頭の中は魑魅魍魎

いつの間にやらブックレビューばかり

『彼女に関する十二章』中島京子

2016-04-30 | books
50歳をすぎた聖子。知り合いの税理士事務所で週三日アルバイトいる。夫は小さな編集プロダクションを経営しているが、需要が減ってきたので、ペンネームで雑文を書いている。息子は大学院生。彼女がいそうにない。聖子のところにやって来た手紙。昔の知り合い佑太の息子穣さんからだった。佑太が亡くなったのだが、聖子と一緒に撮った写真があるのでそれを送りたいとのこと。佑太は聖子の初恋の人だった。そして穣と会うことにした… 聖子はNPOで経理の手伝いをすることになった。そこで出会った不思議な人、片瀬。なんでもできる人なのにホームレス。極端にまでお金にこだわらない人。穣や片瀬と触れ合っているうちに、聖子の人生がちょっと変わる… 60年前のエッセイとオーバーラップさせながら描く、聖子の内面。

おっと。これは意外なほど面白かった。たしか初めて読む作家。作家本人が雑誌「婦人公論」で連載していた時と聖子が同じ歳。自分の体験が反映されているのだろうか、いちいち、あちこち、表現がリアルだった。

何十年も経過すると、思い出というのはたしかに甘やかになるものだわね。

確かに。

女子高時代からの友達からのメール。女性が生きにくい時代になっていると書いた上で、

生活保護を申請しようとすれば、『生活保護を申請する前にソープへ行け』と言われたりするのよ。ねえ、『ソープへ行け』なんて、役所の窓口が言うことじゃないわよ。北方謙三が悩める若い男子に言うことだったわよ。

はっはっは。北方謙三… 確かにそう言ってた。週刊プレイボーイだったか。

60年前のエッセイからの引用では、

「もしも人間が正しいことを考え、正しいことを言い、正しいことのみを行動して、生きることができれば、それはもっとも幸福な状態に違いありません。理想国家の、理想家庭では、きっとそのようなことが可能となるでしょう。/しかし人間というものは、正しいことばかりして生きられるものではないようです」

正しくあるほうがいいのだろうけれど、なかなかそうはいかない。確かに。人間の業を肯定するのが落語だと言ったのは、立川談志だった。

こういう本を自分が面白いと思うというのもちょっと不思議。おばさん小説をおじさんが読む。まあ、いいではないか。え?おまえ、おばさん化してるって?

彼女に関する十二章

今日の一曲

作者は中島。中島美嘉で"Will"



では、また。
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『理不尽な進化』吉川浩満

2016-04-28 | books
進化論。知らない人はいないだろう。いや、キリスト教原理主義者の人たちは、神が人間を創ったのであって、進化の結果ではないと考える(だろう)から、進化論なんて知らんと言うのかも知れないけれど。

よく目にする言葉「自然淘汰」と「適者生存」 日常会話あるいは、映画の登場人物の台詞で聞くこともある。使われ方には、「適したものしか生存できない」→「勝ち組にならない生きていけない」「弱肉強食じゃぼけっ」的なものが多い(だろうと思う)

この本は、進化論とはそんな風に理解していいのだろうかという疑問にひたすら答えるという極めてユニークな本なのだ。

今地球に生息する生物を500万種として、今までに地球上に現れた生物を500億とすると、生物の99.9%以上は絶滅しているのだ。すると今地球にいる生物は、倍率1000倍の狭き門を潜り抜けたエリートということになる。いや、本当にそうだろうか?

絶滅したのは、遺伝子の優劣じゃなくて、単に運が悪かっただけではないだろうか?

恐竜が絶滅したのは、環境の変化に対応できなかったから(=遺伝子が劣っているから)と言うこともできるけど、白亜紀に巨大隕石が落ちてきたのが原因だとすれば、運が悪かっただけだとも言える。

ラウプという学者が提示したのは、三つのシナリオ。

1.弾幕の戦場
2.公正なゲーム
3.理不尽な絶滅

弾幕の戦場とは、たとえば人口密集地に無差別に爆撃されるような場合。生きるか死ぬかは確率で決まるだけ。

公正なゲームとは、他の種との闘いの結果生き残るかが決まるような場合。企業のシェア争いとかも同様。

理不尽な絶滅とは、1と2の組み合わせによるややこしいもの。恐竜は、大きくなりすぎて、寒い気候では生きていけなくなったという2の原因と、隕石墜落という1の原因が複合的に組み合わされているのではないか。

