頭の中は魑魅魍魎

いつの間にやらブックレビューばかり

『ユートピア』湊かなえ

2015-12-30 | books
人口7千の港町、鼻崎町。仏具店に嫁に来て、店を切り盛りする堂場菜々子。娘の久美香は小学校1年生。事故に遭ってから足が不自由。車椅子生活をしている。陶芸家の星川すみれは、美大時代の恋人がこの町に家を建て、アトリエもあるからと誘われてやって来た。夫の転勤に伴って鼻崎に住む相場光稀は雑貨とリサイクルの店をやっている。娘の相羽彩也子は久美香と仲良くしている。

町で起こった殺人事件で指名手配がかかり逃亡している男が現れたという噂、火災、久美香は実は歩けるという噂。悪意と悪意が絡み合って…

ううむ。そんなには楽しめなかった。

ラストで救われる部分はないことはないけれど、基本的には恨み、嫉みなどの「女性の悪意」が流れる。そこに、意外な人間の真実を読み取れる、というわけではないので、嫌な感じをただ読まさせるという感じがする。ストーリーに大きな意外性やどんでん返しがあればまた違うのかも知れないけれど、ラストでやらかす人物はそれ以前に怪しい動きをするので、意外性があまりなかった。

ピエール・ルメートルとか北欧ミステリーにおける「底知れぬ悪意」とは種類の違う「日常的な悪意」はどういう形でなら小説に合うのだろうか。ワカラン。

ユートピア

今日の一曲

Alanis Morissetteで"Utopia"



では、また。
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介護を淡々と『長いお別れ』中島京子

2015-12-27 | books
元中学校の校長、東昇平は惚けはじめてきた。アルツハイマーだ。妻の曜子は介護に苦労する。長女は夫と子供とアメリカで暮らしている。次女は結婚して千葉、三女は独身だがフード・コーディネーターとして日々忙しくしている。娘たちに頼ることは難しいが、曜子一人での介護にも限界はある。妻、娘たち、孫たちを巻き込みながら「介護」を巡る物語は…

ああ、介護は本当に大変だなとしみじみ思う。これから超高齢化社会について色々と考えていることを熱く語る。ということはこのブログの売り物には入ってなかったのでやめておく。

この小説は、介護の大変さとか悲喜こもごもを伝えてくれるのだけれど、それをシリアスになりすぎず、だからと言って茶化すわけでもなく、比較的抑えた淡々とした筆致で描いてくれる。

また、単に昇平の介護の話だけじゃなく、長女の子供の悩みや三女の恋愛の話などが巧妙にサイドストーリーとして配置されている。

ラストは気に入らないという人がいるかも知れないけれど、私にはこの話にはこれ以上はない理想のラストシーンだと思った。

長いお別れ

今日の一曲

主人公一家の苗字は東。Eastern Glowで"The Album Leaf"



では、また。
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『ローリング・ストーンズを経営する』プリンス・ルパート・ウェンスタイン

2015-12-25 | books
英国のロックバンド、私の高校時代のアイドルだったローリング・ストーンズ。彼らに財政面のアドバイスをしていた人の自伝。

音楽的な話は皆無だけれど、結構面白かった。

ミック・ジャガーとキース・リチャーズの確執、税金を逃れるために英国を脱出する件、儲けが出なかったコンサートツアーから儲けを出す話などなど。

音楽をビジネスとして考えるとどういうことを考えねばならないか、なかなか興味深い。

ローリング・ストーンズを経営する: 貴族出身・“ロック最強の儲け屋”マネージャーによる40年史

今日の一曲

ストーンズの曲は何曲か挙げていた。まだ挙げてなかった曲を。The Rolling Stonesで"Gimme Shelter"



Youtubeでストーンズの動画に耽っていたら、それで時間が過ぎてレビューが短くなってしまいました。では、また。
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『人形遣い』ライナー・レフラー

2015-12-23 | books
ドイツのかなりサイコなスリラー。

ケルンでかなりおぞましい連続殺人事件があった。遺体は切り刻まれ、臓器が抜かれている。解決のために事件分析官が呼ばれた。いくつもの難事件を解決しているマルティン・アーベルという長身の変人と美人で見習いのハンナ・クリスト。アーベルは遺体と二人きりになって脳内で事件を再構成する。アーベルのやり方に反発しつつリスペクトしつつハンナはサポートしていく…

