだけれど、長いのとややこしいのとが合わさって、読んでいてのワクワク感がやや薄くなってしまった。母ローラの「過去」そのものは面白いのだけれど、「ローラ自身」にはあまり同情できなかった。この話の展開なら、ローラ可愛そう、アンディ可愛そうと思わせないと、という気がする。


彼女のかけら 上 (ハーパーBOOKS)
カリン・スローター
ハーパーコリンズ・ ジャパン
彼女のかけら 下 (ハーパーBOOKS)
カリン・スローター
ハーパーコリンズ・ ジャパン




今日の一曲

先日平井大のラジオで流れていた。Debargeで、"I Like It"



では、また。
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『星を継ぐもの』ジェームズ・P・ホーガン

2019-02-25 | books
月面を調査していたら遺体を発見した。調査の結果、それは5万年前の人類だとされた。5万年も前の人類が月に行くだけの技術を持っていたのだろうか・・・調査のリーダーは原子物理学者のヴィクター・ハント。月にいた人類はルナリアンと名付けられた。ルナリアンが持っていた書類を解読したところ、どうやら今はもう存在しない惑星ミネルヴァで戦争があり、ルナリアンはそこから逃げてきたようである。しかしルナリアンの日記からすると、月とミネルヴァはとても近くにあったと推定されるが、そんなことはないはずである・・・次々に明らかになること。そして矛盾。学者たちは宇宙物理学と進化生物学を駆使しながら真実にたどり着くだろうか・・・

なかなか面白かった。ちょっとややこしくて、理解するには時間がかかったけど。いや、ちゃんと理解できていないかも知れない。

1977年に書かれたのに内容に古さを感じない。いや、今現在の最先端の理論をもとにしたSFだとついていけないんだろうと思う。

宇宙的ドンパチはなく、ひたすら地球、月、ミネルヴァ、そして生物の進化についてああでもないこうでもないと考える。その過程がとてもスリリングだった。

(どうでもいい話だけれど、昔付き合っていた人からプレゼントされたと記憶しているのだけれど、それがまだ書棚にあったのか、それとも後日買い直したのか、それも謎である)


星を継ぐもの (創元SF文庫)
ジェームズ・P・ホーガン
東京創元社

星を継ぐもの コミック 1-4巻 セット (ビッグ コミックス〔スペシャル〕)
クリエーター情報なし
小学館




今日の一曲


10ccで、"I'm Not In Love"



昔、何かのタイヤのCMに使われてた曲だったような。では、また。

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『死に山: 世界一不気味な遭難事故《ディアトロフ峠事件》の真相』ドニー・アイカー

2019-02-23 | days
1959年、ソ連ウラル山脈で、9名が遭難死亡。しかも別々の場所で、ろくに服も着ておらず、ほとんどみな靴を履いていなかった。死因は6人は低体温症だが、3人は頭蓋骨骨折などの重度の外傷。そして衣服からは高濃度の放射能が検出された。50年経った今でもネット上で論議がされる事件の真相を、アメリカ映像作家が解くドキュメント。

こんな謎があった事も知らずボォーと生きていた。チコちゃんに叱られてしまう。

不気味な事件のディテールをこれでもかも掘り起こし、そして、マンシ族の攻撃、雪崩、強風、武装集団、兵器実験などの説を一蹴した上で、これが原因だと教えてくれる。スゲー、スゲーぞ。

細かい固有名詞などはすっ飛ばして読んだので、分厚い割には早く読めた。極上のミステリーのように面白かった。


死に山: 世界一不気味な遭難事故《ディアトロフ峠事件》の真相
ドニー・アイカー
河出書房新社



今日の一曲

Steve Winwoodで、"Higher Love"



では、また。
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『杏の気分ほろほろ』杏

2019-02-21 | days
女優杏が朝日新聞デジタルで連載してたエッセイ。(朝日新聞デジタル料金払ってるけど、3年以上一度も読んだことなかった。おい、朝日新聞、なんかくれ)

