頭の中は魑魅魍魎

いつの間にやらブックレビューばかり

『つまをめとらば』青山文平

2016-02-29 | books
江戸時代の女性を描いた短編集。そんなに悪くはないのだけれど、青山文平なら直木賞は「鬼はもとより」か短編集なら「約定」で取らせてあげたかった。そちらのほうが面白かった。

以上さっぱりレビューにて失礼。

つまをめとらば


今日の一曲

ラジオで紹介されていた。The Internetで"Get Away"



では、また。
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端倪すべからざる『ハケンアニメ』辻村深月

2016-02-27 | books
アニメ制作の現場をリアルに描く小説。有科香屋子はプロデューサー。伝説の作品「光のヨスガ」を観て衝撃を受け、そして担当の監督王子千晴と一緒に仕事をすることを自分の夢とし、そして現実のものとした。王子は9年ぶりに新作「運命戦線リデルライト」を作ることになったが、気難しく、制作なかなか進まない。そしてあろうことか、王子は失踪してしまう。どうする有科…<第一章 王子と猛獣遣い>
ハケンアニメとは、同時期に最も「覇権」を得たと評価される(DVDの予約の数など)ナンバーワンアニメのことを言う。「リデルライト」と同時期に放送されるのは、「サウンドバック 奏の石」 監督は斉藤瞳。組むプロデューサーはヒットメーカー行城。行城はどうも商業主義すぎてすごく気が合うとは言えない。声優とうまくやっていけなかったりと苦労の多い斉藤。今期のハケンはとれるのか…<第二章 女王様と風見鶏>
新潟にあるファイン・ガーデンというアニメの原画スタジオに勤めるのは並澤和奈。リデルライト、サウンドバック両方の原画を書いている。神原画と呼ばれるレベルの高さで珍重されている。しかし恋はうまくいかない。フィギアの制作会社の部長とデートしてみたり、公務員と仲良くなったりはしたけれど…<第三章 軍隊アリと公務員>

普段アニメはまったく観ない。アニメ業界のことを知らないし、特に興味もなかった。

しかし、読んでみたら、アニメの世界の幅の広さと奥の深さに恐れ入った。そして何よりどんどん先へ先へと読ませる。頁をめくる手が止まらない。

キャラクター造形が抜群に巧い。アニメオタクの人しか楽しめないような風にはなっておらず、私のような門外漢でも十分にリアルに楽しめる。

そして物語。どの話がハケンをとれるかも楽しみだが、途中の制作の苦労、人間関係など読みどころは多い。各キャラの成長物語とも読み取れる。

決して読み逃してはいけない傑作だった。

ハケンアニメ!

今日の一曲

ハケン、と言えば、ハッケン。発見について歌う、Elton Johnで"The Greatest Discovery"



では、また。
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『歴史の見方がわかる世界史入門』福村国春

2016-02-25 | books
ルネサンスから現代まで、ヨーロッパを中心に概説する。あまり年号などに固執せず、どんなふうに歴史が流れていったのか、過去から学べることは何か解説してくれる。古代中世史編の姉妹版

世界史に詳しくない人にすごくオススメ。事前の知識なしでも十分に楽しめる。

面白いと思ったのは「中世は不自由・神がいる。近代は自由・神はいない」がゆえに「近代より、人は『自己の存在意識』を『他社との差別化』により見出す。それがナショナリズムであり、その結果が『国家』(種の分類) 自己存在は『他者からの承認』によって完成する」という箇所や、
「日本人は『いま』『ここ』に意識が集中する。全体から『いま』『ここ』を規定することができず、目的意識が弱い」という箇所。

歴史の見方がわかる世界史入門

今日の一曲

関連する曲が思いつかない。今放送中のドラマで一番の出来と言ってもいいのが月9の「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」 とてつもなく暗いけれど、とてつもなくいい。有村架純もいいけれど、高橋一生などのわき役もいい。しかし何といっても高良健吾の演技。この人こんなすごい役者なのか、過去の作品観てみようかと思った。その主題歌、手嶌葵で「明日への手紙」



では、また。
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店名にツッコんでください123

2016-02-23 | laugh or let me die
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まさか続編『ミレニアム4 蜘蛛の巣を払う女』ダヴィド・ラーゲルクランツ

2016-02-21 | books
原作者のスティーグ・ラーソンが亡くなってしまい続編がどうなるかと思っていた「ミレニアム」シリーズ。こんなに面白い小説に出会えることがまだあるのかと驚愕しながら読んだ。そして出た続編。出版元のノーシュテッツ社が白羽の矢を立てたのは、元記者で作家、「I AM ZLATAN ズラタン・イブラヒモビッチ自伝」の共著者のダヴィド・ラーゲルクランツ。

