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一日一句(1245)


(隅田川 2015年)







言の葉はきれいに忘れ日向ぼこ




words
utterly forgotten
in the sun



※ no reply

天気が良かったので、両国一丁目を歩いた。しばらく歩きまわって、隅田川へ出てみようと川岸へ降りる階段の上で、首都高を走るクルマや向う岸のビルを眺めていた。ふと、階段の真下を観ると、彼がいた。真上から観察すると、煮炊の鍋とコンロがあり、日向ぼこをしているが、そこで、暮らしているらしいことがわかる。川の光を撮ろうと、階段を下りて、しばらく隅田川周辺を撮っていた。

背後の彼が気になる。ふり返ると、缶ビールを飲みながら、赤い顔をしている。目が合った。手を上げた。すると、老人は軽く会釈を返した。また、しばらく、川岸を歩いて、工事している現場や向う岸などを撮って、彼の前を通りすぎた。ビールを飲んでいたときの老人の表情は、せいせいと、明るかった。笑った顔を撮りたい。そう強く思った。

近くの自販機でお茶を買って来て、話しかけるきっかけを作ろうと算段した。いそぎ、川岸へもどって、声をかけた。二度かけた。聞えているのは、表情はぴくっと動くのでわかった。だが、彼の眼はふたたび開くことはなかった。三度、声をかけてはいけない。自分の中の声が言った。お茶を置いて、一枚だけ撮らせてもらった。

言葉を忘れたがっている。そうに違いないと思った。





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