頭の中は魑魅魍魎

いつの間にやらブックレビューばかり

『冬のフロスト』R・D・ウィングフィールド

2013-07-31 | books
出世には興味がなく、正義とは縁遠く、でも義理人情には篤く、どういうわけか事件を解決してしまうフロスト警部。久々の降臨。待っていた。ほんとずっと待っていた。待ちくたびれて首が3センチ伸びて、キリンのふるさんという新しいあだ名がついてしまった。

フロスト警部シリーズは他の警察ミステリとはだいぶ違う。

1.基本的にはやる気がなく、出世に全く興味がない男が主役。
2.アメリカのミステリのようなガチガチの科学的捜査はない。
3.署長が上へのごますりと、予算のことしか考えていないので、常に人員が足りない。
4.多数の事件が登場する
5.解決しないうちに次の事件が起こる。
6.しかし、結局フロストが全ての事件を片付ける。

2と3は特にアメリカのミステリ、例えばジェフィリー・ディーヴァーのリンカーン・ライム・シリーズと対極にある。こんなハンデがあるににもかかららず、事件が解決するまでの過程が最大の読みどころ。今回もすばらしい。しかし、キャラもいい。フロスト自身ののキャラに加え、人命が大切だとは思っていないマレット署長、いつも不運なウェルズ巡査部長、出世しか頭にないリズ・モード警部代行、存在自体がマイナスのモーガンらのキャラがピンと立っている。70年代の英国を思わせるような、ややクラシックな雰囲気もいい。

今回は幼女の誘拐や連続娼婦殺しと白骨遺体。フロストシリーズは続き物ではないので、どれから読んでもよい。「クリスマスのフロスト」「フロスト日和」「夜のフロスト」「フロスト気質」の全シリーズ読んでいるけれどブログはじめる前に読んだらしく、レビューがなかった。(「マイベスト小説海外」に入ってた)

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どれも、ウルトラ面白い。ドラマ化されていて、これも面白かった。ドラマのフロストは、文庫表紙のようなナイスミドル?な感じではなくで、だいぶしょぼくれたおじさんだった。きたろうに近いかな。



今見つけたばかりのドラマ動画。ドラマは原作のブラックな感じ、フロストの下品な感じ、署長の官僚的思考のバカな感じはドラマではだいぶ薄まっていたことは覚えてる。(同じようなことを解説の養老先生が書いてる)

フロストシリーズは、私が今までに読んだ本の中でもトップクラスの出来の小説群だと思う。極上のエンターテイメントを堪能させてもらった。

それと、東京創元社と訳者の芹澤恵さんには文句を言いたい。もっと早く出してくれと。原作出たの99年だよ。

では、また。

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『昨夜のカレー、明日のパン』木皿泉

2013-07-29 | books
大好きだった、ゆるいのに何かあるドラマ「すいか」の脚本を書いた二人による共同ペンネーム木皿泉による初の小説は連作。

テツコは夫、一樹が死んでしまったのにギフこと、義父と二人で暮らしている。そんな二人の不思議で、でも納得できる暮らし+近所に住む元CAの話+ギフが山ガールと山に登る話+一樹の遺した車に乗ってみたいいとこの話+テツコの彼氏が詐欺にあった話+ギフが詐欺にあった話+…

あー、この感じこの感じ。「すいか」が蘇ってきた。そうだった。昔PCの壁紙、「すいか」のセットの画像にしてたんだった。あのドラマを観てから、私は自分の暮しをあんな風にしたかったんだ。

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温泉で温もる感じと、時々人生に対して苦い球を外角低めに投げ込んでくる感じ。このバランスが絶妙にいい。全ての話はつながっているし、そっちの方は巧い。

長く同居を続けていると、自ずからルールができてくるものである。見えていても見えていなかったことにする、ということはとても重要なことなのだった。だから、小さなことを見つけては「ね、見た?見た?」とすり寄って来て、見たことの一切をしゃべりきらないと気のすまない女友達は苦手だった。

