頭の中は魑魅魍魎

いつの間にやらブックレビューばかり

『遭難信号』キャサリン・ライアン・ハワード

2018-09-30 | books
脚本家の卵のアダムはアイルランド在住。彼女のサラが仕事でスペインへ行った。そして連絡がつかなくなる。彼女の両親も心配する。そして彼女のパスポートが郵送されてきた。「ごめんなさい」と書いたメモとともに。サラの行方を調べていくと、豪華客船に乗っていることが分かった。さらに調べると、ピーターという男性の妻エステルも同じ船で行方不明になっていることが分かり、一緒に船に乗り込むことにした・・・

船での犯罪捜査は、その船が登録されている国が行うので、バルバドス船籍ならば、遥か彼方地中海までバルバドスから捜査官がやって来るということになるけれど、まともな捜査ができるわけもない。しかしアメリカは例外で、アメリカ人が殺害されればFBIがすっ飛んでくるそうだ。ということが重要だったりする。

なかなか楽しめた。

行方不明女性の捜索以外に、ロマンという名の、アブナイ子供の話が時折挿入される。奇行のせいで母親に疎まれている。この彼のエピソードが不気味で、本筋と繋がったときは、思わず唸ってしまった。


遭難信号 (創元推理文庫)
キャサリン・ライアン・ハワード
東京創元社



今日の一曲

Tracy Chapmanで、 "Fast Car"



では、また。
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『ブルックリンの少女』ギョーム・ミュッソ

2018-09-28 | books
フランス人作家のラファエルは子供が生まれたものの、妻は逃げるようにしていなくなり、一人で赤ちゃんを育てている。そんな彼にも運命の人はが現れた。研修医のアンナだ。結婚式を三週間後に控え、休暇を二人で過ごしていると、彼は彼女が過去を隠そうとしていることが気になり、全てを話すよう言う。アンナは断るが、どうしてもと言われ、一枚の写真を見せ、「これがわたしのやったそと」と言った。ラファエルは衝撃を受け、そしてアンナはその場から居なくなった。アンナを探すが見つからない。隣人の元警部のマルクの助けを借りる。すると、意外過ぎる過去が分かってきた・・・

飛行機の中で読んだ。読後、虚脱状態に陥って前面のモニターをぼんやりと見つめてしまった。

凄い。凄すぎる。今年のベスト1どころか近年のベストと言ってもいいかもしれない。

ラファエルとマルクの捜査はどんどんと過去に遡り、ちょっと信じられないようなアンナの過去が明らかになる。そして明らかになったかと思ったら、さらに深い底がある。訳者あとがきにあるように、謎のマトリョーシカ状態だ。

登場人物は多く、二人それぞれの捜査は国境を越えたりもする。にもかかわらず、一気読み。文章が読みやすいのだ。こんなに複雑な話をこんなにシンプルに描くなんて。機内で一気に5時間ぐらいで読んでしまった。途中でやめて映画を観たかったのに、やめられなかった。

「ミレニアム」のような、面白すぎる小説に翻弄されたい方に激しくオススメ。


ブルックリンの少女 (集英社文庫)
ギョーム・ミュッソ
集英社



今日の一曲

レキシで「SEGODON」



では、また。
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店名にツッコんでください198

2018-09-26 | laugh or let me die
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『夜の側に立つ』小野寺文宜

2018-09-24 | books
野本了治の人生。39歳、自分とボートに乗った高校からの付き合いの友達が溺死する・・・18歳に遡る。目立たない帰宅部人生だった。しかしバンドを組もうと誘われる。一緒のメンバーは学年一の美女君香や美男壮介生徒会長の信明と副会長の昌子。自分以外はスターだった。しかし学祭の演奏は成功する。ずっと好きだった君香はきっと壮介の事が好きだと思っていた・・・卒業後はバラバラの人生。野本は高校教師になる。しかし人生そんなに上手くいかない。二十代の野本、三十代の野本、そして四十歳になった野本。後悔の多い人生の挽回はできるのか・・・