NHKの朝ドラ「ごちそうさん」や「花咲舞が黙ってない」「デート」などの裏側、苦労などが中心。「杏のふむふむ」とは違って現在進行形の話が多かった。あっちの方が時間を経て寝かせた感じが、深い味を生み出していたような気がする。こっちは浅漬け。

でも浅漬けも美味しい。杏ちゃんは、人柄が何とも言えないほど滋味深いので何を書いても面白くなるのだと思う。


杏の気分ほろほろ
朝日新聞出版



今日の一曲

Keith Jarrett Trioで、"I Fall In Love Too Easily"



では、また。
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『承久の乱 真の「武者の世」を告げる大乱』坂井孝一

2019-02-19 | books
何となく、後鳥羽上皇が、鎌倉幕府を潰そうとしたけど、反対に潰されて、島流しになった、ぐらいにしか理解してなかった「承久の乱」

白川上皇による院政誕生から、堀川、鳥羽、近衛、崇徳、後白河への流れを通して中世の始まりを説明してくれ、平治の乱、保元の乱、頼朝の鎌倉幕府までを丁寧に解説してくれる。その上で、三代将軍源実朝の暗殺、幕府に対する不信による後鳥羽上皇の承久の乱への流れを淀みなく教えてくれる。

とっても面白かった。

実朝は思っていたよりもずっと優秀な政治家であったりとか、後鳥羽も意外とまともな人物だった。

白河上皇は孫の(後の鳥羽天皇)15歳に、藤原公実の娘璋子17歳を入内させる。璋子は父亡き後、白河の養女になっていた。璋子は入内しても鳥羽と同衾せず、白河の御所に戻ってしまった。璋子が産んだ子は、白河の子だと噂される。当時白河65歳。その子は後の崇徳天皇だった。という話がなぜか心に残った。鎌倉時代の65歳なんて、平成だったら120歳ぐらいじゃないか。


承久の乱-真の「武者の世」を告げる大乱 (中公新書)
坂井孝一
中央公論新社



今日の一曲

Miles Davisで、"Smoke Gets In Your Eyes"



では、また。
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店名にツッコんでください208

2019-02-17 | laugh or let me die
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『償いの雪が降る』アレン・エスケンス

2019-02-15 | books
ジョーはミネソタ大の学生。お金が無くて大変な生活をしている。母親は飲酒運転をするような人で、弟は自閉症。実家からは離れられた。大学の授業で伝記執筆という課題があるが、話を聞ける祖父母がいないので、老人ホームに行って誰かインタビューさせてもらえないかと頼んだ。すると紹介してくれたのは、30年前に14歳の少女を殺害したとして刑務所にいたのだが、末期がんなので釈放されてここに来たカール。話を聞くと、人を殺しそうな人とは思えない。裁判の資料を読んでいくうちに冤罪ではないかと思うようになり・・・

これは良かった。良かった&面白かった。

ジョーの母親や弟の件では、大変な生活を強いられる。母親がどこかに居なくなってしまって、忙しいのに弟の面倒みないといけなくなる。この家庭環境には同情する。

アパートの隣に住む美人と仲良くなったりと青春小説っぽさもありつつ、ミステリーとしてもなかなか。

もし、カールが真犯人ではないとすれば、誰なのか?という本筋も解決までのプロセスがすごく良かった。読みやすかったのは、訳文のおかげなのか、元の文章がいいのか、その両方なのか。


償いの雪が降る (創元推理文庫)
アレン・エスケンス
東京創元社




今日の一曲

Charlie Sextonで、"Beat's So Lonely"



では、また。
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『凍れる森』C・J・ボックス

2019-02-13 | books
ジョー・ピケットシリーズ12作目の「鷹の王」の評判がいい。第1作の「沈黙の森」は面白かったのだけれど、ご無沙汰していたので、第2作を読んだ。

