崔吉城との対話

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「東洋経済日報」に掲載、韓国の新造語「オッパ」

2011年04月17日 04時55分53秒 | エッセイ
 2年も過ぎ、連載の4月の掲載文を以下に全転載する。5月文のトピックを何にするか。

最近韓国の映画やテレビなどでよく出る「オッパ」という言葉が気になってしょうがない。オッパは日本語の通訳や翻訳では名前になっているのに気が付いた。韓国ではおじいさん、おばあさん、姉さん、兄さんなどの言葉が赤の他人にも広く使われている。若い女性らは相手方の男性を兄さんと呼んでいる。他人であっても兄などというので私さえ混同する時があり、オッパ오빠は日本人にとってはより誤解しやすい。
 韓国と日本の親族名称は非常に異なる。オッパ오빠という言葉は妹が兄を呼ぶ呼称であるが、一般的に女性が男性をよぶ呼称になったのはそれほど古くない。兄を弟が呼ぶ時はヒョン(兄)といい、妹はオッパ(兄)という。日本語では兄弟関係で年齢の上下の区別はあっても兄を兄さんと呼んでいるが、韓国語では性別の区別があって妹が兄を呼ぶときはオッパと言う。英語では年齢の区別はなく性別だけの区別があり、ブラザーとシスターしかない。つまり韓国語では性別と年齢別を同時に含む呼称、名称となる。このような親族名称には当該の家族や社会の違いがよく現れている。異性の男女(恋人)が一緒に行動するのは不自然な韓国社会の「男女七歳不同席」の儒教倫理が生きている中で、おそらく恋人同士が行動する時、兄妹であるということによって冷たい視線から逃れられることは事実であろう。
 韓国の大学生は在学中に休学し兵役を終えて、復学した年上のクラスメートが多い中、女子学生が年上の学生に名前で呼ぶことに抵抗があり、親しさをもつ親族名称のオッパ(兄さん)と呼んでいる。多くの人は結婚しても依然と夫をオッパと呼ぶことがあり、家族の中でも親族名称が非常に複雑になっている。ここに兄と妹(オヌイ:오빠/누이동생)の関係、そして夫婦関係への転換が見られる。人生はこの赤の他人から恋人、夫婦へと転換するドラマのようなものである。その転換、変身などには関心、恋、愛のダイナミックな力が働いている。近代化や都市化になって我々は多くの他人の中で生活している。他人は何時の間にか兄のような存在、また恋人の候補者にもなる。その環境を大切にするのがレベルの高い文化人であろう。そこでは敵さえ恋し、愛することができる聖なる場であろう。
 また一方では自分から世界へ拡大していく。世界的に広く語られている有名な洪水神話がある。洪水で地球が滅びて兄と妹だけが生き残って人類の祖先になったという。家族は夫婦、親子、兄弟などの原初的な関係であり、それは親族、民族などへ拡大していく。それぞれ文化を創造し、共有していく。またそこには境界や国境が生じ、文化衝突が起きうる。時には絆を作り、枠を固め、壁を作ることもある。また時にはそれを超えたり、壊したりすることもある。それぞれの社会には兄弟関係の一つである親族名称などがあるが、それを夫婦関係まで転換しての呼称によってダイナミックな人間関係を働かせ作り上げることができる。


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