頭の中は魑魅魍魎

いつの間にやらブックレビューばかり

ハノイのスーパー

2014-09-29 | travel
先日、と言っても2か月ほど前に行ったハノイ。

外国に行くと必ずスーパーに行ってみる。

ここでものぞいてみると、







ごく一部の商品にだけ万引き防止のタグがついている。

乳製品とウインナーらしいもの。

なぜなんだろう。
コメント

『後妻業』黒川博行

2014-09-28 | books
91歳の耕造のところに、69歳の小夜子が後妻に入った。沙夜子は最後を看取りたいと言ったが、その割に耕造が入院したあとに世話をしようとしない。そう。小夜子は耕造を殺そうとしているのだ。耕造の娘たちに財産をとられないように自分に財産を渡す旨記載した公正証書をとってある。小夜子の指南役は柏木。結婚相談所の経営をしているが、会員の中からカモになりそうな男を見つけて、柏木の手先になって金をむしりとれる女を見つくろう。そして耕造は死んだ。死後、娘たちは弁護士に相談した。入籍はしていないし、内縁の妻として権利を主張できるとは思えないからだ。弁護士は探偵本多に依頼する。本多が探り出した過去とは、小夜子は何度も何度も入籍を繰り返していて……

犯罪を割とポジティブに描くジャンルにコン・ゲームがあって「百万ドルをとり返せ!」「リリアンと悪党ども」(どんな話だったけか?)とか映画「スティング」などが印象的だった。本作はそういう作品にある明るい面を取り去って、関西のエグイ感じをザクザクとまぶして、実録犯罪ドキュメントのような仕上がりになった。

百万ドルをとり返せ! (新潮文庫)リリアンと悪党ども (角川文庫)スティング [Blu-ray]

後妻業という業がまるで本当にあるかのように読ませる。小夜子の強烈なキャラもまたいい。旅行中に読み終えられるほど、スムーズな展開だった。

後妻業

今日の一曲 他にいい男が見つけられないからと歌う、Pearl JamでBetter Man



では、また。
コメント

『特捜部Q 知りすぎたマルコ』ユッシ・エーズラ・オールスン

2014-09-27 | books
シリーズ第五作はODA汚職と子供を使った窃盗団。デンマークからカメルーンへの政府開発援助から多額の横領がなされていた。その事実を知る者が殺される。事件に関わるのは外務官僚の事務局長や銀行頭取。並行して描かれるのは窃盗団。メンバーの少年マルコは上記の殺人を自分のグループが請け負ったことを知ってしまい、逃走する。被害者はカメルーンの開発援助に携わる外務省の上級参事官だった。逃げるマルコと追うグループ。そして特捜部Qもマルコを探す……

正直長くて途中ダレてしまった。しかし後半機転の利くマルコの活躍が目立ち始めてから俄然面白くなってきた。

デンマーク(だけでなく他の先進国も)の抱えている闇にスポットライトをあてた快作だった。

しかし、長い……(一冊のミステリーはこのぐらいの長さじゃなくてはいけないという私の偏見がそう思わせるのだろうか。いや長いのはすべて嫌いだという訳でもないのだけれど…)

特捜部Q ―知りすぎたマルコ― ((ハヤカワ・ポケット・ミステリ))

今日の一曲

マルコと言えば「母をたずねて三千里」 テーマ曲のスペイン語版を見つけた。



では、また。

コメント

『おれたちの約束』佐川光晴

2014-09-26 | books
「おれのおばさん」「おれたちの青空」に続く第三作。

詳しいことは読んでない人にネタバレになるのではしょると、恵子おばさんの強さや優しさを含んだとてつもない感じが中心だったのが、今度は陽介の強さと優しさが真ん中に来る。

そしてこれがまたいい。

陽介が高校に入って、生徒会の選挙である発言をするのだが、これにはおでこをぴしゃっとされたような、氷水を背中に入れられたような、驚くと同時に、自分にはできないなーという思い。そして、自分にはこういう部分がない、自分さえ良ければいい人間なんだと、陽介の態度を通して、自分を理解した。嗚呼、俺はなんて嫌な奴なんだ。