最近はそういう男も増えているように思う。

親は親戚に勧められるままお見合いをした。どの男性も立派そうに見せていたが、ちょっとしたしぐさが見すぼらしく思え、ことごとく断った。(中略)ずり落ちそうなズボンを持ち上げるしぐさであったり、自慢している時の口許であったり、財布をのぞき込む首の角度であったり、人それぞれ目につくところは違うのだが、夕子には同じように見すぼらしく思えた。

高給取りでもエグゼクティブでも、関係なく見すぼらしいのは見すぼらしく思えるという夕子。君は正しい。そんな男とは決して結婚してはならぬ。

「人は変わってゆくんだよ。それは、とても過酷なことだと思う。でもね、同時に、そのことだけが人を救ってくれるのよ」

確かに。

抜群に面白くて、ほろっとして、考えさせられる。ほんまにあきれるほど抜群な小説だった。

​もっともっと続きが読みたい。木皿泉の小説もっと読みたい。頼む。もっと書いてくれ。いや、書いてください。心の底よりお願いたてまつります。

では、また。

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避暑と親子丼

2013-07-27 | travel
川上健一の「朝ごはん」を読んでから猛烈に行きたくなった八ヶ岳。に避暑に行って来た。

向こうは涼しい。ほんまに涼しい。

山に登ったり、「朝ごはん」に載っていたパン屋にも行ったり、帰りに軽井沢に寄って来たり。

中でも忘れられないのが、中村農場の親子丼。以前に昼に食べに行ったのだけれど、今回は夜、予約していった。



見よ。このふわとろ。世界一旨い親子丼なり。

水炊きも食べたし、そちらも旨かったのだけれど、どうしても親子丼のインパクトには負ける。この店が近くにあったら、しょちゅう行きたいと思う。いや、行かなくなるのかな。

すぐそばにあっていつでも食べられるとなるとちっとも価値あるものとは思えないのに、遠いとすごく価値あるものになる。

美味とは遠きにありて思うもの。なんつって。

タイトルを「秘書と秘所に避暑に行く」にしようと思ったのだけれどそっちの方が良かっただろうか。

では、また。
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『野心のすすめ』林真理子

2013-07-26 | books
林真理子という人はあまり好きではなかった。著作を一冊も読んだことがないのに、ずっと食わず嫌いなままだった。

しかし、「野心」とはあまり彼女が言いそうにない言葉。気になって読んでみた。

学生時代から、就職がうまくいかなかった時代、コピーライター修業時代、作家として成功した時代、結婚、子供。半生を振り返りつつ、「野心」がいかに彼女を前に進ませるのに不可欠だったかを書いている。

うーむ。結構面白かった。ちょっとくやしい。

一生ユニクロと松屋があればいいというんじゃダメだという話。ふーむ。努力という後輪だけじゃ前に進めず、野心という前輪がないといけないという話。なるほど。居酒屋のバイトという三流大学の人間でも特にコンプレックスを感じずにすむような環境にいてはダメだという話。ふむ。三流の仲間に囲まれていると誰も自分をだしぬかないしぬるま湯の中にいれば居心地がいいけれど、それでいいのかという話。ふむ。彼女がコピーライター修業時代に会った糸井重里さんや仲畑貴志さんのような一流の人はどんな話をしても面白いし、一流のオーラが出ていたという話。ほほお。

私個人は自分が会話の中で、「セレブ」とか「一流」とか「三流」という言葉を使うのはあまり好まないけれど、読む文章の中に出てくるのは構わないし、また林真理子が人間には「一流と二流と三流」しかいないというような幼稚なことを言おうとしているわけじゃないので特に違和感は感じなかった。

書店にあったデビュー作「ルンルンを買っておうちに帰ろう」とちらっと立ち読みしたら意外なほど面白かったので、もうちょっとで買いそうになってしまった。

今日の一曲

野心と言えばambitious
Jay-Z feat. PharrellでSo ambitious



では、また。

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『正義をふりかざす君へ』真保裕一

2013-07-24 | books
長野県で新聞記者をしていたが、ホテルなど会社を手広く経営する者の娘と結婚することになり、記者をやめて傘下のホテルで幹部候補生として修業していた。しかしそのホテルで食中毒事件が起こり、私はホテルを辞め離婚し東京に出て来た。たまたまスポーツクラブの経営に関わることになり今では社長になった。しかし、長野から連絡があった。元妻が市長候補と不倫関係にあるということを示す写真が送られてきて、それについて調べてくれと頼まれ、7年ぶりに長野に帰ることになる。市長選、食中毒事件の顛末、高校時代の先輩で新聞社の社長でもある男と現職市長、マスコミと政治家による市政コントロール…7年の歳月を経て明らかになる真相とは…

