頭の中は魑魅魍魎

いつの間にやらブックレビューばかり

『隠し絵の囚人』ロバート・ゴダード

2014-02-28 | books
昔付き合っていて、しかも大恋愛だったのに、何かの拍子で別れてしまい、10年以上会っていなかった。そんな彼女に久々に会ったら、燃え上がってしまったんだよー というのが久々にロバート・ゴダードを読んだ感想。

「千尋の闇」や「リオノーラの肖像」、「蒼穹のかなたへ」など過去と現在を行ったり来たりしながら、人間の欲望と純情、打算とひたむきさ、裏切りと愛をテーマに、どんでん返しも含みつつ、巧みなストーリーテリングの技を見せてくれる作品群が大好きだった。

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本当に好きだった。結婚したいくらい(誰と?)ところがいつしかマンネリ化してゆきひねりもネタもいまいちになって、新作を読むことがなくなってしまった。しかし本作は薦めてくれる人がいて、読んでみたらこれはよかった。

1976年、スティーヴはアメリカでの仕事を辞めて故郷の英国へ戻る。すると死んだと聞かされていた伯父エルドリッジが36年ぶりにアイルランドの刑務所から出て来た。出所すると、アメリカの富豪が所有しているピカソの絵は死んだベルギーのダイアモンド商のイサーク・メリドールの物だと証明してくれと、弁護士がエルドリッジに頼んできた。エルドリッジはスティーヴに一緒に調査しないかと誘ってきた。暇だからその誘いに乗った。なぜその調査をエルドリッジに頼んだかというと、彼はメリドールの秘書をしていたから。1940年にドイツがヨーロッパを蹂躙したときに危険を感じたメリドールはアメリカへ移住することにした。持っていたピカソはアメリカには持って行かずに、エルドリッジににロンドンの画商の所で預かってもらうように頼んだ。彼がロンドンに到着すると、メリドールを乗せた船はドイツの攻撃によって沈没してしまう。ロンドンの画商は、ピカソの贋作を作ってそれを遺族に渡し、本物を自分たちの物にしてしまおうとエルドリッジにに持ちかける。そして贋作づくりのプロがアイルランドの刑務所にいるので頼みに行って欲しいと言う。エルドリッジがアイルランドに行くと…という話はまだまだ序の口。

ぼくは内心の驚きを半分くらい見せてしまったにちがいない。「なんだって?」口にビールを含んだまま慌てて言う。
「美術館は女をひっかけるのに最高だって、昔気づいたのさ。ああいう場所に来る女は…感情豊かだ。」エルドリッチはにやりとした。「当然、知性もある。良くも悪くもな」

なんて表現ににやりとする。

1940年と1976年を交互に描きながら段々と明らかになる真相。絵は正当な持ち主のもとに戻るのか。なぜアイルランドの刑務所に36年も入っていたのか。スティーヴンの恋は。多くの謎は解かれ解かれ、噴出するカタルシス10,000kcal(意味不明)

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今日の一曲

ロバートと言えば、Robert Palmer 衝撃的なPVだけじゃなく、曲も結構好きなAddicted To Love



では、また。
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『怒り』吉田修一

2014-02-26 | books
八王子で殺人事件が起こる。女性を自宅で殺害した後、帰宅した夫を殺害した。容疑者の山崎は逃亡し指名手配がかかる。しかし1年経っても見つからない。という導入部以降描かれるのは、山崎に似ている三人の男性の周囲。千葉の漁港で暮らす洋平と愛子の父子。愛子は、家出して歌舞伎町のソープランドで働きボロボロになっているところをNPOに保護され洋平のもとに戻っていた。人はいいがあまりものを考えない愛子は、洋平のところで働いている田代を好きになってしまう。しかし田代が山崎に似ていて… ゲイの優真が、発展場で拾った男、直人。一緒に暮らすことになった。しかし、山崎に似ていて… 母親が問題を起こす度に引っ越しを余儀なくされていた娘、泉は女子高生。今は波照間島にいる。仲良くするようになった同級生辰哉。辰哉と行った離島で見かけた男は田中は辰哉の家のペンションで働くようになった。田中は山崎に似ている…

うーむ。殺人犯に似ていると思われる三人。そのうち誰が殺人犯なのかドキドキしながら読むという楽しみ。それ以上に、「疑い」がどれだけ人を傷つけるのかが読ませる。

面白いと言う以上のことを言わないといけない作品だった。(だったらどない言えばええねん)

