頭の中は魑魅魍魎

いつの間にやらブックレビューばかり

45歳独身無職女性物語『ミチルさん、今日も上機嫌』原田ひ香

2014-12-30 | books
45歳、ミチル。いわゆる「美魔女」である。バブルの頃にはずいぶんいい目に会ってきた。男とも色々つきあった。結婚したこともあった。でも他に好きな男ができたから別れた。そして気づけば、無職。そんな彼女のかなりリアルな生きざまとは……

これは収穫。すごくよかった。表紙の漫画チックな感じから想像するよりも中身は読み応えあり。

こういう人っているよね、から、こういう人っていやだよねー、を経て、いつの間にかミチルを応援している自分がいる。

彼氏と別れたミチル。

恋愛していないとすることがない、というのも発見だった。彼と会ったり、電話をしたり、という時間だけでなくて、美容院に行ったり、ネイルサロンに行ったり、服を買ったりする時間も必要なくなってしまう。何をすればいいのだろうか。

恋愛しないとすることがないような女性だから、こんな風になっちまうんだよーと軽くツッコミを入れつつ読む。

「だって、しょうがないじゃない」とミチルは意味もなくつぶやく。

あかんあかん。「だってしょうがないでしょ」が口癖の人は幸せになれないんだよ。やめなよーその口癖、と思いつつ読んだりもする。

「君はこれからも、こういう気持ちや時間がずっと続くと思っているかもしれない。人生が終わるまでずっと続く、と。でも、それは違う。そういうことができるのは、人生のほんのわずかな時間だけなんだよ。それに気が付いた時には遅いんだ。人生は終わりに差し掛かっている」

と先輩に言われたりする。

しかし、ミチルは頑張りそして人生の失点を取り戻そうとする。

女の幸せは、「結婚」にあるのか「子供」にあるのか、「仕事」にあるのか、「自由」にあるのか。

読みやすいのに、考えさせる。苦いのに、甘い。そんな大人味の小説だった。

ミチルさん、今日も上機嫌

今日の一曲

バブル。と言えば、バブルガム・ブラザーズでWON'T BE LONG



では、また。
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『銀河英雄伝説5 風雲篇』田中芳樹

2014-12-28 | books
10巻+外伝5巻の全15巻。やっと5巻まで来た。先日、知り合いから「銀英伝は高校のときに夢中で読みましたよ」と言われた。自分が高校生のときに堪能できるだけのリテラシーがあったかと思えば、たぶんなかったと思う。今が読むべきときなのだろう。

ラインハルト率いる帝国軍とヤン率いる同盟軍の戦い。特にラインハルト本人とヤン本人の激突が本巻。

気に入った箇所を以下に。

「私にとって政治権力というやつは下水処理場のようなものさ。なければ社会上、こまる。だが、そこにすみついた者には腐敗臭がこびりつく。ちかづきたくもないね」

古来、人間の怒りのおよばないところに正義が存在しえなかったのと同様、人間の能力のおよばないところに成功は存在しないのである。

ヤン提督が彼に教えてくれたことがあったではないか、「テロリズムと神秘主義が歴史を建設的な方向へうごかしたことはない」と。

皇帝とか貴族とか聖職者とか、働く者たちに養ってもらわねば生きていけないような連中を、養うがわの人間たちがしばしば崇拝するというのは理解しがたい矛盾だ。

国家というサングラスをかけて事象をながめると、視野がせまくなるし遠くも見えなくなる。

「わたしにはわかりません。あなたのなさることが正しいのかどうか。でも、わたしにわかっていることがあります。あなたのなさることが、わたしにはどうしようもなく好きだということです。

うおう。ラストの台詞。言われてみたいものだ。

今日の一曲

宇宙。と言えば「2001年宇宙の旅」 使われた曲の一つは、リヒャルト・ストラウスの「ツァラトゥストラはかく語りき」 ドレスデン国立歌劇場管弦楽団の演奏で、冒頭だけ。