学園祭のネタもまたなんともいい。

このシリーズは前の作品を読んでなくても、楽しめるように必要な説明があるからこれから読んでも大丈夫。私のような順番原理主義者じゃなければ問題なし。

おれたちの約束 (おれのおばさん)

今日の一曲

約束。Bloom Of Youthで「ラストツアー 約束の場所」



では、また。
コメント

『銀河英雄伝説1<黎明編>2<野望編>3<雌伏編>』田中芳樹

2014-09-24 | books
紀元2800年の未来。地球からアルデバラ系第二惑星テオリアへと中心は移動していた。銀河連邦が成立する。辺境地域への膨張、宇宙海賊の出現、掃討、そして「中世的停滞」 民主的共和政治は自浄能力を失った。そこへ登場するのがルドルフ・フォン・ゴールデンバウム。軍人からのし上がって首相になり、そして国家元首も兼務することになる。ここで銀河連邦は崩壊し、銀河帝国が生まれた。綱紀粛正が進み、異分子は排除される。ルドルフの死後、共和主義者による叛乱が続発するが、ルドルフの作り上げた強大な専制体制は叛乱を粉砕した。そしてルドルフの子孫が皇帝の座を受け継いでいった。しかし奴隷階級にされたアルタイル星系の共和主義者が帝国から脱出に成功し、自由惑星同盟を作った。帝国と同盟の対立。中間にはフェザーン自治領があって…というのは最初の20頁あまりの序章

ルドルフの登場は、民衆が根本的に、自主的な思考とそれにともなう責任よりも、命令と従属とそれにともなう責任免除のほうを好むという、歴史上の顕著な提唱である。

本編の方は、戦争の天才同士の闘いがメインにある。帝国のラインハルト・フォン・ローエングラムは上級大将、20歳。人を人とも思わない、権謀術数の男。腹心はキルヒアイス。同盟はヤン・ウェンリー、准将、29歳。歴史を学びたかったのに、気づけば望まない立場にいた。戦争の天才同士の飛び散る火花。足を引っ張る勢力との内部抗争。両国の戦争の行方は。中立の立場にいる不気味なフェザーンの領主、アドリアン・ルビンスキー…

読みながら思った。これは危険だ。全10巻もある。外伝がさらに5巻も。第一巻を読み終わって、予想通り、あー次が読みてーぞー。

しかしこればかりを読んでいるわけにはいかんのである。何とか袖にすがる二巻を置いて別の本を読んだ。待ってろよ、すぐに戻って来るぜベイビー。

ヤンとラインハルトという好対照のライバルの置き方が絶妙に巧い。それぞれの国の中での苦悩、謀略。闘いのシーンばかりだと飽きてしまうのだが、闘いとそうでないシーンの配合もまたいい。

しかし、この本がとてつもなく面白いのは、SF読みでない私が読んでも激しく面白いのは、政治や経済、哲学、思想、歴史などあらゆる文系ネタがつまっているからなのだ。素敵も台詞が多い。1982年に発表されたとは思えない。今現在全く古びていない。

非戦闘員を虐殺したとか休戦協定を破ったとかの蛮行があった場合はともかく、本来、名称と愚将とのあいだに道義上の優劣はない。愚将が見方を100万人殺すとき、名称は敵を100万人殺す。その差があるだけで、殺されても殺さないという絶対的平和主義の見地からすれば、どちらも大量殺人者であることに差はないのだ。

人は誰でも夜空に手を伸ばし、自分にあたえられた星をつかもうとする。だが、自分の星がどこに位置するかを正確に知る者はまれだ。自分は - ヤン・ウェンリー自身はどうなのだろう、明確に自分の星を見さだめているか、状況に流され、見失ってしまっているのではない。あるいは誤認してはいないか。

人間の想像力は個体間では大きな格差があるが、集団としてトータルでみたとき、その差はいちじるしく縮小する。

ラスト近辺でヤンは言う。

中尉…私はすこし歴史を学んだ。それで知ったのだが、人間の社会には思想の潮流が二つあるんだ。生命以上の価値が存在する、という説と、生命に優るものはない、という説とだ。人は戦いをはじめるとき前者を口実にし、戦いをやめるとき後者を理由にする。それを、何百年、何千年もつづけてきた…」
「……」
「このさき、何千年もそうなのだろうか」
「…閣下」

