かっこうのつれづれ

麗夢同盟橿原支部の日記。日々の雑事や思いを並べる極私的テキスト

3.ハンス

2007-09-30 22:34:55 | 麗夢小説『ドリームジェノミクス』
 青山四二番地は、地元の交番や不動産屋でも、道を尋ねられると満足に答える事が難しい。高層ビルに四方を囲まれ、表通りからどうやって入ればいいのか、地図を見ただけではまるで判然としないのだ。榊も初めてそこを尋ねたときは、進入路を探しあぐねてしばらくその周辺をぐるぐる歩き回ったものである。今日も住宅地図にすらきちんとは記載されていない狭い路地を抜け、一向に日の射す事のない土地に悄然と佇むその木造二階建てのぼろアパートを見ながら、ふと、榊はこの道を初めて発見したときのことを思い出した。あれから随分経ったように思うが、ちゃんと指を折ってみると意外なほど時は過ぎていない。榊が戸惑いのも無理は無い。休む間もなく次々に発生する難事件。死神博士の一件より今日に至るまで、この路地の湿った関東ローム層に自分の靴跡を記す時は、いつだってそんな難題を抱えていたのだ。
 榊は不気味に音を立てて軋む階段と廊下を歩き、今日もまたそのドアの前に立った。「怪奇よろず相談」の看板を掲げるそのドアは、そうした事件の解決に繋がる最良にして唯一の入り口だ、と、榊は信じている。
「あら、いらっしゃい」
 ノックに続いて開いたドアの向こう、外見からはおよそ想像を絶する明るくお洒落な内装を背景に、その少女はにっこりと微笑みかけた。
「やあ麗夢さん、お帰りを待ちわびてましたぞ」
 すると少女ー私立探偵綾小路麗夢は、ほころんだ顔へ更に笑顔を刻むと、腰まで届く豊かな碧の黒髪を翻し、榊のために道を開けた。
「どうぞお入りになって」
「ああ、ありがとう」
 言われるままに事務所に入った榊は、目の前の応接セットに見慣れない先客の姿を捉えた。ソファごしにこちらを垣間見るその姿は、どうも自分の娘、ゆかりとさして違わない年頃に見える一人の女の子である。
 女の子は榊のこわもてする髭面に軽く驚きながらも、ぺこりと無言で会釈した。硬い表情で胡散くさげに見つめる視線を痛いほど感じながら、榊は自分の驚きを隠すのに苦労した。
「これは、先客がありましたか。では出直してきましょう、麗夢さん」
「大丈夫よ榊警部。お話は大方すみましたから。どうぞこっちに座って」
 麗夢に招かれて少女の対角線のソファに移動した榊を、先客の女の子が驚きの目でもう一度見た。
「この人が榊警部さん?」
 不審の色は大分薄れているようだが、まだ戸惑いは隠せないようだ。心の内で苦笑する榊を前にして、麗夢は明るく少女に答えた。
「ええそうよ哀魅さん。この人が、警視庁にその人有りと歌われた、敏腕警察官の榊警部よ」
 榊は麗夢のウインクに、今度は正直に苦笑しながら座に着いた。
「そしてこちらが、哀魅さん」
 それに会わせて女の子がまたぺこりと頭を下げた。榊も会釈を返しながら、その名前と容姿を記憶のライブラリから大急ぎで検索した。
「ああ、この間うかがった吸血鬼の・・・」
「彼は吸血鬼じゃありません!」
 思わずつぶやいた榊の一言に、哀魅はきっと柳眉をつり上げると、ぴしゃりと言い放った。
「ご先祖様はともかく、彼はニンニクのたっぷり利いた餃子が好きでトマトジュースばかり飲んでる人畜無害の男よ! 蚊だってまともに殺せないんだから!」
「い、いやすまない。ドラキュラの子孫とうかがっていたものでね。気にさわったのなら謝る」
 余りにも素直に榊が頭を下げたため、哀魅の興奮も急速に静まったらしい。今度は哀魅の方が慌てて手を振った。
「い、いえ、こちらこそごめんなさい! ちょっと気が立っていて・・・」
「哀魅さんはハンスさんのことになると落ち着いていられないんですものねー」
「もう! 麗夢さんったら!」
 麗夢の冷やかしにようやく哀魅の表情に笑顔が宿る。こうして最初のわだかまりを解いた二人に、麗夢はにっこり笑顔を返し、新たに淹れたコーヒーを榊の前に置いた。
「実は、そのハンスさんが行方不明らしいの」
「行方不明?」
「ええ、先週の金曜日におつかいへ出たまま、帰ってこないんです。それで麗夢さんに探して貰おうと思って・・・」
 なるほど、と榊は頷いた。榊の知る日頃の麗夢は、死夢羅のような凶悪極まりない化け物と対峙する雄々しき戦士であるが、探偵と言うからには人捜しなども仕事のうちであるに違いない。でもそれは、自分達警察の所管業務でもある。
「失踪届は出したのかね?」
「ええ。でもお巡りさんもあんまり真剣じゃなさそうで・・・」
 一週間、あちこち探し回ってことごとく徒労に終わった哀魅の声は、重く沈んでいた。榊も口では「けしからんな」と相づちを打ちながらも、事件性が見えてこない限りそう簡単には重い腰を上げないのが警察という組織だと言うことは百も承知している。それ故にこそ、探偵という職業もまた成り立つのであろう。だが、目の前でしょげ返る女の子を見ては、榊も気休めでも一言かけないではいられなかった。
「私からも所管の部署に念押ししておこう。何、大丈夫だ。きっと見つかる」
「ありがとう、警部さん」
「そうそう、絶対見つかるわ。何たってハンスさんはちょっと目立つから、いなくなったとしても必ず人目を引いてないはず無いもの。それにいざとなればこの子達もいるし」
 部屋の隅でじゃれ合っていたアルファとベータが、顔を上げてそれぞれの鳴き声で返事をした。三人の頭の中に、「大丈夫!」という威勢のいいイメージが流れ込んでくる。
「ハンスさんが夢を見たらこの子達なら一発で見つけられるわよ」
 改めて麗夢が請け負うと、哀魅もようやく安心したのか、朗らかな笑みが返ってきた。
「うん。私信じてます。頼むわね、アルファ、ベータ」 
 哀魅の言葉に、二匹は器用に後ろ足で立ち上がって、「任せといて!」とイメージを送ってきた。ベータは同時に前足で自分の反り返った胸をどんと叩き、バランスを崩して仰向けにひっくり返った。慌てて起こすアルファに、したたかに床で打った頭を抱える涙目のベータ。そのユーモラスな仕草に場はひとしきり朗らかな笑いに包まれた。
「ところで榊警部のご用って何?」
 笑いがようやく収まったところで、麗夢は榊に問いかけた。榊は、そうそう、と一口コーヒーをすすると、おもむろに麗夢へ向き直った。
「実は、最近夢見小僧がとんと現れないんだ。麗夢さん、何かご存じ無いですか?」
 榊は、先日鬼童と張り込んだ国立博物館を初め、その後、事前に予告されていた三つの現場のどれにも夢見小僧が現れなかった事を、麗夢に明かした。
「へえ、白か・・・じゃない、夢見さんが出てこない?」
 麗夢も腕組みして考え込んだ。神出鬼没にしてこれまで一度として予告を違えたことの無い夢見小僧が、三回も続けてドタキャンするなど確かに尋常とは思えない。
「予告状が悪戯だったとか?」
「いや、それはない。鑑識の結果、ほぼ本物に間違いないという鑑定が出ているんだ」
「ひょっとして、狙われた財宝が、既に精巧なレプリカにすり替わっていたりして・・・」
「それもない。その他、我々としても考えられる有りとあらゆる可能性を検討してみたんだが、どうしてもすっぽかされた、という他考えられないんです。上の連中はお気楽に警備の勝利をほざいちゃいるが、そんなはずは絶対にあり得ない。となると、夢見小僧の身に何か起こったとしか私には思えないんだ」
「随分夢見さんのことを心配なさってるのね、警部」
「そ、そりゃあ、重要な窃盗犯ですからね。それより麗夢さん、何か知っていることがあったら教えて下さい。どんな些細なことでもいいですから」
 榊が「重要犯人」だから心配しているというのは、一種の照れであることは麗夢にもお見通しである。だが、状況はその事をからかって楽しめる所ではないようだった。とはいえ麗夢も、普段から夢見小僧こと白川蘭とそれほど親しく付き合っているわけではない。彼女の消息について知っていることと言ったら、榊と五〇歩一〇〇歩なのである。麗夢にその事を告げられた榊は、まさに残念という言葉を全身にまとって、ソファーに深く沈み込んだ。
「うーん、麗夢さんもご存じ無いとすればこれはお手上げだな。こうなったら仕方がない。もし何か情報があったら、すぐ私に連絡して下さい」
「判ったわ、榊警部。それにしても人捜しが二件もなんて、今日は不思議な日ね」
「確かに」
 麗夢と榊はやや深刻げに頷きあったが、事態がまだほんの序の口に過ぎないことまではまだ気がつかなかった。帰ろうと出口に歩み寄った榊の前で、突然ドアが慌ただしくノックされたかと思うと、麗夢が返事する間もなく開いたドアを押しのけるようにして、一人の女性が飛び込んできたのである。
「あ、危ない!」
 榊が、入り口でつまづいて倒れそうになった女性の肩を支えると、その女性は榊の腕を振りほどいて、文字通り血相変えて麗夢に迫った。
「麗夢さん! 美奈が、美奈がお邪魔してませんか?!」
 それは、いつもの隙無く固めたキャリアウーマンをかなぐり捨てた、美奈の母親の姿であった。
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ようやく帰宅しました。

