頭の中は魑魅魍魎

いつの間にやらブックレビューばかり

『凍』沢木耕太郎

2012-05-30 | books

「凍」沢木耕太郎 新潮社 2005年(新潮文庫2008年 初出「新潮」2005年8月)

クライマー山野井泰史と妻妙子。ヒマラヤのギャチュンカンに挑む壮絶な闘いを描く。

ふぅ。読みながら何度も震えてしまった。

山野井と妙子の飾らない生き方。自分たちが人生に何を求めているか何が不要なのかよく分かっている者たちの生き方。山に対する考え方。安易なエヴェレスト登山に何の意味があるのかと問う考え方。自らに厳しく対する山への向かい方。

困難さに立ち向かう様。努力というような言葉すら陳腐に聴こえる。そんな山野井すら、アタックを先に延ばしたくなったそうだ。(文庫版149頁)確かに!その気持ち分かる。(山野井の気持ちが分かるのはこんなレベルだけなんだけれど)それと、(私もボンベを持ってもらってというような登頂には「ただ行って来ただけ」であって意味が見いだせないので同意)

読みながら、理想の夫婦の形、いや人間二人による理想の組み合わせなんだなと何度も思った。妙子はお世辞にも美人とは言えないと思うが、97頁には何人もの男からプロポーズされたとある。読めば、プロポーズしたくなる男たちの気持ちがよく分かる。妙子は、ある意味、多くの男たちが求める天使なのだろう。その天使のハートを射止めたのだから、山野井は余程何かを持った男なんだろう。いや本当に持っている男だ。

また、268頁に富士山の強力(物資をしょって運ぶ人)の話が出てくる。山野井が仕事にしていたのだが、仲間の一人に年配で華奢なのにすごいパワーの人がいて、その人が測候所に物資を届けた後、なんと尻で滑って降りて行くそうなのだ。信じられない。この降り方をグリセードというそうで山野井が会得したこの技術を使う場面があってそんなテクニカルな描写ももちろんある。

いや、余談だらけで失礼。本書のメインは、山野井と妙子がギャチュンカンで遭難する。(正確に言うと遭難ではないのだが、詳しくは読めば分かる。)その遭難するまでのプロセスと遭難した後のプロセスを描いたもの。あまりにも二人の生き方にうたれてしまったので、そっちの話ばかりになってしまった。

ま、ええじゃないか。

では、また。


凍 (新潮文庫)
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『夢違』恩田陸

2012-05-27 | books

「夢違」恩田陸 角川書店 2011年(初出北海道新聞、中日新聞、東京新聞、西日本新聞2010年5月6日~2011年5月2日)

見た夢を記録できるようになる近未来。小学生が同一人物を夢に見るという怪事件が起こる。夢判断を仕事とする主人公浩章の兄の死んだはずの婚約者が…その真相は…

うーん、これはちょっと。夢判断と言えば、何と言ってもフロイト。そのフロイト的な牽強付会な夢解釈がさらに現代的に広がる作品かなと想像すると、そういう感じでもなく、ホラーの割にそれほど恐くない。

夢を記録する夢札というネタは興味を惹くし、真相単体は悪くなかった。ので惜しいとは思う。長すぎるのが難点。

新聞連載だからこそ、まとまって読むとすごく面白い作品もあるし、そうでもないこともあるし。最近よく見かける、ガーリーな髪型とファッションがあるではないですか。ゆるかわ?であってる?あのファッションだからこそ、かわいく見える人もいるし、その逆もあるし。ってことと同じだろう。いや違うか。

では、また。



夢違
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店名などにツッコんでください56

2012-05-26 | laugh or let me die
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『ホミニッド - 原人 』ロバート・J・ソウヤー

2012-05-25 | books

「ホミニッド - 原人」ロバート・J・ソウヤー 早川書房 2005年
Hominids, Rober J.Sawer 2002

カナダの地下研究所で実験をしていた。人が入れるはずないのに、突然飛び込んで来たのは… 我々が暮らす世界とは別にもう一つの世界があった。それはネアンデルタール人が存在し、我々は存在しない世界。量子コンピューターで大きな数を素因数分解していた、あちらの世界の物理学者ポンターがこちらの世界に転送されてしまったのだ。ネアンデルタール人から見た我々の暮しはどうなのか、ポンターがいなくなったあちらの世界では何が起こっているのか、交互に描く。

うーむ。想像を絶する大風呂敷なのに、破たんせずに読ませる。いや、ビックリするほど読みやすい。

人類学とか生物学的はホモ・サピエンスの罪悪なんかついてあれこれと考えさせられる。(ネアンデルタール人はとってもいい人たちなのだよ)

並行宇宙とかもう一つの世界と言っても、SF作家がちょこっと思いついた、小手先フィクションという訳では全然なくて、量子論というれっきした学問。その入門編としてい読むのにちょうどいい本だとも思う。私はいまだに量子について、ちっとも分かった感じだしないのだけれど。

では、また。


ホミニッド-原人 (ハヤカワ文庫SF)
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アルカホール

2012-05-24 | days






つい先日の我が家。

しかし、もう何もない。

何も残っていない。

えー もー

飲むの早くない?

