頭の中は魑魅魍魎

いつの間にやらブックレビューばかり

『金の角持つ子どもたち』藤岡陽子

2021-08-30 | books
俊介、小5の終わり、サッカーをずっとやって来たが、トレセンのメンバーに選ばれず落胆。しかし友達が最難関の中学に挑戦すると聞き、サッカーを止めて、塾に通いたいと親に頼む。授業料を払う余裕がないので、母の菜月はパートに出ようと思う。妹の美音は難聴だが、普通科の小学校に行った後に学童保育に行かせないといけない。父親の浩一は息子のサッカーが生きがいだったし、中学受験させるには反対だった。しかし、菜月が説得し、塾に通えることに、なった。周囲はずっと前から勉強しているから追いつくのが大変。死にものぐるいの努力は身を結ぶのか・・・

素晴らしい。塾の算数担当の加地先生がいい。生徒のことを本当に考えてくれる。俊介もいい。自分がこんな男の子になりたかった。母菜月もいい。親の命令で高校を中退させられた過去があるからこそ苦しくても息子を、塾に行かせようとする。加地にも俊介にも秘密があってそれもまた色々考えされられる。

加地は子供たちに武器を与えたいと言う。小6の子達が、遊ばず必死になって勉強するということに、賛否両論あろうが、頑張ることを否定しては、いけない、そう思った。

 

今日の一曲

Paul Simonで、"You Can Call Me Al"



では、また。


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『余命一年、男をかう』吉川トリコ

2021-08-28 | books
片倉唯40歳、給料が高いわけじゃないが毎日蓄財に勤しみ、マンションを買うぐらいだった。もったいないので有料のがん検診は受けてなかったが、無料クーポンを貰ったので受けてみると、何と子宮がんと診断された。しかし、治療なんかまっぴらだ、死んでやる。病院の受付で見かけたのはホスト然とした男から金を貸して欲しいと突然頼まれた。よし貸してやる!そして・・・

おー!意外な意外すぎるストーリー展開。たまらない。まさか、そういう小説だとはおもってなかったので尚更。何というかがん患者の悲哀をユーモラスに描いたぐらいの感じかと思っていた。

生きるとか、愛とか、他人をどう観るかとか哲学的な事を色々考えさせてくれた。最近、現代を描く女性作家の傑作を読む機会が多い。女性の方が男性よりも面白い作品を書いてるのか、私の選び方が偏ってるのか。それとも作者が男とか女とか言ってるのが古いのか。

 

今日の一曲

TOTOで、"I'll Be Over You"



では、また。
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『雨夜の星たち』寺地はるな

2021-08-26 | books
三葉雨音はにとって、他人の気持ちを忖度するのが難しい。見舞い代行の仕事をしている。子供が付き添えないお年寄りを病院まで車で送ったり、お見舞いしたり、あるいはもっと若い人も客になる。その仕事を通して、様々な生き方を知ったりして、、

意外な収穫。他人の気持ちが分からないという設定の良さ。そんなに文字が沢山詰まってるわけじゃないのに奥深い展開。面白かった。

 

今日の一曲

ちゃんみなで、「美人」



では、また。


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『我が産声を聞きに』白石一文

2021-08-24 | books
名香子、47歳、英会話講師。夫良治、54歳から癌があると分かったと告げられ、そして家を出て他の女と暮らすと言われる。なぜ突然そんな事になったのか。コロナ禍の人の有り様。名香子は昔の事を思い出す。25歳のとき、結婚を前提とした同棲を始めようとした直前、別の女を選ぶことにしたと告げられた・・・

超常現象的だったり、人生における理論を振り回す白石節はあまり炸裂しない。だからか妙に読みやすい。結末の付け方は好みではないけれど、人生とか人生の終わらせ方など(共感は出来ないけれど)考えされられるネタは豊富だった。これをもっと抽象的かつ普遍的に描写してあると、もしかすると村上春樹作品のように再読に耐えるものになり得るのかも知れない。

 

今日の一曲

郷ひろみで、 「言えないよ」



では、また。


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『朔が満ちる』窪美澄

2021-08-22 | books
父親からずっと虐待を受けていた史也は父を殺そうとし、そして伯母に引き取られ、東京の大学に進み、カメラマンのアシスタントをしている。何かにつけて思い出すのは、父と虐待を止められなかった母のこと。たまたま行った整形外科の看護師と不思議な出会いをし、、、

うーむ。虐待の場面で読むのが嫌になって放置してたけど、以降はむしろ癒しに溢れる展開になり、そしてすごく面白くなった。

そんなにも過去を引きずるなんて損な生き方だなと思いつつ、しかし当事者にしてみれば当然のことなのかも知れない。素晴らしい過去からの再生物語だった。


 

今日の一曲

Awesome City Clubで、「夏の午後はコバルト」



では、また。


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店名にツッコんでください268

2021-08-20 | laugh or let me die
店名にツッコんでください268
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『夜 警部セルヴァズの事件ファイル』ベルナール・ミニエ