2007-09-30 22:21:30 | Weblog
 そぼ降る雨の中、なかなかに難渋した帰路でした。どうも冷えたせいかあるいは朝昼の食事の何かが当たりでもしたか、どうも3時ごろからおなかの具合が芳しくなく、おまけに気分も悪くなってめまいがしたり吐き気がしたり悪寒がしたりと、これは風邪でもひいたのではあるまいか、と危惧せずにはおれませんでした。昨夜よく眠れなかったせいもあるのでしょうが、旅先でここまでひどい状態に陥るのはいまだかつて経験がありません。あ、めまいはもっとひどいのが過去1度だけありましたけど、あれは徹夜同然の強行軍で遠征したときのことで、今回のようにちゃんとホテルに泊まって、という環境では初めてのことです。兎に角自宅にたどり着くまでやっとの思いでしたが、何とか無事たどり着けてよかったです。今は少しまだ頭の隅にめまいの残滓がわだかまって嫌な感じですが、昼間に比べればはるかにマシな状態になっています。急に肌寒くなったせいで身体が付いていけなかったんじゃないかと思いますが、なんにせよ無理はやっぱり禁物ですね。

 無理は禁物、といえば、うちに帰って驚いたのが、PCをおいてあるスチールラックの棚が、中央から浅く「くの字」に曲がっておりました。どうも留守の間に何があったのか判然としないのですが、原因はどうあれ、今はミニタワー型のPC本体が10度ばかり傾いております。今はさすがにどうしようもないのでおいてありますが、ちょっと時間をとって棚を水平に直した上で、あまり重量物は置かないように、荷物の配置を考え直す必要があるようです。

 さて、結局ホテルで使うことのできたPCはOSが古くてUSBメモリを認識してくれませんでしたので、今からアップしてみようと思います。

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普段雨なんて降らない街なのに、傘を用意しておいて良かった。

2007-09-29 20:53:51 | Weblog
昨日から旅先です。
ン10年前に4年間過ごした街なのですが、もう完全に面影が無いところもあれば、案外全然変わっていないところもあって、かえって道が分からなくなったりして、プチ浦島太郎状態です。それでもかつて慣れ親しんだうどんやサンがまったくおもむきそのままに残っていたりして、もちろん喜んで食べに入ったりするのはなかなかに楽しいものです。tところで一応旅先でアップできるかも? と「ドリームジェノミクス」をUSBメモリに入れて持ってきてはいるのですが、どうも使えるかどうか微妙なので、明日にしようと思います。 どうもホテルで自由に使ってくださいと置いてあるPCが古いやつで、こうしてブラインドタッチで打つとまるで文字が追随してこないところが若干不安ではありますが、ここで出来れば朝のうちに、出来なければ夜中、うちに帰ってから可能なら日が変わらないうちにアップしてみます。