ワイオミング州の猟区管理官ジョー・ピケットは、地元の保安官や保安官補に反発しながら、良妻賢母の妻メアリーベス、娘シェリダンとルーシー、捨てられた子エイプリルを引き取って暮らしている。ジョーはエルクの大量殺戮場面に出くわした。犯人は役人だった。捕まえたと思ったら、逃げられ、そして殺されてしまった。そして別の役人も殺されてしまった。ちょうどその頃、「独立市民」という反政府的なグループが近辺にやって来て住み始めた。非常に高圧的な官僚、メリンダ・ストリックランドがやって来て、FBIと一緒に殺人事件の容疑者は独立市民の中にいるとして彼らを駆逐しようとしている。ジョーは何か胡散臭いものを感じて・・・

うーむ。素晴らしい。空を見上げて、素晴らしいとソプラノで叫びたい。

ひどい母親に捨てられ、ジョーの所に引き取られたエイプリルは幸せに暮らしていたのに、逃げた母親が戻ってきて、彼女を奪おうとする、というドキドキ。殺人事件の行方や反政府グループがどうなるかというドキドキ。さらに、

小説には、色々な敵役が出てきて物語に色彩を与える。怪人二十面相からショッカー、バルタン星人、モリアーティ、レクター博士などなど。例が古いとか言わないように。どの敵役にも心の底から憎むのとは違う感情を抱くけれど、このメリンダという役人には、心の底からぶちのめしてやりたいというドス黒い感情を抱く。そういうキャラを作れるというのがスゴイ。

メアリーベスのちょっと嫌な感じのする母親や、一度容疑者になってしまう鷹匠のネイト・ロマノウスキーなどサブキャラがまたいい。北上次郎氏などが絶賛の第12作「鷹の王」ではこのネイトが主役級の活躍をしているらしい。特に評判になってる感じのしないこの第2作でもこれだけ面白かったのだから、今後も相当期待できる。

ラストも、素晴らしかった。好み。


凍れる森 (講談社文庫)
C・J・ボックス
講談社



今日の一曲

杏ちゃんの番組、J-WAVEのBOOK BARを聴いていたら、その直後にかかっていた。Suchmosで、 "FUNNY GOLD"



このバンドのライブ、行ってみたい。では、また。
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『あまからカルテット』柚木麻子

2019-02-11 | books
料理ブログをやっている由香子、出版社勤務の薫子、ピアノ教師の咲子、化粧品メーカーの美容部員の満里子。仲良し四人組と食べ物にまつわる連作短編集。

意外と面白かった。こういう「女性的」な話を十分に堪能できるぐらい、1.書く方が優秀 2.読む方が女性的 のどちらなのだろう。

花火大会で隣に座った人に一目惚れしてしまったが連絡先が訊けなかった。彼がどうやら商売として稲荷寿司を売っているという情報だけで、彼を探す話など、読みやすい。

女の友情なんてハムより薄いと言うけれど、この四人組の友情の強さに若干の違和感を感じないこともない。小説としてはOKだけれど、女性同士がこんなにも仲が良く、支え合うのはリアルなのだろうか?(面と向かってだと必ず「それかわいい」とか「似合うねー」と言うけれど、本人がいないと悪口をいい始めるようなイメージがあるけれど・・・)(いやいや、お前の交友範囲が狭すぎると言われそう)


あまからカルテット (文春文庫)
柚木麻子
文藝春秋




今日の一曲

back numberで、"HAPPY BIRTHDAY"



では、また。
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『贋作』ドミニク・スミス

2019-02-09 | books
1957年、ニューヨーク。親から相続した絵「森のはずれにて」が贋作にすり替えられてしまった弁護士はマーティ。探偵に調べさせると贋作を描いたらしき女性の住居が分かった。コロンビア大の院生のエリー。オーストラリアから英国で絵画の修復をしていたが女性には肝心な仕事が任せてもらえず、美術史へ専攻を変えて、アメリカへとやって来て、贋作もしていた・・・1635年、オランダ。ギルドがプロの絵描きを牛耳っていた時代。自分の絵画を自由に売れなかった。サラ・デ・フォスは苦労しながら絵を描いていた・・・盗まれたサラの絵を取り戻そうとする過程で、マーティはエリーに出会い、恋してしまう・・・そして2000年。エリーはシドニー大で教授をしている。ここの美術館に、「森のはずれにて」が二枚やって来ることになった!まずい!自分の描いた贋作が・・・