2021-08-18 | books
フランスのセルヴァズ警部第4作。ノルウェーの殺人事件で残されたシュステン刑事の名前。手がかりを追うと、北海の石油採掘場で連続殺人犯ハルトマンのDNAが見つかる。そこにはセルヴァズの写真があった。セルヴァズは殺人事件の容疑者を追跡していると狙撃され重体に。ハルトマンが縦横無尽に張った罠に、セルヴァズとシュステンの身は・・・

長いのに飽きさせない。ストーリー展開がスピーディーで好み。以前の作品のことは覚えてないが特に問題はなかった。

 

今日の一曲

Tove Loで、"Glad He's Gone"



では、また。


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『星影さやかに』古内一絵

2021-08-16 | books
戦時中、宮城県古川に暮らす良彦は小学生。父親は非国民と呼ばれひきこもり、母と妹のと、怒鳴り散らす祖母。そして1964年東京オリンピック、父は開会式を見て不機嫌になった。どうして父はひきこもりになったのか、そして祖母にはどんな過去があったのか・・・

戦時中の苦労を読まされる小説かと思っていたが、謎が解けるミステリー的側面があり、なかなか良かった。

人を表面だけで判断してはいけないという教訓を学んだ。

 
今日の一曲

Vaundyで、「しわあわせ」



では、また。


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『狼の義』林新・堀川恵子

2021-08-14 | books
五一五事件で亡くなった犬養毅の伝記的小説。西南戦争では慶応の学生ながら従軍記者として現場から臨場感溢れる記事を送る。福沢諭吉の秘書のようなことをしているうちに(中略)国会議員になり、大臣になり、首相にまでなる。しかしその過程で辛酸なめまく
り。

まさに傑作。いや大傑作。

清貧を貫き、立憲政治をとことんまで貫く犬養。多量の登場人物。多くの「偉人」が嫌な野郎に見えてくる。山縣有朋、加藤高明、井上毅、原敬など。

どんな風に辛酸をなめるのかがまさに肝なので、ネタバレしないように(と言いつつ、あまりにも登場人物が多いので思い出せない)これにて終了。

 

今日の一曲

Squarepusherで、"Terminal Slam"



では、また。


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『水よ踊れ』岩井圭也

2021-08-12 | books
瀬戸は日本の大学から香港の大学へ建築を学ぶためやってきた交換留学生。しかし建築だけが理由ではなかった。もっと前、13歳から17歳まで香港にいた。それは香港が中国に返還される激動の時期だった。そしてその時に最愛の女性が死んでいて、その謎を解くために再度やって来たのだった。

登場人物に感情移入させられるだけでなく、香港を含むアジアの近現代史を考えさせられる傑作。

建築をストーリーに絡めるのはやや強引な感じがしたが、それもまたOK。

 

今日の一曲

Boz Scaggsで、"HARBOR LIGHTS"



では、また。



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『お天気おじさんへの道』泉麻人

2021-08-10 | books
48歳になって天気予報士になろうと決め、合格するまでを描くエッセイ。

ドラマ「おかえり、モネ」でもっと勉強の内容を教えてくれと思っていたけれど、本書は気象について難しすぎる話とゆるい身辺雑記の混合。サラッと読めた。

 

今日の一曲

天気予報ということで。Weather Reportで、"Birdland "



では、また。


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『いとみち 三の糸』越谷オサム

2021-08-08 | books
青森乙女&メイド喫茶&超弩級三味線奏者のいと、三部作最終巻。

あのいとはもう高校3年生。メイド同僚のチハルの言動が良くないと思うが注意できずストレスがたまる。そしてどこの大学に行くのか。また恋の行方は。

あー、読み切ってしまった。勿体ないからゆっくり読めば良かった。

ストーリー、人物すべてが完璧。少年少女向けのような表紙だけど、大人が読んでもキュンキュンくる大傑作。

 

今日の一曲

映画「いとみち」の予告編。まだ観てないけど。観たいような、原作のイメージを壊すと嫌だから観たくないような、でも観たいような。



では、また。



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店名にツッコんでください267

2021-08-06 | laugh or let me die
店名にツッコんでください267
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『八月の銀の雪』伊与原新

2021-08-04 | books
ネタを科学に寄せながら人間を描く短篇集。

ネタとしては地球の構造、クジラ、伝書バト、珪藻、凧が登場。

珪藻の話「玻璃を拾う」が絶品。

 

今日の一曲

雨宮天で、"PARADOX"



では、また。



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『僕が死んだあの森』ピエール・ルメートル

2021-08-02 | books
少年アントワーヌはカッとなって年下の子を殺してしまった。遺体は森に捨ててきた。そして行方不明の子の捜索が始まる。遺体のそばに時計を落としてきたことに後で気づいた。逮捕されるのではとドキドキする少年の心。

最初、あまり面白くなくて、しばらく放置していた。子供口調があまり好きではないからかも。しかし読み返したら、なかなか面白かった。

揺れる心の描写とラスト近辺の意外性が素晴らしかった。

 

今日の一曲

ドラマ「シェフは名探偵」の主題歌、all at onceで、「マカロン」



では、また。


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