「俺はお前を疑っている」と疑っている奴に言うのは「俺はお前を信じている」と告白しているのと同じことなのかもしれない。

ふむ。100パーセントということは、0パーセントと似ている。大好きは一瞬にして大嫌いに変わる。ストーカーはその分かりやすい例。

ちなみにその時、携帯を持った方がいい理由を優馬は並べ立てたのだが、ツイッターにしろLINEにしろ、携帯のない生活なんて考えられないと力説する優馬を、直人は心底不思議そうに南眺めていた。結局、大切な人ができるというのは、これまで大切だったものが大切でなくなることなのかもしれない。大切なものは増えるのではなく、減っていくのだ。

確かに。大切なものの数は定数なのかも。

罪を繰り返す者の顔には、諦念や貪欲さや幼稚さの糸のようなものが、それぞれの針で縫いつけられており、その引き攣れがある。

どうしても、何をやってもダメな人間の顔には、確かに幼稚さと諦念、そしてズルさが浮かぶように思う。(え?俺の顔に浮かんでる?)

ラストにかけての意外な展開。疑うということの意味。考えさせられることが多く、さらに楽しめる作品だった。

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今日の一曲

タイトルの怒り。と言えばやはり、Rage Against The MachineでKilling In The Name



このメッセージ性の強さ。好き嫌いが大きく別れるでしょうが、毒にも薬にもならないモノよりも…

では、また。

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店名にツッコんでください79

2014-02-24 | laugh or let me die
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『静かなる炎』フィリップ・カー

2014-02-22 | books
ナチスドイツで指導的な立場にあった者たちが、戦中あるいは戦後南米に逃亡した。ということはフレデリック・フォーサイスの「オデッサ・ファイル」で読んだ。確か高校生のときに。

「変わらざるもの」は、ナチスドイツ時代に警官と私立探偵であったベルハルト・グンターという主人公の戦後の苦闘を描いていた。本作は、さらにその後を描く。

1950年、グンターはアルゼンチンにいた。(なぜいたのかは、前作にたっぷり書いてある。)大統領はペロン。ナチズム大好きな男。ナチの残党を受け入れている。公安調査局のモンタルバン大佐に呼ばれ、少女の惨殺事件の捜査を依頼された。少女の内臓が抜かれていた。それは1932年にグンターが担当したのに解決できなかった事件を髣髴とさせる。ドイツの未解決事件の犯人がアルゼンチンで同様の犯行を繰り返しているのだろうか。真相を追いかけるうちに、掘り出してしまったアルゼンチンの暗部。それにはナチスドイツも関わりがあった…

うーむ。うーむ。面白すぎる。

ペロン大統領や妻のエビータも登場する。だけじゃなく、アイヒマンも登場する。そして詳しい事はネタバレを避けて書けないけれど、アルゼンチンの政令11号という、政府がその存在を否定しているが、どうやら存在したらしいものも登場する。戦後アルゼンチンの事実と虚構の絶妙な組み合わせ。そして、1932年ナチスが政権をとる前後。国会議事堂放火事件を共産党のせいにする。ワイマール共和国崩壊の過程。1932年のドイツと1950年のアルゼンチンを交互に描く。

グンターのハードボイルドな内面と行動。これもまた心を打つ。ドイツではナチスに反感を持っていたのにもかかわらずナチスに協力させられていた。このことが彼の内面に強烈な影響を与える。魅力的な登場人物と、先が読めないストーリー展開、そして歴史。「変わらざるもの」と合わせてとてつもない傑作になった。

「偽りの街」「砕かれた夜」「ベルリン・レクイエム」という最初の三作や、「変わらざるもの」を読んでなくても単独で充分に楽しめる。日本でこういう作品を書いてくれるのは、逢坂剛ぐらいではないだろうか。彼の作品好きの人におススメしたい。続編がまだ4作翻訳されてない。翻訳を心からお願いしたい。頼む。

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今日の一曲

原題はA Quiet Flame すぐに思いついたBanlesのEternal Flameは既に紹介していた。となれば、Cheap Trickの名曲中の名曲 The Flame



