頭の中は魑魅魍魎

いつの間にやらブックレビューばかり

『世界がわかる宗教社会学入門』橋爪大三郎

2014-01-30 | books
宗教って、分かったような気になっていたけれど、よく考えてみれば、よーく考えてみれば、ちっとも分かってなかった。著者の橋爪氏の名前はよく目にしたけれど、一度も読んだことがなかった。先日ラジオにゲストで出演して話していたことが割とストンと入ってきたので、何か読んでみようと思って読んだ。ユダヤ教とはなにか、キリスト教とはなにか、宗教改革、イスラム教、初期仏教、大乗仏教、中国と日本の仏教、儒教、尊王攘夷についてかなり分かりやすく説明してくれる。東工大での授業を本にしたそうだ。

あまりにも分かり安すぎて、ほんとかよーとツッコミを入れたくなった部分もあったけれど、全体としてはこれだけの分量にこれほどのことが詰め込まれていて、宗教全体を知るには、非常に上質のテキストだし、ツッコミを入れたくなったり、詳しく知りたければ別の本を読めってことだろう。(Amazonでの、出鱈目だというレビューはそういう意味で当たってない、しかし入門書ではないという別の人のレビューは当たってると思う。宗教について、偏見でもいいのである程度の考えを持っている方がより楽しめると思う)

「死んだらどこへ行くのか」について、死後の世界のことを考えるのが宗教だと日本人は思っているけれども、世界の名だたる宗教は「死後の世界など存在しない」という具合に解決すると、著者は言う。キリスト教は、最後の審判の日に死者は全員復活して、裁きを受ける。死者は墓地で寝て待っているとする。イスラム教も同じ。ユダヤ教では死んだら土。ヒンドゥでは輪廻するから死語の世界はない。儒教は、徹底した現世主義なので、死後の世界なんてどうでもいいと考えている、と著者は書いた上で、

日本人は、復活や輪廻を信じていないし、現世中心主義に徹するほど合理的でもないので、なんとなく死後の世界があるような気がしている。未開社会にはよくあるタイプの感覚ですが、文明国にしては素朴すぎます。素朴でも別にいいと思いますが、宗教を信じる世界の人びとが、日本人と同じような感覚(死生観)をもっているだろうと勝手に思いこむのだけはやめましょう。

うーむ。耳が痛い&スルドイ。なぜを、深く考えないというのが、いい意味でも悪い意味でも日本人的なのだろう。お気楽に生きるには悪くないし、全員が一丸となって何かに突き進むには悪くない。しかし真の知的活動をするには向いていない国民性なんだろうと思う。温泉に浸かって「あぁー」と思わず言ってしまったり、美味しいおしんこを口にしたり、治安の悪化する外国のニュースを見ると、「あー俺は日本人だなー。てか日本人でよかったなー」などと思うけれど、同時に日本人であるということは、世界の究極の原理を発見したり、国家の100年後のグランド・デザインを描いたり、正しいことを極めたりするには、脳の土壌には栄養が足りないのかも知れない。(だから結局、私はアホなのだろうか)(シューカツなどという非合理的で、誰が得しているのか分からないシステムをみんなで導入し、疲れ果て自分の頭でモノを考えられない大学生を大量にこの世に作り出しているという意味不明な現象の根底はその辺だろうか)

おっと脱線してしもうた。

読んでいて、目から最も大きなウロコが落ちたのは、浄土宗とゾロアスター教の関係。

浄土宗が信仰する阿弥陀仏はAmitabha(無量光)とかAmitayus(無量寿)の音訳で、寿命無限の光り輝く仏陀という意味だそう。最新の研究によると、その実態はイランに広まっていたゾロアスター教が仏教化したものだそうなのだ(なぬっ。しかし、火を信仰するのと光を信仰するのは似ているなー)多神教である一般的な仏教とは違って、阿弥陀しか崇拝しない一神教である浄土宗は、同じく一神教であるゾロアスター教と共通している(なるへそ)さらには、ゾロアスター教が東はインドに伝わって、この大乗仏教の阿弥陀信仰になり、西はキリスト教になったと考えると、日本の浄土真宗の一向一揆とドイツの宗教改革(農民戦争)は兄弟同士になる(なにー!確かにそうだなー。加賀の一向一揆は1488年から1580年。石山の合戦は1570年から1580年。ルターの宗教改革は1517年。ドイツ農民戦争は1524年。時代はほぼ同じではないか。日本の場合の敵は信長で、ヨーロッパでは神聖ローマ帝国皇帝カール5世&ローマ教皇レオ10世ということになるのだろうか。人間のすることは古今東西変わらないということなのだろうか)