うーん。そんなに悪くはない。しかし欠点をいくつか感じた。

前半の説明口調が気になる。主人公の内面を利用して、過去の出来事について語らせるのだが、どうもそれが多すぎるように感じた。字数を数えたわけじゃないのだけれど。巻き込まれ型ハードボイルドとカテゴライズできるかと思うけれど、なぜそんなに巻き込まれようとするのか、なぜそんなに頑張ってしまうのか、それがあまり伝わってこなかった。ラストのどんでん返しはあることはあるものの、インパクトに欠けた。

タイトルの「正義をふりかざす君へ」 正義をふりかざしている者は確かに登場人物にいなくはないけれど、その人物に問いかけるのがこの小説のテーマではないだろう。また、読者に対して呼びかけているというわけでもないようだ。つまりタイトルの意味も結局不明だった。真保裕一の近年の作品が昔ほど楽しめなくなった。鈍っているのは私の感性なのだろうか。

今日の一曲

主人公は新聞記者だった。新聞と言えばpaper
ということで、John MellencampでPaper In Fire(強引)



では、また。

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『米朝快談』嶽本野ばら

2013-07-22 | books
「下妻物語」のイメージと大麻所持のイメージしかない、嶽本野ばらが、人間国宝の落語家、桂米朝本人の高座ではなくてCDの全集を聴きながら、ネタの解説と身辺エッセイを書いたもの。

落語にはこの演者のモノが好きだとか嫌いだとか好みが分かれる(のかなー?落語好きの友人がいないのでよく分からない。)著者は米朝が大好きで談志は嫌い。私は、枝雀と志ん朝と志の輔と談春とブラックが好き。理由は説明できない。米朝は割と好きなんだけれど、ネタによるので、「はてなの茶碗」とか「地獄八景亡者戯」は特にうまいなーと思う。

ネタに関しての解説は特に馴染のないものに関しては結構楽しく読ませてもらった。しかしそれ以外の嶽本本人のエッセイが、ネールだと女物の服だとか、はたまたAKBに夢中だとか、自分と違う世界の人を覗き見する感じが面白い。関西出身だそうで、昔鶴瓶がラジオでやってた「ぬかるみの世界」(一度聴いてみたかった)の話などお笑いに関する薀蓄もなかなか。

今日の一曲

米朝の落語をと思ったのだけれど、やはり長い。談志のまくらを5分ぐらいにまとめたものがあったのでそれを。



では、また。

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『泣き童子』宮部みゆき

2013-07-20 | books
身辺に起こった不思議な出来事や怪異を話すことで楽になりたい者たちがやって来る三島屋。話を聴くのはまだ若いおちか。三島屋とおちかのシリーズ第3作

男女が池に近づくと神様が怒って、男の方に別の女ができてしまうという<魂取の池>、山津波で友だちを失った男の悲哀を描く<くりから御殿>、なぜ突然なくのか、なぜ泣きやまないのか、ミステリータッチで描く<泣き童子>、集まった者たちで怪談を披露し合うという、おちかが一方的に話を聴くのではない、<小雪舞う日の怪談語り>などの読み応えのある話ばかり。

かけたコストの元が必ず取れるコストパフォーマンスの高いエンターテイメントとな何かと訊かれたら、宮部みゆき名がすぐに浮かぶ。小説に必ずしも「元を取る」とか「得をする」とか考えるのは正しくないけれど、そんなことと思ってしまう。

表題作と怪談語りの3番目の話が特に好きだ。いや、巧いし、本当にいい話だ。暑い日が続いても心が寒かったりするときに心を温めてくれたり、暑い暑いときに、肝を冷やしてくれたりする夏向きの物語(いや、それはどーかなー?)