うーむ。「ひと」も良かった。「その愛の程度」も良かったけれど、こちらも良かった。甲乙つけがたし。

時間軸を前後するので、既に結末を知っていることを再度振り返ったりするのだけれど、これがなかなかいい。

読む方からするとやきもきしてしまう野本がいい。いい奴なんだけれど、本当にいい奴なんだけれど、何か一歩が足りない。野本=自分だと思ったり、野本≠自分だと思ったり。

野本の意外な童貞喪失エピソードがいい。羨ましいような気もするし、後の野本にとっては良くない体験だったような気もする。このビミョウ加減が絶妙に巧い。

野本の、やや意外な人生もいい。ストーリー展開もいい。そしてラストもいい。

褒めすぎだろうか?


夜の側に立つ
小野寺文宜
新潮社



今日の一曲

Gary Clark Jr.で、"When My Train Pulls In"



では、また。
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『歪んだ波紋』塩田武士

2018-09-22 | books
西の新聞社にまつわる連作短編集。やらせや誤報、フェイク・ニュースのような黒いネタが続く。

最初はどうかと思っていたのだけれど、元新聞記者で今は韓国語学校の教師をする女性が主人公の「ゼロの影」から急に面白くなってきた。盗撮事件があったのに、なぜか報じられない・・・続く「Dの微笑」はテレビのやらせ問題。ラストの「歪んだ波紋」は、ネットメディア。この三つはなかなか面白かった。

「『MeToo』って、なんか危なっかしいねんな。大半が記憶による告発やろ?」
「基本的に告発してる人は実名ですから、嘘をつくメリットはないと思いますけど。こうでもしないと、認識が変わらないってことじゃないんですか?」
「いや、そういう前提は分かってるねん。俺が言いたいのは、被害者の証言が即証拠として採用される空気が怖いってこと。これ、裏取りが相当厄介やで。ネットは一生残るから、実名で告発されたら社会生命を奪われる可能性だって十分ある」
(中略)
「女性だって、できれば告発なんてしたくないんですよ。でも、方法がないからみんなで思いを共有しようとしてるんです」
「でも、やっぱり俺は同調圧力が息苦しいし、私的なトラブルを蒸し返して世間を巻き込むって、何か品がないねんな」



歪んだ波紋
塩田武士
講談社



今日の一曲

MONKEY MAJIKとサンドウィッチマンで、「ウマーベラス」



では、また。
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『下町ロケット ゴースト』池井戸潤

2018-09-20 | books
シリーズの主役、小さな町工場なのに(三菱重工を想像させる)帝国重工のロケットに搭載されるバルブに採用されたのが、佃製作所。今回は、トラクターのミッション内のバルブがメインの話。大手の農機具ーメーカーにエンジンをを採用して貰っていたが、契約を切られることになってしまった。もっと安い製品を提供する会社があるとのことだ。佃は、エンジンよりもミッションを作るメーカーになりたいと考える。その過程で、まずミッション内のバルブを作ろうと考え、コンペに出ることにした。ミッションのバルブという今までに経験のない仕事。試行錯誤は続く・・・ミッションを作るギアゴーストという会社に興味を持つ。しかしその会社には魔の手が伸びていた。どうする、佃?

「下町ロケット」はドラマでは観ていたけれど、原作は初めて。こりゃ、面白い。

ものすごく読みやすい。必ずしも平易な表現をしているというわけでもないのだけれど、読み返さなくても一読すれば理解できる。(翻訳ものなどでは、何回か読み返さないと意味が分からないこともある)