本書で深く考察するのが、この理不尽な絶滅。面白い。こんな本が面白いのはおかしいのじゃないかと思うけれど面白い。

理系研究者的なアプローチをなるべくしないで、文系的な「言葉による」アプローチがメインにあるので、哲学書を読んでいるような気持なのがいいのかも知れない。

理不尽な進化: 遺伝子と運のあいだ

今日の一曲

著者は吉川。吉川晃司で「せつなさを殺せない」



では、また。
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『暗幕のゲルニカ』原田マハ

2016-04-27 | books
1937年、ナチスドイツが支援するフランコの軍がスペインを制圧。パリでピカソは、万博のための絵「ゲルニカ」を制作する。2003年、MoMA(ニューヨーク近代美術館)のキュレーターでピカソの専門家の八神瑤子は、「ピカソの戦争:ゲルニカによる抗議と抵抗」展の準備中だった。ゲルニカは長年MoMAに疎開していたが、今はスペインのレイナ・ソフィアにある。ぜひとも「ゲルニカ」を借りて展示したいが断られた。しかし、ピカソの監修のもとにそっくりに作られたタペストリーがあって、それは今国連の安保理会議場のロビーに飾ってある。テロの後、大量破壊兵器を所有している疑いのあるイラクに対する攻撃に関して、アメリカの国務長官が、安保理会議場ロビーから発表した。背後にあるゲルニカには、暗幕がかけられていた… ゲルニカに対する無差別攻撃に抗議する絵だから外したのだろうか…

実際にあったことと、完全なフィクションが混在していて、それがちょっと奇異な感じがする。ピカソの20世紀の章と、瑤子の21世紀の章が交互に来るのだけれど、20世紀にことはすべて史実だと思っていたが、そうでもないようだ。かなり重要な役割を果たす人物が架空だそうだ。

その辺りのことを整理して読めば、上手な「リアルティ」と「フィクション」の融合として、結構楽しめた。

暗幕のゲルニカ

今日の一曲

そのものずばり、ゲルニカで「蘇州夜曲」



リードボーカルの戸川純を初めて観た(聴いた)ときのインパクトったらすごかった。戸川純のアルバム「玉姫様」を大学の部室で聴いていたら、気持ち悪いと言われたのも今では遠い昔。では、また。
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『サブマリン』伊坂幸太郎

2016-04-26 | books
家裁調査官の陣内と武藤。上司と部下。担当した少年犯罪事件。無免許で運転して死亡事故を起こしてしまった。なぜそんな事になってしまったのだろうか…

相変わらずの伊坂幸太郎節。不思議な会話術の陣内といたって普通の武藤の掛け合い。ちょっとずつ分かっていく真相。強引な展開。まったくもっていつも通り。

ただ、自分自身が伊坂幸太郎エキスを今求めていないからか、以前ほど堪能できなかった。作品に問題があるのではなくて、読む私に問題があるのだろう。私のことはキライになっても、小説はキライにならないでください。なんつって。

サブマリン

今日の一曲

フジテレビ月曜9時のドラマは「ラヴソング」 視聴率は振るわないらしいが、吃音の女の子がどう立ち向かっていくか、成長物語として楽しみに観ている。福山雅治が結婚したから視聴率が下がったと言う人がいるけれど、そうなのだろうか。テーマが地味だからという気がするけれど。先日の放送では、主人公のさくらがライブハウスで歌うシーンがあった。ユーミンの歌も、ラブ・サイケデリコの歌もものすごく上手くて、ちょっと鳥肌が立った。アーティスト藤原さくらが、佐野さくらとして演じているのだ。ピーター、ポール&マリーの「500マイル」もすごくいい。日本語の歌詞は忌野清志郎が書いたそうだ。知らなかった。その藤原さくらで"BABY"



藤原さくら見たさに、来週もドラマ観る。では、また。
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『バラカ』桐野夏生