うむ。サイコ・スリラーが持つべき条件は全て兼ね備えている。

1.殺人がおぞましい。
2.事件を解決する者はトラウマを抱えているか、頭のねじが二三本足りないもしくは二三本多い変人である。
3.二転三転するプロット。
4.ラスト近辺で大どんでん返しがある。

ゆえに、結構面白いのであるが、「これ面白かったから、読めよ」と人に薦めるほどでもない。何が足りないのだろう…

たぶんステロタイプなんだろうと思う。「羊たちの沈黙」を読んで「可能な限りリアルで、ドイツが舞台のサスペンスを書きたい」と著者は思ったそうだけれど、そういう見本が持っている型にはまりすぎていると思う。深みがないと言えばよいだろうか。

いや、面白いことは面白い。アーベルとハンナの今後(くっつくようなくっつかないような、ドラマBONESの二人のような。いやあっちは結婚したんだっけ)も気になる。

人形遣い (事件分析官アーベル&クリスト) (創元推理文庫)

今日の一曲

人形。アメリカの古い映画で「カリフォルニア・ドールズ」というのがあった。二人組の女子プロレスラーとピーター・フォーク(刑事コロンボ)がマネージャーが巡業する話。原題は"All The Marbles"というそう。曲じゃないけれど、その映画のtrailerを。



では、また。
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映画「スター・ウォーズ フォースの覚醒」

2015-12-21 | film, drama and TV
シリーズ6作はすべて観ているけれど、それほどスターウォーズマニアというわけではない。一般の観客の一人。事前に何も情報を見ないようにしていたので、どんな話だかまったく分からない状態でIMAX 3Dで観た。以下なるべくネタバレしないようレビュー。

ダース・ベイダー亡きあとも対立する帝国とレジスタント。ルーク・スカイウォーカーの行方を探す帝国。ルークのいる場所を示す地図を持っているポーは、身が危なくなってドロイド(小型ロボット)のBB-8に地図を託す。BBはガラクタを集め売る少女にレイに助けてもらう。帝国の兵士だったフィンもレイとBB に協力して地図をレジスタントのもとへ運ぼうとする……

うおー。パチパチパチ。心の中でスタンディングオベーションした。

何も考えないですぐにストーリーに没頭できる。観始めれば、懐かしいネタがあちこちにある。レイアもルークもC3-POもR2-D2も出てくる。大活躍するのはハン・ソロとチューバッカ。チューバッカっていいやつだねー。BB-8のかわいさもたまらなかった。

昔のエピソードを思わせるシーンもいい。怪しげなバーとか、一本橋の上での対決とか。

生まれて初めてスターウォーズを観たときの気持ちがよみがえってきた。少年に戻ったような感じ。21世紀なのに、70年代のような作り。CGをやりすぎないのもいいし、出てくる宇宙船や機械が煤けてるのもすごくいい。

オールドファン(のおじさん?)の方向にすごく向いているので、初めて観る人たちがどう思うのかとは思う。(若い女性たちが、映画は観たことがないけれど、グッズを買うという現象が起きているとか。面白い)

今後公開される映画では、SF小説「火星の人」の映画化「オデッセイ」は観たいと思っている。






スター・ウォーズとオデッセイのの予告編

では、また。
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店名にツッコんでください119

2015-12-19 | laugh or let me die
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科学+小説『あなたの人生の科学』デイヴィッド・ブルックス

2015-12-17 | books
人生に起きる様々な出来事を、小説に加えて科学的な理論によってその登場人物の行動の解説をしていくという本。

子育て、シナプスの形成、学習や集中力、選択、組織、など登場人物の二人が経験することに対して、比較的新しい(もしくは目新しい)理論をたくさん紹介してくれる。ものすごく面白かった。こんな本を待っていた。以下、興味を持った個所を箇条書きで。