今日の一曲

泣きということで、柳ジョージ&レイニーウッド 「雨に泣いてる」



では、また。

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『深い疵』ネレ・ノイハウス

2013-07-18 | books
ドイツ、老人が射殺される。被害者は92歳。ホロコーストを生きのびたユダヤ人。ドイツを脱出してアメリカに渡りレーガン大統領の顧問まで務めた。60年以上アメリカで暮らした後に、晩年はなぜかドイツで過ごした。検視の結果、左腕の内側に刺青を消した跡が見つかった。そこから彼はナチスの武装親衛隊のメンバーだったことが分かった。ホロコーストの生き残りで有名なユダヤ人が、実は武装親衛隊のメンバーだった… そして第二の殺人が。また被害者はナチスの残党のようだ。第一の事件と同様に、現場には16145の文字が。誰が、何の目的で、どうやって彼らの隠された過去を知ったのか… 続く第三の殺人。被害者の共通の友人で、地元の大物の女性。息子や亡くなった夫の隠し子、孫、辞めさせた秘書などに自分の人生を台無しにされつつある。この女性と事件との関係は…

うーむ。面白い。面白すぎる。うーむ。字が多い。うーむ。登場人物が多い。多すぎる。何度も登場人物一覧を見返してしまった。

ナチス、ホロコーストと現代をリンクさせたエンターテイメント作品は、甘ったるい駄菓子になるか、苦味と辛みの効いたメインディッシュになるのか極端に違ってしまうけれど、これはまさに後者。山椒がたっぷり効いた麻婆豆腐になった。(人形町の楊という中華料理屋さんの麻婆豆腐は辛いを通り越して舌が痺れる。大好きだった。閉店してしまったらしい。残念)

訳者あとがきによるとこれがネレ・ノイハウスの日本初登場作品なんだけれど、オリヴァー&ピアシリーズとしては第三作。作者の真価が分かるこれと、第四作「白雪姫には死んでもらう」をまず日本で出して、評価を待ち、それを受けて第一作から出すのだそうだ。ドイツではシリーズ200万部を超えたそうだけれど、第一作から順に出すと日本では売れないと判断したわけね。(日本ではものすごく翻訳ミステリが売れていないそうなので、色々な工夫をしないといけないのかなー)もちろん他の作品も読みたい。

少しずつしか明らかにされない謎。真相が分かったとき思わず震えてしまった。私が広義のミステリ小説に求める「社会性」「複雑なプロット」「複雑な人間関係」「粋な仕掛け」「苦味」 その全てがここにあった。今年下半期ベスト候補。

では、また。

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店名にツッコんでください69

2013-07-16 | laugh or let me die
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『ときどき意味もなくずんずん歩く』宮田珠巳

2013-07-13 | books
読んだとき、初めて(たぶん中学生の頃)椎名誠を読んだときの衝撃が蘇った。「蘇」という字を見て、「蘇る金狼」のことも思い出してしまった。(今から20年ぐらいたつと、昔前田敦子のモノマネで一世を風靡したあの人が久しぶりに、テレビに復活。蘇るキンタロー。なんつって)

話を戻すと、宮田の文体と論理の展開、スピード、これがタマラナイ。グルーヴ感。

基本的には旅とその他日常を描く脱力エッセイなんだけど。

前々からいろいろな場で飛行機怖い発言を繰り返している私だが、アメリカへ行くと旅行期間中の飛行機含有量が大幅に増えるから嫌だ。四都市回るつもりで段取りしているうちに、乗継含めてなぜか搭乗10回、ついでにメキシコも回って合計13回も飛行機に乗るという千日回峰か百人組手並の荒行になることが発覚し、どうしてそうなるのかおおいに謎であって、かつ気が動転した。13回は多すぎやしないか。そんなに人を飛ばすぐらいならお前が飛んで来い、とアメリカに言いたい。(20頁より引用)