2016-04-25 | books
日系ブラジル人パウロ。妻が娘のミカを連れていなくなった。逃げた先はドバイ… 出版社勤務の沙羅、テレビ局勤務の優子、広告代理店勤務の川島は同級生。優子は川島と付き合っていたことがあり、沙羅は川島の子を堕ろしたことがある。みな42歳。沙羅は養子をもらうことにした… 福島で震災発生。福島第一発電所から第四発電所まで爆発した。東日本は壊滅状況に。首都機能は大阪に移転、天皇も京都御所へ。大きな会社の本社も関西に移転した… 被災した少女バラカ登場。反原発派からは、被災の証拠として崇められ、原発推進派からは、被災しても元気に生きていける証拠だとされ、双方の奪い合いになる…

最初は読みにくいと思っていたけれど、テーマがなんであるか分かってきてからは一気読み。震災という大きなテーマもあるけれど、その上に乗っかっているバラカという少女とその周辺。サブエピソードがものすごく読ませる。特に、謎の男川島がいい。彼だけを取り出すと、イヤミスだと言えるかも知れない。川島だけでも面白い。それ以外はネタバレを避けて書けないけれど、(下にネタバレしておきます)そして、何がテーマの小説であるかも書けない(もしくは書けない)けれど。

実際の震災よりもずっと深刻な設定になっていて、「もしかしたらあったかも」知れない状況を作り出して、人間とはどういう生き物なのかをより鮮明にしている。

人間の暗部をグリッとえぐる桐野夏生らしい大作だった。

バラカ

今日の一曲

バラ。Karen Mathesonで"My Love Is Like a Red Red Rose"



では、また。

【ネタバレ】

ミカは人身売買され、ドバイで200万で沙羅に買われる。しかし東京に連れ帰っても沙羅になつかない。川島は沙羅の財産を狙って、沙羅の母と関係も持ったあと殺し、沙羅と結婚する。川島が仙台に転勤になり、東京から越した先で沙羅は被災する。川島とミカ=光=バラカは助かる。バラカは川島から逃げるが川島は追いかけて来る。原発推進派の手先となっているのだ。バラカが逃げた先で起きる殺人事件。川島が起こしているのだ。この川島という男が怖い。そして妙にリアルだった。
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『雨月物語』上田秋成

2016-04-23 | books
先日朝日新聞を読んでいた。大学の文系学部廃止の是非について三人が論じていて、その中でロバート・キャンベルさんが、「雨月物語」の「菊花の契」の中に出てくる「軽薄な人」が誰を指しているか、いまだに議論になる、と書いておられた。そう言えば、「雨月物語」読んだことがない。ので、読んでみた。

1776年、江戸時代に上田秋成が、中国の古典を素材に加え、怪異を対象にした、9編の短編小説集。

「白峰」は、西行が死んだ崇徳院の霊と出会うという話。

「菊花の契」は、冒頭

「青々たる春の柳、家園に種ることなかれ。交はりは軽薄の人と結ぶなかれ。揚柳茂りやすくとも、秋の初風の吹に耐めや。軽薄の人は交はりやすくして亦速なり。揚柳いくたび春に染れども、軽薄の人は絶て訪ふ日なし」(青々とした春の柳は家の庭に植えてはならない。交際は軽薄な人と結んではならない。柳はすぐに茂って青々となるが、秋を告げる初風が吹くと耐えきれず散ってしまう。軽薄な人とはまじわりやすいが、まじわりが絶えるのもまたはやい。柳はめぐってくる春ごとに葉を青々と染めるけれども、軽薄な人は一度まじわりが絶えれば、二度と訪れてくる日はない)

「軽薄の人」とは誰なのか?

近江からやってきた男、赤穴宗右衛門と親しくなり、義兄弟の契りをかわした出雲の丈部左門。宗右衛門は一度近江に戻らなくてはならない。しかし九月九日には帰って来ると約束する。当日首を長くして待つ左門。しかし宗右衛門は来ない。夜になってやって来た宗右衛門。しかし、実は宗右衛門は捉えられてしまっていた。どうしても脱出できないので、自害して霊になって会いにやって来たと言うのだ… 左門は、宗右衛門の件が我慢ならず、無念の死の原因の丹治を斬りに行く。主君尼子経久は、このことを聞いて、義兄弟の信義の篤さに感動し、左門のあとを追わせなかった。そしてこの短編のラストは「ああ、軽薄の人間とまじわりを結ぶなというが、まさにそのとおりだ」で終わる。