そして、池井戸潤作品のテーマ「勧善懲悪」は今回もきちんと織り込まれている。弁護士が大きく関わってくるとだけ言っておこう。

10月からドラマになるそうだけれど、もちろん観る。どう映像化されるのかに興味があるし、原作の出来が良ければ、知っているネタでも、また観たくなる。

池井戸作品は、小説は、普段本を読まない人にオススメだし、ドラマは、普段ドラマを観ない人にオススメ。


下町ロケット ゴースト
池井戸潤
小学館



今日の一曲

Charisma.comで、「Introduction的な」



では、また。
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『四十歳、未婚妊娠』垣谷美雨

2018-09-18 | books
宮村優子、39歳、独身、旅行代理店でアジアのツアーを担当している。部下の水野と下見で行ったカンボジア。一夜限りの関係を持ってしまい、そして優子は水野の子を妊娠してしまう。しかし水野は独身だけれど美人の彼女がいる・・・産むべきか堕ろすべきか・・・水野に妊娠したと伝えるべきか否か・・・父の7回忌で実家に帰ると、バツイチの兄と、口うるさい姑と二世帯住宅に住む姉、噂好きの親戚、子供達を心配する母がいた。そして夜は独身の同級生たちと集まる・・・妊娠したと言える人がなかなかいない。会社のトイレから姉に電話をするとそれが誰か社員に聞かれてしまった。そして上司からはマタハラ発言されるし、水野の恋人からも嫌がらせされる。優子は子供を産むのか?優子は幸せになれるのか?・・・

おー。これはものすごく面白かった。勧めてくれた友人に深く感謝。自分からは手に取ろうと思わないタイトルだった。

人物造形がうまく、台詞もストーリー展開もいい。

ひたむきで善良な優子をつい応援してしまう。また、日系ブラジル人のマリアとリカルドの母息子もいい。仕事に忙しく、ストレートな物言いをするマリア。そして小学校でいじめられ不登校になり、日本語が得意でないリカルド。この二人もつい応援してしまう。頑張れ。

バツイチの兄に対して伯父は言う。

「ほんだって、昔から男やもめに蛆が涌くってゆうじゃろ。誰ぞ世話してくれる人おらんと困るじゃろ」
そのとき、姉の真知子が、末席の優子を鋭く振り返った。
- 世話、だってさ。
声を出さずに、口を動かす。
思わず自分も、「女は男の世話係ですか」と口の中でつぶやいていた。

うーむ。女=〇〇、男=××というような決めつけは古いし正しくないのだろうと思う。脳には癖があって、ついついあっちに傾いたり、こっちに傾きがちだけれど、なるべくニュートラルに戻したいところだ。小説を読むということが、自分の考え方の癖をニュートラルにしてくれる、かもしれない。ドラマ「ヒモメン」では、川口春奈演じる性格のいい看護師とヒモの窪田正孝がいい味出していた。ヒモの碑文谷(窪田)について作家の岩井志麻子は、

「大事なのは、いつも機嫌がいいってことですよ。金持ってても、不機嫌な奴が家ん中にいたらたまらんじゃないですか! ヒモって、犬や猫と一緒。うちはかわいいわんこが2匹いますが、私が病気になっても看病してくれないし、助けてはくれないですよ。でも、帰宅すると全身で大喜びしてくれる。それでわが家で最も生産性のある私が嬉しくなって、こいつらのために稼がなきゃって働く気になる。稼ぐ女を見つけてその女に気に入られる、女を働く気にさせるヒモでいられるのも才能なんです。ヒモの家元から言わせていただくなら、『ヒモメン』のヒモはとてもいいヒモ。窪田くんが“ちょーだい”って愛嬌たっぷりにおねだりするのはアリなんです」

と言っていたそうだ。男=ペットだったりもするわけ。本に戻ると、

- 亭主が「今夜は夕飯は要らない」と言い置いて会社に行くときの解放感といったら、もう天国よ。あとは自分の自由時間だもの。

なるほど。

「昌代が笑ったの?どうして?」
- 日本は平和ねって言いよった。世界には餓死寸前の子供らがたくさんおるのに、紙切れ一枚でごたごた言って、父親なんて誰だっていいじゃないの、信頼できる大人に育ててもらえれば恩の字よって言うて、わしを馬鹿にしたように笑いよった。