そうそう。

じっちゃんが言ってたから。

酒は飲んでも飲まれるなと。

あるいは、

酔い越しの酒は持たねぇと。

いや、

宵越しの金は持たねぇだったか。

ふぅ。

写真一枚でボケようと思ってもこんなんがワタシの限界。


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『相田家のグッドバイ』森博嗣

2012-05-23 | books

「相田家のグッドバイ」森博嗣 幻冬舎 2012年

少し変わっていて、それでいて平凡な、そんな相田家の歴史を淡々と、ひたすら淡々と描く。父秋雄は駆け落ちして結婚し建築会社を興した。子どもを可愛がるでもなくかと言って邪険に扱うでもない。母紗江子は燃えるごみ以外のごみを出さない。ありとあらゆるものを取っておく。几帳面すぎるほどに。そんな二人に育てられた長男紀彦ははたしてどんな人間になるのだろうか。最終的には父と母を看取るまでの話…

うーむ。なんなのだろうこの小説は。何一つドラマティックなエピソードがない。全くないのにも関わらず面白いのだ。こんな小説読んだことがない。

最初は全く面白くなくて、放り投げておいた。しかし友人に面白いと薦められた。その人に「なんの話なの?」ときいたら、「うーん。わかんない」という意味不明の返事だった。でも悪くないと言うので読んでみたら、確かに何の話なのか口に出して言いにくい。

本当にあったことかどうかは別として、ドキュメントっぽい体裁、もしくは私小説っぽい。

こんな表現を読むと、作者の持つ哲学のようなものが感じられる。

保守的というわけではないけれど、自分の位置ができれば人類のばらつきの中心近くにあるように認識したい。という本能が人間にあるように思える。きっと、集団行動をする動物に備わっている感覚なのだろう。(15頁より引用)


相田家で飼っているプッチという犬が隣で工事している人たちに対して吠えた。職人が「煩いぞ、馬鹿」と叱った。それに紗江子が抗議した。その後で建築会社の社長が家に来て謝罪した。秋雄は和やかに対応した。紗江子はそれ以上は抗議しなかった。その後が、

ようするに、紗江子はあくまでも、この一件で自分は我慢をした。と認識しているのだった。客観的に見れば、彼女は我慢が出来ずに爆発してしまったわけだが、彼女にしてみれば、その爆発はプッチのための最低限の擁護でしかない。これは、ほかの事例でもまったく同じで、幾度も繰り返された。彼女は最低限の防御をまずして、そののち自分だけが我慢をすれば済むと制御する。外部からみれば、堪え性のない人に見えるのだが、彼女は自分を我慢強い人間だと評価しているのである。(83頁より引用)


うーむ。森博嗣の作品、もっと読んでみよう。

では、また。



相田家のグッドバイ
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関ヶ原

2012-05-21 | days

先日、バスに乗った。

ガラガラだった。

座るじいちゃん、立っている外人二人。

するとじいちゃんが言った。

「ユーたち、マネーを払ってるんだから、シットダウンシットダウン」

意味が通じたらしく、座席に座る外人たち。

そうか通じるのか。

窓から見える景色を説明するじいちゃん。

するとたどたどしい日本語で質問する外人。

「○○マデアトドレクライデスカー?」

じいちゃんは両手の指を全て広げて、

「テンイヤー!テンイヤー」

どうやらテンミニッツと言おうとしたらしい、最初きょとんとしたジンガイも分かったらしい。

おそるべし、じいちゃん。

そう言えば、先日買い物をしようとした店でじいちゃんに

「これいくらですか?」ときいたら、

「せんろっぴゃくえん。せきがはらーせきがはらー」と言われた。

なんつーか、

じいちゃんてたくましいね。

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『語りつづけろ、届くまで』大沢在昌

2012-05-20 | books

「語りつづけろ、届くまで」大沢在昌 講談社 2012年(初出十勝毎日新聞2009年2月23日~12月4日)

食品会社に勤める主人公、坂田は、お年寄り向け新商品のPRのために老人会、ホームを訪れている。そこで知り合った男と話していたら、年寄りの気持ちをつかむのがうまいと褒められ、訪問販売のセールスマンの教育をしてくれと頼まれる。するとなぜか殺人事件に巻き込まれてしまう。いい人坂田の運命は…