冒頭と合わせて、軽薄の人とは誰なのだろうか。丹治のことか。左門(というちょっと子供っぽい男と知り合いになった)宗右衛門のことか(二人の間にBLを感じなくもない)、常識に捕らわれている我々のことか。気になった人はぜひ全文お読みになっていただきたい。

他の話もなかなか良かった。意外な収穫。

雨月物語 (ちくま学芸文庫)

今日の一曲

契り、約束。スガシカオで「約束」



では、また。
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2016-04-21 | laugh or let me die
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極上大河ドラマ終幕『永遠の始まり III IV』ケン・フォレット

2016-04-19 | books
1911年から1924年を描く「巨人たちの落日」、1933年から1949年を描く「凍てつく世界」、そして1961年から2008年を描く「永遠の始まり I II」に続いてやっと全12巻の20世紀三部作。やっと終わった。

登場人物たちは、英国でバンドデビューしたり、タス通信の記者としてソ連で不遇な目にあっている人を助けたり、英国人なのにアメリカからヴェトナム戦争に行かされたり、ポーランドの民主化を目の前で見たり、それぞれ活躍する。

背景にある、ケネディ暗殺や、弟のボビーの政治活動、ニクソン大統領のペテン師ぶり、レーガン大統領の政策、フルシチョフ、ブレジネフ、ゴルバチョフのソ連指導者の変遷、そういった歴史上の出来事や人物が、フィクションとうまく絡み合って、まるで自分がその場にいるかのよう。

英米独ソを中心とした20世紀を描く大河小説。ものすごく堪能させてもらった。19世紀版とか18世紀版もぜひ書いてほしい。

永遠の始まり III (SB文庫)永遠の始まり IV (SB文庫)

今日の一曲

ビートルズのカバーを。Noel Gallagherで、"Strawberry Fields Forever"



では、また。
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『光陰の刃』西村健

2016-04-17 | books
大物政治家や財界人がが政治や経済を私物化しているとして、暗殺計画を立てる血盟団。1932年、井上準之助前大蔵大臣や三井財閥のトップ團琢磨ら殺害した。團琢磨の生涯と殺害犯井上日昭の生涯を描く。

冒頭にこの作品はフィクションであると書いてあるが、どうしてもノンフィクションとして読んでしまう。557頁もあり重い。内容もさらに重い。でも面白い。

井上日昭については以前にどこかで読んだので、團琢磨の方を中心に読んだ。

国営だった三池炭鉱を三井が払い下げられた経緯とか、知らない話が多く、そういう発見もまた楽しかった。

光陰の刃

今日の一曲

人殺しの歌。Judas Priestで"The Ripper"



では、また。
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レディースアクション『ガンルージュ』月村了衛

2016-04-15 | books
群馬県みなかみ。中学生二人が拉致された。韓国人の組織による犯行。追いかけるのは生徒の母親秋来律子と担任の先生渋矢美晴。母親は元○○なので、特殊な能力を持っている。逃げる逃げる山の中。追う追う女性二人も山の中。警察と公安、入り乱れる捜査側。第二の金大中事件の勃発か。日韓の綱引きは…

ううむ。基本的にアクションが多め。その辺は軽く流し読み。結末がどうなるのか、生徒たちがどうなるのかという一番大事な部分がただ予想通り進むので、それが痛い。しかし公安の裏読みとか、第二の金大中事件だとか、背景のネタはなかなか面白い。

大沢在昌の「新宿鮫」シリーズへのオマージュが含まれている。鮫島の彼女であるバンドのボーカリストらしき人物が鮫島と別れて、本作のキャラクターとして登場している。(名前は変えてあるけれど、胸も大きいし、どう考えても彼女) その設定がなかなかユニークで良かった。

ガンルージュ

今日の一曲



では、また。
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『橋を渡る』吉田修一

2016-04-13 | books
「春」の章では、主人公は明良。都心の一軒家に暮らす。妻歩美の姉の息子も一緒に暮らしている。彼の持ち込んだちょっとしたトラブル。歩美のギャラリーへ絵を持ち込み、歩美が断った後も自宅へ押しかける画家…  「夏」の章は、都議会議員の妻篤子の目線から描く。例の塩村文夏議員に対するヤジ事件。もしかしてあのヤジは私の夫が放ったものだろうかという疑念が止まらない… 「秋」の賞は、ドキュメントのテレビ番組を制作している謙一郎。婚約者薫子との結婚はもうすぐ。しかし彼女は昔好きだった男と会っているらしい。「正しい」とはいかなることなのか… 「冬」は「春」「夏」「秋」からだいぶ後を描いている…