では、また。

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『しょっぱい夕陽』神田茜

2014-12-26 | books
48歳の主人公ばかり登場する短編集。

妻の携帯電話を見たら、浮気していることが分かった。でも何も言えない。役所勤務の自分が行くいつもの居酒屋。そこには中学の同級生たちが集まっていた。でも自分には誰にも気づいてくれない。悲しい男はどうするか…<エフの壁>
息子が下手なのにサッカーチームに入っていて、あたしは保護者委員になってしまい、毎週土日は早起きして弁当作って練習に参加し雑用もこなさないといけない。しかし腹が立つのは花田さん。保護者のリーダー然として全てを仕切ろうとする。でもあたしはコーチに恋しているから、肉巻きおにぎりで…<肉巻きの力>
冷凍食品会社で家庭をかえりみないで働いているうちに、バツイチになってしまって、気づけば閑職へ。生きる意味を失いつつあったときに貰ったのは、毛糸。編み物にハマってみると…<バナナの印>
バツイチ、保育士。若い保育士や保護者とうまくやっていけない。ある落語家の出待ちをするほどに好きになってしまって妄想が止まらない…<もえぎの恋>
妻子がいる中学教師。自分は女性生徒から恋愛対象になってしまうことが多く、恋が叶わないと知るとその生徒に怨まれる。果たしてそんなにモテるような男なのか…<かみふぶきの空>

妻の浮気相手と僕の、決定的な違いがそこだ。あの男からにじみ出るような存在感は、四十代の男としては普通は身に付いているものだろう。僕は逆に存在を消そうとして意識して生きてきた。存在感のない透明ロボット。それが僕という男だ。

こんな乙女心は誰にも言ってない。言えるわけがない。「息子のサッカー練習場は恋のピッチ。コーチとの会話は恋のドリブル。遠くから視線が三回合えばハットトリック」そんなキモイことを、このおばさんが考えているなんて。でも。

なぜだろう、感じることが薄ぼんやりしている。そりゃあ、年のせいなのは明らかだが、こんなにも感性というものは鈍るものだろうか。好きだった映画もまったく観ていない。チケット屋の前に立ち面白そうなものを探すのだが、観たいと思うものがまるでない。本も読まなくなった。老眼が進んで字が見にくくなったこともあるがそれだけではなく、文字を読んでいるはずなのに、内容が脳まで届かない。

「男ってさ、ブラとショーツが違ってるとがっかりするってホント?」
「そんなのオヤジでしょ。逆に、揃ってるといかにも勝負しにきたって感じで引くって男のほうが多いんじゃない」
「そうだよね。普通、揃えてないよね」
「ないない。上下ばらばらだよ」
「いつも揃ってるひとなんて、発情しすぎ」

悲しい生き方とハッピーエンド。季節がら身も心も冷え切ってしまうけれど、読むとほっこりと、ぬくぬくとさせてくれる。

言葉の使い方や筋の進み方、そしてオチ。読んでいてうれしくなるそんな小説だった。

しょっぱい夕陽

今日の一曲

夕陽… 愛は日の光よりも明るく燃えると歌う、Aqualungで"Brighter Than Sunshine"



では、また。

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プレゼントした本

2014-12-24 | days
青山ブックセンターの本店がすごくいい。押している本に気合が入っていて、ついつい長居してしまう。(有隣堂の本店と真逆。ただ売れる本と適当に並べているだけ…) 先日長時間立ち読みしてしまったので、悪いから何か買って帰ろうと思ってうろうろしていたら、見つけたのが「Say Hello!」 家人へのプレゼントとして買った。

糸井重里さんちのジャックラッセルテリアのブイヨンがまだお母さんや姉妹と一緒に暮らしていた頃に飼い主さんが取った写真を集めた写真集。

Say Hello! あのこによろしく。 (ほぼ日ブックス)


ほぼ毎晩のように眺めている。貰った方よりもあげた方が楽しんでいるかも知れない。

かわいいということだけじゃなくて、子犬たちが遊んでいる姿から色々と思いつくことがあったりもする。

でも、かわいいのだけれどね。いや、ほんとかわいいね。個人的には四女のヨンコが好き。

ちょっと前に出た本があっと言う間に手に入らなくなってしまう昨今。2004年に出たこの本がまだ買えてよかった。

今日の一曲

そのものずばり。Deep Dishで"Say Hello"



では、また。
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『鳩の撃退法』佐藤正午

2014-12-22 | books
自分の子でない娘と妻と三人で暮らす男、幸地秀吉。二人目ができたと妻に言われるが、それも自分の子ではない… 2月28日にその男とドーナツショップで出会った男は直木賞を「2回」受賞した小説家、津田だった。今はデリヘルの送迎ドライバーをしている… 幸地と妻は突然行方不明になった… 津田のところに、古本屋のじいさんに売ったキャリーバッグが形見として戻ってきた。その中から出て来たのは、3000枚以上の一万円札。しかし床屋で使ってみたら大変なことに。偽札だったのだ。他の偽札はどうすればいいか。悩む津田…

