頭の中は魑魅魍魎

いつの間にやらブックレビューばかり

店名にツッコんでください211

2019-03-31 | laugh or let me die
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『圓朝』奥山景布子

2019-03-29 | days
江戸の終わりから明治時代に活躍した落語「中興の祖」と呼ばれる三遊亭圓朝。新しい噺を考えたり、弟子について考えたり、金銭面で悩んだりする伝記的小説。

なかなか面白かった。

「真景累ヶ淵」や「塩原多助」の誕生秘話的な話あり、幕末、維新の大激変の時代の雰囲気あり、当時の風俗もあり。

落語を知らなくてもほとんど関係ないように書かれてるし、とても読みやすい。圓朝については興味があったので、なおさら良かった。


圓朝
奥山景布子
中央公論新社



今日の一曲

back numberで、「クリスマスソング」



では、また。
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『傲慢と善良』辻村深月

2019-03-27 | books
婚活をしてもうまくいかなかった架が、やっと結婚したい人が現れた。しかし婚約者の真実が行方不明になった。ストーカーに狙われてると言っていたのだった。群馬で育ち婚活をしたけれどうまくいかず東京に出てきた彼女。母親や姉、前にお見合いした相手から話を聞いていくうちに、彼女の本当の姿が見えてくる・・・

結婚とは何かに猛烈に迫りつつ、結婚生活には迫るのではなく、結婚しようとする人の気持ちに激しく迫る。いや、結婚というキーワードを通して、人間とは何かに迫る、面白小説。

「傲慢と善良」というタイトルからジェーン・オースティンの「傲慢と偏見」を連想する。(映画は観たけど、原作は読んでない。) 本作は、

「現代の日本は、目に見える身分差別はもうないですけど、一人一人が自分の価値観に重きを置きすぎていて、皆さん傲慢です。その一方で、善良に生きている人ほど、親の言いつけ守り、誰かに決めてもらうことが多すぎて、"自分がない"ということになってしまう。傲慢さと善良さが、矛盾なく同じ人の中に存在してしまう。」

架が彼女捜索の過程で知り合う結婚相談所の小野里の発言が含蓄深い。傲慢と善良、、巧い。自分の周囲(自分も含む)を見ていても、婚活中だろうが、以前だろうが以後だろうが割と普遍的な通用することが描かれている。

同じく、小野里は言う。

「うまくいくのは、自分が欲しいものがちゃんとわかってる人です。自分の生活を今後どうしていきたいかが見えている人、ビジョンのある人」

婚活だけに留まらず、生きる全てのタイミングで、うまくいく人のことを言い当てていると思う。

最後に小野里の別の言葉。

「皆さんね、謙虚だし、自己評価が低い一方で、自己愛はとても強いんです。傷つきたくない、変わりたくない」



傲慢と善良
辻村深月
朝日新聞出版



今日の一曲

最近よく聴いている、Nulbarichで、"Kiss You Back"



では、また。
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『傑作はまだ』瀬尾まいこ

2019-03-25 | books
小説家加賀野は一人暮らし。あまり他人には関わらないようにして生きてきた。そこは突然やってきたのは智。25年も前にたった一度だけいたした女性との間に出来た息子。一度も会ったことがなかったのに、しばらく一緒に暮らすと言う。近所づきあいを始めたりして、加賀野の知らなかった「外の世界」を教えてくれる息子・・・

おー。これはなかなか面白かった。

悪い人ではないけれど他人に興味がなくて、常識もあまりないおじさんが、若者に「教育」されてゆく。彼の変化が楽しい。

どういう内容なのか知らないまま読んだら意外な展開になって、特にラスト近辺で、智の母親が出て来る辺りはとっても良かった。


傑作はまだ
クリエーター情報なし
エムオン・エンタテインメント



今日の一曲

Boz Scaggsで、"JoJo"



では、また。
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『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』加藤陽子

2019-03-23 | books
大学の先生が、栄光学園の中高生と質疑応答をしながら歴史の講義をしたもの。日清、日露戦争、第一次世界大戦、満州事変、日中戦争、太平洋戦争を扱う。教科書に載っているような端的に出来事と年号を覚えさせるようなものではなく、政治家や軍部、一般人、あるいは英国、中国、アメリカ、フランスはどう考えていたのか、なぜそのような行動に出たのかをじっくり考えさせる本。

中高生よりも、中高年が読んだ方が良いかも知れない。一応受験では世界史を選択したので日本史にはそんなに詳しくない。とは言っても自分の国の歴史について知らないのはアホだと思って、後に多少勉強はした(つもり。)それでも知らないことがものすごくたくさんあった。