なんつーか、私のような、「知ったかぶり」あるいは「分かったような気になっているだけ」の人にはかなりオススメ本だった。

今日の一曲

前に紹介したような気が若干しないでもないけれど、ブログ内検索してみたら引っ掛からなかったので。信仰、祈りと言えばこれ。Bon JoviでLivin' On A Prayer



では、また。

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店名にツッコんでください78

2014-01-28 | laugh or let me die
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『皇帝フリードリヒ二世の生涯』塩野七生

2014-01-27 | books
塩野七生はあまり読んだことがない、と言ったら家人に「ローマ人の物語」結構読んでたんじゃない?と言われてしまい、自分の記憶に自信がない今日この頃、いかがおすごしでしょうか。

長い長い「ローマ人の物語」と較べると上下二巻だけなので入りやすそうと読み始めてみると、わりと事実が列記されている感じが強く、それを塩野七生がどう考えるかはああまり書いてないなーという印象。フリードリヒ二世にはそもそもあまり興味がなかったし、興味をひくようなエピソードはそんなにないなー、と思いつつ(多少ガマンしつつ)読んでいたら、第四章の「無血十字軍」から面白くなってきた。

スルタン・アル・カミールとの交渉。13世紀に話し合いによって異文化間のもめ事を解決しようと試みそして成功した人たちがいたのかー(いたのかも知れないけれど知らないねー。)パレスチナとイスラエルの和平交渉、(ノーベル平和賞をもらったわりに、あまり和平に寄与してなかったような気がしなくもないけれど)700年も前に同じような場所で同じようなもめ事があり、同じような交渉があったわけか。人のすることはやっぱり変わらないってことなわけよね。

てな感じで重厚な本の割には薄いレヴューにて失礼。

今日の一曲

フリードリヒはじゃがいもの栽培を奨励したそうだ。いもと言えば、南こうせつで「妹」



では、また。

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『神聖ローマ帝国』菊池良生

2014-01-25 | books
ドイツのようなドイツでないような国。何が神聖なのかよくワカラン国。何がローマだかワカラン国、神聖ローマ帝国。古代ローマ帝国のような国にしたいと思ったはいいけれど、現実はやっぱり追いつかない。帝国内の諸侯の力が強すぎて求心力がないのだ。西国の大名の力が強く幕府の力が相対的に弱くなっていた幕末の日本のような状況が800年も続いたというある種の奇跡のような国。そんなミラクルな国の生い立ちから死亡までを一冊にまとめたという、ありそうでなかった本。

ものすごく分かりやすくものすごく面白い。今まで読んでなかったのが不思議なくらい。面白いエピソードもたくさんあって、

ヨーロッパを支配した一族と言えばメディチ家とハプスブルク家を連想するけれど、そのハプスブルク家は神聖ローマ帝国に何人も皇帝を送り出している。しかし当主ルドルフ4世は自身は単にオーストリア公にすぎないはずなのに、

偽文書作成の1359年、途方もない夢想家にして冷たい打算家であるルドルフは突然いろいろな称号を纏い帝国の舞台に現れた。余は、オーストリア公、並びに帝国狩猟官、シュヴァーベン公、アルザス公、そしてプファルツ大公である、と。後ろの四つの名乗りは明らかに官名詐称であった。しかしそれにしても一番最後の大公とは何か?誰も聞いたことのない官名である。確か、俗世には公爵より上の位はないはずだ。