うーん。大沢在昌「らしくは」ない。しかしすごく読みやすいことは確か。

段々とやくざや、男色、芸人などの人物が無理なく入り混じっていく様、坂田が好きな女性咲子と坂田の関係はどうなるのかと、期待させる様など、エンターテイメント小説の王道を行っているのは確か。

難点は、読んだ後に何かが残るということが特にないということ。「走らなあかん、夜明けまで「涙はふくな、凍るまで」の続編だそうなんだが、それを知らずに読んでしまったのがいけなかったのだろうか。

では、また。


語りつづけろ、届くまで

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『パラダイス・ロスト』柳広司

2012-05-19 | books

「パラダイス・ロスト」柳広司 角川書店 2012年(初出野生時代)

「ジョーカー・ゲーム」「ダブル・ジョーカー」に続く、第二次世界大戦時の日本の諜報の先端を行く結城中佐率いるD機関の暗闘を描く短編集。

<誤算> 1940年パリ、レジスタンスと仲良くなった日本人島野は記憶を失っていた。

<失楽園> シンガポール、恋人が米国人実業家を殺したとして逮捕される。

<追跡> 英国人新聞記者が結城中佐の過去に迫る。

<暗号名ケルベロス> サンフランシスコからホノルルへ向かう日本の客船。クロスワードパズル好きの男が殺される。その男は誰か。暗号解読の…

てな感じ。「追跡」がなかなか面白かった。先の2作が面白いと思える人なら十分に楽しめるだろう(十分と充分、どちらを使うかいまだに迷う)

最近、いや近年ガチガチのミステリーは体質に合わなくなってきていて、自分から好んで読まなくなってきた。歳を取ると食べ物の好みが変わると言う。同様に、本の好みも変わるのだろうか。

昔好物だったのは、ミステリ、冒険小説の類。近年は時代小説、純文学、そしてSF。この後何が好物になるのだろうか。

まだ、演歌は歌ってないけれど。

では、また。

パラダイス・ロスト
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ニャ

2012-05-18 | music






知り合いに教えてもらったYoutube

狩人が「ホテル・カリフォルニア」を歌っている。

カーリフォール、ニャ

の「ニャ」の部分が耳に残る。
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『サファイア』湊かなえ

2012-05-17 | books

「サファイア」湊かなえ 角川春樹事務所 2012年(初出月刊ランティエ2010年~2012年)

短編集。「告白」は衝撃的だったんだけれど、以降下降気味。もうこれを最後の湊かなえとしようとかなと思いながら読んだ。最初の一編があまり面白くなく感じ、ゆえに途中で投げ出した。しかし出た作品は全て読んでいるはずなのでこの作品だけ抜け落ちるのも気分が悪いなと思いもう一度読み始めた。すると、

<真珠>今は太っているが、昔はかわいかったと自称する中年女と彼女の話を聞く男。彼はカウンセラーなのか刑事なのか。女の少女めいた物言いがやや不気味で…

<ルビー>瀬戸内海の島が私の実家。久しぶりに帰ってきたら、隣には立派な祉施設が建っていた。母が農作業をしていると、入居者のおじいさんから話しかけられた。とても感じのいいおじいさんで、高価なお菓子をくれた。そのおじいさんは実は…

<ダイヤモンド>俺にはかわいい婚約者がいる。たまたま命を助けてやった雀が、あろうことか人間の姿になって俺の望むことをなんでもしてくれると言う。それならと、婚約者が欲しいものは何だか調べてくれと頼んだ。すると彼女には浮気相手がいると言う。雀の恩返しなのか…

<猫目石>マンションの隣に住む女性の飼う猫を探してあげた。するとお礼なのか、我が家のことを色々と調べてくれて…

<ムーンストーン>議員だった夫を殺してしまった… 中学の時あがり症だったわたしを助けてくれた小百合は… 過去と現在がクロスして。弁護してくれるのは…

<サファイア>旅行先で出会った男性と付き合うことになった。しかし彼は私の誕生日に駅のホームから転落死してしまう。宝石を売りつけるアルバイトと死の関係は…

<ガーネット>「サファイア」の続き。作家になった私は女優と対談することになった。作家になる前は食品会社で働いていた。彼の死の真相が…


おやおやおや。面白い。結構堪能してしまった。後味の悪さを売りにすることから、後味の良さへと転換して、それが実にうまくいったように思う。

どれがどれとはネタバレを避けて言わないけれど、いい話の結末が巧い。作者は後味が悪い作品よりも、いい話に向いているように思った。(いい人がいい話を書けるのかどうかは不明だけれど)