SFはたまにしか読まないので、他の数多のSFと較べてどうとは言えないけれど、本なら多少は読んできた。今までに読んだ本と較べても何の遜色もない。読む者すべての心を掴んで離さない。

あー二巻がー。と叫んでいる内に、気づけば…三巻まで読んでしまった。嗚呼。

銀河英雄伝説 1 黎明編 (創元SF文庫)銀河英雄伝説〈2〉野望篇 (創元SF文庫)銀河英雄伝説〈3〉雌伏篇 (創元SF文庫)

今日の一曲

宇宙と言えばspace  ということで、 JamiroquaiでSpace Cowboy



では、また。
コメント

『優雅なのかどうか、わからない』松家仁之

2014-09-20 | books
1982年新潮社に入社し、「小説新潮」「SINRA」編集部、「新潮クレスト・ブックス」を企画、「考える人」と「芸術新潮」の編集長を経て、「火山のふもとで」で作家デビューした松家の第三作。

雑誌の編集者のぼくは、離婚した。息子はアメリカの大学院に入っている。一人暮らしすることになった。できれば古い一軒家に住みたい。知り合いの紹介で、井の頭公園に面した、昭和33年に建てられた家に住むことができるようになった。すると、結婚していた時に付き合っていた女性、佳奈と偶然再会した。佳奈は近所に住んでいることが分かった。大きな家に一人暮らし。人はぼくのことを優雅だと言う。果たしてぼくは優雅なのだろうか。この大好きな家にずっと住めるのだろうか。そして大好きだった佳奈とまた昔のように付き合うことができるのだろうか……

ううむ。ううむ。特にストーリーに大きな起伏がないにもかかわらず、堪能してしまう。小説そのものがいいからなのか、それともこういう静かな小説を楽しめるように私自身が変化しているからなのか。自分ではにわかに判断できない。ただ、「ぼく」に思いっきり感情移入して読んでしまったことは間違いない。

あちこちの言葉がずんずんと突き刺さる。

元妻の台詞

「あのね、教えてあげる。そういうあなたの過剰反応を、自分中心主義って言うの」

おっと、自分のことを言われているみたいでドキッとした。そして、こういうことを言う妻という人物設定と、言われる夫の人物設定が巧い。

女性のほんとうの魅力は、本人が無意識でいる部分から生まれる。

まさにその通り。ホームの上で雑誌をパラパラとめくっているときとか、ボーっとニュース番組を見ているとか、周囲に見られていることを意識しておらず、また好悪の感情が何も無いときに「キレイ」だとか「かわいい」と思えるかによって女性の見た目を判断してきた。泣いたり笑顔だったりがかわいいのは当たり前だもの。(こういう発言を誰かに面と向かって言えばセクハラになるのだろうか)

予定していた通り、一階リビングのテラスに佳奈を案内した。テラスには丁寧に雑巾をかけ、ガーデン用の白いテーブルとチェアを用意してあった。から拭きもしてあるから、サンドイッチを落としても食べられるくらいきれいはずだ。こういう用意周到さが自分の限界なのだ。それでもやめられない。こういうふうにしかできないのだからしかたない。

こういう用意周到さが自分の限界。繰り返しになるけれど、自分の事を言われているよう。この手の用意周到さが、むしろ、その人物の底の浅さを露呈しているのか、などと思った。私の底の浅さももちろん。

気がねはない。心おきなくおならだってできる。ただ、なんの抵抗もなくスウスウと時間が過ぎてゆくのは、なんとも手ごたえがない。寂しいといえば寂しい。それでもだんだん、この手ごたえのなさにも慣れてきた。