戸籍だとかシングルマザーだとか悩む日々も、もっと高い視点で見てみると、すっきりするのかも知れない。読んでいて、元気が湧いてきた。


四十歳、未婚出産
垣谷美雨
幻冬舎



今日の一曲

iriで、"Corner"



では、また。

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『血のペナルティ』カリン・スローター

2018-09-16 | books
ジョージア州捜査局特別捜査官のウィル・トレント。パートナーは、フェイス・ミッチェル。フェイスが帰宅すると、身元の分からない男の遺体が。逃げる容疑者をフェイスは射殺する。母親のイヴリンはどうやら拉致されたようだ。彼女は麻薬捜査課の刑事として働いていた。大規模な汚職事件で部下が沢山刑務所に行くことになった。しかしどういうわけかイヴリンだけは訴追されなかった。その時の恨みなのか、金銭目当てなのか・・・

これはなかなか良かった。

事件の真相が少しずつ明らかになる。辻褄の合わない感じはあるけれど、まあそういうことなのかなと思っていたら、実は違っていた。そのユニークな真相が割と好み。(下にネタバレあり)

ウィルの上司で、鉄の女アマンダもいい味を出している。イヴリンとは昔からの親友で、ウィルの知らないことを沢山知っている。それを彼になかなか教えてはくれない。このイケズ感もまたいい。

そして、不器用なウィルが、女医サラ・トレントとついに恋仲になりそうになる。妻のアンジーとは長く別居中だし、これほどに相思相愛ならばうまくいって欲しいとドキドキしながら読んだ。

彼女ははじめて口を開いた。「息をして」
ウィルは生まれてからずっと呼吸を止めていたような気分で、ほっと息を吐いた。



血のペナルティ (ハーパーBOOKS)
カリン・スローター
ハーパーコリンズ・ ジャパン



今日の一曲

犯行現場で流れていた曲。真相と関係がある。AC/DCで、"Back In Black"




※ネタバレ

汚職事件で情報をリークしたのはイヴリンだった。殺人事件は、イヴリンがギャングとの間に出来た息子ケイレブが起こしていた。彼は養子に出されたが金銭的に余裕のない生活をしていた。自分を捨てたと、実母のイヴリンを恨みまた、娘のフェイスをも恨んでいた。では、また。
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店名にツッコんでください197

2018-09-14 | laugh or let me die
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『十三階の神(メシア)』吉川英梨

2018-09-12 | books
公安の捜査官、黒江律子は仕事に埋没するタイプ。(オウム真理教を連想させる)カイラス蓮昇会は20年ほど前に、無差別テロ事件を起こした宗教団体。教祖や実行犯は逮捕され、死刑判決が下っている。カイラスは解散したが、分派は活動しており、その一つの輪芽11に、律子の母親が入会してしまったと妹から知らされた。母親をどうやって脱会させればよいのか・・・病院で薬品盗難事件が起こった。律子はその捜査を妨害しようとする。なぜ?・・・公安は、カイラスの教祖が死ぬと、信者たちがテロを起こすのではないかと危惧している・・・

うーむ。ラストはかなりストーリーが詰め込まれすぎてごちゃごちゃしてしまった。それまではぶっちぎりで面白かった。

なぜこんな大変な仕事を続けているのか尋ねられ、

「ここまできて今更やめられない、ここ以外に居場所がない、というのも正直、あります」
うんうん、と久間は幼い子供と接するかのように頷いてみせた後、「同じだよ」と厳しく律子に投げかけた。
「信者たちも同じだ」
「なにが同じなんです」
「彼らは宗教が好きなんだ」
律子は思わず、眉をひそめた。
宗教が、好き。そんな感情がこの世にあると想像したこともなかった。久間が続ける。
「君は捜査や諜報活動が好きなんだろ。緻密な作戦を立てて実行することに、血湧き肉躍る高揚感を覚えて、それが楽しくて仕方ない。彼らだってそうだ。彼らは宗教の話が大好きで、修行が大好きなんだ」