当時はベタすぎでダサイと思っていた歌詞が、今聴くとかえって滲みる。

では、また。

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『首折り男のための協奏曲』伊坂幸太郎

2014-02-20 | books
自称(もしくはメディアが名づけた)ベートーベンが、「作品の良し悪し」ではなく「誰が書いたか」と「書いた者に障害かあったか」で叩かれ、オリンピックでは、競技が始まる前には「競技の面白さ」ではなく、メダルを「取りそうな者」の「苦労とかバックグラウンド」と「大丈夫。絶対とれる」という予想と「とってくれ」という希望が報道され、終わった後にはメダルを「取った者」の「苦労とかバックグラウンド」が報道される今日この頃、いかがお過ごしですか。サッカーの日本代表の視聴率は高いのに、Jリーグの人気が高まらないのは、競技そのものの面白さが伝わってないことにあるような気がしなくもありません。そうそう。カーリングの面白さはすごく伝わってきました。解説の敦賀さんの上手さなのでしょうか。正直、真央ちゃんが取るメダルの色よりも、カーリングの決勝の方が気になります。なんてことを言うと、周囲は苦い顔をするのですよ。なんだか自分がアウトサイドにいるような気分です。

私と同じくらい、アウトサイダーな感じのする人たち。それは伊坂幸太郎ワールドの住人。

首を折って人を殺す、暗殺をなりわいにする男と、その男に似た男のエピソードは<首折り男の周辺>で描かれ、息子を殺された男の復讐を描く<濡れ衣の話>が続き、<僕の舟>では、50年前に銀座で会った男のことを調べてくれと頼まれた探偵と依頼人の話。塾でいじめられている子と、クワガタの飼育の話は<人間らしく>、<月曜日から逃げろは、ものすごく感じの悪いテレビ制作会社の男に空き巣が騙されそうになる話で、<相談役の話>は、久しぶりに会った友人はエリートの嫌な奴なんだけれど、天罰がくだって…<合コンの話>は、合コンを複数の視線から描きつつ殺人事件も織り込んでいて。って感じ。

連作短編集ではないのだけれど、独立した短編を集めたものとも言えない。その中間。凝った仕掛けには驚く。単純に面白いというよりも、味わいがあるという感じ。ホヤみたいな?

「でしょ。相合傘とか描いちゃったくらいだから、遊園地の管理棟の壁に。最近の子は、相合傘なんてやらないんでしょうね。iPhoneとかそういうんじゃないの。何でも、アイ何とか、で。アイ相合傘とか言うのかもね」

北米で買ったDVDが、私のプレイヤーで再生できないように、彼の常識は、私のものとは規格が違うのだ。嫌みを兼ね、と言うよりも嫌みそのものでしかないのだ。

「ある作曲家が死ぬ前に言っていたそうですよ。『人はそれぞれ、与えられた譜面を必死に、演奏することしかできないし、そうするしかない。隣の譜面を除く余裕もない。自分の譜面を演奏しながら、他人もうまく演奏できればいいな、と祈るだけだ』と子供たちに言い残したそうです」と話した。

自分の譜面の演奏するしかない。隣の譜面見ているヒマなんてない。確かに。確かに。自分の譜面を見ずに、隣の譜面を見て、隣の演者が譜面に合ってないなんてツッコんでる場合じゃない。私自身にも言えるし、多くの現代人にも言える。(んじゃないすか?)

なんてことを考えるヒントを、伊坂はいつもくれる。

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今日の一曲

首折り男は殺し屋。と言えば、死。death,dead... Dead Or Aliveで、You Spin Me Around



古い&懐かしい。ディスコでよくかかっていた曲ではなかっただろうか。

では、また。

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シースー

2014-02-19 | days
このあいだ、上野に行ったとき、寿司を食った。しかもカウンターで。マグロ、ハマチ、卵焼きが絶品だった。しかし、二人で20カンは食ったのに、会計は、1260円だった。

嘘だろ?

寿司と言えば、生モノ。

だけに、

実に、レアな出来事でございました。


今日の一曲

レアと言えば、クリス・レア 「オン・ザ・ビーチ」



では、また。
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『変わらざるもの』フィリップ・カー

2014-02-17 | books
「偽りの街」「砕かれた夜」「ベルリン・レクイエム」というベルリン・ノワール三部作をご存じだろうか。全て絶版。



ナチス政権下のドイツでベルハルト・グンターという探偵が事件に立つ向かうハードボイルド作品。読んでからだいぶ時間が経過したけれど、今でも面白かったことだけはよく覚えている。原著は1989年から1991年に書かれた。それから15年経って発表された第四作がこれ。

