「凍」沢木耕太郎 新潮社 2005年(新潮文庫2008年 初出「新潮」2005年8月)
クライマー山野井泰史と妻妙子。ヒマラヤのギャチュンカンに挑む壮絶な闘いを描く。
ふぅ。読みながら何度も震えてしまった。
山野井と妙子の飾らない生き方。自分たちが人生に何を求めているか何が不要なのかよく分かっている者たちの生き方。山に対する考え方。安易なエヴェレスト登山に何の意味があるのかと問う考え方。自らに厳しく対する山への向かい方。
困難さに立ち向かう様。努力というような言葉すら陳腐に聴こえる。そんな山野井すら、アタックを先に延ばしたくなったそうだ。(文庫版149頁)確かに!その気持ち分かる。(山野井の気持ちが分かるのはこんなレベルだけなんだけれど)それと、(私もボンベを持ってもらってというような登頂には「ただ行って来ただけ」であって意味が見いだせないので同意)
読みながら、理想の夫婦の形、いや人間二人による理想の組み合わせなんだなと何度も思った。妙子はお世辞にも美人とは言えないと思うが、97頁には何人もの男からプロポーズされたとある。読めば、プロポーズしたくなる男たちの気持ちがよく分かる。妙子は、ある意味、多くの男たちが求める天使なのだろう。その天使のハートを射止めたのだから、山野井は余程何かを持った男なんだろう。いや本当に持っている男だ。
また、268頁に富士山の強力(物資をしょって運ぶ人)の話が出てくる。山野井が仕事にしていたのだが、仲間の一人に年配で華奢なのにすごいパワーの人がいて、その人が測候所に物資を届けた後、なんと尻で滑って降りて行くそうなのだ。信じられない。この降り方をグリセードというそうで山野井が会得したこの技術を使う場面があってそんなテクニカルな描写ももちろんある。
いや、余談だらけで失礼。本書のメインは、山野井と妙子がギャチュンカンで遭難する。(正確に言うと遭難ではないのだが、詳しくは読めば分かる。)その遭難するまでのプロセスと遭難した後のプロセスを描いたもの。あまりにも二人の生き方にうたれてしまったので、そっちの話ばかりになってしまった。
ま、ええじゃないか。
では、また。