「男のひとって、弱気になるとどこまでも弱気でしょう。バゲッジクレイムのベルトコンベアーに乗ったまま、ただぐるぐるまわってるだけの荷物みたいになっちゃって」

バゲッジクレイムのベルトコンベアーに乗った男たち。うーむ。

優雅なのかどうか、わからない

今日の一曲

優雅、ゆうが、ユウガ… You've Got A Friendを歌うはキャロル・キング、セリーヌ・ディオン、グロリア・エステファンともう一人知らない人。



では、また。
コメント

『おれたちの青空』佐川光晴

2014-09-18 | books
「おれのおばさん」シリーズ第2作。陽介の目線で描かれた前作とは異なって、

陽介の親友、運動神経抜群、父は死に、母に棄てられた卓也の目線で描く<小石のように>と、魴鮄舎(ほうぼうしゃ)の経営者、恵子おばさんの目線で描く<あたしのいい人>、高校受験を迎えた陽介の短めの短編

会って話したいことは山ほどあるが、そう思えるひとがこの世にひとりでもいるだけで十分しあわせなんだろう。

うっ。この言葉が突き刺さる。合って話したいこと(話そうと思えば話せることや話さなければならないことじゃなくて)が山ほどある人が、自分には一人でもいるだろうか。君にはいるか。君にはいるのか。

「一流のやつには、彼にふさわしい難題がつぎからつぎとふりかかって、脇目もふらずに立ちむかっているうちに鍛えられて、人間性にも磨きがかかっていく。一流でないやつは、一流になるためのコツとか心がまえを身につければ自分も一流になれると思っちゃうわけだけど、その時点でもうダメっとことですよ。おやじもぼくも完全に後者」

うおーん。うおーん。コツばかり身につけようとしているのは拙者だった。そこの君は、そこの君はどうだ。どうだ。

大人になってみてわかったのは、こんなにも子供が気にかかるのかってことだ。自分が子供だったときは、とうちゃんやかあちゃんがあたしをどんなに心配してるのかなんていちいち考えていなかった。

魴鮄舎で学んだことは多々あるが、みんなで力を合わせて毎日をおくるしかないと、おれは腹の底から理解した。ここではないどこかに理想的な世界があるわけではなく、人生にはこれを達成したらOKという基準もない。そうではなくて、今ここで一緒に暮らしている仲間たちのなかでどうふるまうのがすべてなのだ。

なんつーか、なんつーか。頭を掻き毟りたくなるような、読後温かくなるような。

懸命に生きる人たちの物語。心して読まれたし。

おれたちの青空(おれのおばさんシリーズ) (集英社文庫)


空。大好きなボニー。Bonnie Pinkで、ライブ版のA Perfect Sky



ほんまにええ女になった。ええ歳のとり方してる。

では、また。
コメント

『人を殺すとはどういうことか 長期LB級刑務所・殺人犯の告白』美達大和

2014-09-16 | books
比較的刑の軽い者が収容される「A級」、重い者が収容される「B級」 懲役が長い者はLongなので「LB級」となる。二人を殺して、無期懲役の判決を受け服役中の著者が、新潮社の編集部に原稿を送ってきた。やり取りの後に完成したのがこの本。

美達大和はペンネーム。一人目はヤクザ組織にいたとき、二人目は金融会社にいたとき債務不履行の債務者を殺害した(ようであるが、特定されないように書いている。)この美達が父親による「白黒はっきりさせる」教育によって、極端なまでに正直で生真面目な性格になってしまった。どうして殺人事件を起こすことになったのか、刑務所とはどういう所か、刑務所で出会った人について、という三本立ての構成になっている。

読んでいて驚くのは、文章が巧いこと。知性の高さもうかがえる。これだけ知性が高ければ、割の合わない殺人など犯すはずがないのに、なぜ。その辺りの所も徹底して描かれていて読ませる。たとえこれが完全なフィクションだとしてもそれはそれで別に構わないと思わせるほど。

刑務所とは、犯した罪を償う(目には目を的、悪い事をしたら自由を奪われる)場であるとともに、教育あるいは更生の場であるとされている(はずである。)しかし現状はだいぶ違う。単に我慢するだけのお仕置き部屋か、三食+エクササイズのユートピアとなってしまっているそうだ。被害者の遺族が読んだら卒倒しそうである。