おお。これは大好物。かなりの時間をかけてゆっくり読んでしまった。

一つ面白いのは、週刊誌の連載があった当時(2014年から2015年)の時事問題がたくさん盛り込まれていること。先に挙げた「都議会ヤジ」や「セウォル号」の沈没など。普通、小説は何十年たっても読んでもらいたいから(他に理由はあるかもしれない)、その時々の時事ネタはあまり入れないものだと思う。それをむしろ逆手にとってきた。後の方をよく読むとそれには理由があることが分かる。この辺り、すごく上手。

主人公たちの抱える悩み。自らを振り返り考えさせられてしまうこともあるし、自分が同じ立場だったら、同じことやってしまうかなと同情してしまう部分もある。

ルールも知らないのに、「さぁ、ゲームを始めろ」と言われている東京という町で、

「いや、そうでもないよ。『このドアは絶対に開かない』ってずっと言われ続けたら、たいがいの人間は別のドアを探すようになる。「実際には、そのドアが開いても、ですか?」

「そうじゃなくて、俺が言いたいのは、お前は正しいってことなんだよ。正しい奴は、たとえ自分が間違ったことしても、それを正しいと思い込むんだよ」

そしてキャラの設定も巧い。特に「夏」の篤子の夫。悪い人ではないのだけれど、デリカシーにかける夫。彼の言動が何とも言えず、怖くてリアル。

さらには、三つの章が実は関係があって、という構造もにくい。そして最終の「冬」 三つの章は2015年、冬は近未来のこと。もうどういう小説なんだか一言では言えない。

しかし、激しく面白かった。

橋を渡る

今日の一曲

橋。Simon and Garfunkelで"Bridge Over Troubled Water"



では、また。
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『幹事のアッコちゃん』柚木麻子

2016-04-11 | books
アッコちゃんシリーズ第三弾。

忘年会の幹事をいやいやながらやらされる新人サラリーマン久瀬涼平。知り合ったアッコちゃんから、どういう幹事だと周囲も自分も楽しませられるか学び…<幹事のアッコちゃん>  ネットサイトの記者はアッコちゃんのことが大嫌い。取材したうえで悪口を記事にする。しかしアッコちゃんの人柄を知って…<アンチのアッコちゃん>  社内で抜擢されて忙しくなりすぎた三智子。しかし、アッコちゃんの毎日のお稽古ごとにつきあうと…<ケイコのアッコちゃん>

相変わらず楽しい。笑えて、共感できて、癒されて、ヒントも得られたりする。すばらしい。

なんであんなことを言ってしまったのだろう。様々なシーンで軋轢を生んできた。四十代半ばを過ぎてなお、知っていることはどうしても「知っている」と示さないではいられない性分が我ながらつくづく憎らしかった。

困った時は湯を沸かせっていうのが、ある人の口癖で…」

「アッコさんて、無駄な時間とか一切過ごさなそうで、すごいですよね」
「当り前よ。この格差社会で唯一の平等が誰にでも二十四時間が割り振られているってことだもの。タイムイズマネー、時間には何よりも敬意を払うべし!」

格差社会においてでも平等なことは、みんな24時間均等に与えられていることと、みんないずれは死ぬってことだろうか。

幹事のアッコちゃん

今日の一曲

先日、テレビ東京の深夜番組「ゴッドタン」を観ていたら、一夫多妻制アイドル(なんじゃそれ)として紹介されていた清竜人25。カッコいいというかカッコわるいというか絶妙な感じなんだけれど、曲がすごくいい。ファンキーってこういう感じだろうか。Youtubedで何度も動画を観てしまった。曲は「Mr.Playboy...」



最初の方の「シャル・ウイ・ダンス?」という台詞の「ダンス」の「ダ」の音がすごく好きだ。

では、また。
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2016-04-09 | laugh or let me die
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『拳の先』角田光代