おー!なんという小説だ。

2月28日の晩について様々な登場人物の目線で描写される。それがささっと済まされるわけではなく、現在と行き来しながらなので、そう簡単に分からずじれったい。この感じがいい。自分はMなのではないかと思ったりもする。下巻の中盤からのスピード感もすごくいい。

小説の中に、小説を書いている小説家が登場するという面白い仕掛けも楽しい。

純文学とエキセントリックにミステリーのスパイスを振りかけたような、(村上春樹+伊坂幸太郎)×√ミステリー といったところだろうか。

どう面白いか説明しにくく、どういう話か過不足なく伝えるのはほぼ不可能。そんな小説だった。

「味気ないだろ。ペンキが乾くのをただ待ってるみたいに」
「なんですか」
「人生だ」
「はあ」
「たまには本でも読まないとさ」
「それはまあ。そうですね」
「がらじゃないか」
「え?」
「本を読む人間には見えないかい」

というようなとぼけた会話だったり、

私は、ひととして、まちがったおこないをしました。その点は、認めるに、やぶさかではありません。ただし、自分の信念からしたことですから、たとえこんど、おなじ状況に置かれたとしても、神に誓って、私は、おなじことをします。

じつをいえば僕も迷っている。なぜだかわからない。さちこの世話を焼き、トイレから連れ帰ったときまでの網谷千沙の笑顔、いわば見せかけの笑顔と、われわれと別れて自分のテーブルに戻って一息ついたときの、半分以上想像だが、ひとり取り残された者の、途方に暮れた虚ろな目の表情との落差が気にかかって迷っている。もちろんこれは女好きのセックスべたの血が騒いでいるだけかもしれない。だが僕はこのとき、ほっとけないと思う。彼女をひとりにしてはおけない。たとえば、そう幸地秀吉が、望まぬ子を妊娠し途方に暮れている奈々美と出会い、おれはこの女をほっとおけないと思ったように。あるいは、話はぐんと大きくなるが世界中の数えきれない男たちがありとあらゆる場所で、ひとりぼっちでいる女を見るたびにそう思ってきたように。

女好きのセックスべた。巧い。

鳩の撃退法 上鳩の撃退法 下

今日の一曲

鳩と言えばdove 大好きだった曲、Princeで、"When Doves Cry" PVはYoutubeにはなくてDailymotionでは見つけたのだけれど、そっちはgooブログに張り付けられないのでこちらで。



この曲を聴くと、友人のノートを生協のコピー機でせっせとコピーしていた大学時代のことを思いだす。たぶん曲のリリースと同じ時代だったのだろう。

では、また。

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『約定』青山文平

2014-12-20 | books
江戸時代を生きる者たちを描く短編集。

食えなくなって江戸で用心棒をする侍。安く借りた家で道場を開いたが門弟はいない。そこへ現れた行き倒れ。助けてあげると……<三筋界隈>
藩の外から儒者を呼ぶことになった。しかし招致に反対する者もいる。儒者の警護を任された自分は、幼馴染と切り合いになるかも知れない……<春山入り>
養父は一人息子を失ったため、私はいつか婿をもらって島内の名を継ぐものだとばかり思っていた。しかし養父は私に嫁に行けと言う。夫となった男は悪い人ではないがなんだか物足りない。夫が江戸に行っている間に屋敷でトラブルが起こって……<乳房>
三年前に果し合いの約束をした。にもかかわらず相手は来ない。そして清志郎は切腹した。誰との果し合いだったのか……<約定>
名主の鑑と称えられる男の苦悩とは……<夏の日>

うーむ。無駄を削りに削った文体。架空で無名な人物たちが浮かび上がるような描写。練り上げられたプロット。完璧な小説がここにある。

どれか一つを問われたら、<乳房>が一番の好み。

歳を喰ってみて初めて、人がどう転ぶかは、あらかた運であることに気づくそうだ。もっと早く気づけばよかったが、とも口にされていたよ

気を入れて剣に精進した者ならば、誰もが己の躰に刃筋を埋め込ませている。わざわざ頭で思い描かずとも、躰が覚えていて、抜いて振れば、そこに己の想う刃筋が描かれる。そのように技と躰を研ぎあげた剣士が刀に求めるものはただ一つ、己が刃筋を邪魔しないことだ。