なんて表現があったり、また、

ビールが喉を通るたびに上下するの喉仏を見て、もう自分がビールになって飲まれたいと思うほどに、古池に恋焦がれていた時期もあった。

ビールになって、飲まれたい!巧い。

どんでん返しが大量にあり、読み飛ばせない重厚さは嬉しい。ラストの渋滞さえなければ年間ベスト級だったろうか。


十三階の神
吉川英梨
双葉社



今日の一曲

Suedeで、"Life Is Golden"



では、また。
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『彼女の恐喝』藤田宜永

2018-09-10 | books
女子大生岡野圭子は苦学生。学費は全て六本木のクラブでのバイトでまかなっている。深夜自宅近くで、クラブの顧客国枝を見かけた。古いマンションから何かに追い立てられるようにして出てきたのだ。そして、圭子はそのマンションで殺人事件があったことを知る。国枝を脅せば大金が得られる。しかしどうやれば・・・国枝には驚くような過去があって・・・

うーん。藤田宜永のようなベテラン作家の文章というよりも、新人作家のもののような感じがした。フックというか、引っかかる言葉がほとんどない。スラスラ読めるけれど、ネタで勝負しているだけなので、薄っぺらい印象が残る。(しかし、秀吉の朝鮮出兵を描く飯島和一の大作「星夜航行」も、戦後の沖縄を描く、真藤順丈の分厚い「宝島」も途中で挫折した私が言う台詞か・・・) ストーリー展開も少々強引だったかと。ただ、ネタそのものは悪くなかった。下に、ネタバレしておこうっと。

彼女の恐喝
藤田宜永
実業之日本社
星夜航行 上巻
飯島和一
新潮社
宝島
真藤順丈
講談社



今日の一曲

南佳孝で、「スローなブギにしてくれ」



※以下、ネタバレ

国枝は軽井沢で、不倫相手の夫を殺害した罪で指名手配がかかった。逃亡中に他人の戸籍を買い、別人になりすましていた。国枝はその事を脅されていると勘違いして、圭子に2千万払ってしまった。では、また。
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『その愛の程度』小野寺史宜

2018-09-08 | books
35歳、防虫メーカーの営業マン、豊永。年上の妻はカフェの店長、娘菜月7歳は前の夫との間の子供。家族3人仲良くやっていたはずだった。大勢で川遊びに行った。菜月と一緒に川に入ったのは6歳の留衣。気づいたら、二人とも溺れてしまった。慌てて菜月を助けようとして、間違えて留衣の方を助けてしまった。そして、菜月は口をきいてくれなくなる・・・流転していく豊永の人生・・・

なんということのない話なのに、なぜか、面白いなー、と呟きながら読んでしまった。台詞とか、ストーリー展開が自分の肌に合ったようだ。

「二年で一度も子どもを叱らない父親なんて、いる?」
ドキッとした。居る?ではなく、要る?かと思って。

時折登場する、会社の後輩の小池くん。彼女が男友達と旅行にいっても、許すと言う。

「電車でイスに座ってたら眠りこけた隣の人に寄りかかられた人、を見ればわかります。ただ寄りかかられただけ。それだけのことなのに、人って、すごく嫌な顔をするじゃないですか」
「あぁ。するね」
「ぼくは、それを見るのがすごくいやなんですよ。といって、自分もいやな顔をしちゃうんですけど」
「おれもしちゃうよ、たぶん」
「で、くるみが電車でその状況になったことがあるんですよ。イスが一人分しか空いてなかったんで、くるみに座らせて、ぼくは前に立ってました。そしたら眠りこけた隣のおじさんが、くるみに寄りかかってきたんですよ。あ、ヤバいなって、ひやひやしました。くるみは、どうしたと思います?」
「さあ」
「笑ったんですよ。しょうがないなぁって感じに。この人はだいじょうぶだなって思いました」