・自分にはないものに惹かれると言うけれど、実際には似たカテゴリーにいる人を選ぶことが多い

・理性には限界がある。IQが高くても、脳の感情をつかさどる部分を失うと、ちゃんとした判断ができなくなる。感情がなくなってしまえば人は自滅的な行動をとる

・1歳ぐらいの赤ちゃんが母親に対してどういう種類の愛着を感じるかによって、将来がある程度判断できる(ストレンジ・シチュエーション法) 回避の愛着=のちに独りぼっちになる可能性が高い

・パズルが解けないときに親に冷たく笑われた子供は自分が親になったときに同じ行動をとる

・先生を尊敬するということがなぜ教えられなくてもできるのか。家庭で親が尊敬できる場合、自然と同様の敬意を学校でも感じることができる

・楽器を習わせる実験によると、のちに長く続けられるか、プロになれるかは、音感や親の裕福さ、リズム感、IQとは無関係。「この楽器をどれくらい続けたいと思う?」という質問に対して「長く続けたい」「プロになりたい」と答えたかどうかによる。つまり才能よりも、ビジョン

・乳児に幾何学模様が人間のような動きをするアニメを見せた。赤い円が丘を登ろうとする、黄色い四角形が助けようとする、緑の三角形が邪魔をする。早ければ生後6か月で、三角形ではなく四角形に対して好意を持っている態度を見せる → 誕生後早い段階で原始的な正義感を有しているということになる

・意識よりも無意識に任せたほうがよい選択ができる

あなたの人生の科学(上)誕生・成長・出会い (ハヤカワ文庫NF)あなたの人生の科学(下)結婚・仕事・旅立ち (ハヤカワ文庫NF)

今日の一曲

著者はブルックス。カントリー&ウェスタンの大物、Garth Brooksで"The Dance"



では、また。
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濃厚なアクション『暗殺者の正義』マーク・グリーニー

2015-12-15 | books
CIAを追われ、前作の「暗殺者グレイマン」の後、英国の会社も追われフリーの殺し屋なったグレイマンことコートランド・ジェントリー。ロシアのマフィアから依頼されたのはスーダンの大統領の暗殺。グレイマンは間違ったことはしない。確かにその大統領は腐敗しているから請け負うことにした。するとCIA時代の上司が接触してきた。件の大統領は殺さずに拉致しろと言うのだ。大統領をハーグの国際司法裁判所で裁判にかけたいからだ。もし拉致に成功したら、CIAから出されている「見つけ次第殺せ」という指令を取り下げてくれると言う。確かにその指令のせいでずっと逃げ回るような人生だった。現在スーダンの石油は中国が握っているが、大統領が殺されればロシアの言うことをきく大統領を次に据えられるという裏事情がある。グレイマンは、より困難な大統領拉致を選択する。しかし途中まではロシアマフィアの言うことを聞くふりをする。そしてスーダンへ。トラブルに次ぐトラブル。スーダン大統領の拉致には成功するのか…

すげえ。すげえよ。

冒頭からラストまでずっと続く緊迫したシーン。リラックスして読んでいる暇はない。アクションもすごいし、グレイマンのキャラもいいけれど、ぶちこまれる国際情勢もたまらない。しかし最高なのはストーリー。先が全く読めず、読者を超高速でひねるジェットコースターに乗せて突っ走る。

解説の北上次郎氏が「1980年代にヒギンズなどの冒険小説に熱中した読者に送る奇跡のプレゼントである」と書いている。まさにその通り。

冒険小説って何なのかという話になるけれど、私は「主人公の(先が見えない)冒険が物語の中心にある小説」だと思っている。軍事ものやスパイものの多くが含まれるジャンルで、広義のミステリーは冒険小説を含むけれど、単純に犯人捜しをする本格ミステリーとは毛色が違う。

ってなわけで、冒険小説を読みたい人、そして日々に埋没する人生を送っていてバーチャルでいいから冒険をしたいと思う人に広くオススメしておきたい。

暗殺者の正義 (ハヤカワ文庫 NV)

今日の一曲

本に関連するものが何も思いつかない。困ったときには好きなバンドを。The Rolling Stonesで"Beast Of Buden"



81年のアリゾナでのライブ映像だそうだけれど、会場の大きさと座席の角度に驚く。では、また。
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なぜ父は遍路に『冬の光』篠田節子