また、一度犯罪に手を染めた者の再犯率も高いということもある。犯罪を減らすには厳罰化すべきだという考え方もあるが、社会に適応することが難しい者を増やすだけということにもなりかねない。刑務所内の改革が必要なのだという思いを強くした。

人を殺すとはどういうことか―長期LB級刑務所・殺人犯の告白 (新潮文庫)

今日の一曲

囚人と言えば、prisoner 宇多田ヒカルでPrisoner Of Love



では、また。
コメント

店名にツッコんでください91

2014-09-14 | laugh or let me die
コメント (4)

『ザ・ポエット』マイクル・コナリー

2014-09-12 | books
デンヴァーの新聞記者、ジャック・マカヴォイの兄、刑事のショーンが死んだ。警察は自殺と断定。未解決事件を苦にしてだとう言う。しかし何かがおかしい。遺書は「空間の外。時間の外。」 彼がそんな遺書を書くだろうか。警察官の自殺を調べていくと、未解決殺人事件の捜査責任者が自殺しているという同様の件が全米であったことが分かった。連続殺人犯「ザ・ポエット」を追うマカヴォイはFBIと協力して…

サイコスリラーは過去に結構読んだ。傑作も多かったし駄作もあった。ブーム以降めったに読まなくなった。1996年に発表された本作は、古いし、「サイコスリラー」という現代的なネタとしては楽しめないだろうと思っていた。4作まで読んだ同一作者によるハリー・ボッシュシリーズが面白かったので、ノン・シリーズのこれは「ハードボイルド」として楽しめるだろうと期待してた。

しかししかし、これは私の好みど真ん中ストライク。手にはめたミットにドスンと吸い込まれた。

ハードボイルドじゃなくて、サイコスリラー。事件の真相への無理と無駄のない迫り方。FBIの美人捜査官レイチェルや彼女の元夫で嫌な捜査官ゴードン、連続殺人犯ザ・ポエットなどキャラクターもすごくいい。

上下巻計800頁。なのにあっという間に読み終えてしまった。

ザ・ポエット〈上〉 (扶桑社ミステリー)ザ・ポエット〈下〉 (扶桑社ミステリー)

今日の一曲

ザ・ポエット。フィンランドのメタル・バンド、NightwishでThe Poet And The Pendulum



では、また。

コメント

『死刑でいいです 孤立が生んだ二つの殺人』池谷孝司

2014-09-10 | books
2000年山口で16歳の少年が母親を殺害した。少年院に入った後、2005年大阪のマンションで飲食店勤務の27歳と19歳の姉妹を殺害したとして逮捕、起訴され死刑判決を受け、2009年死刑執行された男、山地悠紀夫のドキュメント。

過去を巡ってゆくと、山地はアスペルガー症候群(あるいは広汎性発達障害)を病んでいたであろうと推測できる。他人の気持ちが分からず、その場の空気が読めず、プライドが高い。役割が与えらればうまく生きられるし、年上や年下とはうまくやれるが、同世代とはうまくできない。山地は「人を殺すのが快感だった」と言っているが、その成育歴を読めば、「そりゃ事件も起こすだろう」(精神科医定本ゆきこ)と思えるような体験をしていて、だとすれば責任能力が100%あったかは疑わしい。反省しないのではなく、反省できないのかも知れない。

しかし、決して反省しようとしない山地に対して「世論」と「マスメディア」は冷たい。この本は、彼が無罪ではないかという疑問を呈しているのではなく、カウンセラー、精神科医、家裁の調査官に詳しく話をきいて、精神障害者に対して社会はどうあるべきかと問うというかなりチャレンジングなドキュメントなのである。

我々は、何かセンセーショナルな事件があるとメディアの連日の報道を浴びることになる。逮捕されれば「事件は解決した」と思ってしまう。冤罪や、心神喪失、情状酌量の余地について考えることなく。メディアの「出したら出しっぱなしの報道」についてはよーく考えなくてはいけない。インターネット勃興以降、マスメディアの劣化が見逃せなくなってしまった昨今は特に。罪刑法定主義、冤罪など犯罪と法律についてもっともっと考えなくてはいけないと思うし、考えるきっかけになった。