2016-04-07 | books
ボクシング小説「空の拳」の続編。編集者那波田空也は、ボクシング雑誌から文芸編集部に異動になっていた。作家が、空也が昔ボクシングジムに通っていたと知って、試合に連れて行ってくれと頼まれる。疎遠にしていた鉄槌ジムに顔を出すと懐かしい面々が。そしてタイガー立花を追いかけるようになる…

ううん。悪くないのだけれど、何というか、ドラマが弱いと思う。

立花と同じ階級に、ものすごく強い新人がデビューする。(WBOの世界スーパーフライ級チャンピオン井上尚弥を連想させる)この話と、ジムの会員でぽっちゃりした小学生ノンちゃんのエピソードなど読ませどころはあるのだけれど、どういうわけか前のめりに読むことができなかった。

拳の先

今日の一曲

ボクシング。俺たちを止められないぜと歌う、McFadden and Whiteheadで"Ain't No Stopping Us Now"



では、また。
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最低で最高な旅『冒険歌手 珍・世界最悪の旅』峠恵子

2016-04-05 | books
自分自身が「おかしな」旅をしているノンフィクション作家の高野秀行が解説で「これは日本冒険界の奇書中の奇書である」と書いているのを立ち読みした。しかもその解説に(以下はネタバレを含みます本書を未読の人はまず読んでください。絶対面白いですから)とある。おいおいミステリーじゃあるまいし、ネタバレってなんだよと思いつつ、その先は読まないで、最初から読むことにした。

峠恵子、歌手。92年にデビュー。サンミュージック所属。苦労を知らないでここまで来てしまった。こんなことじゃいけない。苦労をしないといけないと思い始める。たまたま立ち読みしたのが、雑誌「山と渓谷」 その中にあった「日本ニューギニア探検隊 2001 隊員募集」という記事。これに応募したら受かってしまった。のが地獄の始まり。

日本にウインドサーフィンを紹介した、優秀なクライマーでもある隊長。元自衛隊員コーちゃん、早稲田の学生のユースケの4人で向かうのはニューギニア島。ヨットでここまで行って、ニューギニア島の大河マンベラモを遡り、オセアニアの最高峰カルステンツ北壁の新ルートを世界で初めてロッククライミングで登頂するというかなりビッグなアドベンチャーだけれども…

最初のヨットのシーンだけでもお腹がいっぱいになる。相当スゴイ。というかヒドイ。燃料計が壊れているし(どれだけ燃料が残っているか分からない)、自動操舵装置も壊れている(途中で壊れたのではなくて最初から壊れてた風) という辺りもヒドイし、船中の阿鼻叫喚もスゴイ。隊長以外はヨットの素人だと言うのもヒドイ。

ヨットではことわざがあって「1人の素人、2人の命」と言うそうである。1人の素人がいると、玄人2人が命を落とすことになりかねないということなのだそうだ。それだけ素人が一緒だと危ないということ(ヨット乗ったことがないので分からないが)

このヨットの話だけでも満腹になりそうなのに、ニューギニアに着いてからさらにクレージーさは加速する。なんなんだこの島、詐欺師だらけじゃないか。そして山でも河でもどこでも苦労だらけ。

そして登山と河の遡上が目的だったはずなのに、なぜかタスマニアン・タイガー探しすることになる。かなり高額のお金を費やして。なんで?

そして隊員のユースケとは実はあの「空白の五マイル チベット、世界最大のツアンポー峡谷に挑む」でノンフィクションの賞を取りまくった角幡唯介ではないか。彼のプロフィールからも記憶からも抹消された、狂った旅だったのだ。(巻末に峠さんとの対談が載っている。これも面白い)

隊長のキャラクターが最高に面白いのだが、すべての冒険が終わり帰国した後のエピソードでまたひっくり返る。実は最高に面白いのは峠恵子さんだった。スゲーよ、この人。こういう人生ってあるのか。オチの後にまたオチがある、底の裏に底がある。まさに日本冒険記界の究極のマトリョーシカ。

冒険記を超えて壮大な人間ドラマにまでなってしまった。これは読んだほうがいいですよ。ぶっ飛びますよ。トラストミー。

冒険歌手 珍・世界最悪の旅

今日の一曲

テレビで峠恵子さんが歌うカーペンターズ。"I need to be in Love"



では、また。
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