畢竟、人が暮らしやすい場所とは、己を分かってくれる他者がいる場所である。周りの武家が皆、能く聴く耳を持っていれば、年貢の率を落とさずとも百姓は居着くとな。


約定

今日の一曲

約定は約束。約束の土地と言えば、promised landということで、Bruce Springteenで"The Promised Land"



では、また。

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ハードSF映画「インターステラー」

2014-12-18 | film, drama and TV
近未来。天候不順と砂嵐。食料不足に苦しむ地球。とうもろこしを育てて農業を営むクーパー(マシュー・マコノヒー)は、義父、息子、娘と暮らす。生活は苦しい。ある日、クーパーと娘は極秘の宇宙計画を知ることになる。どこか人類が移住できる星がないかを探すというものだった。優秀な宇宙飛行士だったクーパーは宇宙に行ってくれないかと頼まれる。人類を救いたいクーパー。しかし娘は嫌がる。父がいつ帰って来るか分からない。相対性理論によれば高速で移動する乗り物に乗ると時間の進み方が遅くなる。すると自分が戻って来たときに既に娘は亡くなっているかも知れない。しかし宇宙へと旅立ったクーパー。人類を救うことは可能なのだろうか……

観てよかったー!と叫びたくなるような映画だった。帰宅してからも、メイキング映像を探したりしてしまった。ワームホール、ブラックホール、相対性理論、ウラシマ効果。ハードSF小説のネタがあちこちにある。たまらない。でも難しいものではないので、事前の予習が必要というほどでないと思う。たぶん。

困難に立ち向かうこと、難しい決断を下すこと、親子の愛(ネタバレを避けたいので、書けない。うおー)周囲では鼻をすすっている人がいなかったので、途中何度も目頭を熱くしてしまったことはここだけの秘密にしておいて下さい。

決して一人では観に行ってはならぬ。
観た後に誰かと語りたくなってしまうから。
一人で行くのなら、事前に、観た後すぐに語り合える友人を用意してから行くべし。




↑観終わってから見た方がいいかも。




↑こっちは観る前に聴くと、より観たくなるはず。

今日の一曲

インターステラー、と言えば「星影のステラ」 Bill Evans Trioで、"Stella By Starlight"



では、また。
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『島はぼくらと』辻村深月

2014-12-16 | books
瀬戸内、冴島。本土の高校へ船で通う4人。と周囲の人間たちを描く。

国土交通省から紹介された地方活性をアドバイスする女性。彼女と村長のおかげで冴島はIターンの人が多く住んでいる。食料品を作る会社も設立した。いわば、地方活性化の成功例。そんな島にやって来た、幻の脚本を探す自称小説家の男の話とか、元メダリストがシングルマザーとしてやって来た話、島になかった病院設立の話など様々な大きな問題や小さな問題が降って湧いてくる。

「仲良くしたくてもどうしていいかわからなくて、上からしか話が出来ない人もいる。どうして相手が自分の話に靡かないかもわからない。わからないから、自分をよく見せる話を重ねてしまって、それがさらに距離を遠ざける。そんな感じなのかもしれない」

「自分が年を取れば、もっと言葉に説得力が出て話を聞いてもらえるのに悔しいって。ね、そんなことのために、自分の若さを犠牲にしていいって思えるってどんだけなの。私なんて、二十歳すぎたらもう年だって思って、だからそれがすごく嫌なのに」

人が乗っかるのは、栄誉だけではない。人間は、自分の物語を作るためなら、なんにでも意味を見る。

これまで、故郷なのにうまくいかないのかと思ってきたのは間違いだった。そうじゃない。故郷だからうまくいかなかったのかもしれない。故郷ほど、その土地の人間を大切にしない場所はないのだ。

テレビが情報のすべてじゃないって言われても、では、他の情報はどこにあるのだろう。ネットだろうか、衣花はネットのことだって「あんな情報だけ信じて踊らされてたらバカになる」と斜に構えて言っていたことがある。では、”本当の情報”なんてどこにもないじゃないか。

冴島では母子手帳のデザインを独自のものにして、お母さんたちがたくさん書き込みができるようにしている。そしてお母さんたちは欄からはみ出す勢いで多くの言葉を記入する。島では仕事がないから子供たちは高校から島を出ることが多い。そのときに、お母さんたちはその母子手帳を子供たちに渡す。って話がすごくいいなーと思いながら読んだ。