2015-12-13 | books
父が死んだ。四国から東京行きのフェリーから転落したらしい。自殺のようだ。父は長年サラリーマンをしていたが、役員にはなれず子会社に出向。祖父の介護のために仕事もやめてしまっていた。父が死んでも母は悲しまない。父は大学時代の恋人と不倫関係にあって、母にそれが分かってからもう関係と絶ったと言っていたのにそのあとまた関係が続いていたのがばれてしまったからだ。なぜ父は死んだのだろうか。不倫相手が仙台で被災したからだろうか。彼女の追悼の意味で、四国でお遍路さんをしていたのだろうか… 父の過去をめぐる娘の旅…

おっと。最初はあまり好きなタイプの小説じゃないなーと思って読んでいた。父親と不倫相手の大学時代の話などあまり興味がひかれないなーと思っていた。しかし、父親のお遍路さんのあたりから、ぐっとぐっと読ませる。途中からは一気に読んだ。意外な収穫。

これこれこういう本だと説明しにくい。生と死を考える本だとも言えるし、人の一生なんてはたから見ても中身は分かりはしないということを伝えてくれる本だとも言える。あるいは、娘による父親再発見のお遍路ロードムービーと言ってもいい。まあ面白かったことだけは確か。不思議な小説だった。

父親がお遍路の時に出会う女性のキャラクターがこの小説には欠かせない強烈なスパイスになっている。

でも売れないだろうな。こういう○○という分かりやすいテーマがない本だと。ううむ。「愛する父が殺されてしまい、娘がその謎を解く」だともうちょっと分かりやすいだろうし、「中高年のドロドロ不倫物語」というのもある層には受けると思うけれど。でも「1Q84」のような説明しにくい本でも売れるときは売れるか。ううむ。

冬の光

今日の一曲

タイトルそのままで。手嶌葵で"Winter Light"



では、また。
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長すぎの『彼女がいない飛行機』ミシェル・ビュッシ

2015-12-11 | books
墜落した航空機。唯一の生存者は赤ちゃんだった。自分の孫だと主張する者が二組現れた。一組はかなりの金持ち。孫の名はリズ。もう片方は普通の家庭。孫の名はエミリー。お互いに譲らず、訴訟となる。訴訟の結果、どちらかの家の子供になるのだが、それとは別に依頼を受けた探偵が彼女はどちらの家の子供なのか調査をずっと続けている。そして18年が経過。彼女とともに暮らす兄は彼女のことを好きになってしまっていた。DNA鑑定がまだない1980年。探偵が見つけた手がかりとは。彼女の運命は、彼の運命は…

ううむ。長い。長すぎる。文庫で650頁。面白いのだけれど、ネタを引っ張り過ぎの感があるし、300頁程度で十分まとめられたと思う。

それとタイトルの「彼女のいない飛行機」あるいは原題の"Un Avion Sans Elle"が、結末を予期させてしまう。(サンスーシ宮殿はSans Souciで、無憂宮殿と訳されていたと記憶している。souciが「憂鬱」、sansが「~なし」、とするとA Plane Without Elleとなる)

しかし、探偵は事件の報道が載っている新聞に、彼女はどっちの子であるかのヒントがあったと言っていて、でもそれが何だか分からなくて、それが明かされたときは、あっと驚いた。なるほど。

彼女のいない飛行機 (集英社文庫)