日本が従事した戦争について、何となく分かったような気になっている。しかし、実際にツッコまれれば、知らないことばかり。目からウロコが5千枚落ちた。

以下気になったことを箇条書きで。


・ベトナム戦争にアメリカが没入したのは、中国を喪失した体験があったから。(大マーケット中国が戦後共産化するのを止められなかった)

・英国が日本との不平等条約改正には、商法と民法の整備が必要だと主張した。

・ウィーン大学のシュタイン教授が伊藤博文に、権力分立構造などの憲法について教え、山縣有朋に主権線、利益線を教えた。

・国会開設を待ち望む民権派ですら、まず条約改正を望んだ。

・英国は日本の人生のとの戦争を後押しするのは、ロシアの代理が清だから。ゆえに日本との不平等条約を改正させた。

・1931年から1937年までに軍部が政治に介入するようになる。一般の人がどう考えていたか?国民の大半を占める農民の望む政策(小作人の権利を保障する)は既存政党からは出てこない。農村を大切にしてくれたのは軍部だった。

・パリ講和会議での山東権益に関して、ドイツのものを日本に渡すのではなく、返してくれとの中国の要求に対して、クレマンソーは、フランスは日本と密約を結んでいるので、日本が欲しいというものにはイエスと言わねばならないと言った。

・内田外相は満州国建設のとき、国連脱退すると声高に主張した。しかし松岡洋右は、妥協すべきだとする。英国は日本に対して、和協委員会の審議に、アメリカや中国を入れるべきだと提案する。内田はアメリカやソ連が入ると日本に厳しい結論が出ると考えたが、実際はアメリカは日本に厳しいスティムソンからハル国務長官に代わったことで国内問題に集中するようになり、ソ連は餓死者が出るほどの国内改革が迫られていたので、どちらも日本とケンカする気はなかった。


それでも、日本人は「戦争」を選んだ (新潮文庫)
クリエーター情報なし
新潮社



今日の一曲

深夜のテレビで見かけて、すげーと思った。Nulbarichで、"It's Who We Are"



では、また。
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『ノースライト』横山秀夫

2019-03-21 | books
建築士青瀬が自由に設計してくれと依頼され作った信濃追分のY邸は評判で雑誌にも取り上げられた。しかし田端に住む施主はそこに引越ししてないと分かった。なぜ?そしてY邸にはブルーノ・タウトが設計したかも知れない椅子が残されていた・・・所員5名だけの弱小設計事務所に大きな仕事が舞い込んで来た。コンペに勝てるのか・・・

うーん。

横山秀夫が書いたというのでなければ途中で読むのをやめていただろう。先を読み進もうという推進力に乏しい。

最大の難点は、忙しいはずの青瀬がなぜ施主の吉野の行方をそんなに懸命に探すのか分からない。だから先を読む楽しみが湧いてこない。(良いミステリーからは、先を読む楽しみがコンコンと湧き出る。)最終的な謎解きはキレイなものだったけれど、そのオチのために逆算して無理矢理にストーリーが造られた感じがする。

画家の記念館の設計コンペの話は割と面白い。しかし主題とは関係がない。

ブルーノ・タウト(何年か前に熱海のタウトが設計した旧日向邸を見てきた。建物そのものより、ガイドのおじさんがひたすら自慢話ばかりするのが記憶に残った。)に関する蘊蓄に溢れているけれど、それも主題(なぜ自分が設計した家の施主を探すのか)とは関係がなく、取ってつけた感は否めない。

横山秀夫の作品は、これ以外は全て面白かった。


ノースライト
クリエーター情報なし
新潮社



今日の一曲

Charで、「気絶するほど悩ましい」



では、また。
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『続 横道世之介』吉田修一

2019-03-19 | books
世之介は大学は卒業したものの、バブル直後の就職氷河期でどこも受からず、日中はパチンコし、夜はバーでバイトしている。親友コモロンは証券会社で働いているが仕事には全く向いてないらしい。床屋で出会った女性浜本は寿司屋の板前志望。そしてまたたまたま出会った美人桜子はシングルマザーで亮太の母親。それから27年後、オリンピックの年にはみな何をしているのだろうか・・・