山地の母親がこうしていれば殺されることはなかったろうし、少年院でこうしていれば、少年院を出た後こういうサポートがあればその後の事件も起こっていなかったということについて考えるのも、福祉について考えるきっかけになった。

山地(あるいは山地のような奴)は、ひらたく言うと「嫌な奴」である。だから抹殺しようぜというのがいわば、「世論とメディア」の主張である。しかし、それは正しいことなのだろうか。

死刑でいいです: 孤立が生んだ二つの殺人 (新潮文庫)

今日の一曲

歌詞の内容が妙に本の内容に合っているような気がする。アリスで「狂った果実」



では、また。
コメント

『ゴーストマン 時限紙幣』ロジャー・ホッブズ

2014-09-08 | books
私は犯罪のプロである。私のことはゴーストマンと呼んで欲しい。本名は教えられない。私の仕事は、強盗チームのメンバーが犯行後に、逮捕されないように、姿を消す差配をすること。シアトルに住む私の所にメールが来た。強盗の総元締のマーカスが会いたいと言う。マーカスの仕事で5年前にマレーシアで大失敗していたので、彼には借りがある。会ってみると、アトランティックシティでの現金輸送車襲撃事件のことだった。マーカスがモレノとリボンズという二人のならずものにカジノに運ばれる現金の輸送車を襲わせた。モレノは銃撃戦で死に、リボンズはあ現金を持って逃げた。その場には警備でも強盗でもない、第三者がいて、その者がモレノとリボンズを撃ったそうだ。マーカスの依頼はその現金120万ドルを取り戻すというもの。機嫌は48時間。その現金は、普通の現金輸送車が市中銀行からカジノに運ぶ現金ではなかった。連邦準備銀行から直接カジノに輸送されたものだった。特殊な加工をしており、正当な手続きをとらないと48時間後に爆発するのだ。私はアトランティックシティに飛び、リボンズの行方を追った。現場にいた第三者は誰なのか。マーカスが得た金でドラッグを買おうとした相手、ウルフとは何者か。FBIも出てきて、私の調査は難航する……

最初から最後まで同じ緊張感が続く。余分な表現は切り捨てて、タイトな文章になっている。新しいタイプのミステリが誕生した。

私は、こういうの大好物だ。(さっぱりしすぎレビューで失礼)

ゴーストマン 時限紙幣

今日の一曲

タイトルからそのまま、Ella HendersonでGhost


コメント

『おれのおばさん』佐川光晴

2014-09-06 | books
父親が顧客の金を使い込んで愛人に貢いだ。それがバレて逮捕、有罪になった。母親は3500万円を返すために、住み込みの介護の仕事を始めた。母の姉は札幌で児童養護施設、魴鮄舎を運営している。中二のぼくはそこに住むことになった。おばは豪快な人。北大の医学部に受かったのに、演劇にのめり込み中退した。そんなおばさんの人柄、人情、施設の運営、様々なトラブル、奄美での合宿、恋、学校の勉強。成長物語の王道を行く小説。

本の雑誌の9月号で北上次郎が褒めていたのが「おれたちの故郷」 この人の薦める小説の全てが私好みではないけれど、「男の子」+「成長」だったら100パーセント私の好み。そっちは「おれのおばさん」シリーズ(そんなシリーズあるのか知らなかった)の第四作だそうなので、順番原理主義者の私は、第一作から読むことにした。それがこれ。

なんだよー。大好きだー。思わず叫んでしまった。

想像以上に私の好物だった。(タイトルの若干のエロティシズムを感じないわけでなかったが、そっち方面は全くなかった)

東京の名門中学に入学できたのに、そこをやめなければならず、ずっとレベルの低い中学に行かなければならない気持ち、父に対する怒り、おばさんに対するリスペクトなど、主人公の思いが、そのままそのまんま、読んだそばから滲みこんでくる。信念を曲げないおばさんもすごくいい。

ドラマ「若者たち 2014」が扱っている世界とそんなに変わらない。あっちの方が役者と役柄が合わず(長澤まさみがその役?瑛太が?妻夫木が?)、ゆえに役者は単に記号だと考えないと楽しめないのと較べると、こっちは作られた役者の顔を見ないで自分の想像でいけるので、その分楽に楽しめる。