思わず口の中にあった珈琲を吹き出してしまった。

何度も言うが、食事なんか錠剤で済めばいいと思っている私が、もう一度食べたいと思うぐらいだから、さぬきうどんは本当にうまい。

グルメではない著者が四国にうどんを食いに行く。というだけでおかしなシチュエーションだけれど、文章もまたおかしい。

語るも涙の悲しい話ではあるが、30代も後半になると、旅において10代や20代のときのようなビビッドな感動が少なくなってくる。10代20代では、ただ単に旅にでているというだけですでに心はハイであって、どんな国でもそこらじゅうがエキゾチックであった。しかし最近は旅行中と日常生活の感覚的な落差があまりない。もちろん今でもハイな旅がしたいのだが、慣れのせいか、若い感受性が摩耗してしまい、エキゾチックと一般に言われる光景を見ても、いい景色だなあとは思うものの、心の底からヒリヒリすることはなくなってしまった。それがこのとき、久しく忘れていたワクワクする感情がぐっと心の中に立ち上がってきたのである。(119頁より引用)

若いときにしておいた方がいいよ、と言われるいくつかの事柄があるけれど、その内の一つは、観光とは違う旅なんじゃないかと、今思った。

今日の一曲

CHAGE & ASKAで「モーニングムーン」



ASKAの声が生かされている名曲。モーニングムーンが見える頃、君と一緒に何の意味もなくずんずんと歩きたい。なんつって。

では、また。

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『特捜部Q キジ殺し』ユッシ・エーズラ・オールスン

2013-07-11 | books
「ミレニアム」3部作で心震わせたのに、もう作者のスティーグ・ラーソンはこの世にいないと嘆く日々。デンマークのドラマ「THE KILLING」と「THE BRIDGE」の複雑な構成と人間関係、ひねりの効いたストーリー、もっとこんなドラマが観たいと乞う日々…嗚呼

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前作「特捜部Q 檻の中の女」がまあまあぐらいだったので第二作はスルーしていたのに、文庫化されたのをパラパラ見ていたら解説を作家の恩田陸さんが書いていて興味を持ったので読み始めた… 嗚呼、もう、嘆き乞う日々は終わった!(大げさか?)

コペンハーゲンで未解決事件を扱う特捜部Q。20年前別荘で殺された18歳の兄と17歳の妹。ひどい暴行を受けていた。犯人は自首し、既に刑務所にいるにもかかわらず、事件に関する書類が未解決事件のファイルに紛れ込んでいた。調べてみると事件は単独犯の仕業とは思えず、当時の金持ちの通う寄宿学校の生徒たちによるものではなかったのかとすぐに推測される。彼らは現在、病院経営者、ファッションデザイナー、株取引会社の経営者になって成功しているが、仲間の唯一の女性は行方をくらましホームレスをしている。彼女は復讐を考えているらしい。誰に対する復讐?その目的は?…

いやいやいや。真の邪悪とはこれかも知れない。容疑者が誰か、上で書いたようなことは読めばすぐに分かる。それでもストーリーの先は読めない。巧い。

こういうタイプの小説が大好きなので、だいぶバイアスがかった評価になっているだろうと想像する。おぞましくて嫌だという人もたくさんおられるに違いない。「時計じかけのオレンジ」が受け付けない人にはオススメできないかなー。

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でも私のような鬼畜でひねり好きにはオススメ。

なぜだか分からないけれど、スウェーデンとデンマークの小説やドラマには、サイコキラーに近いおぞましい事件+邪悪+執念とトラウマを持つ主人公+先が読めない展開 という共通の構造を持つ作品が多いのだろうか。それが大好きな私には、北欧好きやねんと言わせていただこう。

今日の一曲

やはりやしきたかじんの「やっぱ好きやねん」に行くと見せかけつつ、

矢沢永吉で「SOMEBODY'S NIGHT」



昔全然好きじゃなかったヤンキー音楽が最近なぜか好き。ポアゾンの香りのする危険な女。この小説に出てくるのでは…

では、また。

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米国ドラマ「HOMELAND2 / ホームランド2」

2013-07-09 | film, drama and TV
スカパーで放送中。毎週月曜。これは面白い。戦争の英雄は、実はイスラムのテロリストなのか。真実に迫っているのに仕事から遠ざけられるCIAの女性エージェント。国際謀略ミステリ+極上の心理サスペンス。