今日の一曲

読みながらずっとこの曲が頭の中を流れていた。MONKEY MAJIKで「空はまるで」



では、また。
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店名にツッコんでください95

2014-12-14 | laugh or let me die
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『ナオミとカナコ』奥田英朗

2014-12-12 | books
小田直美、葵百貨店に就職し、もう七年。外商部で金持ちの相手をしている。大学時代の同級生で、親友の加奈子。同じ北陸の出身。加奈子は家電メーカーに勤めていたが、銀行員と結婚し、専業主婦になっていた。たまには加奈子に会おうとマンションに行ってみた。すると彼女の顔はひどく腫れていた。夫が暴力を振るっていたのだ。親友が傷つけられた姿に悶々とする直美。この夫を殺せばいいのではないか……

というわけで、本書の前半は<ナオミの章>で、後半は<カナコの章>で、それぞれの視線でDV夫を殺害するまでの準備とその後の経緯を描写していく。

もっとも、その思いも土台のない砂上の建物のようで、「人を殺めるなんて自分にできるわけがないではないか」とふと我に返ったり、「いや、害獣の駆除だと思えば心は捨てられる」と意を強くしたりと、日々不安に揺れ続けていた。
果たして自分の思いはどこまでのものなのか。天を見上げて自問しても、答えは何ひとつ返っては来ない。

ありがちな話だなーと侮ることなかれ。

後半三分の二を過ぎると、この二人がどうなってしまうのか、ドキドキしてしまった。こういう体験は珍しい。私の感性は鈍麻してしまっているはずなので。

ナオミとカナコ

今日の一曲

夫による妻に対する暴力。と言えば、歌詞の内容がまさにそのものズバリ。Nickelbackで、 “Never Again”



では、また。
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『僕はパパを殺すことに決めた』草薙厚子

2014-12-10 | books
2006年、奈良で16歳少年が自宅に放火し、3人が遺体で発見された事件、覚えておられるだろうか。私はうっすらとしか記憶していなかった。

奈良県田原本町で医師宅が全焼。妻と小学校二年の次男、5歳の長女が遺体で発見された。進学校東大寺学園の1年生の長男は現場から逃走、京都で捕まる。当時の報道は、継母とうまくいかなかったことが殺人の動機だというものだった。

しかし、息子を医者にしたいという思いの強すぎる、父親によるマンツーマン教育と暴力がそこにはあった。できないと殴り、成績が悪いと殴る。著者は殺人の動機は、父親を亡き者にしたい気持ちだったとする。そして父親がその日はいないと分かっていたのに、その日に放火したのは、予定を柔軟に変更できないある種の障害があったとする。世の中の教育パパと教育ママの横っ面を張り飛ばすような勢いを持ったドキュメント。

少年事件の場合、発生当初こそ大々的に報じられるものの、刑事事件の公判にあたる少年審判は非公開になるため、その全容は報道されない。審判の結果、少年院や児童自立支援施設などに送致された後は、少年について報じられることすらなくなってしまう。かくて、マスコミを含めた大人たちは事件からさしたる教訓を得ることもなく、新しい事件が起きるとまた瞬間的に驚き騒ぎ、そして忘れていく。

この本が異様なのは、本当は外に出るはずのない少年の供述書が、数多く引用されていること。と言うより、かなりの部分が供述証書で占めているといってもよいくらい。

これに関しては、東京法務局は増刷中止の勧告をし、奈良県警は家宅捜索した。(不起訴処分)現在は発売されていないそうなので、古書か図書館でしかよめないようだ。

秘密の漏えいや、出版の倫理については置いておいて、さらに他人の供述調書の引用ばかりというのが作品として原稿料や印税をもらうに値するのかも置いておくと、ノンフィクションとして、読むには大変興味深い内容だった。

僕はパパを殺すことに決めた 奈良エリート少年自宅放火事件の真実

今日の一曲

誰かを殺したと歌う。Eric Claptonで、"I Shot The Sheriff" 動画がたくさんアップされたいたけれど、中でギターの音が一番好きなバージョン



高校生の頃、こんなおっさんに将来なりたいと思ったけれど、だいぶコースアウトしてしまった。

では、また。
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『エンジェルズ・フライト』マイクル・コナリー