これは面白かった。

続編?そんな馬鹿な。前作「横道世之介」で世之介は、、はずじゃなかったか?と思ったけれど、あれは大学生時代、これはその後の話なんだと随分経ってから分かった。

何というか、ただ流されて生きている世之介の生き方を読んで癒されるのだ。

「なんか、分かる気がするよ、おまえの友達が言ってること。確かに人生の谷間におまえみたいなのがいたら、重宝しそうだもんな」

確かに。

桜子が元夫を評して、

「良く言って、クズ。悪く言えば、死ね」

巧い。元ヤンがいかにもいいそう。

「いや、だからさ、幸せそうだってことよ。なんか私にしてもらコモロンにしても、いろんな夢を追ってるじゃない。でも、結局、そのゴールってさ、こうやって楽しそうにスーパーでちらし鮨買ったり、美味しかった焼肉のタレ、探したりすることなんじゃないかなって」

この小説を通して学んだことはこういうことなのかも知れない。

そうそう。言い忘れてたけど、世之介以外の登場人物が27年後何をしているのかは読んでいると割とすぐに分かる。でも世之介が何をしているのかは、なかなか分からない。その辺の作りも上手だった。


続 横道世之介
クリエーター情報なし
中央公論新社
横道世之介 (文春文庫)
クリエーター情報なし
文藝春秋
横道世之介
クリエーター情報なし
メーカー情報なし



今日の一曲

NONA REEVESで、「今夜はローリング・ストーン feat. RHYMESTER」




「今夜はブギーバック」を上手にメタモルフォーゼしてるぜ。帽子をかぶってる西寺郷太が、どこの雑誌だったか、新党さきがけの田中秀臣と戦後の自民党政治について対談してるのを読んでビックリした。では、また。
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店名にツッコんでください210

2019-03-17 | laugh or let me die
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『東京の子』藤井大洋

2019-03-15 | books
近未来小説。東京オリンピック後の東京で、親の虐待から逃げ、名前を変えた仮部は、仕事に来なくなった外国人を探して戻るよう説得するような仕事をしている。2019年の移民法の改正によって外国人労働者は急増した。「東京デュアル」は働きながら学べる学校なのだが、ここには問題があり・・・

うーむ。ハイテク近未来小説かと思っていたら、労働問題小説だった。

同一労働同一賃金などの様々な問題がクリアーできている「東京デュアル」がどんな問題を引き起こしているのか、すぐそこにあ理想なリアリティを感じる。

ただ、あまりストーリに耽溺するというほどではなかった。技巧に走り過ぎてる感あり。

小説というより、労働について考えたい人のための本という感じだった。面白い小説を読んで、その結果ある社会的な問題について学べるのはとても良いことだけれど、社会的な問題について学んでいるおまけに小説がついている感じなものは、あまり自分の求めている娯楽ではないような気がする。


東京の子
クリエーター情報なし
KADOKAWA



今日の一曲


欅坂46で、「黒い羊」


では、また。
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『胎児のはなし』増崎英明・最相葉月

2019-03-13 | books
長崎大学医学部産婦人科の名誉教授に、あれこれ訊く対談本。

知らない話だらけで、ためになった。(なんのためになるのかは訊かないで)

羊水が汚れることとか、帝王切開はなぜ横に切るのかとか、胎盤の不思議、出生前診断は受けるべきかとか。最先端医療では、帝王切開で切って、胎児の顔だけ出して気管挿管しているとか。

印象的な話は英国と日本の違い。日本では医者や看護師が夜通し働くことで、周産期医療を支えているけれど、英国では、自分の仕事はここまでと割り切っている。日本は個人の頑張りに頼りすぎていて過保護だという話。普通の出産は町中のクリニックや助産師に任せるべきであると。なるほど。

ざっくばらんに何でも答えてくれ、また好奇心にあふれた増崎先生のキャラクターも良かった。


胎児のはなし
クリエーター情報なし
ミシマ社



今日の一曲

ザ・クロマニヨンズで、「生きる」



では、また。
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『無垢なる者たちの煉獄』カリーヌ・ジエベル

2019-03-11 | books
警察に追われた宝石強盗犯たちが逃げ込んだのは田舎の一軒家。獣医の女性がいたので監禁した・・・しかし、彼女の夫はサイコキラーで女児を・・・

うおー。なんて話だ。エロ、グロ、そしてサイコ。素晴らしい。

「子どもの頃、女はおもちゃとして人形を与えられるだろう?あれはよい母親になるための練習だ。あと小さなアイロンやらままごとセットも与えられるが、あれは何のために存在するのかを理解するためにある。つまりそうやって、女は男に尽くさないといけないってことを学ぶわけだ」