どんなものかと読んでみると…

一世を風靡した雑誌「ミレニアム」は昔ほどの勢いがなく、ミカエル・ブルムクヴィストもいい記事が書けなくなっていた。株式の3割をメディア企業に売らなければならないほどになっていた… スウェーデン出身で人工知能の世界的権威のフランス・バルデルのチームが作っていたブログラムが盗まれ、先に特許出願されてしまった。するとなぜかフランスはアメリカのIT企業に誘われてアメリカに渡ってしまう。しかしフランスはスウェーデンに帰国しており、何か大きなトラブルを抱えていて何者かに狙われている。さらに、フランスの息子アウグストは自閉症なのだが、離婚の際親権を妻に渡してしまった。その後元妻が一緒に暮らす男はアウグストを虐待している。それが分かったので、アウグストを自分の元へ引き取ろうとする。このアウグストがある事件を目撃する。これが物語の中心にある。フランスはミカエルに連絡して何かを伝えようとするが… そしてリスベット・サランデル。ミレニアムシリーズの中心人物ももちろん大活躍する。アメリカのNSAも巻き込んだ、大きな事件の絵図とは…

ううむ。素晴らしい。別人が書いたとは思えない。本人が書いたかのようにスムーズに話が流れる。さらに過去のエピソードの裏側までも描かれる。スゴイ。

人口知能+IT技術+犯罪を組み合わせて、正義の鉄槌を下す。(弁護士が語るリスベットの過去と絡めて)とてつもなく邪悪なキャラクターの造形もすごく良かった。もう一度第一作から読み返してみたい。

ミレニアム 4 蜘蛛の巣を払う女 (上)ミレニアム 4 蜘蛛の巣を払う女 (下)

今日の一曲

「ミレニアム」というアルバムより、Backstreet Boysで"Larger Than Life"



では、また。
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奇跡のような短編集『千日のマリア』小池真理子

2016-02-19 | books
八つの短編が収められている。普段短編集はあまり読まない。長編にある複雑なプロットや人間関係の方が好みだから。しかし、本作は素晴らしかった。

特によかったのは、雑誌の編集長をしていた自分の父親と愛人関係にあったモデルさんに対して劣情のような淡い恋愛感情を抱く少年と、そのモデルさんの交流を描く【落花生を食べる女】と、自分が振った女性がその後おかしくなってしまう恐怖を描く【修羅のあとさき】、義理の母親の運転する車で事故に遭って左手を失って、自らの人生を見失った男と、美しい義理の母親を描く【千日のマリア】の三本

自分の父親の愛人である綺麗な女性に心を動かされてしまう少年の気持ちはよく分かる。自分と交際関係にあった女性が破綻していく怖さ。なんとも言えず怖い。そしてダメになってしまった自分の自暴自棄な感じと義母に対する感情。これもよく分かる。

人間に対する深い観察と、物語の巧さと癒し。その全てがある。なかなか誰にでも薦められる本を読むことはないのだけれど、本書は本当に、誰にでも薦められる。傑作だった。読んでよかった。まだ余韻が残っている。

千日のマリア

今日の一曲

千日のマリア。千にちなんで、Yellow Magic Orchestraで「千のナイフ」



では、また。
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映画「オデッセイ」

2016-02-16 | film, drama and TV
原作がすごく面白かったので、映画も観てみた。

別の映画を観ていたときに、映画の始まる前の宣伝でこの映画を紹介していたときに2Dだったのだけれど、充分面白そうだったので、2Dで観た。何の問題もなかった。

原作にかなり忠実で、原作とは違う解釈はほとんどなかったような印象。文章で読んでいて今一つピント来なかった様々な機械が映像化され、ああこういう物だったのかと思うことしばし。やっぱり映画は映画館で観るのがいい。

あらためて、科学者はスゴイと思った。自分が中学生ぐらいの頃(いや、理系は苦手だと意識するより前の小学生の頃)に観ていたら、科学者になりたいと思ったに違いない。

宇宙飛行士ヨハンセンの顔はどこかで観たと思ったら、ドラマ「ハウス・オブ・カード」のジャーナリスト役の女性だった。

今日の一曲

映画の中で使われている。David Bowieで"Starman"