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ちと早いですが週末予定があるので更新しておきました。

2007-09-28 11:20:39 | Weblog
 連載中の「ドリームジェノミクス」、一応週末更新の予定なのですが、ちょっとただいまから出かけなければならず、帰宅が日曜未明になりますので、万一出先で更新できなかった場合に備え、アップしてみました。
 もし更新できる環境が手に入りましたら、明日もう一度更新できるかも? と考えています。地域有数の都市ですし、駅前にネット喫茶くらいはあると思うのですが、私が住んでいた頃にはもちろんそのような代物は一切なかった(というかインターネット自体存在してなかった)ので、行って見るまではなんとも判りません。
 とにかく無事帰ってこられますよう、行って参ります。
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2.美奈 その2

2007-09-28 11:12:03 | 麗夢小説『ドリームジェノミクス』
 一人の男が、今にも飛びかかろうとした姿のまま硬直していた。今目の前にいるこの男だ。
 腕や足は盛り上がった筋肉がぴくぴくとけいれんして、限界まで緊張している。
 怒りと絶望に満ちた形相に、脂汗をだらだらと流し続けている。
 口は絶叫を瞬間凍結したまま大きく剥き出され、涙にまみれた眼球は、目の前の光景を噛みつかぬばかりに必死に見据えている。
 その視線の先に、真の闇と形容出来る陰惨な影がわだかまっていた。長大な鎌をかつぐ、全身を覆う襟の高い黒マント。豊かな銀髪がはみ出した黒いシルクハット。猛々しい鷲鼻の下で薄い唇が奇妙にひねり上がり、目の前の男をあざ笑っている。と、にわかにその右半面が崩れ、醜悪な頭蓋骨を露出した。ぽっかりと空いた眼孔に漆黒の闇が溢れ出し、その夢を間違うことなき悪夢へと塗り替えていく。
 美奈は怖気を震いながら、あれが死神というものかも知れない、と思った。死神が、男に襲いかかろうとしているのだ、と。だが、案に相違して死神の鎌は男には向けられなかった。
 いつの間にか死神の前に、一人の女性が男の方を向いて跪いていたのだ。さらさらの黒髪が印象的な、和風美人の趣のある女性だった。その女性がすらりとした裸身を白く輝かせながら、じっと何かを待つように目を閉じている。
 男の脂汗が一段と量を増した。声は一切聞こえない。だが、何を言おうとしているのかは美奈にも判る気がした。逃げろ! と、止めろ! だ。男は全く動かない体の自由を取り戻そうともがきながら、目の前の死神と女に叫び続けていた。美奈は恐ろしさのあまり逃げ出したいと思う一方で、縛り付けられでもしたかのようにその光景を見つめていた。
 やがて、死神が無慈悲で冷酷な光を放つ鎌の刃を大きく振り上げた。半分髑髏の顔に残忍な歓喜が炸裂した瞬間、鎌が白い一閃を残して思い切り振り下ろされた。男の顔が驚愕と怒りと恐怖に一段とゆがみ、無音の絶叫が口から迸った。それを追いかけるように、黒髪の首がその膝元に転げ落ちた。鮮やかな赤が無彩色な闇にけばけばしい彩りを叩き付ける。飛沫が男の頭から降り注ぎ、全身へ無数の赤い斑点を染み付けた。
「きゃっ!」
 思わず美奈は叫び声を上げ、口元に両手を添えてその場に立ちつくした。その瞬間、男の凄まじい顔が、ぎょろりと美奈を睨み付けた。美奈は、信じられぬ思いでその目を見つめ返した。未だかつてこんな事は無かった。夢の中に侵入した美奈の存在に気がつく者など、一人としていなかったのだ。
「君は、誰だ?」
 今、繰り広げられた光景からは想像できない、静かで落ち着いた声が美奈の耳に届いた。が、それは恐怖に竦んでいた美奈の呪縛を解いたに過ぎなかった。美奈はその瞬間、自分でも訳が分からぬまま泣き声を上げて、その夢から逃げ出したのである。その後ろから、男の「待ってくれ!」という声が、美奈の足を余計に急がせた。こうして美奈は今までで一番恐ろしい夢から逃げ出したが、その後しばらくして麗夢と出会い、そして夢魔の女王という極めつけの恐怖に巻き込まれる中で、すっかりこの男の事を忘れていたのだった。
「な、何のことか判りません・・・」
 美奈の足が更に一歩下がった。もう一突きするだけで、美奈はわき目もふらず家に向けて走って逃げたことだろう。対する男は、そんな美奈の限界に達しつつある緊張を理解しているのか、あくまで静かに、落ち着いた口調で話しかけた。
「君が警戒するのは良く判っている積もりだ。だが、私は夢魔の女王ではない。君に危害を加えるつもりは一切ないんだ」
 この人、夢魔の女王のことを知っている?!
 美奈の中で点滅していた黄色いシグナルが、その瞬間赤に切り替わった。この男は危険だ。早く、一刻も早く離れないといけない!
「わ、私、早く家に帰らないと・・・」
 既に半身になって逃げ出そうとしている美奈に、男は慌てることなく言った。
「君の力を借りたい。君が助けてくれれば、夢魔達を完全に消滅させることが出来る」
 その言葉に、美奈の足が止まった。
「どう言うことですか、それは」
 すると男は、初めて安堵に弛んだ顔を見せて、美奈に言った。
「文字通りの意味だよ。君の協力があれば、夢魔の存在そのものを、この世界から完全に消し去ることが出来るんだ。だから是非君の力を貸して欲しい。その、人の夢を渡り歩く力をね。そのために君をずっと捜していたんだ」
 美奈は、麗夢が身を削って夢の平和を守るために闘い続けていることを思い起こした。この人の言うとおりなら、あの麗夢の危険極まりない苦労も終わる時が来ると言うことだろうか?
 男の口の端に浮かぶ幽かな笑みに吸い込まれるように、美奈の足が再び男の方に向いた。いや、美奈は既に男の「力」に呑み込まれていた。恐怖と不安のシグナルを発していた自由意志は、いつの間にか美奈の中から失われていた。
「さあ、一緒に来たまえ」
 すっと出された右手に頷きながら、美奈は自分の手を出した。そして男に誘われるままに元来た道を引き返し始めた。やがて、夕闇迫るその住宅街から美奈の姿が忽然と消えた。同時に楽しく希望に満ちた日常生活も、泡となってその場から失せた。
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携帯電話、やっぱり利用料安いのがありがたいです。