しかし後のこの「大公」という官名は認められてしまうことになる。なぜそうなってしまったのかは読んでのお楽しみとして、こういううつけものが出てくる国はステキだ。

カノッサの屈辱に至る過程も面白く読んだ。

トスカーナ伯のボニファツィオは暗殺された。寡婦ベアトリーチェは三人の子を抱え、梟雄ゴートフリードと再婚する。ゴートフリードは勝手に周囲の領地を切り取っていたので、肯定ハインリッヒ三世に攻められ、結果逃亡する。ベアトリーチェは皇帝にトスカーナ伯の所領安堵を願い出るが拒否され、娘マチルダとともにドイツに連行される。そして他の二人の子供は死んだ。復讐に燃える10歳のマチルダ。そしてハインリッヒは死ぬ。ベアトリーチェとマチルダの捕囚は解かれ、ゴートフレードはイタリアに戻った。暗躍するゴートフレードはローマ教皇庁でも力を持って、ついに実弟を教皇につけた。(このあたり、まるで斉藤道三のよう)ハインリッヒ亡き後は、6歳の息子ハインリッヒ4世と摂政として母アグネスが政務を担う。しかし教皇を決めるにあたって、皇帝の力を全く発揮できなくなってしまった。ローマ教皇権が皇帝支配から脱却するのにさらに寄与するのはイルデブランドという男。貧農の生まれから、25年6人に教皇に仕え枢機卿にまでになった。ゴートフレードのような男も利用できるリアリストはついに教皇になる。グレゴリウス七世として。ハインリッヒは結婚しそして19歳となった。諸侯も教皇も全く自らの頼りにはならない。何とか諸侯と教皇に対抗したい。そのために自分の個人的な友人を集めて側近にした。これに諸侯は怒る。それを皇帝権復活のチャンスと見て、オストマルク辺境伯、バイエルン公、ザクセン公に襲いかかるハインリッヒ。ところが、ハインリッヒの義兄シュヴァーベン公ルドルフはザクセン攻撃に難色を示す。義兄ですらそうなのだから他の諸侯がこれに賛成しないことは言うまでもない。すると妙な出来事が。ある男が自分はハインリッヒにルドルフの暗殺を頼まれたと言うのだ。そしてその男は精神錯乱して死んでしまった。真相は闇へ。グレゴリウスは教皇権の皇帝からの独立を果たすのは今だと皇帝の顧問を務める司教を聖職売買を理由に破門にした。すると皇帝はドイツの司教にグレゴリウスの教皇廃位を決議させた。皇帝が利用したのはスキャンダル。ゴートフレードの死んだあと仕方なくゴートフレードの息子と結婚したマチルダ。彼女と教皇が不倫をしていると言うのだ。

ふぅ。以上がカノッサの屈辱の前哨戦。

対立する皇帝と教皇。教皇は伝家の宝刀を抜いた。皇帝を破門したのだ。諸侯としては自分の主君を倒すのに躊躇するものがあったが、破門されたのなら良心に悖ることなく倒せる。たまらないのは皇帝。追いつめられた皇帝ハインリッヒ4世は極秘でドイツを脱出し、妻と3歳の息子を連れて12月アルプスを越えて、教皇が滞在するカノッサ城へ。破門を解いてもらうため雪の中裸足で三日間立ち続けた。城には教皇とともにマチルダの姿が。カノッサはマチルダの居城なのだ。かつて自分と母親を監禁した男、自分の弟と妹を殺した男が今は私が見下ろす中屈辱に震えている。

破門を解かれたハインリッヒが和解するかと言えばそうでもなく、また皇帝権を振りかざし、教皇VS皇帝の熾烈な戦いは続く。ってな感じ。

こういう下世話な話は大好き。

今日の一曲

神聖と言えば、シンセ。シンセと言えば、Yellow Magic Orchestra 1983年のライブ映像から、TechnopolisとRydeen



では、また。

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『インフェルノ』(上下)ダン・ブラウン

2014-01-24 | books
ハーヴァード教授のラングドン、気が付けばフィレンツェの病院にいた。頭を撃たれたらしい。暗殺者から逃げなくてはならない。助けてくれるのは医師のシエナ・ブルックス。ラングドンのポケットから知らない物が出て来た。バイオハザードのマークがついている。しかも指紋認証式だ。ラングドンの指紋をあててみたら、中から出て来た不思議な印章。そして現れるボッティチェルリの描いた地獄の見取り図。よく見ればオリジナルと少し違う。その意図は…そして、ラングドンを狙うのは「大機構」という大がかりな組織。依頼人に頼まれて彼を狙っている。しかも依頼人は自殺している。その依頼人の意図は何か…

うーん。「ダヴィンチ・コード」は面白かった。「天使と悪魔」も。しかし「ロスト・シンボル」あたりから失速気味。

読みやすいことは読みやすい。すらすら進む。しかしやや薄っぺらいかな。やっと色々分かって来てちょっとは興味を持てるかなという頃は、もう上巻が終わるころ。最終回が一時間半のスペシャルになったがゆえに、間延びしてしまったドラマのようだった。ダンテと「人口爆発を食い止めたい科学者」というネタをやや無理矢理にくっつけた印象。