では、また。
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『呪文』星野智幸

2016-02-14 | books
さびれつつある商店街でメキシコのサンドイッチ屋を始めた霧生。自分の店にも客が来ない。そんな中、居酒屋にクレーマーの客がやって来た。クレーマーにあることないことをネット上で書かれた居酒屋の反撃が始まる。商店街全体を巻き込んでいく。揺れる商店街は…

うむ。途中まではかなり面白いのだけれど、途中からの展開がちょっと。

未来系と称する人たちが登場する。これに若干リアリティを感じないのと、ラストが何を示唆しているのかよく分からないということで、評価はあまり高くできない。しかしそれ以外は結構面白かった。

よい意味で、いやよくない意味での現代社会の縮図みたいなものを表現しようとしていたのかな、とも思ったりするけれど。

呪文

今日の一曲

作者は星野。ということで最近は俳優としても活躍中の星野源で"SUN"



では、また。
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超弩級『暗殺者の復讐』マーク・グリーニー

2016-02-12 | books
グレイマン・シリーズ第四作。こいつだけは殺しておかないといけないロシア・マフィアのシドレンコを殺しに、ボディガードだらけの彼の自宅に行く。警戒厳重な屋敷にどうやって潜入するのか…… しかもその様子をダウンゼント・ガバメント・サーヴィシズいうCIAの裏仕事を請け負う企業の者たちが生中継で観ていた。空から無人機が撮影しているのだ。身を隠しているグレイマンのことをCIAも追っていて、シドレンコを殺しに来るだろうからとずっと待っていたのだ… そこへ登場するのがデッドアイ。グレイマンと同様の特殊な訓練をCIAで受けた者。グレイマンのように考え行動できる。デッドアイもダウンゼントの工作員としてグレイマン確保に動いているはずだったが、突如として、グレイマンを助けるような行動をとり始める。なぜ?… そして乱入するは、イスラエルのモサド。イスラエルの首相を暗殺する計画があるとして、その阻止に動く。それがグレイマンの動きと重なって……

おー。なんという物語だろう。なんというストーリー・テラーなんだろう。

バカでかい話なのに、ディテールを決しておろそかにしない。

書評家の北上次郎氏があちこちで絶賛しているのも無理もない。しかも、デビュー作がすごかったのに、一作ごとにさらに面白くなっている。日本で匹敵するぐらい面白くてスケールの大きい作品は何だろう。逢坂剛の百舌シリーズだろうか。他にあったかな。思い出せない。ドラマだと、アメリカのHomelandとか英国のMI-5が同じくらい面白くてスケールが大きい。MI-5の映画版が向こうでは公開されているそうだが、こっちではどうなっているのだろう。

暗殺者の復讐 (ハヤカワ文庫NV)

今日の一曲

本に関係する曲を思いつかない。Tom Petty And The Heartbreakersで"I Won't Back Down"



では、また。
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怖すぎ+面白すぎ『ナイルパーチの女子会』柚木麻子

2016-02-10 | books
何不自由ない家庭に育った栄利子30歳は、国内最大の商社の食品事業部でバリバリ働いている。毎日食い入るように読んでいるのはブログ「おひょうのダメ奥さん日記」 専業主婦なのに、家事にいい加減で力が抜けていていい… 「おひょう」は翔子。夫はスーパーの店長。給料が多いというわけでもないし、最近太ってきているけどいい奴。最近ブログの人気ランキングで上位に入っていて書籍化の話まで持ち込まれた… おひょうはプライバシーをあまり気にしていないので、栄利子は彼女が自分と近いところに住んでいることを知った。そして、栄利子は翔子に近づく。そして翔子に干渉し始める……

うううむ。ブログを細々と辺境でやっている身として他人事ではない。しかしそれは置いておいて。

小説として、面白すぎるほど、面白い。そこら辺のホラーは裸足で逃げないといけないほど怖すぎる。

栄利子はいわゆる、サイコパスに近い。美人で仕事もできるけれど、友達がいない。(なぜそうなのか、じっくり本書で語られる) 翔子も友達がいないけれど、少なくとも夫とは仲良くやっている。その辺の二人の対比が巧い。

「あんたとは誰とも心が通い合わないから、ありきたりなやりとりをすごく特別なものとして受け止めてしまっただけなんだよ」

ダメ主婦だけど夫には愛されて、でも友達がいない。仕事はできるけれど、友達がいなくて、ブログを読むのに夢中。どっちが幸せなのだろう。ブログを一応やっている立場からすると、栄利子は、ただひたすら、怖い。怖すぎる。(万が一、私のブログを舐めまわすように読む人がいたら、やめてください。怖いです)(そんな人いるわけねーか)