2007-09-27 22:56:47 | Weblog
 彼岸も過ぎて、世間も随分涼しくなってきた、と思っておりましたが、気象庁のサイトを見てみますと、今もまだ、平年値に比べ最高最低とも5℃近く高いことに気づかされます。これは、平年なら平均気温で5℃低いということとほぼ同じですから、多分今突然その気温になったら、セーターでも着ないと寒気を覚えるのではないでしょうか。それだけ身体が暑さに慣れてしまったのでしょう。それにしても、果たしてこのまま5℃高く冬まで行くのでしょうか? まさかそんなことはなかろうと思いたいところですが、かといっていきなりスイッチを切り替えるように5℃分がたん、と下がったりするのも困りますし、ここは遅ればせながらでも少しずつ気温を下げてもらって、早々に夏の残り香にはご退場願い、秋冷と呼ぶにふさわしい季節を迎えたいものです。

 さて、携帯電話、KDDIからしきりに乗換えを勧めるダイレクトメールがこの間から頻々と届いておりますが、そうこうしているうちに総務省が現在のハードはタダ同然、通信費割高で元を取る、という巷のプリンタメーカーのインク代のような営業戦略に対して是正を勧告したためか、この冬には、NTTドコモとKDDIが機械は高いけれど通信費は割安、というプランを出すのだそうです。私はもともと諸般の事情で年内に乗り換える積もりはありませんでしたので、選択肢が増えるこういう話はまさに歓迎したいところです。実際のサービス内容はまだこれからのようですが、結局のところ私がプリペイド携帯を所持していたのは、普段ほとんど使用しないのに一定の料金が確実に持っていかれる基本使用料なる考え方になじめないがためであり、それが今後多少なりとも安く是正されるというのなら、端末が多少高くつこうがそれはそれでありがたいのです。果たしてどういうサービス内容になるのか、それが、現在列記されている乗換え時の各種サービスと連動してくれるものになるのか、それ次第で私の現在の携帯番号がそのまま使えるのか、はたまた変更になるのかが決まることになるでしょう。あと3ヶ月足らずですが、楽しみにしております。
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早くガンを防いだり直したり出来る世の中になってほしいと思います。

2007-09-26 23:18:56 | Weblog
 時間が要るときほど、なんやかやと公私共に余分な仕事が舞い込んでくるような気がします。お仕事、自治会、家、等々外的なものもあれば、ここ数日どうもはっきりしない体調という内的なものもあり、一つ一つなら何とかこなせる類のものでも、いっぺんに押し寄せてくるとさすがにきついものがあります。それでも何とか壊れずにこれるのは亀の甲より年の功という類のものなのだろうと、己の適当な性格は横において勝手に考察していたりするのですが、それでも必要な時間を生み出すまでには至らず、臍をかむ思いを余儀なくされるのです。
 逢坂氏の御通夜、特に一般参列を拒まないとうかがったので是非参列したかったのですが、同じ関西圏とは言え奈良の山の中である当方から出向くにはかなり時間が必要で、その時間を工面するのに失敗したことが、なんとも口惜しくてなりません。これが親族郎党の不幸ごとなら有無を言わさず全てを堂々うっちゃれるのですが、さすがにのっぴきならない仕事を放置して、一面識も無い方の葬礼に参加するのをとがめない上司もありませんでした。宮仕えの情けなさですが、それでも一人静かに弔意を表し、黙祷をささげる時間は何とか工面できました。

 それにしても、44歳でガン、というのは、何度みても早すぎる最期だと思わずにはいられません。
 ガンが発症するには何段階か必要です。まず正常細胞の遺伝子が発ガン物質等により傷ついて異常をきたします。更にガンを促進する物質などによりガン化が促され、単なる遺伝子異常から不死化細胞へと変化します。これが更にコンバージョンという過程を経て不死化細胞からガン細胞となります。まだこここまでの段階では、免疫機能により、正常細胞と異なる細胞と認識されるので大抵は排除され事なきを得ます。しかし、その防衛機構を潜り抜け、排除しきれなかったガン細胞が増殖、悪性化して、いわゆるガンとなるのです。
 一般に細胞が異常をきたしてから目視1センチくらいのガン細胞塊になるまで30年程度かかると昔習いました。その後更に死を招くような状態になるまで時間がかかりますので、かつて人生50年だった時代には、ガンが全身に回るよりも早く肉体の方がもちませんでした。それがここ最近の長寿や食生活の変化等により、ガンが死因第一位になるまで急増してきたのです。もし30年説がいまだ間違いの無い話だとしたら、逢坂氏もまた、中高生ころに何らかの原因でガンの芽が身体に生まれてしまったのかもしれません。もしそれが、ガン発生の原因の第一として専門家が口をそろえる食生活由来のものだとしたら、私たちの世代は皆一様にその危険性を持っているといえるかもしれません。ガンには、最近急増中の大腸ガンのような、自覚症状の出ないガンや、腰痛などと間違えやすい前立腺ガンなどもあり、厚生労働省の片棒を担ぐわけではありませんが、やはりある程度年齢がいったら、専門機関でそれなりの検査を受けて体のメンテナンスを心がけるようにした方がよさそうです。医学の進歩でガンが征圧されるそのときまで、気をつけるに越したことはないということなのでしょうか。


 
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逢坂浩司氏の業績を讃えるとともに、そのご冥福を心から祈りたいと思います。