今日の一曲

作者はミシェル・ビュッシ。THEE MICHELLE GUN ELEPHANTで「世界の終わり」



では、また。
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満点な『モンローが死んだ日』小池真理子

2015-12-09 | books
鏡子は軽井沢で、戦後活躍した文豪の記念館の管理人兼案内人をしている。夫が亡くなって喪失感に襲われていた51歳の時から勤めているので、今年で8年経った。一人暮らす家と記念館との往復、静かな生活を送っていた。しかし突然具合が悪くなってきた。眠れない。悲しみがつのる。知り合いに紹介されたのは地元の小さなクリニック。非常勤の精神科の先生が名医で評判がいいと言う。気が進まなかったが思い切ってクリニックに行ってみた。担当の高橋医師は50代、よく話を聞いてくれた。医師の目には共感とも同情ともつかない、かといって憐憫とも違う、静かな光があった。誰にも話したことのない話をしてしまった。話したところで、たとえ医者だとしても理解されないと思っていたのに……すると...... 高橋医師は横浜の病院で月曜から水曜日まで勤務し、水曜日の夜には軽井沢にやって来て、鏡子の家に泊まり、木金土と勤務して、日曜に横浜に帰っていくという関係になった…… しかし高橋が鏡子の家にやって来ない。メールしても電話しても連絡がつかない。精神的に不安定になる鏡子。そして彼女が知った高橋とはどういう人物だったのか…

あらすじが長くなってしまった。長く書かないとこの本の魅力が伝わらないのは私の力量のなさ。

個人的につけている小説の得点では、めったに出ない(年に数回)満点。ものすごくオススメの作品だった。

50代の男女の恋愛小説というだけでも珍しい。鏡子の静かな生活。医師との邂逅。還暦近いのに始めてしまった恋の恥ずかしさ。この辺の絶妙な描写。作者小池真理子の実体験かどうか分からないけれど、震えるようなリアリティが心の隙間にしみこんでくる。(BL好きの知り合いが「BLは恋愛のピュアな部分が抽出されているのがいいのだ」と言っていた。男女でも、若さのえぐみが抜けて、精神的なものだけが抽出されるのが中高年の恋愛である、と言うことも可能なのだろうか)

恋しい相手のことを「生きていれば、いつか必ず出会うことになっていた相手」とみなし、どうということのない偶然を希少な必然に転化させ、幸福な夢に酔い痴れることのできる時期が、恋愛の初期には必ず訪れる。そのころの鏡子は、まさにその只中にいた。

うーん。巧い。

深夜のテレビショッピングが流れていた。マイナス十歳肌を実現する、という美容液のショッピング番組だった。鏡子より少し年若い世代の、ノーメイクのままの女たちが数人、おそろしく真剣な顔つきで、その美容液を顔にぬりたくっている映像が続いた。それぞれの女たちは、大人になってこのかた、他のことには一切、興味がなく、十歳若返ってみせることだけに情熱を降り注いで生きてきた人々のように見えた。

ううむ。手厳しい。しかしスルドイ。

最初に、鏡子が高橋と連絡がとれなくなるという話を紹介してから、のちにどうして彼女が彼とそういう関係になったが遡って説明されていく。それで全体の半分くらい。残りは、鏡子がそのあとどうするかが描かれる。途中でこれはあのネタ(某映画)と同じではないかと思うのだけれど、ご安心あれ。別のネタだった。

静かに一人で暮らしている人が読むと感情移入の度合いが大きくなるような気がする。特に女性ならさらに。恋をしている人は涙なくしては読めないだろう。男性である私ですら感情移入しまくったのだから。しかし読者を選ばず誰が読んでもぐっとくるに違いない。

タイトルの「モンローが死んだ日」にも深い意味があった。何という小説なんだ。


モンローが死んだ日 (新潮文庫)
小池真理子
新潮社

モンローが死んだ日
小池真理子
毎日新聞出版



今日の一曲

「モンロー・ウォーク」という南佳孝の曲を郷ひろみがカバーした、「セクシ・ユー」



では、また。
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動物好き必読『動物翻訳家』片野ゆか

2015-12-07 | books
動物園で始まった4つのプロジェクトの苦労や面白さを描く、ドキュメント。

埼玉県こども動物自然公園はペンギン。3900平方メートルもある完全屋外のペンギン用施設を作る。名付けてペンギン・ヒルズ。連れて来たペンギンは屋内の飼育「箱入りペンギン」だったので屋外にならすのも大変。

日立市かみね動物園はチンパンジー。開園50周年の記念事業の一環として、チンパンジーの施設が新しく建設されることになった。担当の飼育員に命じられたことは、群れで生活するチンパンジーの姿を来園者に見せること。群れで暮らしている生き物だからそうするほうが自然ではあるけれど、実際の動物園では難しい。また群れになじめない個体もでてくる。