ナイルパーチの女子会

今日の一曲

ナイルパーチ。ということでナイル・ロジャースがプロデュースした、David Bowieで"Let's Dance"



では、また。
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狩野永徳は『洛中洛外画狂伝』谷津矢車

2016-02-08 | books
室町から安土桃山時代に生きた画家の話。祖父、狩野元信には自由に描けと言われたものの、父松栄には決まった形で描けと言われる、狩野源四郎。僧の日乗と知り合ったり、将軍足利義輝に可愛がってもらったり。あるいは、は松永弾正や三好長慶、織田信長と会話を交わしたり。そんな源四郎とは、洛中洛外図や唐獅子図を描いた、あの狩野永徳のことだった……

こりゃ、面白かった。全然守備範囲外の小説だった。薦めてくれた人、ありがとう。

狩野永徳について全く詳しくないのだけれど、彼の半生について(たぶん)歴史的事実と作者による想像とを巧みに組み合わせてある。読むほうは、事実から多少(あるいはおおいに)逸脱しても構わないから、面白いものを読みたい。そうじゃなければ、要らない。

そう。とても面白いのである。源四郎がまるで目の前にいるよう。自分が室町時代に生きているよう。その時代の絵師の事情も面白いし、また反骨精神の持ち主の、源四郎というキャラクターもいい。

読みやすいのに、読みごたえがある、そんなありそうでない小説だった。

洛中洛外画狂伝―狩野永徳

今日の一曲

画家に関する曲。と言えば大好き(というか自分と同類ではないかと勝手に思っている)(PCやスマホの待ち受けにもしている)な画家ゴッホについて歌う、Don McLeanで"Vincent"



ゴッホの絵を見ていると、心臓に針を突き立てられるような気分になる。では、また。
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店名にツッコんでください122

2016-02-06 | laugh or let me die
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壁崩壊直前の『革命前夜』須賀しのぶ

2016-02-04 | books
眞山柊史は1989年、東ドイツドレスデンの音楽大学でピアノを学びにやって来た。優秀だが癖のある同級生たち。ハンガリーからの留学生は天才的だが一緒に演奏する者のペースを崩す。そんな同級生たちとの触れ合いと、同時に時期が時期。東側の破綻が国民に知られていた。民主化運動が始まっていたが、同時に当局に厳しく取り締まられていた。仲間、あるいは眞山本人も監視の対象になり…… 激動の時代に生きた若者を描く小説……

読んだことのない種類の小説。クラシック蘊蓄が多く、そのほとんどを理解できないにも拘わらず、面白く読んだ。バッハのなんとかとかブラームスのなんとかとか全く聴いたことのない曲ばかりなのに、どういうわけかつまらなくない。何かに一生懸命に打ち込んでいる人の話は、たぶん面白いものなのだろう。

そしてそして。何といっても時期。東西冷戦の一番最後。あとちょっとでベルリンの壁が壊される、その寸前という時期。その時期に暮らす東ドイツの人々たち。ほとんど読んだことがない設定なのだけれど、すごく面白く読ませてもらった。全編に張り詰める緊張感。たまらない。

タイトルは忘れてしまったのだけれど、東ドイツの監視社会に暮らす人を描いた映画があった。そのことを思い出した。

革命前夜

今日の一曲

革命。The Beatlesで"Revolution"



ラジオやら何やらで、彼らの曲を耳にすると、こんなにスゴイ曲が半世紀も前に発表されていたのだなと、いつも驚く。では、また。
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読みやすいボッシュ『死角 オーバールック』マイクル・コナリー

2016-02-02 | books
LAの展望台で発見された遺体。刑事ボッシュが現場に行くと、FBIがやって来た。殺害された男性は、放射線物質の取り扱いを許可されている医学物理士。テロとの関連が疑われるのでFBIが出張って来たのだった…

ネタバレを避けて、それ以上は書かないでおく。

ボッシュ・シリーズは上下巻のことが多いので、一巻だけなのは奇異な感じがしていた。あとがきによると、ニューヨーク・タイムズ・マガジンで週一回の連載されたものを、大幅に書き直したものだそうだ。なので分量が少なめ。

しかし、非常に読みやすいし、ややこしい展開もない。以前の事件との関連もほとんどないので、初めて読むボッシュてしてオススメ。

タイトルのoverlookとは、「展望台」と「見落とし」という意味があるそうだ。そのどちらも内容に関係がある。

死角 オーバールック (講談社文庫)

今日の一曲

最近話題の、ゲスの極み乙女。で「パラレススペック」



プライベートはよく知らないけれど、曲はいい。では、また。
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