2007-09-25 23:09:09 | ドリームハンター麗夢
 人は何故死ぬのでしょう? などということをあえて殊更に思い返さざるをえないです。もちろん人は死を免れることができないのは判りきった事なのですが、それでも、何故、今、死なねばならないのか、どうしても死が免れえない運命だとしても、それならそれで後もう少し、10年か、5年か、例えわずかでも生きていてもらえないものだったのか、という悔しさに似た悲しみが、生き残った者の胸に重く冷たくわだかまってしまいます。9月23日の逢坂浩司氏の逝去は、麗夢ファンにとって、また、アニメを愛する多くの人間にとって、取り返しの付かない喪失感を覚えさせる一大事でした。
 享年43歳、というのは、あまりに若い年齢です。そう、私自身とそう変わらない年なのです。ウィキペディアの記事によるとガンだったそうですが、前立腺がんや大腸がんなど、ガンでも最近自覚症状がほとんどないまま進行して末期がん化するものが増えているそうですし、また、若いとそれだけがん細胞の増殖も早いとも聞きます。遺伝体質や生活習慣など色々と原因はあったのでしょうが、何故まだまだ未来に向けてたくさんの夢を描くことができた豊かな才能が病によってその歩みを強制終了させられるのか、その理不尽さにはぶつけようのない怒りすら覚えさせられます。
 このところ耳になじんだ声優さん達の訃報が相次ぎ、また製作陣も年とともにくしの歯が欠けて行くのは、年齢相応に先に逝く者が逝く、という中では致し方ない部分もあるでしょう。が、ほぼ同い年の人がこうして先に逝かれてしまうと、その衝撃たるや言語に絶するものがあります。もう残念ながらいかに魂よばいを行なおうとも、ヨモツヒラサカを降りていった逢坂氏を呼び返すことはかないません。この上は、故人の冥福を心から祈るとともに、残された人々すべてが、余生つつがなく十分に生きていただくことを願うばかりです。

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2.美奈 その1

2007-09-24 23:05:02 | 麗夢小説『ドリームジェノミクス』
 「また明日ね~っ!」
 「バイバーイ!」
 はつらつとした可愛らしい別れの挨拶が、ひとしきり通称学校通りと呼ばれる住宅街に流れた。午後五時。友人と名残惜しげに笑顔で手を振りあった美奈は、まだ皮の臭いも真新しい学生カバンを持ち直し、自宅の方へ向きを変えた。
 ルンルン、と鼻歌の一つも飛び出しそうなくらい、今の美奈は毎日が楽しくて仕方がない。永い病院生活に終止符を打ったあの「夢魔の女王」の一件は、内気で消極的な美奈の日常を根本的に変えてしまった。かけがえのない友人達と力を合わせて勝ち取った命がけの闘いは、美奈の心に「やれば出来る!」という太い心柱を生み出したのである。あの事件からリハビリも急速に進み、今の美奈は、車椅子がなければどこにも行けなかったかつての陰影は微塵もない。こうして学校生活に戻った美奈は、周囲の心配をよそにすっかりクラスにも溶け込み、弓道部の新入部員として新たな友人達と共に、充実した毎日を送っていたのだった。
(今夜は久しぶりに麗夢さんに会いに行こうかな。アルファ、ベータにも会いたいし・・・)
 昼の生活の充実に反比例して、かつては日課であった「夜の散歩」はすっかりご無沙汰になっていった。もちろんあの力ー他人の夢の中を渡り歩く能力ーを失ったわけではない。ただ今は、夜の夢が美奈の唯一の楽しみで無くなっただけのこと。それでも、夢の中でアルファやベータと転げ回り、自分よりも遙かに強い力を持つお姉さん、綾小路麗夢とお話しするのは、新生活に勝るとも劣らない楽しみと言えた。そのためには、まずさっさと宿題を片付け、充分な睡眠時間を確保しなければならない。美奈は、よし! と握り拳を作って気合いを入れると、元気よく自宅への道を急いだ。
 こうして、あの角を左に曲がれば程なく自宅が見えてくる、という所まで来た時だった。
 その角に、腕組みしてこちらを向いている背の高い男がいた。美奈は、男の視線が自分に注がれているような気がして、何故か軽い不安を覚えた。ひょっとして、最近巷間を騒がす変質者の一人だろうか? だが、あの角を曲がらずには家にたどり着けない。日は落ちつつあるが、まだ外灯が点くほど暗くもなく、あたりには、近所の公園で遊ぶ子供達の歓声や、買い物に急ぐ人達もちらほらと見受けられる。何よりすぐ近くには交番もあって、通りかかると必ず挨拶を交わすなじみのお巡りさんもいる。美奈はそんな周囲の状況を改めて確認すると、漠然とした不安を押し殺して、その男の脇を素早く通り抜けた。思わず駆け足になりそうなところをぐっと堪え、後ろの様子をそれとなくうかがう。が、どうやらなんでもなかったらしい。美奈が自分の自意識過剰に軽く苦笑したその時。
「君、ちょっと待って!」
 ドキッとした美奈は、身を固くして立ち止まった。思わず悲鳴を上げそうになった口を慌ててつぐむ。恐る恐る振り向いた美奈の目に、さっきの背の高い男がゆっくり近づいてくるのが映った。
「な、何か用ですか?」
 気丈にも返事を返したが、声の固さは隠しようもない。男も緊張した美奈の警戒ぶりに気づいたのであろう。細面のやや険のある顔に精一杯笑みを浮かべ、美奈に言った。
「君、私の顔に見覚えはないかね?」
「?」
 怪訝な顔をして、美奈は改めて相手の顔を見た。そう言われれば、どこかで見た気がする。でも一体どこで? 少なくとも、病院や学校で会ったことはない。
「判らないか・・・。もう四ヶ月にはなるからな。ほら、夜中に私の顔を見ただろう? 思い出せないかね?」
 四ヶ月前? 美奈は小首を傾げた。四ヶ月前ならまだ病院のベットにいた頃だ。そんな時分の夜中に会うなんて、当直の看護婦さん以外に一体誰と会うというのだろう? だが、程なく美奈は、確かにこの男の顔を見たことがあると気がついた。
 夢だ。
 「夜の散歩」の最中に、偶然この男の夢を覗き、その顔を見たことが確かにあった。すっかり忘れていたのだが、男の姿に漠然とした不安を抱いた時点で、美奈は無意識に思い出していたのであろう。
「し、知りません。おじさんと会った事なんて無いです」
 美奈は警戒の鎧を一段とそばだてて半歩足を引いた。
「いや、その顔は思い出した顔だ。私の夢を、そして、私が君の視線に気づいた事もね」
 さっと美奈の顔色が変わった。まさに男の言葉は、美奈の予測した最悪の答えを返してきたのだ。美奈は否応なくその時垣間見た夢を思い出していた。あの、恐ろしい光景を・・・。
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大国主命ではないのですが、部屋中にムカデがうじゃうじゃという夢を見ました。

