頭の中は魑魅魍魎

いつの間にやらブックレビューばかり

『悪の猿』J・D・バーカー

2020-03-30 | books
若い女性ばかり殺す四猿。悪いことをしている者の娘などの耳を本人に送りつけて後に殺す。何年も未解決になっていたら、バスに自ら突っ込んで死んだ者の持ち物から切り取った耳が出てきた。送り先は大富豪。四猿が死んでしまったのか。富豪の非嫡子の娘が行方不明になっている。彼女はどこに?

物凄く面白かった。大好物。

事件と並行して描かれるのは死んだ容疑者四猿が遺した日記。子供の頃に異常な体験をしたことがじっくりと描写されてたて、怖くて面白い。

二転三転するストーリーもいいし、続編「嗤う猿」へと繋がるラストもいい。サイコスリラー好きなら必読。文章のリズムなのか翻訳の巧さなのか、分厚いのにスラスラ読める。

ちなみに、見ざる、言わざる、聞かざる、に続いて「せざる」が4番目の猿=四猿という意味。

 

今日の一曲

猿。ということで、ゴダイゴで「モンキーマジック」



では、また。


コメント

『雲を紡ぐ』伊吹有喜

2020-03-28 | books
女子高生山崎美緒はいじめで学校に行けなくなる。教師をしている母は美緒をコントロールしようとするし、父は無関心風。美緒は一度も会ったことのない父方の祖父のいる岩手へ行く。羊毛をほぐし、染めて、織物にする行程に魅せられる美緒。

なかなかの逸品。少女の成長物語としてある程度、プロセスや結末は予想できるのものであってそれを大幅に上回るものではないのにかかわらず、読後に爽やかな風が吹いてきた。

こういう本を中学から高校辺りに読んでいればもっと健全な子になれたんだろうな。

 
今日の一曲

Badfingerで、"Without You"



では、また。
コメント

『ザリガニの鳴くところ』ディーリア・オーエンズ

2020-03-26 | books
1952年ノース・キャロライナの湿地で暮らす貧しい一家。6歳のカイアを残して他の家族はいなくなってしまった。文字も読めず計算もできずどん底の暮らしをするカイア。読み書きを教えてくれた優しい少年テイトと恋をする、という50年代の話と交互に描かれるのが1969年、アメフトのスター選手チェイスが死んだ。「湿地の少女」と呼ばれ差別されていたカイアが怪しいという声があがる。

自然を描写する純文学的な美しい小説+カイアの苦労+ミステリー。あまり普段読まないタイプの小説。なかなか堪能できた。

ミステリーとしては、意外すぎるラストが巧い。そして何よりもカイアの孤独な暮らし。彼女の精神的なタフさには、自分もこうありたいと思わされる。

「辛いのは、幾度もの拒絶によって自分の人生が決められてきたという現実なのだ」

 

今日の一曲

歌詞がよく分からなくて最近よく聴きなおしている。でも何回やってもうまく歌えない、Eaglesで、"Hotel California"



では、また。


コメント

『砂男』ラーシュ・ケプレル

2020-03-24 | books
13年間行方不明だった男ミカエルが現れた。ずっと監禁されていた場所から逃げてきた。妹フェリシアも監禁されている。ヨーナ警部は、閉鎖病棟にいるシリアルキラーのユレックの仕業だと考えている。しかし彼は何も話さない。フェリシアの居場所を探るために、考え出された作戦は、同じ病棟に患者としてスパイを送るという危険なものだった。

うーむ。第3作「交霊」を読むのを忘れて第4作を読んでしまったけれど、何も問題なかった。「羊たちの沈黙」以来震えるようなサイコスリラーをあまり読めてなかってけれど、久しぶりにガツンと来た。

ユレックはまるでレクター博士なのだけれど、動機や方法は違うし、どうやって人を騙すのかについては上手かも知れない。またスパイが投入されてからの緊張感はもの凄い。ガッツリとサイコスリラーを読みたい人にオススメ。

 
 

今日の一曲

Reneé Dominiqueによる、The Carpentersのカバーで、"Close To You"



では、また。


コメント

『蒼のファンファーレ』古内一絵

2020-03-22 | books
地方競馬場から中央に打って出る、若い女性ジョッキーたちの奮闘を描く「風の向こうへ駆け抜けろ」の続編。相変わらず、胸が熱くなる秀作だった。

喋らない厩務員誠の謎だったり、以外の美人ジョッキーが出てきたり、話が中国系の有名人だっり、また読みどころ沢山。ラストでは目頭が熱くうるんでしまった。

 
 

今日の一曲

秋山黄色で、”Caffeine"



では、また。


コメント

店名にツッコんでください236

2020-03-20 | laugh or let me die

店名にツッコんでください236

コメント (4)

『贖いのリミット』カリン・スローター

2020-03-18 | books
バスケットのスター選手マーカス・リッピーが起こしたレイプ事件を担当する捜査官ウィル・トレント。金と弁護士の力で立件できなかった。その選手が経営するクラブで遺体が発見された。元警官のデール・ハーディングだった。現場に大量の血液が流れており、ウィルの別居中の妻アンジーのものだと考えられた・・・