個人的には、人口爆発はゆゆしき問題なので、どうやって解決しようと考える人物が出てくるかは非常に興味があるところなのだけれど、ハリウッド的ドタバタになってしまった。(映画になれば観やすいかもしれないけれど)小説としてはちょっと…

もうダン・ブラウンは読まないかな… (基本的にはこのブログでは、読んでつまらなかった本は取り上げていません。しかし本作のような「売れている」とか、かなり著名な作家の作品の場合、もしくは他の理由がある場合は取り上げることもあります)

今日の一曲

インフェルノと言えば、パニック映画の傑作「タワーリング・インフェルノ」主題歌はモーリン・マクガヴァンの「タワーリングインフェルノ 愛のテーマ」



映画がテレビで放送されたとき、食い入るように観た。あの頃、映画は面白かった。いや、あの頃、映画が面白いと思える自分がいた。

では、また。

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『グアテマラの弟』片桐はいり

2014-01-22 | books
女優片桐はいりによるエッセイ。「わたしのマトカ」も非常によかったけれど、こっちも負けず劣らず。

だいぶ前に、弟が訪れたグアテマラを気に入って、語学学校の先生と結婚してしまった。そんな弟に会いに行く話が中心。せかせかした日本とのんびりしたグアテマラ。どっちが幸せか選ぶようなものでもないけれど、自分が暮らす場について考えてみるヒントにあふれている。

働けることが尊い国と、休めることが尊い国。その違いをのみこむには、わたしはこの国で、まだ少し日が足らなかった。

グアテマラの子供、特に男の子はレディーファースト、大人の男のように振舞う。その様がかわいくて、おかしくてたまらないのだが、それについては

思うに、彼らはきっと自分が子どもだということに気づいていないのだ。

柔らかいユーモアと優しい心、そしてものを深くと考える心がエッセイに全体に透き通る。

短篇のようにいくつものエッセイが詰め込まれていて、構成や言葉の使い方など凡百の作家以上のものがある。「靴と愛人」というタイトルのラストのオチには思わずうなってしまった。巧い。

あらためて、この人の内面てすごくいいなと思った次第。ごめん。内面以外については…以下省略。

今日の一曲

グアテマラ、と言えば、コーヒー。コーヒーと言えば、黒い。サンタナで「ブラック・マジック・ウーマン」



では、また。

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『夏を殺す少女』アンドレアス・グルーバー

2014-01-21 | books
オーストリアの弁護士エヴェリーン・マイヤース。事務所は報酬が多い事件をやらせようとするが、本人は刑事事件がやりたい。エヴェリーンの知り合いの会社が訴えられた。手掛けている工事中のマンホールに落ちた人が亡くなったからだ。事故なのだろうか。調べてみると怪しげな女が。ドイツでは刑事、ヴァルター・プラスキー。精神病院で少女が亡くなった件を担当。自殺したように見えるが、左利きが左腕に薬物を注射するだろうか。オーストリアとドイツそれぞれの捜査が進んでいくうちに、重なる一人の女性の姿…

誰がやったかを読むフーダニットよりも、なぜを読むホワイダニットとしてなかなか悪くなかった。

酒寄進一さんの訳だとつい手に取ってしまうというか、面白さが2割増しに感じてしまう部分はないことはないかも知れないけれど。

読み終わってから、数週間経ってしまった。今思い出してレビューを書こうと思っても何も出て来ない。すまぬ。

今日の一曲

殺すと言えば、Roberta Flackで、Killing Me Softlyで



では、また。

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マンガ『失踪日記2 アル中病棟』吾妻ひでお

2014-01-19 | books
アル中になって、入院するマンガ家の入院生活をかなりリアルに描いたマンガ。

「失踪日記」の存在は知っていたけれど読んでなかった。なぜかこっちを先に読むことになった。たぶん、自らがアル中の自覚、もしくは恐怖を背中にしょっているからではないだろうか(本物のアル中はこんな本読まないだろうと、自分をフォローしておく)

もしもアル中になって入院したらこんな生活が待っているというドキュメントとしてすごく読ませるし、笑えるマンガとしても十分に楽しんだ。

たとえ地図があっても俺は目的地には辿り着けない

という言葉が、私の脇腹のあたりにすぅーっと刺さった。

最も感心し、そしてリスペクトするのは、作者が自分のことを妙に自虐的に描くのでもなく、かと言ってえらそーに描くのでもなく、客観的に自分を見てそして描写していること。これが単なるドキュメントでもなく、ギャグマンガとも違う、珍しい作品にしている。