1949年グンターはホテルの経営者になっていた。しかし客は来ない。妻は入院している。あるきっかけがあってホテルの経営者をやめて探偵に戻ることにした。そこへやって来た依頼人。夫の安否を確認して欲しいと言う。夫は戦時中にユダヤ人の収容所に勤務し虐殺に加担していた。その後行方不明に。女は再婚したい。しかしカトリックなのでちゃんと夫が死亡したことを確認しないと再婚したくない。(夫はナチ戦犯なので逮捕されれば処刑されるだろうし、そうでなくてもユダヤ人の組織に処刑されるだろうから、行方が分かるだけでもいい)グンターは昔のコネを使って調べてみた。ナチ戦犯の過去を洗うなと脅しと暴行を受け、小指を切り取られた。知らぬ間に大きな謀略の中に入り込んでしまったらしい…

逆境や権力に負けてしまってはハードボイルドじゃない。イエス。正統派ハードボイルド。グンターの心意気、やっぱ好きだ。ナチスとユダヤの強烈な闘いがこれでもかと描かれるこれもすごく好み。(悪趣味と呼びたければお呼び)そしてラスト近辺になって来て分かる陰謀。思わず「うそだろー」と叫んでしまった。巧い。巧すぎる。

狂気とは未来を見通せる能力にすぎない、と聞いたことがある。そして、もし、先になって知るはずのことを今知ったとしたら、わめきたててもおかしくはないだろう。生きる秘訣とは、そのふたつをできるだけ長く切り離しておくことにほかならないのだから。

わたしが歴史から信ずべきことをひとつだけ教わったとすれば、それは、対象がなんであれ、むやみに信じ込むのは危険だということだった。特に、ドイツでは…。われわれドイツ人のやっかいなところは、何かを真剣に信じすぎることだ。

好きなものをひとつ挙げろと言われたら、わたしは、初めは普通に思えたのに、見れば見るほどきれいになる女性を挙げるだろう。ヴェラ・メスマンは、そういう種類の女性だった。

三部作を読んでなくても(私のように忘れていても)単独作品として充分に堪能できるのもよかった。

今日の一曲

戦時中そして戦後。ベルリンやミュンヘンがまるでParadiseだった時代を思ってしまった。アイドル番組出身なのでちょっと侮っていたCarry Underwoodが歌う、Guns'N RosesのカバーParadise City



ロックをカントリーに変換するアレンジ、声の張り、ビジュアル。この曲を紹介したいので無理矢理こじつけてしまいました。

では、また。

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『特捜部Q カルテ番号64』ユッシ・エーズラ・オールスン

2014-02-15 | books
障害がある者が子どもをつくらなければ、犯罪者が増えず、公的扶助も必要なくなる。と、声高に語るクアト・ヴァズは政党「明確なる一線」の党首… デンマークで未解決事件を扱う特捜部Qの第4弾は、80年代の同時期に何人もが行方不明になっている件から始まる。そして並行して描かれるのは、実在した女子収容所。軽い知的障害のある女性を収容していた。不妊手術に同意しなければ、そこから出られなかったのだ。収容所出身の女性の80年代の生活と現代を行き来しつつ、優生思想やデンマークの負の遺産、右寄り政党などを絡めつつ、捜査官についてはユーモアを交えつつ描く。

うーむ。ものすごく重たいテーマと、カール・マーク、アサド、ローセの三人の特捜部Qのメンバーを描く軽さとユーモア。この絶妙なミスマッチ。今までの4作の中でも最もミスマッチ度と、ストーリーに込めた作者の怒りを感じる。

強烈な復習譚(は基本的に好み)として読ませるだけじゃなく、クアト・ヴァズというヒールキャラもまたすごい。そのキャラとデンマークの社会問題をうまく結びつけるあたりが、なんとも巧い。

ナチスドイツを含むヨーロッパ30か国で1920年代から1930年代にかけて、不妊手術に適用される優生法があったそうだ。ノルウェー、スウェーデン、ドイツ等ではこの人権侵害に対しての補償が行われたそうだが、デンマークでは1万人以上が(半数以上強制的に)不妊手術を受けたにも拘わらず、何の補償もされていないとのこと。

うーむ。

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今日の一曲

主人公はカール・マーク。カールと言えば、カールスモーキー石井。がカバーする大橋純子の「シルエットロマンス」



では、また。

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『舞台』西加奈子

2014-02-14 | books
29歳葉太がニューヨークへ遊びに行く。言葉はよく分からないけれど、自意識だけ抱えて。

全部まずい。
声に出しそうになった。
アメリカンブレックファストというものは、何だ、馬鹿なのか。
12ドルもするのに、オムレツは焼きすぎているし、具であるじゃがいもや玉ねぎやピーマンを炒めたのが、オムレツの外にも山のように盛られているのは、どういうことか。