うーむ。重たいのにスピーディーな展開。ある巧妙な策略が終盤に明らかになるのだけれど、それ込みでシリーズナンバー1。

後半はアンジーがいったい何をしていたのかが時間を巻き戻して明らかになる。前半も面白いけれど、後半はさらに面白くなる。そういう意味では迷惑な女アンジーの物語だと言える。

しかし、アンジーではなくサラと付き合っているウィルの苦悩。サラの苦悩。こちらもかなり読ませる。

「母親のいない子供にかけられた呪いね。わたしたちは、自分が傷つける相手に慰めてもらおうとするんだわ」
下に少しネタバレあり。
 

今日の一曲

椎名林檎で、ジャズっぽい「丸の内サディスティック」


※以下自分用ネタバレ

別の選手ルーベンの妻ジョーはアンジーが捨てた娘。夫から暴力を振るわれている。ジョーを逃すために、アンジーは死んだ振りをし、ジョーも死んだことにする。

では、また。


コメント

『突破口 弁護士アイゼンベルク』アンドレス・フェーア

2020-03-16 | books
女性弁護士ラヘルは知り合いとは言え仲が良いとは言えない映画プロデューサーのユーディットから弁護を依頼される。恋人を爆弾で殺したという容疑。状況証拠は沢山ある。調べてみると、誰か別人が殺したと思えなくもないが、ユーディットも怪しい。彼女が5年前に参考人となった殺人事件も交互に描かれると・・・

面白いと言えば面白いし、事件がちっちゃいと言えばちっちゃい。

動機や方法などかなり読ませる。ただ背後に巨悪が潜んでいる感じがしながら読んでいたのでその辺は肩すかし。しかし、悪いわけじゃない。そんな期待をしていた方が悪い。巨悪じゃなく個人的な話だということを前提に読めば、相当面白いミステリーだった。

 「論理的根拠はあるの?」
「ないさ。宗教の問題だからね。宗教は、おまえがなにをしてよくて、なにをしてはいけないか規定しているだけだ。カトリックは離婚を禁じ、ユダヤ人はエビが食べられない。そこに意味があるかどうかなんて関係ない。そもそも意味がないから宗教なのさ。意味のあることに宗教は必要ない。わかっていることじゃないか」

宗教に意味がない。確かに。昨今言われるマインドフルネスに近い、瞑想を提唱する仏教には意味があるので、宗教ではない、って言えるのだろうか。

 

今日の一曲

東京スカパラダイスオーケストラで、「Good Morning~ブルー・デイジー feat. aiko」


では、また。
コメント

『風の向こうへ駆け抜けろ』古内一絵

2020-03-14 | books
芦原瑞穂は競馬学校を卒業したばかりの有望な新人。広島の鈴田競馬場からスカウトされた。行ってみれば景気は悪く、調教師や厩務員にやる気がない。瑞穂の頑張りで盛り上がることができるか・・・

これは意外な収穫。競馬を賭ける側ではなく、出走する側だけから描いていて、ギャンブルに興味がなくても充分面白い。女性だから受ける差別が大きなテーマだが、それほど重たくなく読みやすい。

悪役の配置なども絶妙にうまく、続編も楽しみ。同一作者の「マカン・マラン」というシリーズが高評価なのでこちらも楽しみ。

 

今日の一曲

先日、A-Studioに登場していた、Official髭男dismで、「イエスタデイ」



では、また。


コメント

『黒と白のはざま』ロバート・ベイリー

2020-03-12 | days
46年前テネシーで黒人の父がKKKのメンバー10人に殺された。息子ボー・ヘインズは復讐を誓い、弁護士になった。KKKの指導者だったアンディ・ウォルトンが殺された。ボーはしょっちゅうアンディを殺すと言いふらしていた。ボーは逮捕され、ロースクールの教授だったトム・マクマートリーに弁護を依頼する。証拠はボーの有罪を示している。担当検事のヘレンは負けなし。絶体絶命の裁判は・・・

うおー!2020年ナンバーワンだ。

前作「ザ・プロフェッサー」もすごく面白かったが、それ以上かも知れない。解説を読んでいて、確かに前作は誰がやったかは分かっているのでミステリー的要素は少なかったけれど、本作にはミステリー要素は多い。ボーが殺したのでないなら誰がやったかなフーダニットと、ボーの父親は45年になぜ殺されたかのホワイダニット。それだけではなくさらにもう一層下にまだネタが沈んでいる。

勧善懲悪、スカッとする小説でもあるし、アメリカの暗い歴史を学ぶ小説でもある。次作のThe Last Trialはめちゃくちゃ面白いらしい。小学館さま、絶対翻訳出して下さい。お願い致します。

 
 

