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詩的断章「黒い給水塔」







黒い給水塔




なぜ 言いようのない不安な
気分になったのだろう
なぜ 不幸だったのだろう
その給水塔は ひかり
の関係で 真っ黒 に見えた
まだ
小学校へ上るまえ
父は 日曜になると 自転車の
うしろへ わたしを乗せて
よく小学校へ連れて行った
いまと違って
校門は 開きっぱなしで
ちいさかったわたしは
キョロキョロするばかり

来年から 小学校だからな
若い父は 嬉しかったのだろう
聲は はずんでいた
来年は ここへ通うんだぞ

わたしは
楽園を追われた気分で
父のうしろから
屋上に聳え立つ
巨大な給水塔を
見上げていた
大きく
黒く
冷たく
突き刺さる

いま 思うと
あれが   世界の 
最初の 悪意 だったのだろう
巨大で
聳え立ち 真っ黒で
笑わないもの
それは
暴力なのである

五十年がすぎた
いま
あの給水塔を
怖れることはなくなったが
塔は心に宿って
わたしは   すっかり
聳え立ち 真っ黒で
笑わない もの 

死んだ父が 
塔を指して
百日紅が咲いている
と言う  
突然 花は
真っ赤に
燃えて   あのときの
いまのままに







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