秋吉台自然公園サファリランドはアフリカハゲコウ。タンザニアから来た大きな鳥。羽を広げれば左右で2.5メートルにもなる。この鳥が飛んでいるところを見せるというプロジェクト。意外と丈夫で危険でない鳥だったが、飛ばすとなるとまた別問題。逃げるという事件まで勃発。

京都市動物園はキリン。一頭だけで飼われていてストレスを感じている「キヨミズ」のストレスをどう減らすか。食が細いキヨミズにたくさん食べさせるにはどうしたらいいか。繊細なキリンを引っ越しさせるにはどうしたらいいか。悩みは尽きない。

以上4編。これは大収穫だった。

シンプルに面白いと思うのだけれど、それは文章の巧さと、対象への愛情から来るように思う。この作者の文章を読むのははじめて(辺境ライターの高野秀行の奥さんだそうだ)なんだけれど、ものすごく読みやすい。子どもでも読めるというような意味で「平易」な文章というわけじゃないのだけれど、何というか、ひっかかるような表現がないのだ。ストレスなく読める。

それと動物に対する愛情、飼育員に対する愛情にあふれている。とても優しい人なんだろうなと思う。(実際は違うかもしれないけれど)

いい本の条件は、その本を読んだ人が何かのアクションを起こすということだと思う。これを読んでこの4つの動物園にすごく行きたくなった。(まだアクションには至ってないけれど。)遠いけれど、秋吉台のアフリカハゲコウが最も興味深い。

動物翻訳家 心の声をキャッチする、飼育員のリアルストーリー

今日の一曲

動物。Maroon 5で"Animals"



では、また。
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百舌シリーズに新作『墓標なき街』逢坂剛

2015-12-05 | books
百舌シリーズの続編(ドラマや映画では「MOZU」)がまさか出るとは。

百舌事件の関係者である東都ヘラルドの編集委員の残間は同じく関係者で、事件当時は上司、現在はオピニオン誌の編集長である田丸から連絡をもらう。百舌事件について書いてくれという依頼だった。事件当時に社会部長だった田丸に焚きつけられて事件について書いたにも拘わらず、原稿は表に出ることがなかったという経緯があるのに… 残間は大杉に連絡してきた。(大杉はドラマでは香川照之がやっている役)東都ヘラルドにタレこみがあり、どこかの会社が「武器輸出三原則」に違反する(正確には三原則は政府の方針なので、外為法や輸出貿易管理令に違反するような)北朝鮮の武器輸出を行っていると言うのだ。そのタレこみについて大杉は調査を頼まれ実行することになった。誰がタレこんだかはだんだん分かってきた… そして田丸は殺される。百舌を思わせるような延髄にキリのようなものを打ち込まれて。そして警察庁で出世している倉木美希(ドラマでは真木よう子が演じてた)も襲われる。百舌は復活したのか… 違法な武器輸出と百舌事件を表に出そうとする画策が交錯して…

おっと。ドラマの人気に便乗して書いたお手軽ものだと思っていたら全然違った。さすが、心理サスペンスものも、スペイン内戦ものも、警察ものも抜群に面白い逢坂剛だった。
ネタバレしてはいけないけれど、政治家の思惑が大きく関係してくる。それと怪しい面々たちのキャラ設定がまた巧い。刑事になった大杉の娘の活躍も嬉しい。

西島秀俊が活躍するようなアクションは少なめだし、経済事犯だと興味がないという人がいるかも知れないけれど、これはこれで十分に面白かった。ただタイトルの意味はよく分からなかった。

墓標なき街

今日の一曲

倉木… 倉木麻衣で"Love, Day After Tomorrow"



ベタですまん。では、また。
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店名にツッコんでください118

2015-12-03 | laugh or let me die
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なぜ直木賞とれなかった『永い言い訳』西川美和

2015-12-01 | books
言葉が一つ一つ突き刺さってくる。ストーリーの波に飲まれ溺れる。できれば、私の拙いレビューなんて読まずに、黙って読んで欲しい。