今日の一曲

PIZZICATO FIVEで、「陽の当たる大通り」



では、また。


コメント

『終の盟約』楡周平

2020-03-10 | days
医者をしていた藤枝久が認知症になってしまった。事前指示書にあったように父の知り合いの病院に入院した。すると、すぐに亡くなった。死に不審なことはなかったが・・・長男輝彦は医者、次男真也は弁護士。しかし真也の妻昭恵は不満たらたら。真也は金にならない事件ばかりやっているからだ。輝彦の妻慶子にも嫉妬している。そんな昭恵が引っ掻き回すと・・・

うーむ。考えさせられるし、身につまされる。エンターテイメントは必ずしも、笑えたりスカッとするものでなくても良いんだと思った。

一番優しい死に方はガン、なぜなら終活が可能だから本人にも家族にも優しい。認知症だとゴールがいつか分からないという表現があり、なるほどと思った。(健康診断のバリウムとが肺のレントゲンはやめておとなしくガンになろうか)

また金の事に煩い、自分では何もせず、感じの悪い昭恵のような考えを自分もしていたとちと(いや、大いに)反省した。



 今日の一曲

大森靖子feat.峯田和伸で、"Re: Re: Love"



では、また。
コメント

『看守の流儀』城山真一

2020-03-08 | books
自殺を図った受刑者。差出人がなく電話番号だけ書いてある受刑者宛の手紙はきっと犯罪者からだろうと判断する看守。入試問題を刑務所で印刷していたところ漏洩事件勃発。健康診断の結果紛失などなどの連作短編集。

かなり面白かった。意外な展開と結末まで至る論理、どちらも好みだった。

 

今日の一曲


先日「情熱大陸」で特集されていた。King Gnuで、「どろん」



では、また。


コメント

店名にツッコんでください235

2020-03-06 | laugh or let me die

店名にツッコんでください235

コメント (4)

『君がいないと小説は書けない』白石一文

2020-03-04 | books
白石一文の自伝的小説。編集者時代の思い出や作家になってからの苦労、結婚の失敗、パニック障害、現在一緒に暮らすパートナーことりさんの話などなど。

たっぷり楽しめた。一応ことりさんが実家の母親のそばにいるために主人公の元を離れ、その間にあれこれ考えたり思い出したりする形式になっている。

編集者時代の裏話などどこまでが本当なのか気になることが沢山書いてある。白石作品では、哲学のような独特の「白石イズム」が披露されるけれど、それは今回は珍しくあまり響かななかった。しかしそれ以外は抜群に面白い。

離婚することになった知り合いの台詞 「でも、実際にこうして独り者に戻ってみると、なんだか長くて退屈でひどく空しい夢からようやく覚めたような気がしますね」

長くて退屈でひどく空しい夢・・・今自分が見てるものかも知れない。

「私たちの首には生まれながらに一台の双眼鏡が掛けられていて、私たちはそれを使って周囲の人々の心を覗き込む。この双眼鏡は非常に使い勝手が悪く、たいがいの像はピンボケのままなのだが、ある特定の人物に対してだけは、なぜか一瞬でピントが合って、相手の奥深い部分まできれいに映し出してくれる。(中略)人生上の悩みは大半が人間関係によるものであるのは、ピントの合いにくい双眼鏡を手にして、私たちがいつも「あきらめずにピント調節していれば、いつかははっきり見えるはずだ」と頑張り過ぎているせいのような気がする」

確かに。

「感情的な人間は誰かに深く語ることでストレスを発散すると度合いは実は少ない。彼らは誰彼構わず不平不満を洩らすので、そもそも深く語るということしない。相談相手は表面的な話を聞くだけで彼らのストレスを解消させてやることができる。だが槇原君のような思索的ない人に関しては、相手の思考の整理を手伝うようなつもりで順序立てて多方面からじっくりと話を聞いた方がいい。それすれば、彼らはたった一度の感情の吐露で充分に癒されることができるのだ。カウンセリングがより有効なのは、そういう思索的ない人間に対してである」

これはなかなかスルドイ。私の周囲の近い人ははほぼ全員が感情的。そして思索的(?)な私の話を順序立てて多方面から話を聞いてくれる者は一人もいない。なるほどねー。

 

今日の一曲

aikoで、「青空」


では、また。
コメント

『太平洋食堂』柳広司

2020-03-02 | books
明治時代、和歌山に生まれ、同志社や海外で学び、新宮で医院と食堂を始め、社会主義者となり、大逆事件(幸徳事件)で処刑された大石誠之助の伝記的ドキュメント小説。

幸徳秋水や与謝野鉄幹などの聞いたことはあるけれど詳しいことは知らない人の描写や、明治という時代の雰囲気を教えてくれてとても面白かった。桂園時代として桂太郎と西園寺公望が交互に首相をしていたことは知っていたけれど、その裏にいた山県有朋が社会主義をアホみたいに弾圧していたことは知らなかった。

しかし巻末に参考文献がない。読者に、こんな本を読んだらいいよと教えてあげる「親切」な心だったり、自分の著作はこういう文献を参考にさせてもらいましたという「尊敬」の心が参考文献を挙げされると思うが、その両者に欠けているのだとすればすっごく残念。

 

今日の一曲

Tracy Chapmanで、 "Baby Can I Hold You"



では、また。


コメント