アル中になるのはこわいなーとも思ったけれど、なってしまっても、(自傷したりせず)救ってもらえるかも知れないからあまり悲観しなくてもいいんだよーとも思った。(ホームレスに対して、「あんな社会のゴミは撤去しろ」的に言う人はいるけれど、社会からドロップアウトしても、死なないでなんとか生きていけるというセーフティネットを示す存在として、その存在の意義は充分にある、と思うんだけれど、飲んだときに話したりしても同意されたことはないなー。ま、いいか)

今日の一曲

アル中とは違うけれど、(ドラッグをやると)紫の煙が頭の中にあると歌う、若くして亡くなったギターの伝説。Jimmi HendlixでPurple Haze



Youtubeでは別の映像もあって、どっちにするか迷った。ライブのグルーブ感はそっちの方がより感じられるのだけれど、アルバムに忠実(なような気がする)こっちにした。ご興味のある方はぜひそっちも。

では、また。

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『ペテロの葬列』宮部みゆき

2014-01-17 | books
今多コンツェルンの会長の女婿で広報室に勤務する杉村三郎。仕事で上司とバスに乗ると、バスジャックに巻き込まれた。犯人は年寄りの男性。しかし凶悪そうには見えない。しかも、事件の後に慰謝料をくれると言う。確かに事件の後に、慰謝料は送られてきたものの解せない。色々調べてみると、出て来た現代の闇とは…

うーん。私が宮部みゆきに求める、社会的な話題、魅力的な登場人物、ミステリとしての謎解きのカタルシス、その全てを満たしてくれる作品ではなかった。特にミステリとしては弱かったと思う。本の末尾に参考図書があげられていて、このタイトルを先に見てしまったので、ネタが分かってしまったというのも大きいはず。そのネタ以上のネタが出て来なかったのが痛かった。末尾は先に読まない方がいいです。

しかし、独特の宮部ワールドはやはり健在で、「人間てわるいもんじゃないよね」という宮部作品の根幹に触れる快感は否めないし、あちこちに思わずメモしてしまう言葉がある。

極端に閉鎖的な上下関係のなかでは、ちっぽけな権力を握ったちょっとばかり上位の人間が、それにふわさしい能力も資格もないのに、下位の人間の生殺与奪の権を完全に握ってしまうことがある。私はそれが嫌いなんだ。

「真ん中がないんだよ。空っぽか、みっしりか。そうでないと、あんなふうに人を騙すことなんてできないような気がする。言い換えるならそれは<自分がない>か、<自分しかない>ということではないか。

自分がないか、自分しかない、か。今度どっかで使おう。

「あたしぐらいの歳になったら、間違ったと思っても、もう人生をやり直すことなんかできないの。ただ、終わらせることしかできないのよ」

もう人生を、やり直せない、終わらせるだけ。うーむ。ミステリ的には弱くても、私はミユキストなので、読み続けることには変わりませぬ。

今日の一曲。

ペテロ。英語読みすれば、ピーター。と言えばこれしかないでしょう。Peter GabrielでSledgehammer



今頃ふと思ったのだけれど、名前がキリストの弟子ペテロで苗字が大天使ガブリエル。この大げさな氏名は、日本的に言えば、徳川卑弥呼みたいなもんだろうか。

では、また。

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昨日のドラマ「明日、ママがいない」

2014-01-16 | film, drama and TV
親がいない子たちの物語。芦田愛菜はもう大女優の風格。「Woman」ではのぞみちゃんを演じた鈴木梨央の、ちょっとビビったときの表情がすごくいい。この二人は、アメトークで見かける、出川&狩野英孝のコンビよりもずっと大人に見える。それはいいとして、

タイトルを眺めていたら、

明日、ママがいない

あしだ、ままがいない

あしだ、まながいない

というどうでもいい脳内変換がなされた。

どうでもいい話。すまぬ。

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『日本の歴史をよみなおす』網野善彦

2014-01-15 | books
前からずっと読もうと思っていた本。いや、正確に言うと、前に薦められてパラパラめくってみたのだけれど、その面白さがちっとも分からなかったので読まなかった本。やっと少しは面白さが分かってきたみたい。