大学時代に夏子と出会った衣笠幸夫(衣笠祥雄じゃなくて)は彼女と結婚する。出版社に勤めるが辞めたあと小説家を目指すも売れない日々が続く。しかしやっとヒット作を出せるようになった。そんな現在、結婚して20年も経ち、美容師をする夏子とはあまりいい夫婦仲にはなれなくなってしまっていた。夏子は友達とスキー旅行に行った。その晩、幸夫は編集者の女性を自宅に連れ込んでいた。すると、警察から連絡が。夏子の乗ったバスが転落したと…

と書くと、しょうもない男のしょうもない話に聞こえるかも知れない。しょうもない男の話なのだけれど、話はしょうもなくない。何と言ったらいいか。なんだか、全編自分のことを描かれているような感じで読んだ。いや、西川美和監督(映画「ゆれる」の監督。結構美人)はきっと私のことをずっとこっそり撮影していたに違いない。まあ100パーセント全てきっちり自分のことというわけではないのだけれど、彼女が表現することがある種の「自分のことを表現してるメタファー」みたいに読めてしまうのだ。それを被害妄想と言うべきか自意識過剰と言うべきか分からないが。(と思って読む人が、約850万人以上はいると推定される。当社比)

夏子が死んだあと、幸夫はあまり悲しいとは思わない。(当たり前か。)夏子と一緒にスキー旅行に行ったゆきも亡くなる。ゆきはトラックドライバーの夫陽一と小6の息子、4歳の娘がいた。幸夫が陽一一家と仲良くなるところから大きく陽一の人生は変わる。どう変わっていくかがこの小説の一番太い柱。しかし他にも太い柱があちこちにある。

視点は幸夫のものが多いが、夏子のものになったり、編集者のものになったり、陽一の息子のものになったりする。この使い分け。ドカベンで言うと不知火、フォークボールとストレートの落差だと野茂か大魔神佐々木、遅い球だと星野。緩急が自在のピッチャーのようだ。

しかしそれも、大友さんの咎ではない。不確定なことや希望的観測を容易に口に出したりしないところが大友さんのいいところであり、そこが私は好きだった。乾いた、砂漠のような、嘘の無さ。陽に晒されれば熱くなり、陽が沈めば、氷のように冷たくなるだけ。嘘と一緒に、やさしさも、ひとかけらもなかった。

異性のほとんどはこうして、ひとたびどんなに深く交わろうとも、他人に始まり、他人に終わる。

子供は整然とした日常をかき乱すアンコントローラブルで危険な魔物だ。ぼくはそんな理由で、子供を持たない人生を選択して来た。しかし、理性と秩序?

子供を愛することって、これまで自分がやってきたどんな疚しいことだって夢みたいに忘れさせてくれるから。これは男たちが、父親になることで手にすることのできる、一つの大きなご褒美だ。

愛するべき日々に愛することを怠ったことの、代償は小さくはない。別の人を代わりにまた愛せばいいというわけでもない。

てな感じで多めに引用してみた。

幸夫は自意識過剰気味で、いつもピリピリしていて、それでいて他人に気遣いができない。そんな「ちょっと嫌な感じ」奴がどう再生していくか。再生していくだろうなと思って読んでいくと、様々なひねりがある。さすが西川美和。私は貴方の虜になってしまいました。(なんだか変な表現になってしまうけれど、人間の関係をSかMかで表すのなら、作者の西川=S、私=M という図式で簡単に表現できる)(あたしってMだったのね。と心の奥底の私の少女がつぶやいてる…)(いや、少女じゃなくておばさんか…)

そんな具合に、深層心理を掘り出してくれたり、自分のことかと思わせてくれたり、至福の読書体験だった。本によっては1時間から2時間ぐらいで読み終わってしまうのだけれど、舐めまわすように読んだので5日もかかってしまった。

直木賞の候補作だったのに受賞できなかった。それも仕方ない。同じ時期にノミネートされたのは東山彰良の「流(りゅう)」澤田瞳子の「若冲」だったのだから運が悪い。どっちも面白かったよ。でも同じくらい面白かったけどね。(「流」も「若冲」も自分の記事を読み返したら、あんなに楽しんだ割にそっけないレビューでちょっと驚いた。本のレビューをする者の風上にも置けない)

今日の一曲

言い訳。Alanis Morissetteで"Excuses"



では、また。
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