アメリカの食い物については、言いたい。ハンバーガーを頼むと、余計なフライドポテトが尋常でない量がもれなくくっついてくる。残してはいけないという日本的思想をもって頑張っていると、隣の家族は盛大な量残している。ごらぁーなにやってんねん。お米残したら、目ぇつぶれるって教わらんかったんかぁー。などと拳を突き上げる。心の中で。

旅行者独特の心理について、

パンとコーヒーがあれば、何でもいいと心から思った自分に、スタバは完璧な店舗だったはずなのに、それを避けたのは、「せっかくニューヨークに来たのだから」という、観光客特有の興奮があったからだ。一食たりとも損をしたくない、「らしい」食事がしたい。そんな貧乏くさい気負いが、あったからなのだ。

旅行に行くと、普段は決して行かないような「地元の匂いがする」店に行ったりする。必ずしも美味しいわけでもなく、安いわけでもないのに。それが「損したくない」という心なのだろう。旅という経済行為は、支払う金と費やす時間という投資に対して、何をリターンとして得ようとするものなのだろうか。自分が過ごす日常と「違う」経験を得られれば、それはリターンの大きい、成功した投資なのだろうか。などというどうでもいいことを思った。(普段と「違う」ことに価値が見出せるのであれば、ソフトSMを試してみるとか、思い切ってAKB劇場に行ってしまうとか、コミケに出品するとか、表参道で似顔絵描くとか、一人でスナックに入るとか、色々できることがあるのだろう。それをしないで、旅には価値があると言うのであれば、そこには何があるのか…)

葉太は、かばんを盗まれてパスポート、クレジットカード、現金がなくなり大変なことになる。それと死んだ作家の父に対しての複雑な思い。自意識過剰の葉太の旅と、父親へのコンプレックス、ただそれだけを描く作品だった。面白かったかというストレートな質問に対しては、それほどでもと答える。

しかし、たった一作で西加奈子を読まなくなるということはない。

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今日の一曲

ニューヨークと言えば、Billy Joelに行くと見せかけ、Christopher CrossのArthur's Theme



顔に似合わない柔らかい歌。

では、また。

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『その峰の彼方』笹本稜平

2014-02-13 | books
大学の山岳部で出会った津田悟と吉沢國人。その後、難しい山を制覇することができた。津田はアラスカに住んでマッキンリーでガイドをしながら、ヒマラヤを攻めるという人生を選び、吉沢は大学で研究をするという人生を選んだ。津田がマッキンリーで遭難したという知らせがあり、吉沢は現地に駆け付ける。救助は成功するのか、というただそれだけの小説。

山岳や登山の薀蓄が多く、興味がない人にとってはさっぱり面白くないだろう。しかし私は中学生のときから新田次郎を読んできた筋金入りの「なんちゃってクライマー」である。もしくは、「登らないで読むクライマー」である。すごくまっすぐな山岳小説、楽しませてもらった。何年か前に行ったアラスカの景色と空気感。そして遠くに見えたマッキンリーを思い出した。アラスカは、もう一度訪れたい。

「サトルは人を愛するいちばんいいやり方を知っているって」
「人を愛するいちばんいいやり方?」
「それは人から愛されようと思わないことだって。人から愛されたがっている人間は、いつも誰かと取り引きしていて、与えた愛を上回る対価を相手に要求する。世のなかの人間のほとんどがそうで、だから誰もが妬み、憎み、いがみ合う。でもサトルのような人は誰からも対価を求めない。ただ自由に生きているだけで、心の泉からわき出る愛が周りの人の心を潤すんだって」

何やら耳が痛い。私は、たぶん、表面的に(自意識の上の方で)人から愛されようなんて全く思っていない(と思っている。)しかし意識の根底では、人から愛されたいと願い、ゆえに、ひとに対価を求め、そして誰の心も潤さない。なんてくだらない人間なんだろうか。そこの君はどうだい?