うおー!小説を求めるものが全部詰まっていた大好物だった。ガトーショコラに光り物の刺身を乗せたような。(それじゃあまずそうじゃないか)

時間軸を大きく行ったり来たりする。そして16世紀オランダ絵画あり、贋作あり、恋愛あり。

何の小説かと問われるとちと困る。一見美術小説っぽいけれど、7割は恋愛小説ではないだろうか。(ふと自分が恋愛小説好きだと気づく。うふ。二丁目においで。あたいに会いに)(夜中に泥酔しながら書くと筆が滑るぜ)


贋作
ドミニク・スミス
東京創元社



今日の一曲

Bostonで、"More Than A Feeling"



では、また。
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『男の!ヤバすぎバイト列伝』掟ポルシェ

2019-02-07 | books
ミュージシャンが過去にしていたバイトについて語る赤裸々エッセイ。抱腹絶倒、七転八倒。

ろくに配らない時も頻繁にあった新聞配達。病院の院内清掃から、治験ボランティア、ペンキ屋、出版社正社員は7ヶ月で辞めて、エロ本編集は3日で辞め、女子プロレスを観るために金が無くなり、消費者金融へ・・・

てな感じ。掟ポルシェ自身も周囲も、素晴らしいほどドイヒーな人だらけで、読んでいると「あー、俺って実は意外とまともなんだなー」と思ったりする。笑いが、癒しに転じていった。

巻末の藤井隆との対談も面白かった。スーパー出来る高校生バイトだったそうだ。


男の!ヤバすぎバイト列伝 (耳マン)
掟ポルシェ
リットーミュージック



今日の一曲

掟ポルシェ率いるロマンポルシェで、「下半身警察」



では、また。

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『この地上において私たちを満足させるもの』乙川優三郎

2019-02-05 | books
「二十五年後の読書」の登場人物が作内で書いたのが本作。と言っても完全に独立した作品だった。

高橋光洋は老いた作家。フィリピン人のメイドと暮らしている。彼の暮らしと、そして過去を遡る。終戦直後に生まれ、貧しい暮らしを経て、製鉄所勤務、海外放浪、そして作家になる。高橋の一生を巡る連作短編集。

そんなに面白くない章とかなり面白い章が混在している。

少年時代や製鉄所時代とか編集者との恋愛の話が面白かった。

飲み屋のホステスのような女性について、

台所の水切りの食器にも雑巾の畳み方にも女の暮らしぶりが見えて、光洋はきれい好きで向上心のある、運の悪い人を眺める心地がした。

運の悪い人、、、

編集者については、

並外れて忙しいくせにちゃっかりしたところもあって、憎めない。外食ばかりかと思っていたら炊事の要領はいいし、お喋りから経済観念もまともだと分かった。立派な蟹を水から茹でるとき、彼女はこっそり手を合わせた。そんなところも光洋には意外だった。

この女性矢頭早苗がなかなかのいい女であって、その辺も良かった。(読者に、いい男だなーとかいい女だなーと思わせるのも作家の腕なのだろう)


この地上において私たちを満足させるもの
乙川優三郎
新潮社



今日の一曲

Roxy Musicで、"Love Is The Drug"



では、また。
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店名にツッコんでください207

2019-02-03 | laugh or let me die
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『麒麟児』冲方丁

2019-02-01 | books
勝海舟から見た江戸城無血開城の顛末を細かく描く。幕府でまともに交渉できる人物がいないため、官軍の西郷隆盛と息がつまるような交渉を続ける。徳川家を存続させるため、江戸を戦場にしないため。

まるでキューバ危機のような、危機感を感じながら読んだ。面白かった。

大河ドラマの「徳川慶喜」で描かれたなとは違って、慶喜がかなり自分勝手な人物だった。

かなり短い期間を描いているわりに、濃密な話だった。

小学生の作文みたいなレビューにて失礼。


麒麟児
冲方丁
KADOKAWA




今日の一曲

先日亡くなった、James Ingramで、"I Don't Have The Heart"



では、また。
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