2014-12-08 | books
LAのケーブルカーで殺人。殺されたのは弁護士。警官が黒人被疑者に暴力をふるった事件をいくつも手掛け、多額の報酬を受け取っており、有名人だった。もうすぐ別の警官を訴えた事件の裁判が始まるところだった。だとすると、警官が殺したのだろうか。警察上層部は強盗の仕業として幕を引きたい。担当の刑事ボッシュは怨みによる犯行だろうと考える。そして意外な展開。黒人に対する暴動が始まる。今度は警官の仕業ということにして終わりにしたい警察上層部。しかしまたボッシュはそうではないと考える。並行して描かれる、幼女誘拐殺人事件。実はこの事件とも関わりがあって……

読みやすい。他の人にオススメできるテッパンシリーズ。個人的には、幼女誘拐事件の裏側に潜む○○の存在を知った時に、背筋が凍りかつ興奮してしまった。

まだ未読のマイクル・コナリー作品は残っている。全部読んでしまうのが惜しいような作家。

エンジェルズ・フライト〈上〉 (扶桑社ミステリー)エンジェルズ・フライト〈下〉 (扶桑社ミステリー)

褒めてる割に、サッパリレビューなのは、疲れてるから。すまぬ。

今日の一曲

どういうわけかこの曲がすごく合うと思うジャズボーカル。Bob Doroughで、Devil May Care



では、また。
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『家族シアター』辻村深月

2014-12-06 | books
家族にまつわる短編集。

姉が結婚することになった。しかし仲が悪かった。妹から見れば気持ちの悪いオタクだった。しかし…<「妹」という祝福>

大好きなアイドルを応援する弟、それを気持ちが悪いと思う姉。弟から見ればいい歳してビジュアル系バンドをおっかけている姉の方が気持が悪い。そんな二人が…<サイリウム>

娘にはかわいい制服の学校に行ってほしい。勉強なんてできなくてもいいと思う母。特待生で勉強に勤しむ娘。かみ合わない母と娘が…<私のディアマンテ>

修学旅行などイベントに生徒を積極的に参加させて、生徒にも親にも人気の小学校の先生。タイムカプセルを卒業前に生徒に作らせた。私の息子はその先生にあこがれて自分も先生になりたいと思うようになった。しかし…<タイムカプセルの八年>

学研の「学習」が楽しみな姉。「科学」が楽しみな妹。妹は宇宙飛行士になりたいと言う。気が合わなかった二人。妹の怪我がきっかけで…<1992年の秋空>

アメリカから帰ってきた息子夫婦と孫娘が自分の住む家の隣に家を建てた。孫娘はどうもクラスになじんでいないらしい。竹とんぼの作り方を小学校で教えると…<孫と誕生会>

というラインナップ。甲乙つけがたいほどにどれも高品質。

どれも、表面的にはかみ合っていない家族を扱っている。中でも<私のディアマンテ>の母娘の全くかみ合わない感じがいい。母にも娘にもなれない者にとってミステリーな世界。特に、ちょっと不思議で、でもこういう人いるだろうなーという母親がなかなか。

家族シアター

今日の一曲

家族。Mary J. BligeでFamily Affair



では、また。
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『サラバ!』西加奈子

2014-12-04 | books
圷歩(あくつあゆむ)はイランで生まれた。父の仕事の関係で。母、姉と4人の暮らし。イランで革命が起こり、帰国することになった。大阪の小さなアパートでの暮らし。そしてエジプトへの引越し。と彷徨う圷家を、かなり変わった姉と歩を中心に描く。二人はどうなるかと言えば…

おお!なんという小説だ。

姉はコミュニケーション障害だったり引きこもりだったり、あるいは〇〇だったりとかなりエキセントリック。そんな姉がどう変わっていくかが一つのポイント。しかしそれ以上に興味深いのは歩本人。イケメンでサッカーやっていて、女性には困らない男。何事に対しても受け身の男。そんな男が何をどう考えそして変わっていくのか。意外過ぎる展開と歩の内面。

歩むという男の半生。西加奈子すげえ。

僕だって、本当にそう思っていた。「汚い」と。「触るな」と。僕は「そんなこと、決して思ってはいけない」と思っていた。誰に教わったわけでもないのに、僕はエジプシャンの子を、とりわけ学校に行くことが出来ない、物乞い同然の生活を送っている「彼ら」を決して見下してはいけないあと思っていた。