2007-09-24 22:57:08 | 夢、易占
 昨晩はどうも寝苦しい夜だったのか、あまり観たくも無い夢を見てしまいました。
部屋中にムカデがうじゃうじゃわいてくる夢です。それを私は、何故かいつも製本で使っている大型ホチキス(100枚くらい楽勝で止められるタイプ)の台座部分を叩きつけて殺戮して回る、という、なんとも殺伐とした夢です。夢の中で私はペンチかかなづちを求めていたのですが、どうしてもそれらが見つからず、手元にあったホチキスを振り回すことになったのです。ムカデは部屋のあちこちに次々と現れ、私の普段寝ている布団からもわいて出て、いつの間にか私の左足の甲で這い回っているのもあり、その感覚がなんともおぞましい限りでした。目覚めて後、しばらくは、手元の掛け布団にいるような気がして、明け方の寒さを覚えていたのに布団をかぶろうという気がしばらくしませんでした。
 ところで後で気が付いたのですが、この夢、ムカデの体色が識別できましたので、色は一応付いておりました。その一方、音がまるで聞こえませんでした。相当思い切りよくでかいホチキスを床やら壁やらに叩きつけて回ったのですが、その衝突音は全く記憶に残っておりません。匂いも感じていません。味覚はわかりませんが、多分なかったんじゃないでしょうか。それでいながら足にたかられたときの感覚はあるのですから、この夢で認められた感覚は、視覚と触覚だけだったことになります。おそらく睡眠中に励起された脳細胞部分が視覚と触覚に関係するところだったのだろうと想像されるのですが、内容のおぞましさはともかくとして、そんなちょっとしたことがなんとなく面白く感じられた夢でした。
 さて、前回2ヶ月前にハチの夢を見た後は、しばらく寝つきが悪く睡眠不足に陥るという体調不良がありました。夢占いでも、ムカデとかハチとか、毒虫の夢は病気などが暗示される夢とされるようです。その一方で幸運の吉夢という話もあるのでなんともいえませんが、はたして今回の場合はどうなるでしょうか。明日は定期健康診断の日なので、それで何か厄介なことでも言われたりしないか、と、少々気がかりではありますね。

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1.夢見小僧 その2

2007-09-23 22:45:12 | 麗夢小説『ドリームジェノミクス』
(ああ、麗夢さんか、せめて円光さんが居てくれたなら・・・)
 榊は、今やただの愚痴でしかない一言を、胸の奥に呑み込んだ。もっとも鬼童はただの野次馬というわけではない。超心理物理学という学問の研究者であり、広範な科学的知見をベースとした有益な助言や手助けを、榊も多々この若者から与えられている。一人の少女を核とした運命共同体の、彼は重要なワンピースなのだ。今回もこの怪盗の跳梁を阻止すべく、その冷徹な科学の目で、夢見小僧の手口を検証して貰うのが彼の役目なのである。「怪奇よろず相談」の看板を掲げる私立探偵、綾小路麗夢や、底知れない法力を誇る謎の僧侶、円光の助力は非常にありがたいのだが、この二人の超常能力はどう足掻いてみたところで榊には望むべくもない。だが、科学的に分析されたデータならば、常人の榊にも充分手が届く「力」になるはずだった。ただ、さしあたり鬼童は観察者として今回の犯行を見学するばかりで、恐らくその阻止のためには何の役にも立ちそうにない。あくまでも「次」の為の今日でしかないのだ。まだこの犯行も済んでいない内から次の備えを考えねばならぬのは余りにしゃくなのだが、特別な力に期待もできない以上、せめて少しでも明日に繋がる努力をしておきたいというのが、いじましき榊の思いであった。はたしてそれが目の前の若者に通じているのかどうか・・・。榊はまた時計に目を落とした。いつの間にか時間が過ぎて、榊の腕時計は12時のところで長針と短針がまさに触れなんばかりに寄り添い、そこへぴたりとランデブーを果たすべく、秒針が4時の辺りを足早に駆け抜けていた。
「警部、そろそろですよ。準備はいいですか!」
「お、おう! 各員警戒を厳に! 来るぞ!」
『了解!』と威勢良く連呼する通信機のスピーカーに耳を傾けつつ、榊は目の前のガラス張りショーケースに収まった、小汚い古代の枕とやらと、時計の間に慌ただしく視線を交錯させた。チラ、と視線を送ると、さすがに鬼童も面もちを引き締め、来るべき瞬間を見逃すまいと目を凝らしている。榊は少し安心しながら、時計の秒針が9時を回ったところで目をショーケースに固定した。
(14、13、12、11・・・)
 すっとこめかみに汗がしたたり落ちる。無意識に拳へ力が入り、噛み締められた奥歯がギリリと音を立てる。
(7、6、5、4、・・・)
 目はじっとショーケースに注がれつつも、羽一つ落ちた音さえ聞き逃すまいと耳を澄ませる。
(2、1、0!)
 榊は息を詰めて自分の力の及ぶ限り気を集中させた。無意識に、また頭の中で1、2、3と数を数え続ける。それが30を超えたとき、ふっと息を付く音に続いて、聞き慣れた声が榊の集中に水を差した。
「警部、何も起こりませんね」
「油断しちゃ駄目だ鬼童君! まだ犯行時刻は過ぎていない!」
 だが、更に30秒が何事もなく過ぎ去ると、さすがの榊も疑念がもたげるのを抑えきれなかった。
(まさか・・・いやしかし、これまで遅れたことはおろか、予告だけで犯行が実行にうつされなかったことはない。いや、これも犯行を成功させるための手口なのかも。さしもの夢見小僧もこの警戒振りを見て、我々の油断を誘う気になったか?)
 こうして更に10分粘った榊だったが、やはり全く静謐に時間だけが過ぎて、何も起こりそうな気配がない。念のため、通信機で各所の警戒部隊に連絡を取ったが、どこから返ってくる言葉も、判で押したように「異常なし」の一言だった。
「どうやら、今日は犯行を中止したようですね」
 鬼童が見るからにがっかりした様子で榊に言った。
「い、いや、そんなはずはない! きっとどこか離れたところから、こちらの隙をうかがっているに違いない!」
「でも、これまでだってこれくらいの警備は苦もなくすり抜けてきた怪盗なんでしょう?」
「それはそうだが・・・」
 鬼童に指摘されるまでもなく、こちらの油断をあの怪盗が毛ほども必要としていないことは分かり切っていた。だが、だからといって何ができるというわけでもない。
「とにかく、完全に安全が確認されるまで警備は続行する。鬼童君もそのままそこにいてくれ給え。下手に動くと、怪盗に間違われて留置所に放り込まれるぞ」
 鬼童はやれやれというように肩をすくめると、いざというときに使おうと思っていた各種計測機材を片付けにかかった。横目でそれを眺めつつも、榊はそれを咎めようとしなかった。今夜は来ない。榊の勘が、確かにそう告げていたからだ。それでも榊は、職務上警備を続行し、ようやく警戒態勢を解いた時には、東の窓から明るい陽光が差し込んできていた。
(一体どうしたと言うんだ? 今日に限って休んだとでも言うのか? 夢見小僧!)
 榊の心の叫びは、その後長く封印されることになった。その夜を境に、あれほど跳梁跋扈していた夢見小僧の消息が、ぴたりと消えてしまったからである。
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今回の連載、果たしていつまで続けることになるでしょう?