などと言う最低サイコ野郎。対するは、前科がいくつもあって、3000万ユーロもの宝石を盗んだ常習的犯罪者。ハブとマングース的な闘い。

あんまりネタバレしてはいけないけれど、獣医の夫が帰宅してから、立場が逆転し、強盗犯たちが酷い目に合うのだ。その逆転と、さらにその後のどんでん返し。

上下巻あるけれど、割と素早く読める。登場人物が少ないのと、集中して読まないといけない山場は、ラスト100頁なので、それまではパパッと進む。

エログロサイコとどんでん返しという私の好物ばかりで、お腹いっぱいいただいた。


無垢なる者たちの煉獄 上 (竹書房文庫)
クリエーター情報なし
竹書房
無垢なる者たちの煉獄 下 (竹書房文庫)
クリエーター情報なし
竹書房



今日の一曲

Guns N' Rosesで、"Sweet Child O' Mine"



では、また。

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『承久の乱 日本史のターニングポイント』本郷和人

2019-03-09 | books
先日読んだ坂井孝一氏の「承久の乱 真の「武者の世を告げる大乱」はかなり突っ込んだ内容で、難しいものの、読んだ満足感は大きかった。(満足感の大きさで測るのもいかがか)しかしこちらは読みやすいものの薄っぺらな印象があった。

しかし読んでみると、違う視点から書かれていて、それも面白かった。

218頁あって、承久の乱が登場するのは、169頁になったから。乱に至るまでの過程を、鎌倉幕府とはとか、北条時政や義時の説明を通して教えてくれる。


承久の乱 日本史のターニングポイント (文春新書)
クリエーター情報なし
文藝春秋
承久の乱-真の「武者の世」を告げる大乱 (中公新書)
クリエーター情報なし
中央公論新社



今日の一曲

先日同様、「町山智浩のアメリカの今を知るTV」のサンセット・ストリップ特集で紹介されていた、Huey Lewis And The Newsで、"The Heart Of Rock & Roll"



この人の歌う英語はすごく聴き取りやすい。では、また。
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『夫の墓には入りません(『嫁をやめる日』を改題)垣谷美雨

2019-03-07 | books
結婚して東京から長崎に来た夏葉子 は、夫に先立たれた。でも悲しくない。夫とは心が繋がってはいなかったから。しかし、近所に住む義母は、勝手に我が家に押しかけて来たりして自分の娘のように扱おうとするが、すごく不快だ。私を介護要員だと思っているのか。そして夫には秘密があったようだ。怪しげな女が登場して・・・

おー。これは意外な収穫。

大きな事件があるわけでもないのに、まるでミステリーのような「この後どうなる感」が持続する。一気に夜中まで読んでしまった。

パートで働く主人公の仕事をバカにする義父母。義娘を大切にしている風に見えるけれど、本人の意思を無視している。こういう人たちいるだろーなーと思わせる。

夫との冷めた関係もミステリアス。裏に何があったのか。東京の一見がさつに見える実家の親と、上品ぽい義理の父母のコントラストも巧い。

結婚とか離婚とかその副産物について色々考えさせられた。結婚してる人、離婚した人、特に女性が読むと、共感したり、考えさせられたり、あるいはヒヤリとしたり、そして面白いと思うような気がする。私は精神的におばさんなので、充分に堪能できた。


『夫の墓には入りません』〈『嫁をやめる日』を改題〉 (中公文庫)
クリエーター情報なし
中央公論新社
嫁をやめる日
クリエーター情報なし
中央公論新社



今日の一曲

BS日テレの「町山智浩のアメリカの今を知るTV」のサンセット・ストリップ特集で紹介されていた、Motley Crueで、"Girls, Girls, Girls"



では、また。

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『新章 神様のカルテ』夏川草介

2019-03-05 | books
栗原一止は大学病院の内科医になった。大学院での研究と並行しながらなのでキツイ。29歳で進行膵癌の女性や、84歳胃瘻建設済みで大学病院では治療することがないから追い出せと言う運営側や、100円玉を飲み込んだ少年などなど。大学病院という巨塔特有の問題にも悩まされる。しかし古いアパート御嶽荘の生活は楽しい。細君のハル、2歳の娘小春。一止は巨塔生活を乗り切れるのか・・・

やっぱりこのシリーズはいい。

一止の人柄、ハルや御嶽荘の面々たち。懐かしい。読んでいて温かくなってゆく。

医療の問題、大学病院の問題、色々と知らないこともたくさんあった。そしてラスト。次回作が今から楽しみな終わり方だった。


新章 神様のカルテ
夏川草介
小学館



今日の一曲

Samantha Fishで、 "No Angels"



では、また。
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店名にツッコんでください209

2019-03-03 | laugh or let me die
コメント (4)