帰国したときには、

あらかじめ小さく切られたネギのパックを見て、母は「嘘やろ」と言い、レトルトの袋に書いてある「ここからお開けください」の矢印を見て「阿呆か」と言った。

歩の恋愛については、

この初めての、そしてとてつもなく苦い恋愛経験は、のちの僕の恋愛に、少なからず影響を与えるようになった。

この歩の経験は私自身の経験と少し重なる部分もあって、身につまされたり、昔を思い出したり、その気分分かるなと思ったり。

僕にとって世界で起こっていることは、ただ、ここ以外で起こっていること、だった。自分の生活に影響がないことを、僕は深く考えようとしなかった。知ってしまうと苦しくなることから、僕は巧妙に逃げた。

受け身の男。あるいは永遠のモラトリアム男。彼は幸せになれるのだろうか。

いつまで、そうやってるつもりなの?

「自分だけが信じられるものよ。歩にはそれがない。それがないから、揺れているのよ、すごく。」

ちょうどそのとき、ミラン・クンデラの『笑いと忘却の書』を読んだ。僕が線を引いたのは、ここだった。
『そう、そうなんだ!やっとわたしにはわかった!思い出したいと望む者は同じところにとどまって、思い出がひとりで自分のところにやってくるのを待っていてはならないんだ!思い出は広大な世界に散らばっているので、それをみつけ、隠れ家の外に出してやるために、旅をしかければならないのだ!』

ううむ。そして最終の六章のタイトルは「あなたが信じるものを、誰かに決めさせてはいけないわ」 ここに全てが着地する。

ステキすぎるぜ、西加奈子。ノーベル賞を西加奈子に。

「いつまで、そうやってるつもりなの?」この言葉がエンドレスで脳内を流れる。

サラバ! 上サラバ! 下

今日の一曲

サラバ、と言えばグッバイ。ドラマ「家族ゲーム」から長淵剛で「GOOD BYE 青春」



映画の「家族ゲーム」は松田優作。どっちも好きだった。

では、また。
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『ピルグリム1・2・3』テリー・ヘイズ

2014-12-02 | books
サウジアラビア、王室に否定的な発言をして処刑された父親。息子はテロリストになるために、国を出て医者の資格を取る。目指すはバイオテロ。アメリカの諜報組織から引退した男がテロを阻止するために呼び出された。テロへと着々と進む男と、追いかける男。地球規模のマンハントがはじまった……

3巻もあるのでどうしようかと思ったのだけれど、まず第1巻だけ買ってみた。少し読んでみただけで面白いと分かったので、1巻を読み終わる前に2巻、3巻と買った。買っておいてよかった。すぐに読み終わったし、買ってなければ夜中に禁断症状を起こしそうだった。

現代のハイテクスリラーのようなものだと思っていたけれど、どちらかというとハードボイルドに近い。目的のためにまっすぐ進む男たちの闘い。どっちにも頑張ってほしい。どっちも頑張って。飛雄馬と花形に挟まれた明子のような気分。

マンハントと言えば、フレデリック・フォーサイスの「ジャッカルの日」を思い出す。ド・ゴール暗殺を依頼された伝説の殺し屋ジャッカルと追いかける警察。原作も映画もどちらも良かった。高校生の頃に読んだかと思う。その後、外交や国際関係論、軍縮などに興味を持つようになった。そんな影響を与えてくれた。

本作も負けないぐらい良くできている。しかし「ジャッカル」のときほどは自分に影響を与えるわけではなく、それは単に自分の感性が老化しているからだろうと思う。

エドマンド・バークによると、戦争にまつわる問題は、たいがいの場合、守るべき美徳を消してしまうことだ。正義や、品位や、人間性を守るために始めたはずの戦争が、それらを踏みにじってしまう。

トルストイが生きていたら、薬物依存者はみな似通っているが、アルコール依存者はそれぞれちがっている、とでも言ったかも知れない。

”アラビアのロレンス”として知られるトマス・エドワード・ロレンスは、この世界について何事か知っており、この土地の人間の性質も熟知していた。彼は、白昼夢を見る人々は危険だと言っている。彼らは夢に生きようとし、夢を現実にしようとするからだ、と。

そういえば、誰かがこう言っていた。戦争で最初に犠牲になるのは真実だ。


ピルグリム〔1〕 名前のない男たち (ハヤカワ文庫 NV ヘ)ピルグリム〔2〕ダーク・ウィンター (ハヤカワ文庫NV)ピルグリム〔3〕 遠くの敵 (ハヤカワ文庫NV)

今日の一曲

Eric ClaptonでPilgrim



では、また。
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