2007-09-23 22:36:52 | Weblog
 今日は朝から連合自治会の行事で近所の大きな公園へ。幾つかのブロックに分けて各自治会が分担する、秋の草刈と大掃除の日です。例年なら、さわやかな風と高く広がる青空のもと、秋の気配をしっかりと感じつつ午前中を過ごすことになっていたはずですが、今年に限ってはまさに夏祭り直前の大掃除のように、照りつける太陽の下、汗だくになって地面を這い回ることになってしまいました。まあそれでも1ヶ月前に比べれば随分穏やかな気候になってきてはいるのですが、吹き出る汗をタオルでぬぐいつつ鎌をふるわねばならないあたりは例年の行事からは想像もできない状況でしょう。心なしか公園の雑草たちも水気不足で元気さが足りないように見えましたし、掃除も例年よりずっと短時間で切り上げられ、早々に住まいへと退散したのでした。

 さて、数日前から準備してきた長編小説の連載を始めているわけですが、連載が久々ということもありますし、ブログを用いた掲載方法について色々試してみたいということもあるので、とりあえずこの3連休は毎日何千字かづつアップしてみようと思っています。その後は一応毎週1回、金曜か土曜日に定期的にアップするとともに、場合によってはその間で不定期にもう一回くらいはさんでみるのもよいか、などと考えているところです。結構分量の多い本ですので、それくらい考えておかないと、下手をすると新年ではなく、新年度が明けるまで終わらない可能性がありますので、毎回の分量をどうするのか、が当初からの課題であり、目下のところ最大の検討部分なのです。とはいえ、今うちにはブラウザがFirefoxしか稼動してませんので、他のではどう見えているのか、現状では確認できないのが残念です。IEどっかにあったはずなのに、うっとおしいから、とデスクトップからショートカットアイコンを削除したとき、どうにかしてしまったみたいです。つい先ほど、実行ファイルをハードディスクから探し出してダブルクリックしてみたのに、なんとかdllがないとか何とかぬかして動こうとしなかったため、それ以上の追求が面倒になってしまいました。まあアクセス解析によるとIEで観ている方が結構いらっしゃるみたいなので、きっとそれなりには見えていることでしょう。仮にヘンな見え方をしているとしても、それを修正する方法はにわかには思いつきませんし。