この小池くんの感覚、すごく分かる。寄りかかられても嫌な顔をしないような人、私も好きだ。

結婚する自信はないが離婚する自信はある。大学生のころに自分がよくそう言っていたことを思いだす。

私も同じようなことを思ってたよ。

もし顔が嫌いなら、どんなに性格がよくても、その人は好きになれない。性格のよさはもちろん重要だが、所詮、一般化されるものでしかない。だから、顔が好き、を軽視してはいけない。

確かに。

ちょっと冴えない(?)豊永くんがまるで自分の分身のようだった。ラストの方に向かって、あーそうなるのだなー、と思ってたら、それもどんでん返されてしまった。どんでん返し好きが、どんでん返しが来ると思ってない時にくらうこの感じ。BBQに行って、焦げた野菜を食わされるのだろうなと思っていたら、美味い刺身が出て来た感じ?違うか。

傑作「ひと」はものすごく良かったけれど、こっちも結構面白かった。


その愛の程度
小野寺史宜
講談社



今日の一曲

田島貴男と長岡亮介で、「接吻」と"FUEL"



最後の方で、ダ・ダ・ダの歌う音、すごくいい。では、また。
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『ラブという薬』いとうせいこう、星野概念

2018-09-06 | books
いとうせいこうが、バンド「口口口」(クチロロ)で一緒にやっているのがギタリスト星野概念。星野の本職は精神科医。いとうが星野にカウンセリングを受けてみたら、思いのほか良いものだったので、カウンセリングとか精神科医とかについて対談したものを本にした。

精神科医として大切なことが、「共感」であるとか、精神科医としていつもトレーニングしているとか、「面白くて、ためになること」が沢山あった。

精神科医とは直接関係はないけれど、ツイッターやインスタグラムなどについて、

いとう 「星野くんが言うように、承認されることってほんと魅惑的だよね。俺は21世紀に最も人を狂わせるのは、承認欲求だと思ってる。もちろん昔の承認欲求はあったけど、そう簡単に満たせるもんじゃなかったんじゃないかな」
(中略)
いとう 「たとえばテロって、爆破一発で大きな変化が起こるわけだよ。それってテロリストにとっては、努力と関係なく承認欲求が満たされるってことでしょ。そして、テロを抑えようとする政治家たちも、すごく感情的になって、報復するんだとか、壁を作るんだとか言うけど、あれもテロ対策のように見えて、実際は彼ら自身の承認欲求から来るもんだんだよね」
(中略)
星野 「たとえばSNSとかで乱暴な人を見かけたときに「まあ別にいいじゃん、そのくらいは」と思って見過ごしちゃうと、やっぱり退行していくんですよね。どんどん子供返りしちゃって「だったら俺も言おう」って連鎖していって、全体的に精神年齢が下がっていく」
いとう 「暴力とか暴言が嵐のように吹き荒れている今の世の世界が、俺は怖くてしょうがないよ。たとえば電車に乗ってても、人の心の中はわかんないから「この人たちもヘイト側なのかな」って思ったりして、辛くなっちゃうんだよね」

という会話がとても印象的だった。

いとうせいこうの本はほとんど読んだことがなかったけれど、こういうことを言う人の書いた文章なら読んでみたいと思った。また星野概念も信頼できる人だと思ったので、何か書いたものがあれば読んでみようと思った。エッセイなどあるらしい。

上の、承認欲求みたいな話は一部だけで、精神科とはという話がメイン。

自分の心について悩んでいる人が読んだら何か参考になると思うし、精神科に行くというハードルの高さは随分下がるんじゃないだろうかなって気がする。


ラブという薬
いとうせいこう、星野概念
リトル・モア



今日の一曲

荒井由実で「雨の街を」



いつだったか、だいぶ前。毎日毎日肉体的にも精神的にも、ただひたすら疲弊しきる日が続いていた。日々何かを学んだり得たりするのではなく、日々何かを失っていたようだった。そんな時、聞いていたのは「荒井由実ベスト」 松任谷由実ではなく、もっと古い荒井由実時代のもの。暗い時に癒してくれるのは明るいものではなくて、むしろ暗いものだと初めて学んだ。暑い時には、冷たいものではなく、熱く煮えたぎるトムヤムクンなのだ。では、また。
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『ふたりぐらし』桜木紫乃