「ホームランド」というタイトルで無料のBS放送のDlife(ディーライフ)でシーズン1の放送が始まるそう。7/13(土)23:00

今日の一曲 

暑い暑い。暑い毎日を吹っ飛ばす。



SOUL'd OUTで「ウェカピポ」

では、また。
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『百番目の男』ジャック・カーリイ

2013-07-08 | books
「ブラッド・ブラザー」というサイコスリラーが、ジェフリー・ディーヴァー好きならオススメだと聞いたので、読んでみたら確かに面白い。しかし、

しかし、読んでる途中で気づいた。これ、シリーズものの第4作ではないか。シリーズものは順番に読みたい、順番原理主義者なので、途中でやめて第1作から読むことにした。この第1作、書店で見かけたけれど、表紙を見て、ショボイホラー臭がすると思い、手にも取らなかったんだった…

舞台はアメリカ南部アラバマ州モビール。主人公は刑事、カーソン・ライダー。大学で心理学を学んでいるときにたまたま会った刑事ハリーに誘われて警官になった。制服警官の時にサイコな事件を解決したために、ハリーとともにたった二人の精神病理・社会病理捜査部(PSIT)を組むことになった。いきなり衝撃的な幕開け(読んでのお楽しみ)とともに始まる連続殺人事件。遺体からは首が切り取られ、妙な文字が体に書かれている。誰が、何のために?…

うーむ。訳者あとがきに「どうです、驚いたでしょう?」とあってそれを先に読んだのでハードルがすごーく上がってしまった。それでも、誰がという驚きは100点満点中90点、何のためにという驚きは18000点!嘘だろー。それが動機か!おいおい、そんなこと思いつくか?こんな動機を考えつくのは天才か狂人のどちらかだろー。

ホワイダニット(なぜやった?)もハウダニット(どうやって?)もものすごく驚かされたけれど、ウリはそれだけじゃない。主人公が「僕」という一人称で語るのも大きいかと思うんだけれど、扱っている事件の陰惨さと異常さの割に、気軽に読めてしまう。ドン・ウィンズロウの「ストリート・キッズ」とトマス・ハリスの「羊たちの沈黙」を足して2で割ったような、あるいはドラマ「北の国から」とドラマ「沙粧妙子-最後の事件」を足して2で割ったような感じ。(ちがうか?)

LINK + LINK  LINK + LINK

事件そのもの以外もすごく面白い。捜査の妨害をする上司、振り切れないカーソンの過去、ハリーとの軽妙な会話、全体の構成、読みどころの多さ。とにかくラストで驚かしてくれというお化け屋敷好き系読者、サイコな殺人そのものを楽しんだりするジェットコースター乗り読者だけじゃなく、サイコスリラー食わず嫌いな人にすごくオススメしたい。

では、また。

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『非社交的社交性 大人になるということ』中島義道

2013-07-06 | books
だいぶ前に「哲学の教科書」という面白い本を読んだ。

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そして今回は、哲学者である同一著者によるかなり辛口な、唯我独尊なエッセイ。社会評論ぽいことも書かれている。一貫したテーマは大人になるということだけれど、自分の子供の話や借家を借りているウイーンの話など実生活のことも書いてあって、雑多な本。

大きく頷いてしまうことや、それはどーかなー?と思うこと、そして「自分では考えもしなかったけれど、言われてみれば、そう考えればうまく説明できるぞ」と思うことにあふれていて大変興味深く読んだ。

第II部が「こころ優しく凶暴な若者たち」というタイトルで、著者が開いている哲学塾カントの変った生徒についていくつかのエピソードとともに現代の若者論を展開していてこれがすごく面白い。イヤなことは絶対しないか…なるほど。エピソードの具体例はここには書かないけれど、そんな人たちが多いのかー。うーむ。

著者は、その変生徒たちは比較的学力が高く品行方正にもかかわらず、もっと若いときに自然な人間の喜怒哀楽に共感や反発をする能力、他人の振る舞いの「意味」がわかる能力を培ってこなかったとしている。そして人生のある時期に実地教育を受けなかった者には、それぞれ状況に応じて「こうこう」と具体的に教えないといけないけれど、それが次に具体的場面には適用できないので、いつまでたっても「正しい振る舞い方」を学習できない。別の言い方をすれば、アリストテレスの倫理学に「フロネーシス」という言葉があって、それぞれの状況ごとに適切に判断し、行動するという「実践知」であり、「賢慮」とか「熟慮」と訳されるそうだが、こうした若者にはこのフロネーシスが欠けていると論じる。