 
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1.夢見小僧 その1

2007-09-22 22:51:58 | 麗夢小説『ドリームジェノミクス』
 午後11時50分を少し過ぎた辺りで、榊は30秒前に見たばかりの腕時計に再び目をやった。なめらかに動く秒針がさっきと180度反対方向に向き、長針がほんの僅か、12時の方へ動いた他は何も変わりはない。文字通り一秒も休むことなく律儀に時を刻む愛用の時計であったが、今の榊にとっては、苛立ちを募らせる数多くの一つに過ぎなかった。続けて榊は、手元の通信機を取り、この一時間というもの何度繰り返したか知れない一言をまた口にした。
「何か異常はないか?」
 間髪を入れず、『異常なし!』の応答が、要所に付いた部下達から返ってくる。度重なる問い合わせにも関わらず、その声音にうんざりしたような色は微塵も感じない。いや、むしろ予告の午前〇時が迫るにつれ、まるで豪雨下の堤防のように、急速に緊張の度合いを高めているようだ。上野公園は今、国立博物館を中心に、決壊寸前の厳戒態勢下に置かれていた。相手はただ一人。警視庁では怪盗二四一号と呼称する、盗みの常習犯である。だが巷間には、無味乾燥な番号よりも、愛称の方がよほど良く知られているだろう。正体不明、手口も不明。狙った獲物は一〇〇%必ず盗み出し、いずことも知れず消える怪盗。その名も夢見小僧という令名である。
 夢見小僧には、確かに怪盗と呼ばれるに相応しい所行が目に付く。
 まず狙ってくる獲物が、単なる金銭的価値によって計ることの難しいものが多い。確かに高級な宝石や骨董品は多いのだが、中にはなんでそんなものを? と首を傾げるような物が狙われることがある。今回もまさにそれで、歴史的価値はともかく、金銭的にはほとんど無価値に近い。中国の始皇帝陵から発掘されたという古い枕を欲しがるような好事家が、一体世界に何人いるだろう? しかもそれは、かの方士徐福が始皇帝に取り入るために献上した、邯鄲の夢枕、という怪しげな曰くつきの代物だ。中国の歴史的価値と言う点からすればそれなりに価値もありそうだが、少なくともお金に換算できるような代物ではない。
 それから、必ず犯行を予告するメッセージを送りつけ、今日の上野公園のように一〇〇名を超える厳戒警備を強要するところも、怪盗の名に相応しい。しかも、絶対侵入不可能な密室にも難なく滑り込み、誰にも気づかれることなく目的の宝物を盗み出してしまうのだから、もはや言うこと無しだ。夢見小僧が犯行を成功させるたび、推理作家や犯罪研究家がその手口を解明すべく頭をひねったが、これまで、誰一人としてその謎を解き得た者はいない。散々考えあぐねたあげく、「これは魔法としかいいようがない!」と両手を上げた者もいたが、「いや、きっと何かトリックがあるはずだ!」と頑張る者達でさえ、内心では正直に降参した者の言葉に納得していた。そう。床下、天井裏、各種配管、それも到底人が通り抜けられない小さな所まで徹底的に洗い出し、侵入路を潰した密室の中央で、二〇名の警官が取り囲み、じっと焦点を合わせ続けていた宝石が、誰一人として気づかぬ内に、あっと思う間もなく忽然と姿を消したら皆はどう思うであろうか。時間を止めたか、宝石を瞬間移動させたか、とにかく警備当事者にとっては魔法としか思えない手口で犯行が実施されてしまうのだ。警視庁の敏腕警部、榊真一郎でさえ、一再ならずそんな狐に化かされたような目に遭ってきた。それでも未だに彼が夢見小僧の事件で指揮を任されるのは、過去に二度だけ、夢見小僧の犯行を阻止し得たからに他ならない。警視庁広しと言えども、夢見小僧の野望を挫くことに成功したのは、ただ榊一人あるのみなのだ。「人智を超えた怪奇不可思議な事件は榊警部」と言う、本人には苦笑するしかない定評も、そう言った実績に裏打ちされているからこその事なのである。もっともその実績の裏に、実は真打ちが潜んでいることを知る者は、極めてごく少数だった。今宵いつになく榊が苛立っているのも、そんな絶大なる信頼を寄せる「お守り」が、今夜に限って傍らに居ないせいなのである。
「榊警部、少し落ち着きなさい。さっきから時計ばかり見ていますよ」
 知性溢れる落ち着いた声が、榊の右鼓膜を軽く震えさせた。反射的に振り向いた先に、鋭角的に整った顔立ちが微笑んでいる。榊は、そんな場違いな雰囲気に包まれた端正な顔を睨み付けた。
「鬼童君、君こそもう少し警戒したらどうなんだ。そんなにリラックスしていたら、肝心なときを見逃してしまうぞ」
「ご心配なく。僕は早く夢見小僧に会いたくて、うずうずしているんですから」
 額にかかった髪を軽やかに右手で掻き上げ、輝く白い歯を見せながら鬼童は言った。
「ワクワクするのは判るがね。約束は忘れんでくれよ。わざわざ部外者の君を特別に入れたのはそのためなんだからな」
「大丈夫ですよ警部。自分の責任はちゃんと果たします」
 自信たっぷりにそう言われては、榊も黙って向こうを向くしかない。
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異常気象でサボテンに水をやるタイミングもなかなかつかめません。

2007-09-22 22:41:48 | Weblog
 秋の連休第2段初日、もういちいち取り上げるのも億劫になってきた観がありますが、昼間は相変わらずの夏日が続き、いっこうに秋めいて来る様子がうかがえません。7月以来夏越しのために水を切っているサボテンに、そろそろ水をやって秋の生長を促してやらねばならない頃なのですが、この暑さの中果たして水をやってよいものかどうか、と手をこまねいておりました。そうこうしているうちに9月も後1週間になってしまいましたので、易の卦を立てた上で、今夜この日記を書き上げ次第水をやることにきめました。ちなみにサボテンは夜の間に水を吸って身体に蓄え、その水を使って昼間光合成をするので、水遣りは夕刻やる方が合理的、というのを本か何かで読んだ気がします。また、市販のサボテン用培養土は、過湿による根腐れを防ぐためか、サボテンの栽培用としては少々乾燥し過ぎるきらいがありますので、朝水をやるより夜水をやった方が、サボテンには十分な水を与えることができそうです。
 うちは小さなサボテンを幾つか飼っているだけなのでその悩みも小さなものですが、この異常気象はさまざまな植物に影響し、とりわけ食用植物各種にはかなり大きな影響が出ているようです。台風や長雨の被害もありましたし、実りの秋、にふさわしい収穫が得られるかどうか心配です。また、冬の野菜類は8月から種をまいたり畑に植え付けたりするのですが、その後ずっと暑いままなので害虫や病気も例年になく元気そうですし、何より育ちが悪くなるので、白菜やキャベツや大根など、欠かせない冬の野菜たちの今後のできも大いに気になります。これまで、新しい品種を生み出したり栽培方法を開発したり、という農業の研究は、大体において美味しく大きくたくさん、という方向で進められておりました。ですが、今後この異常な気象が当たり前になってくるのだとしたら、そろそろ研究の方向も考えを改め、異常気象でも安定して栽培や収穫を可能とする方法を探究すべきでしょう。私は食料自給率など、エネルギー純輸入国の我が国ではまやかしの数字だ、と思ってはおりますが、それでも日本の土地、日本人の手で作られた野菜や果物、米を食べたいですし、多分その為の技術力は十分潜在していると思いますので、地球温暖化防止対策とは別に、安定食糧生産対策も考慮してもらいたいものです。

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次は目次です。様子を見ながらリンクしていきます。

2007-09-21 23:52:11 | 麗夢小説『ドリームジェノミクス』
 1.夢見小僧 その1 その2

 2.美奈 その1 その2

 3.ハンス

 4.死神現る その1 その2 その3 その4

 5.ドリームジェノミクス社 その1 その2 その3 その4

 6.異変 その1 その2 その3

 7.高原の夢 その1 その2 その3 その4 その5

 8.能力喪失・・・ その1
その2 その3

 9.ナノモレキュラーサイエンティフィック

10.怪盗の賭

11.突入!ドリームジェノミクス社

12.高原の秘密

13.死神の陰謀

14.奇跡

15.後日譚
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