白石一文の自伝的小説。編集者時代の思い出や作家になってからの苦労、結婚の失敗、パニック障害、現在一緒に暮らすパートナーことりさんの話などなど。
たっぷり楽しめた。一応ことりさんが実家の母親のそばにいるために主人公の元を離れ、その間にあれこれ考えたり思い出したりする形式になっている。
編集者時代の裏話などどこまでが本当なのか気になることが沢山書いてある。白石作品では、哲学のような独特の「白石イズム」が披露されるけれど、それは今回は珍しくあまり響かななかった。しかしそれ以外は抜群に面白い。
離婚することになった知り合いの台詞 「でも、実際にこうして独り者に戻ってみると、なんだか長くて退屈でひどく空しい夢からようやく覚めたような気がしますね」
長くて退屈でひどく空しい夢・・・今自分が見てるものかも知れない。
「私たちの首には生まれながらに一台の双眼鏡が掛けられていて、私たちはそれを使って周囲の人々の心を覗き込む。この双眼鏡は非常に使い勝手が悪く、たいがいの像はピンボケのままなのだが、ある特定の人物に対してだけは、なぜか一瞬でピントが合って、相手の奥深い部分まできれいに映し出してくれる。(中略)人生上の悩みは大半が人間関係によるものであるのは、ピントの合いにくい双眼鏡を手にして、私たちがいつも「あきらめずにピント調節していれば、いつかははっきり見えるはずだ」と頑張り過ぎているせいのような気がする」
確かに。
「感情的な人間は誰かに深く語ることでストレスを発散すると度合いは実は少ない。彼らは誰彼構わず不平不満を洩らすので、そもそも深く語るということしない。相談相手は表面的な話を聞くだけで彼らのストレスを解消させてやることができる。だが槇原君のような思索的ない人に関しては、相手の思考の整理を手伝うようなつもりで順序立てて多方面からじっくりと話を聞いた方がいい。それすれば、彼らはたった一度の感情の吐露で充分に癒されることができるのだ。カウンセリングがより有効なのは、そういう思索的ない人間に対してである」
これはなかなかスルドイ。私の周囲の近い人ははほぼ全員が感情的。そして思索的(?)な私の話を順序立てて多方面から話を聞いてくれる者は一人もいない。なるほどねー。
今日の一曲
aikoで、「青空」
では、また。