「時間封鎖」(上下)ロバート・チャールズ・ウィルソン 早川書房 2009年
SPIN, Robert Charles Wilson 2005
突如として空から星が消える。かろうじて太陽が昇るがそれはフェイク。地球の周りをスピンという膜で覆ったのだ。誰が?スピンの外側では地球上の1億倍のスピードで時間が流れる。太陽は既にその力を失い膨張している。スピンで覆われていないと地球上の生命は全て死んでしまう。混乱する地球の人間たち。いずれ滅亡する地球、人類を救うために考え出された奥の手。それは火星に原始生物や酸素窒素をロケットで飛ばして高速で進化させ、人間が住めるような環境を作らせるというもの。人類の未来はどうなるのか?誰が地球をスピンで覆っているのか?何のために?地球以外に生命体は存在するのか・・・
いやいや。SFを読んでいるのか純文学を読んでいるのか分からなくなる。設定はゴリゴリのハードSFなのに、人間を描くのが巧い。訳者の茂木健さんはあとがきで設定が似てるんではないかとよく言われるグレッグ・イーガンの「宇宙消失」を評して
「たしかに、膜/壁によって封鎖されると言う点は共通しているものの、イーガンの作品に時間傾斜という概念は導入されていないし、読み進めてみれば、ナノテクによりサイボーグ化された人間たち(稚拙な表現なのは承知しているけれど、ほかに思いつかなかった)が、量子論の難解な理論や仮説を滔々と述べたて、かれらの講釈に単純な物語が追随するという、本書とは正反対のベクトルに向かう極めて科学的な内容だった。」(下巻362頁より引用)
うーむ。なんとも手厳しい。しかし自分の薄っぺらいレビューレビューを読み返してみると、あまり堪能できなかったようだ。忘れてた。「時間封鎖」はずっとよく分かるし面白い。いや面白いというより、気持ちいい。面白いのがマンガを読むときとかJ-POPを聴く時の感覚だとすれば、ジャズやクラシックを聴く感覚に近い。全体的に哀しいリズムが流れていてそれが心地よい。
アメリカで本書のような事態が起これば当然宗教が出張ってくる。キリスト教のやや異端な宗派がどう事態を捉えるかというのが興味深い。また哲学、医学、政治などこういう極端な事態になったときに普段我々が見えないその限界が見えたりその先にある希望が見えたりする。もっと極端に言えば、我々人間とは何なのか、その存在にはどんな意味があるのか、宇宙レベルという空間において、そして宇宙誕生からの長大な時間において。この時間封鎖を読んで、その点について考えざるを得ないのでその答えを自分で探しながら読むという楽しみがある。もちろん、人類の未来はどうなっていまうのかというミステリー的な落としどころをちょっとずつ探るという楽しみも。
あちこちに含蓄のある言葉が散りばめられている。その辺も単なるSFではない所以か。
「問題は・・・・・・」眼を半ば閉じ、あくびをしながらワンがいった。「問題はいつも同じですね。眼をつぶることなく太陽を見るには、どうしたらいいか」(下巻149頁より引用)
気候のよさで選ぶのなら天国。友人の数で選ぶのなら地獄(上巻137頁より引用)
気候のよさで選ぶのなら天国。友人の数で選ぶのなら地獄(上巻137頁より引用)
ところで読みながら何かのメロディーがずっと頭の底を流れていた。イーグルスの「呪われた夜」だ(One Of These Nights, Eagles) イントロの哀しい感じ、そして歌詞がこの本にぴったりだと思った。イーグルスで一番好きな曲はこれ、ローリング・ストーンズで一番好きなのはDoo Doo Dooであるというとみな不思議そうな顔をする。このまま放っておくと音楽の話になりそうなので、この辺で。では、また。
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↑古いライブ映像は音がよくないので2004年のライブ映像を。ドン・ヘンリーが太ってしまってややガッカリだが、声は相変わらずいい。