今日の一曲

山の山頂。Meet Me On The Top Of The Worldという歌詞が印象的だった、Wang Chung(ワン・チャン)のLet's Goという曲を思い出した。80年代にヒットしたのに、あっという間に消えてしまった。



このブログをお読みの方で、知ってる、とか好きだったと思う人はゼロではないかと想像する。

では、また。

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『名画で読み解く ハプスブルク家12の物語』『名画で読み解く ブルボン家12の物語』中野京子

2014-02-11 | books
別々の本なんだけれど、セットで読むといいのでレビューも一本で。スイスの一豪族にすぎなかったのに、気づけばヨーロッパの名門になって600年以上続いたハプスブルク家。名門ではあったのに、フランス王であったのは250年にすぎないブルボン家。それぞれの一族を描く絵画とともに歴史を軽くひもとく。

近親の結婚を繰り返した結果とか下世話な話から、マリア・テレジアの苦労など読みどころが多かった(なんと小学生の作文的な説明)なんでだか全く筆が進まないので(本書とは無関係)、ただオススメ本だとだけ言わせてくだされ。

本筋とは関係ないけれど、ルドルフ2世の肖像画のモチーフになっているウェルトゥムヌスという植物の神について、

ウェルトゥムヌスは果樹と園芸の女神ポモナをひそかに愛していたが、ポモナは言い寄る神々やサテュロスなどから逃れるため、自分の果樹園に籠もりきりだった。そこでウェルトゥムヌスは変身能力を発揮して、あるときは農民に、あるときは植木職人に、また葡萄摘みに、兵士に、釣り師にと変幻自在に姿を変え、彼女に接近しては口説いたが、ことごとく失敗する。ついには白髪の老婆に化けて、「夫にはぜひウェルトゥムヌスをお選びなさい。あなたと愛しているし、あなたが育てた果物をまっさきに手にするのも、季節神ウェルトゥムヌスですからね」と力説したのに、なおもポモナの心を動かすことはできない。がっかりしたウェルトゥムヌスがふっと本来の自分の姿へもどると…。
ポモナはその若々しく美しいウェルトゥムヌスのほんとうの姿に、たちまち恋してしまうのだ。こうしてふたりの神々は結ばれる。めだたし、めでたし。

おお。いい話だ。本来の自分自身を出すことが結局、恋愛(あるいはその他でも)においては、自らを幸せにする土台になるのかも知れない。

今日の一曲

カール1世だのフェリペ2世だの。何世何世と同じ名前を繰り返す。日本だって負けていない。「バビル2世」



では、また。

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『制裁』アンデシュ・ルースルンド ベリエ・ヘルストレム

2014-02-10 | books
スウェーデンのジャーナリストであるルースルンドと元服役囚のヘルストレムが組んで作り上げたシリーズの第四弾は「三秒間の死角」 このエーヴェルト・グレーンス警部シリーズの第一弾がこれ。

少女が殺された。逮捕された連続幼女強姦事件の容疑者は、逃亡した。自分の娘を殺された男が復讐しようとする…

うーむ。ネタバレしないでレビューするのは難しい。しかしネタバレはしないのが渡世の仁義。

復讐が成功するかしないかは秘密にしておいて、作中で刑務所内のことがずっと描かれる。この一見無関係な事柄がラストでかつーんと繋がる。そのラストを楽しむ「だけ」のネタ一発ミステリ。どんでん返しとして悪くないけれど、それだけを楽しむには長い。そして読後に何にも残らない。

所詮ミステリなんてエンターテイメント、何も残らないのがよいのだ。という意見もあろうかとは思うけれど。

今日の一曲

制裁と言えば、sanction…いやpunishmentで。9mm Parabellum BulletのPunishment



では、また。

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『赤ヘル1975』重松清

2014-02-09 | books
ずっとずっと弱かった、広島カープ。金がない。いい選手が入って来ない。巨人のような金も全国的な人気もあるチームとは違う。でも広島市民は熱狂的な応援をしてきた。1975年今年はいつもと違う。山本浩二と衣笠がいる。外木場がいる。池谷がホプキンスが大下が三村がいる。そんな広島の中学生たち。ヤスは酒屋の息子。父ちゃんは死んだ。母ちゃんの手伝いをしている。野球が得意だし好きなのだけれど、手伝いをしているから部活ができない。親友ユキオは熱狂的広島ファン。広島カープについての壁新聞を作っている。マナブは東京から来た転校生。巨人ファン。父は母と離婚した。父は怪しげな商売をして逃げるので、一緒に引っ越しばかりしている。そんな三人の中一男子を中心に、広島カープ初優勝という怒涛を描く。

いやいやいや。広島カープファンの私が決して読み逃がしてはならない。ファンなら随喜の涙を浮かべてしまう。

しかししかし、カープファンでなくても、一つの時代を感じ取れる、すごくいい小説(昭和を知らない若者が読むと、たぶん面白いんじゃないだろうか。)だし、さすが重松清だと思うのは、スムーズな流れと、巧みな人物描写、台詞。ものすごくよくできた人情小説だとも言える。現実の出来事とフィクションの組み合わせもすごくいい。