2018-09-04 | books
札幌、妻は看護師、夫は映画の技師。夫の仕事はほとんどなくて、妻に支えられている。夫の母親は、腰が痛いとか膝が痛いとか電話をかけてきて、毎週月曜日は札幌から江別まで行って、札幌の病院まで行って、また江別まで送り届けないといけない。妻の母親は、ストレートにモノを言うタイプで夫の収入のないことに対する不満を隠さない。妻は自分が看護師に向いているのだろうかとそこはかとない疑問を持ちながら仕事をしている・・・

夫婦の絶妙な機微を淡々と描く感じ。やっぱり桜木紫乃はいい。

彼女らしいドロドロした愛憎は少な目。淡いホームドラマに、桜木紫乃の強烈なスパイスをふりかけたと言えば分かるだろうか?分かるわけないか。

短編集が連作になっているのだけれど、短い話の中にちゃんとそれぞれの起承転結があって、さらに全体としてまたきちんと繋がっているのもまた素晴らしい。細かい台詞もまたいい。

実りが多いはずの若い時間をひとを恨んだり責めたりして過ごしてはいけない、という話に思うところがあったのか、

住職は、男と女にはどうしても埋めきれぬ大きな溝があるが、それゆえ多くの人間がその溝を埋めようと苦しむのだと締め括った。

「なんだかいいな、そういうのって。僕はこのとおり家族も持たなかったし、親もとうに見送ったんで、誰に何を隠そうにも、いちいち相手を探すところから始めなくちゃいけない。改めて先輩の言ったことが重みを増すね。自由ってのはあんがい寄る辺ないものなんだな」



ふたりぐらし
桜木紫乃
新潮社



今日の一曲

Mick JaggerとKeith Richardsで、 "Honky-Tonk Woman"(アコースティックギターバージョン)



The Rolling Stonesは、高校時代の我がヒーローだった。では、また。

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『サイレント』カリン・スローター

2018-09-02 | books
ジョージア州の特別捜査官ウィルトレントのシリーズ第4作。

女子大生が殺害されていた。地元の刑事レナと上司フランクは、怪しい知恵遅れのトムの元へ駆けつける。温厚なはずのトムはナイフで切りつけてきた。逮捕され、自白、そして自殺してしまった・・・レナは警察官として問題が多い。別のシリーズの主人公の医師サラ・リントンは警察官の夫を失っているが、当時パートナーだったレナの過失によるものらしい。そしてちょうどレナはアトランタから、実家のあるこの地へ帰ってからところだった。フランクに検視を頼まれ、事件に関わってゆくサラ。レナとの強烈な確執・・・ウィルは、嘘を見破り、真実へと迫ってゆく・・・

おっと、これは収穫。我慢して読み続けてきた甲斐があった。(我慢してまで読むなよ)

途中の人物造形とかストーリー展開もいいのだけれど、何と言ってもラストの謎解き。誰がなぜ連続殺人を行なったのか。誰がについてはヒントがあったわけでは無いので、作者と読者がフェアな闘いをしたとは言えないけれど、動機については伏線がちゃんと張られていて、これがなかなか巧い。なるほど、そういう動機なら、と納得してしまった。(殺人に納得してしまったらあかんけど)


サイレント 上 (ハーパーBOOKS)
カリン・スローター
ハーパーコリンズ・ ジャパン

サイレント 下 (ハーパーBOOKS)
カリン・スローター
ハーパーコリンズ・ ジャパン



今日の一曲

Olivia Newton-Johnで、"Xanadu"



では、また。


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