おれのおばさん (集英社文庫)

※続編「おれたちの青空」のレビューはこっち

今日の一曲

ぼくのおばさん。おばさんを性転換させて、ぼくのおじさん。ぼくの好きなおじさん。と歌う、RCサクセションで「僕の好きな先生」 



では、また。

コメント   トラックバック (2)

『ハリー・クバート事件』ジョエル・ディケール

2014-09-04 | books
マーカス・ゴールドマンはニューヨーク在住の作家。デビュー作は成功したのに、その後が書けない。大学時代の恩師でもあり著名な作家でもあるハリー・クバートのいるニューハンプシャーに行くことにした。すると事件が勃発。ハリーの家の庭から偶然遺体が掘り出されたのだ。33年前に失踪したノラ・ケラーガンだと判明した。そしてハリーは逮捕される。マーカスはハリーの無罪を証明するために調査することにした。ハリーは当時30代。15歳のノラと恋愛関係にあったことを認めた。ではハリーが殺したのだろうか。ノラの友人によるとイライジャ・ウスターンという富豪と関係があったらしい。ではイライジャか。ノラは母親に虐待されていたらしい。今は亡き母親の仕業か。様々なミスリードで読者を翻弄しながら続くどんでん返し。そして真相は…

スイス人がフランス語で書いたアメリカが舞台の小説。かなり珍しい。

難点はいくつかある。警官や関係者が調査に協力的すぎる。非協力的な人間から話を聞くというハードボイルドでは「通常業務」になっているハードな仕事は、ここではイージーになっている。レモネードが登場しすぎ。そしてそして長い。長すぎる。

良い点もある。それは一度読み始めたら決して止められない圧倒的リーダビリティ。そして巧妙なプロット。長いけれど、非常に読みやすく、エンターテイメント性が極めて高い。

メリットとデメリットを合わせるとどうなるのかは、正直人によると思う。難点の方が気になる人は少なくないだろうし、また良い点の方が難点をずっと上回ると思う人も多いと思う。

私の場合、難点は「まあそういうことなのだな」と早めに納得してしまい、それもまたこの小説の味だと考えてしまった次第。

しかし意外な真犯人はラストには分かるわけだけれど、読後も考えてしまったことがある。30代の男性と15歳の女性の恋愛は果たして「アリ」なのかということ。当事者同士がよいと言うならなんでもよいではないかとも言えるし、自分の判断に自分で責任がとれない歳の子との関係は持つべきでないとも言える。なんてことを思っていたらナボコフの「ロリータ」が読みたくなった。

ハリー・クバート事件 上ハリー・クバート事件 下

今日の一曲

殺された少女はノラ。ノーランズで「ダンシング・シスター」 I'm In The Mood For Dancing by The Nolans



昔はかわいいと思って観ていたのに、今観るとかわいいと言うより…

では、また。
コメント

『火山のふもとで』松家仁之

2014-09-02 | books
80年代に大学を卒業したぼく。建築を勉強した。大学院に残って研究を続ける気はなく、大手ゼネコンにも勤められそうにない。唯一尊敬する建築家は村井俊輔。しかし村井設計事務所は最近新人を採用してない。でも受けてみたら受かってしまった。事務所は夏の間は浅間山のふもとに場所を移して、全員そっちで仕事をする。そして、国立現代図書館の設計コンペに参加することになった。まだ新人なのに仕事を任せられた…

おー。これはいい。2012年に出た本なのにノーチェックだった。

いい設計とはどういうものなのか。そして瑞々しい青春のような光景。事務所の仕事の進め方、不思議な人間関係、そして恋。

爽やかなのに温かい。

こんな仲間と一緒に働きたいと心から願う人は多いだろう。そんなお仕事小説的な面もまたいい。

ええっと、読んだ後旅行に行ってしまってそれからだいぶ時間が経ってしまったため、それ以上よく覚えてない。すみません。でもすごくいい本だということは覚えてます。

火山のふもとで

今日の一曲

火山と言えば噴火。Edward Van HalenでEruption



では、また。

コメント