確かに。若者に限らずそういう人は少なくない。(私もその一人だろう。)そして彼らの行いの原因の分析は当たっているように思う。(しかし、第I部では、過去の原因を分析することの意味のなさを述べているので、著者自陣が分析するのは矛盾しているような気がしなくもないけど… しかしこの人の矛盾はある種の味だと思っている。)著者の言うように、ある程度の歳になるまでに学ばないといけなかったという過去が原因だとすれば、今後それを克服するのはほぼ不可能なのだろうか。(私も含めて)克服できない人に著者は厳しいけれど、克服しないという生き方もあるのだろうと思う。(具体的にどう生きるのかは訊かないでくれ。ワカラン。)病いが治癒できない者たちの行く先は哲学ということになるのかも知れない。だからきっと哲学塾は変人率が高いに違いない。その哲学塾は多分、変人率が他のコミュニティよりも高いのだろうから安易にそこでの現象を一般化してはいけないけれど、現代の人間模様を凝縮しているように思う。

第I部については、以下雑多に列記

ある行為の「原因」は無限大なのに「あとで」「動機」を選ぶのはでっちあげ / どんな過酷な境遇でも「自分から選んだんだ」と言い聞かせられるのが大人 / カントは性愛を中心とする愛憎関係を嫌悪した。相手を支配し、相手に支配されようとして、理性を、魂の自立を奪うから / 現代日本の若者は重心が「生きがいのある仕事」から「他人から評価される仕事」へ移ってしまう / パスカルは言う。まじめにすべき仕事などこの世にないのだ / ニーチェは言う。人間と世界には何の意味もない。国家の強大化、民族の進展、文化の繁栄、来世における救済、政治の実現、貧困の解消、幸福の追求、などのあらゆるまじめま仕事は、それ自体無意味で無価値だ / 結果から最も蓋然性の高い原因探して、たくさんある可能世界から一筋の現実世界を選びつつ現在に至るとするのは錯覚。「偶然」も「必然」もなくただ世界は「現にある」だけだ / シニフィアン(音)とシニフィエ(意味)が結びつかなくても違和感がない日本では「駐輪禁止」と書かれた前に自転車を平気で停める / 悩むということの前提条件に欠けている今の若者は不幸 

では、また。

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水曜ドラマ「Woman」#1

2013-07-04 | film, drama and TV
小栗旬と結婚し二人の子供が生まれたのに、彼は死んでしまった。小さな二人の子供を育てながら懸命に生きる主人公は満島ひかり。

シングルマザーの大変さがこれでもかと描かれる。二人の子供を連れて家を出て電車に乗るだけでも大変。託児所に預け仕事に行く。仕事のかけもちをする。子供が熱を出して遅刻が続きくびになる。金がない。金がない。金がない。

生活保護を受けようと役所に行く。申請をしたら却下された。理由は20年会ってない母親が援助を申し出たからだと。怒り、実家に帰る…

重い。実に重い。観ていると苦いものを噛んでいるような気分になる。来週から同時間帯には「ショムニ」が始まるので視聴率は厳しいだろう。

しかし何かを考えさせてくれる、非常に質の高いドラマだった。私はどこをどう頑張っても、手術しても、金を払ってもシングルマザーにはなれない。絶対になれないはずなのに、ドラマ内ではまるで自分がシングルマザーになった気分になる。全然違う。見える世界が。シングルマザー的世界観とはこれか!

ドラマに限らずエンターテイメント作品(エンターテイメント作品じゃない作品も?)はある程度は疑似体験や感情移入がされるものなのだろう。そしてその対象は必ずしも自分と同じ性別である必要もなく立場も自分と似ている必要はないんだなーとこのドラマを観て思った。

今日の一曲

ジョン・レノンの「Woman」に行くと見せかけて、アン・ルイスの「WOMAN」



では、また。
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