ふと片栗の花を無性に見に行きたくなった。
あそこならそろそろ見頃かもしれない。
電話をすると今が盛りだと言うではないか。
思い立ったが吉日。一路車を飛ばす。
今回は時間も急くので新神戸トンネルを抜けて
箕谷から有馬街道へ入り、小部峠を左折して
お目当ての神戸市立森林植物園へ向かった。
平日それも月曜とあって植物園は空いていた。
森のカフェ右手のロックガーデンエリアに
あの春の妖精…片栗の花はひっそりと咲いていた。
片栗の花はスプリング・エフェメラルと呼ばれる。
スプリング・エフェメラルとは、春先に開花し
夏まで葉をつけると、あとは落葉広葉樹林の
林床などの地中で過ごす一連の野の花を総称して
Spring Ephemeral と呼ぶのだそうだ。
花をつけるのも十年という歳月がかかるという。
街中ではまず見ることはない。だからとても
出逢えない貴重な花なのだ。
そこがその花姿とあいまって、たまらなく
魅力のある花なのである。俳人にも高い人気で
兼題には必ず登場する季題でもある。
料理でよく使う片栗粉はこの片栗の地下茎から採る。
けれど。ほんの少量しか採れないから、今は
片栗粉はほとんどジャガイモの澱粉である。
ひそと咲く妖精のような花。少し歩けば
しゃくなげ園の斜面にも群生していた。
いつも俯いているので、下から覗いてみたかったが
恥ずかしそうにするので覗くのは止めた。
これは冗談だが、本当は低いので覗けないのだ。
手でそっと面(おも)を上げてあげない限り。
触れることはご法度なのでそれもできない。
ともかく出逢えて良かった。
さながら片恋の人に逢ったよう気分かな。
■片栗の花 ホトトギス新歳時記より
山地の樹蔭などに多く見かける。
早春に地下茎から二枚の長楕円形の葉を出し
その間から10~15センチくらいの花柄を出す。
その先に百合に似た淡紅紫色の六弁の花が
下を向いて開く。かたかごの花。
かたかごの花は小さなバレリーナ