ユキオの書いた壁新聞「赤ヘルニュース」では、

5月8日現在で、衣笠選手の打率が3割7分5厘、山本浩二選手が3割6分ちょうど。二人合わせて、7割3分4厘!10回打席に立つと7本以上ヒットを打つ計算なのだ!しかもこの2人に3割3分の三村選手と3割4厘のホプキンスが加われば、合計13割6分8厘なのである!」

おいおい、打率を足しちゃアカンだろ。

怪しげな仕事をして、自分はエージェントだと言うマナブの父にヤスが訊く。

「エージェントいうたら、どがあな意味ですか?」ヤスが訊いた。
「…偉いひと、って意味だな、わかりやすく言えば」
「偉いひというて、社長とは違うんですか?」
「いや、まあ、似たようなものだ。ビージェントやシージェントより上だろ、どう考えたって」

飲んでいたコーラを吹き出してしまった。

なんと山本浩二本人が登場する。

「ほんまは意外と背がこまいんですね、コージさん」とユキオが言った。
だがカントクさんは「そこがスターと凡人との違いよ」と笑い飛ばす。「試合になると大きゅう見えるもんがスターで、縮こまってしまうんが凡人じゃ」

おっと。これは人間全体、いやそこまで大きい話じゃなくても、男性には当てはまることかも知れない。本物の男は、ピンチのときや本番では大きく堂々として見えて、偽物の男はその逆。練習のときや余裕があるときだけ大きく見える。

そうそう。どうでもいい話を思い出した。

確か自分が小6のときだったかと思うんだけれど、東京に住んでいた。とある駅の周囲をぶらぶらしていたら、おばちゃんに話しかけられた。その辺のスナックのママだと思う。

「山本浩二って知ってる?今日ねうちの店に来てくれるのよ。会いたい?会いたいわよね?だったら夜うちの店にに来なさいよ。」

今考えると疑問が浮かぶ。なぜ小学生の俺に?小学生歓迎スナックだったのだろうか。なぜ山本浩二?ここ広島じゃないぜ、東京だぜ。なぜ俺に言う?なぜ俺が広島ファンだって知ってる?

疑問は永遠に疑問のまま。その夜にそのスナックには行かなかったから。行くわけないよな。というずっと忘れていた話を思い出した。今度飲み屋でネタにしよう。

今日の一曲

1975年当時は野球の中継をラジオで聴いている人がたくさんいた。佐野元春で「悲しきRADIO」



最近のマイブームは佐野元春。さんざCDで聴いていたはずなのに、動画で観るライブ映像がまたすごくいい。聴かせ、そして観せる、私にとっては稀有なアーティスト。ライブほんとカッコいいよ。

では、また。

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『巨人たちの落日』ケン・フォレット

2014-02-07 | books
フレデリック・フォーサイスの「ジャッカルの日」や「オデッサ・ファイル」、ケン・フォレットの「針の眼」やジャック・ヒギンズの「鷲は舞い降りた」を読み衝撃を受けたのは高校生のときだったろうか。国際謀略とか冒険小説をそれから読みまくり、そして現実の外交の世界にも興味を持ってキッシンジャーについて調べてみたり、さらには、パレスチナとイスラエルの紛争の歴史にうっとりしたりする、かなり気持ちの悪い高校生だった。精神的にはいつ逮捕されてもおかしくなかったろう。(先日某所で、翻訳ミステリにハマるきっかけを一冊挙げるとしたら「鷲は舞い降りた」だと言ったら、現在は翻訳家をしている人が、「昔自分が出版社にいたときに担当したのがこの本です。とても嬉しい」と発言されてとても驚いた。人生どこで交差するか分かったもんじゃないのね)

本書は、第一次世界大戦のガチ大河小説。幕末の、尊王攘夷VS佐幕派大河ドラマなら「龍馬伝」とか「新選組!」とかが最近のもの。それが第一次大戦になったと考えて頂くと分かりやすい。

登場人物が非常に多いので、全てを細かく書くのはやめてざっくりにさせてもらうと、

1.ウェールズの炭鉱で働く少年ビリー 彼の美しい姉エセルは伯爵の家でメイドをしている
2.伯爵フィッツは貴族院の議員で後に第一次大戦で従軍 妹モードは女性参政権の運動家
3.ロンドン在住のドイツ大使館付武官ワルターはモードと恋してる
4.ロシアの熟練工グリゴーリイはなんとか金を貯めてアメリカへ脱出したい