東大を出た後、澁澤敬三の日本常民研究所で研究→都立北園高校の非常勤講師→名古屋大の助教授→著作「無縁・公界・楽――日本中世の自由と平和」が売れる→神奈川大短大教授 というような経歴を持つ著者。学会ではアウトローになるらしい。アウトローの書く著作が面白いと感じるためには、それまでに主流の考えをインプットしておかないといけないわけで、私にはその時間が必要だった。

筑摩書房の編集者に話したことがもとになって書かれているので、すごく読みやすい。

市場とは「無縁」の場所であった / 「ケガレ」とは均衡のとれた状態に欠損が生じた場合に起こる畏れ、不安と結びついている / 天皇は「天皇職」を世襲的に継承する人のこと / 天皇は持統以来火葬、聖武以来仏式だった。昭和天皇の葬儀や墓は、古墳時代のやり方を復興しているだけなので、これを「古来の伝統」と呼ぶのはおかしい / 日本では古来、自給自足の生活なんてできっこなかった / 中世で農民が人口の大半をしめていたというのは間違い

というのが私の気になった部分。

「無縁・公界・楽」は家にあったと思ったのだけれど、見つからなかった。代わりにだいぶ前に読んだ(ような気がする)宮本常一の「忘れられた日本人」や渡辺京二の「逝きし世の面影」、ブルーノ・タウトの「ニッポン」が出てきた。どれも面白かった(ような気がする。)再読してレビューを書いてみようかな(と言うのはタダですよね。)

今日の一曲

日本の歴史… 70年代から80年代にかけて現れては消えていったニュー・ウェイブ。その中の一つ、日本では結構人気のあったバンド、ジャパンをご存じだろうか。曲は「ジェントルマン・テイク・ポラロイド」



当時、何と薄っぺらな音楽だと思っていたけれど、今あらためて聴いてみると・・・やっぱり薄っぺらい。音楽なんて所詮薄っぺらいモノなのだから、それでいいのだ、という意見もあるだろうけれど、その辺りはどうなのだろう、よく分からない。

では、また。

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『死の棘』島尾敏雄

2014-01-13 | books
ずっと積ん読本山脈の中に鎮座しているのを、たまに出してはパラパラとめくり、そしてそっと山脈に戻すを繰り返してきた。しかしどういうわけか突然読む気が湧いてきたので読んでみた。

夫トシオ、妻ミホ、子どもは伸一とマヤ。トシオは作家、家庭を省みずにいた。トシオの浮気がミホにばれてからミホは狂ったようになった。延々と続く愚痴、延々と続く叱責。少し元に戻ったと思えばまた狂ったように喚く。そんなミホのと生活を赤裸々すぎるほど赤裸々に描いた私小説…

うう。予想はしていたけれど、想像以上の猛毒だった。

ミホ夫人が実際に具合が悪くなったのは1954年頃のことらしい。高校の非常勤講師をしていた島尾は翌年にやめねばならず、それからあちこちに引っ越しをしていた。本書に描かれたことは最初は短篇でいくつか書かれていたそうで、1960年頃のこと。長編としてまとまって出版されたのは1977年。発病から20年は経過していた。

ミホの言動は読んでいて、恐怖を通り越す。そんじょそこらのホラーでは太刀打ちできない。しかも、トシオは自分のせいだという罪悪感があるからその恐怖から逃れることもできず、さらに恐怖を増す。

ミホの「病気」は誰にでも起こり得るものだとすれば、決して非日常ではないのだ。(ホラーがある意味怖くなかったりするのは非日常だから)

ひらがなやカタカナのの使い方がに巧い。ミホの台詞をところどころひらながが多めにしてみたり、子どもたちのセリフで「カテイノジジョウ」という表現があって、なんともそれが絶妙にその場面にマッチする。

いわば救いのない物語なはずなのに、同時にどこか救われるような気持にもなる。それは、「愛」があるからなのかも知れない。結婚、恋愛、家族について想ったり、自らの身の振り方を思案したり、現実の周囲の他人について考察するきっかけをたくさんくれる。読中、そして読後に重たいモノが残り、そして様々なことを考えてしまう。まさに、読んだ人と語りたい本だ。