以前のレビューは、「告白」「少女」「贖罪」「Nのために」「夜行観覧車」「往復書簡」「花の鎖」「境遇」



サファイア
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店名にツッコンでいただきたし55

2012-05-15 | laugh or let me die
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『母の遺産-新聞小説』水村美苗

2012-05-14 | books

「母の遺産-新聞小説」水村美苗 中央公論新社 2012年(初出読売新聞土曜朝刊2010年1月16日~2011年4月2日)

やっと母が死んでくれた… 大学の非常勤講師をしている主人公美津紀。夫も大学の先生、姉は金持ちと結婚した。しかし姉は、美津紀は幸せなのだろうか。夫の浮気、怨念と打算、愛情と憎悪を混ぜながら、過去と現在を描く。

母がどんな人であったか、彼女の家族と彼女の過去の描写が続いてゆく。そしてやっと187頁になって、

覚えているのは、あの時初めて、明確に、かつ燃えるように、母に早く死んでほしいとはっきりと意識したことである。


この部分を読んだとき思わずため息をついた。ふぅ。あーついにこう思うようになったかそりゃそうだよな。この母のようなタイプは私が最も苦手とするタイプ。私ならもっとずっと早く死んでくれと思っていただろう。主人公が特に我慢強い性格というわけでもないかと思うが。

老人の介護という近年我々の身近になってしまった問題が話の一つの軸である。それは一つに過ぎず、最も大きな柱は女の「業」ではないであろうか。

嗚呼女は嫌だ。女の業なんて面倒だ。やめてくれヤメテクレこんな話読みたくない…と思いながら頁をめくる手が止まらない。

それが作者の巧さなのだろう。傑作という言葉をむやみやたらと使うべきじゃないが、この作品には使いたい。

では、また。

母の遺産―新聞小説
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店名にツッコんでください54

2012-05-12 | laugh or let me die
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『俄 - 浪華遊侠伝』司馬遼太郎

2012-05-11 | books

家斉配下の隠密として江戸から大阪にやって来た男。妻子あり。その子が万吉、11歳、主役。父は江戸に戻りたいと妻子を残して失踪する。丁稚に出ていた万吉は母親のために犯罪者となる決心をする。そのため無宿人となる。そうでないと捕まったときに迷惑がかかるから。しかし、と言って当てはない。たまたま見つけた賭博。そこで思いついたのはただ、積まれた銭の上に乗っかって、殴られ殴られ、諦めて放免されるまで殴られ、その金の一部でも盗んで帰ること。ただそれだけで、万吉はいかにして漢(おとこ)の中の漢になれるのか…実在した小林佐兵衛こと明石屋万吉の話。

「俄 - 浪華遊侠伝」司馬遼太郎 講談社 1966年(「侠客万助奇談」という短編1964年オール讀物→報知新聞連載1965年)

いやいやいやいや。冒頭に紹介したのは最初の60頁だけの話。一度読み始めればもう止まらない。止まらない。文庫で800頁を一気に読ませる。

司馬遼太郎の未読長編にこんな面白い作品があるとは思わなかった。本の雑誌がだいぶまえに出した、ブックカタログ1000の中でやくざの本10冊として北上次郎さんがこの小説を紹介しておられた(と記憶している)それ以来ずっと名前だけは覚えていたのだが、極道だかやくざの話しかと特に触手が伸びなかった。

しかし読み始めたら、痛快痛快。手放しでこれほどまでに人に薦められる時代小説もなかなかない。「竜馬がゆく」「影武者徳川家康」も苦手だという人には「真田太平記」を薦めてきたけれど、本作もまた時代小説食わず嫌いに薦めたい。

何も持たない男が漢になるその過程。つまらないとは言わせない。こんな奴が実在したのなら、昔の日本はほんと良かったんだろうと思う。幕末から明治へ一気に駆け抜けてゆく男の生き様、これはちょっと読み逃してはいけないよ。


「世間」という動物を絵にかけといわれれば五里霧中でわからないが、とにかく動物の肛門あたりはとっくりと見たような気がする(講談社文庫旧版80頁より引用)

要するに万吉は、彦蔵と梅吉が門前の野次馬と一緒になってめそめそ泣いているのが気に入らなかったのだ。他人の不幸に泣くなどというのは、万吉にいわせれば自分が安全な場所にいるという安堵感があってのことで、つまり自分が安全であることを陶酔しているにすぎない。その証拠に、わしらも腹も切ろうと万吉が言いだすと二人は狼狽し、泣きっ面をひっこめてしまった(685頁より引用)



では、また。



新装版 俄(上) 浪華遊侠伝 (講談社文庫) 新装版 俄(下) 浪華遊侠伝 (講談社文庫)
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