以上のビリー、エセル、フィッツ、モード、ワルター、グリゴーリイが第一次大戦に翻弄されながら懸命に生きるところ、そしてそれぞれの人生の交差するところを描く大作。

上中下三巻、一巻が600頁近くあるので、計1700頁ぐらい。読むのに疲れるかと言えばそんなことは全くなく、むしろノンストップ特急状態だった。第二次大戦や太平洋戦争に関しては(たまに「永遠の0」のようないい作品を読むことはあるけれど)既に様々な小説を読んでいるので、今更新しいものを読む気にはならない。えらそーな言い方をすれば、もう知ってるから、読まなくてもいいだろ?的な気分。(ほんとは知らないことだらけなのだけれど、あくまでも気分)

しかし、第一次大戦だと話は別。どことどこがどういう経緯で戦い始めたかは知っていても、巻き込まれた個人の悲劇に関しては全く知らない。という個人的な事情が、この小説を面白がらせる原因になっていると思う。(みんなも知らないよね?え?知ってる?)

人間ドラマの王道を行っていて、そこに余計なものを何も加えてない感がステキ。(余計なものがないのにこの長さとは!)まさに、歴史に翻弄される個人の物語。これは騙されたと思って、ぜひ積極的に騙されて読んでほしい大傑作。(私が言うと詐欺っぽくなるけど)

モードは激怒した。「実はそういう動きがすべて絡まり合って戦争へと向かおうとしているのよ。あなた、それがわからないの?アスキスが保守党との連立を望むのは、彼らがより好戦的だからよ。もしロイド・ジョージが自由党左派を率いてアスキスに反対したら、どのみち保守党は政権に返り咲くですって?だれもかれも地位を求めて駆け引きしてるだけじゃないの?平和を求めて苦闘するんじゃなくてね!」

自民党、公明党、維新、民主党、考えるのはただ政権をとることだけ。理想もへったくれもない。というのは20世紀初めの英国も同じ。

20世紀三部作の第一部が本作で、第二部の「凍てつく世界」はIとIIが出たばかり。IIIとIVは2月の19日発売予定。まだ読んでない。もちろん読みますよ。年取るとこういう重厚長大な本を読むのが全く苦にならなくなってきた。

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今日の一曲

戦争に翻弄される個人。と言えば、これしかない。アリスの「砂塵の彼方」



「昴」のイメージが強くなってしまった谷村と演歌のイメージが強くなってしまった堀内の二人の古い名曲。

では、また。

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『彼が通る不思議なコースを私も』白石一文

2014-02-06 | books
不思議な小説だった。

霧子は、友人みずほが別れた彼氏に呼び出される、その場に同行する。その元彼氏はみずほとの仲が修復不可能だと知って、ビルから飛び降りる。霧子は、その場に黒い服装の男を見かけた。その男が死神のようだと思った。それから時間が経過して、霧子は合コンに参加する。すると、死神がそこにいた。彼は林太郎。小学校の教師をしていると言う。どこか浮世離れしている彼にどういうわけか彼女は惹かれてしまう。というのはほんのさわり。そこから、彼女が就職した電機メーカーでの苦労が描かれたり、彼が関わる教育における問題が描かれる。ネタバレしない範囲で言うと、学習に障害のある子に対して、社会はどうあるべきかがかなりリアルに描かれる。しかし、その教育問題がメインテーマかと言えば、そうでもないのである。これ以上は言えない。

白石一文節は相変わらず健在。好き人にはいつものテイストだから安心して召し上がれ。

何がテーマなのか明記しにくい。教育問題がテーマなのであれば、そっち方面に興味のある人やそっちに携わっている人必読、と言えるけれど、そうでもない。結婚がテーマのような、女性の生き方探しがテーマのような…(他のテーマについては、興を削ぐので言わない) しかしテーマが一つクリアーにあればいいというものでもなく、こんな風に何がテーマなのか分かりにくい小説も悪くない。

私は、白石一文の世界が大好きなので(「この胸に深々と突き刺さる矢を抜け」を読んで私の胸に突き刺さった矢はまだ抜けない)、そしていつもの感じなので、充分堪能させてもらった。読んだ人と、ネタバレを気にせずに語り合いたい本。

今日の一曲

本書のテーマを強引にひねり出すと、自分の脳内で流れる音楽をとめるな、ってことだと思う。ってことで、Jamie CullumのDon't Stop The Music



では、また。

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