読んだら絶対結婚したくなくなる…かも知れない。けど責任は持ちません。

私としては、長年読まなければ読まなければと思ってきた義務感がやっととれて、喉につかえていた棘が抜けたような気分。

今日の一曲

トシオの浮気、それはaffair。と言えばスガシカオで「AFFAIR」



事務所オーガスタのオフィシャルチャンネルなんだけれど、彼はこの事務所やめちゃったのでは…

では、また。

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『ワイマル共和国 ヒトラーを出現させたもの』林健太郎

2014-01-11 | books
帝国だったドイツが第一次大戦の敗戦とともに革命が起こり、ワイマール共和国が生まれた。史上最も民主的とも言われる憲法を持っていたこの国がどのようか過程で発生し、そしてどのような過程で崩壊していったかを新書一冊分で説明してくれるという、必要にして十分な本。

ヒトラーが政権についてからについては、あちこちで読む機会があった。どれが単なる都市伝説であってどれが学術的に正しいことなのか判別できないくらい。フィクションの世界でも、「ブラジルから来た少年」のような、ヒトラーをネタにしたものはたくさんある。こういう言い方は「政治的に正しい」かどうか不明だが、20世紀の多くの映画、小説などの娯楽作品は、ナチスやヒトラーを題材にしたりヒントを得ているので、ヒトラーが登場しなけれがエンターテイメントの世界は今とは全然違うものになっているはずである。ヒトラーが登場しなければつまらないものになっていたと言うつもりはないけれど。

極めて民主的な国だったはずのワイマール共和国が一気に人類史上最も民主的なものからは遠いナチスドイツに変ったその様子。プラス100度がマイナス100度へと落下していく様を読むのは実にスリリングだった。他に読んだ本は不要な情報が多かったりして得るものが少なかったのだけれど、これは本当に読みたいことがズバリ書いてあった。古い本なのにいまだに新刊で買えるのは素晴らしい。

共和国末期、無能にして無脳な大統領ヒンデンブルク、野心しかない首相パーペン、政権を裏で操ろうとするだけの陰謀家、シュライヒャー。三人の理想も思想もない男たちがいかにヒトラーに食い物にされていったか。このラストを読むだけでも充分に価値がある。ナチス台頭については、社会民主党がどうして阻止しようとしなかったのかという非難については聞くが、これを読む限り、責任の50%はヒンデンブルク、20%がパーペン、20%がシュライヒャー、10%がドイツ国民にあるという印象を持った。かなり雑な印象に過ぎないので、この件については継続してもうちょっと他の本も読みたい。

今日の一曲

ヒンデンブルクとかドイツとか言葉でダジャレに持って行こうと思っても何も思いつかない。Youtubeにたくさんあるヒトラーのスピーチでも。



言っている内容どうこうよりも、これだけの迫力でスピーチされてしまえばつい国民も騙されてしまうのではなかろうか。日本がアメリカと戦争をしていたということを知らない日本の若者が見るとどういう感想を持つのだろうか。あるいいはネット右翼、ヘイトスピーチに快感を覚える者たち、嫌韓嫌中の者たちはカッコいいと思うのだろうか。

では、また。

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『悪鬼の檻』モー・ヘイダー

2014-01-09 | books
「死を啼く鳥」の続編。27年前、兄が失踪した事件をずっと引きずっている警部キャフリーの今回の事件。。父親と母親が監禁され、8歳、9歳ぐらいの息子が暴行された上に行方不明になる事件が続発している。トラウマを抱えるキャフリーがたどり着いた、おぞましい真相とは…

うーむ。うーむ。なんだろうこの感じ。読んでる途中、特に後半。吐きたいのに吐くものがないから、胃液だけがこみ上げ、胃液を吐き出しながら涙がボロボロ出てくる。そんな感じ。

8歳、9歳ぐらいの少年に対する性犯罪、ぐらいに思っていたら、(それだってかなり深刻だけれど)、それよりもずっと奥深くおぞましい、おぞましいものだった。こんな人間がいるのか。

みなさんにオススメできるような本じゃない。前作を気に入り、そして人間の奥底に潜む、真の気持ち悪さに触れてみたいひとだけしか楽しめない。読んでいる最中、読後、毒を飲んだように、自分の顔が真っ青になっているという自覚があった。読中読後 毒中毒後 まさに劇毒小説だった。刺激のない毎日に、強烈なカツを入れたい場合でも、副作用に注意。

今日の一曲

少年を愛する男と言うと、どうしてもこの人を連想してしまう。



マイケル・ジャクソンで一番好きな曲「ビリー・ジーン」

では、また。

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店名にツッコんでください77

2014-01-07 | laugh or let me die
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