かっこうのつれづれ

麗夢同盟橿原支部の日記。日々の雑事や思いを並べる極私的テキスト

1.夢見小僧 その2

2007-09-23 22:45:12 | 麗夢小説『ドリームジェノミクス』
(ああ、麗夢さんか、せめて円光さんが居てくれたなら・・・)
 榊は、今やただの愚痴でしかない一言を、胸の奥に呑み込んだ。もっとも鬼童はただの野次馬というわけではない。超心理物理学という学問の研究者であり、広範な科学的知見をベースとした有益な助言や手助けを、榊も多々この若者から与えられている。一人の少女を核とした運命共同体の、彼は重要なワンピースなのだ。今回もこの怪盗の跳梁を阻止すべく、その冷徹な科学の目で、夢見小僧の手口を検証して貰うのが彼の役目なのである。「怪奇よろず相談」の看板を掲げる私立探偵、綾小路麗夢や、底知れない法力を誇る謎の僧侶、円光の助力は非常にありがたいのだが、この二人の超常能力はどう足掻いてみたところで榊には望むべくもない。だが、科学的に分析されたデータならば、常人の榊にも充分手が届く「力」になるはずだった。ただ、さしあたり鬼童は観察者として今回の犯行を見学するばかりで、恐らくその阻止のためには何の役にも立ちそうにない。あくまでも「次」の為の今日でしかないのだ。まだこの犯行も済んでいない内から次の備えを考えねばならぬのは余りにしゃくなのだが、特別な力に期待もできない以上、せめて少しでも明日に繋がる努力をしておきたいというのが、いじましき榊の思いであった。はたしてそれが目の前の若者に通じているのかどうか・・・。榊はまた時計に目を落とした。いつの間にか時間が過ぎて、榊の腕時計は12時のところで長針と短針がまさに触れなんばかりに寄り添い、そこへぴたりとランデブーを果たすべく、秒針が4時の辺りを足早に駆け抜けていた。
「警部、そろそろですよ。準備はいいですか!」
「お、おう! 各員警戒を厳に! 来るぞ!」
『了解!』と威勢良く連呼する通信機のスピーカーに耳を傾けつつ、榊は目の前のガラス張りショーケースに収まった、小汚い古代の枕とやらと、時計の間に慌ただしく視線を交錯させた。チラ、と視線を送ると、さすがに鬼童も面もちを引き締め、来るべき瞬間を見逃すまいと目を凝らしている。榊は少し安心しながら、時計の秒針が9時を回ったところで目をショーケースに固定した。
(14、13、12、11・・・)
 すっとこめかみに汗がしたたり落ちる。無意識に拳へ力が入り、噛み締められた奥歯がギリリと音を立てる。
(7、6、5、4、・・・)
 目はじっとショーケースに注がれつつも、羽一つ落ちた音さえ聞き逃すまいと耳を澄ませる。
(2、1、0!)
 榊は息を詰めて自分の力の及ぶ限り気を集中させた。無意識に、また頭の中で1、2、3と数を数え続ける。それが30を超えたとき、ふっと息を付く音に続いて、聞き慣れた声が榊の集中に水を差した。
「警部、何も起こりませんね」
「油断しちゃ駄目だ鬼童君! まだ犯行時刻は過ぎていない!」
 だが、更に30秒が何事もなく過ぎ去ると、さすがの榊も疑念がもたげるのを抑えきれなかった。
(まさか・・・いやしかし、これまで遅れたことはおろか、予告だけで犯行が実行にうつされなかったことはない。いや、これも犯行を成功させるための手口なのかも。さしもの夢見小僧もこの警戒振りを見て、我々の油断を誘う気になったか?)
 こうして更に10分粘った榊だったが、やはり全く静謐に時間だけが過ぎて、何も起こりそうな気配がない。念のため、通信機で各所の警戒部隊に連絡を取ったが、どこから返ってくる言葉も、判で押したように「異常なし」の一言だった。
「どうやら、今日は犯行を中止したようですね」
 鬼童が見るからにがっかりした様子で榊に言った。
「い、いや、そんなはずはない! きっとどこか離れたところから、こちらの隙をうかがっているに違いない!」
「でも、これまでだってこれくらいの警備は苦もなくすり抜けてきた怪盗なんでしょう?」
「それはそうだが・・・」
 鬼童に指摘されるまでもなく、こちらの油断をあの怪盗が毛ほども必要としていないことは分かり切っていた。だが、だからといって何ができるというわけでもない。
「とにかく、完全に安全が確認されるまで警備は続行する。鬼童君もそのままそこにいてくれ給え。下手に動くと、怪盗に間違われて留置所に放り込まれるぞ」
 鬼童はやれやれというように肩をすくめると、いざというときに使おうと思っていた各種計測機材を片付けにかかった。横目でそれを眺めつつも、榊はそれを咎めようとしなかった。今夜は来ない。榊の勘が、確かにそう告げていたからだ。それでも榊は、職務上警備を続行し、ようやく警戒態勢を解いた時には、東の窓から明るい陽光が差し込んできていた。
(一体どうしたと言うんだ? 今日に限って休んだとでも言うのか? 夢見小僧!)
 榊の心の叫びは、その後長く封印されることになった。その夜を境に、あれほど跳梁跋扈していた夢見小僧の消息が、ぴたりと消えてしまったからである。
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今回の連載、果たしていつまで続けることになるでしょう?

2007-09-23 22:36:52 | Weblog
 今日は朝から連合自治会の行事で近所の大きな公園へ。幾つかのブロックに分けて各自治会が分担する、秋の草刈と大掃除の日です。例年なら、さわやかな風と高く広がる青空のもと、秋の気配をしっかりと感じつつ午前中を過ごすことになっていたはずですが、今年に限ってはまさに夏祭り直前の大掃除のように、照りつける太陽の下、汗だくになって地面を這い回ることになってしまいました。まあそれでも1ヶ月前に比べれば随分穏やかな気候になってきてはいるのですが、吹き出る汗をタオルでぬぐいつつ鎌をふるわねばならないあたりは例年の行事からは想像もできない状況でしょう。心なしか公園の雑草たちも水気不足で元気さが足りないように見えましたし、掃除も例年よりずっと短時間で切り上げられ、早々に住まいへと退散したのでした。

 さて、数日前から準備してきた長編小説の連載を始めているわけですが、連載が久々ということもありますし、ブログを用いた掲載方法について色々試してみたいということもあるので、とりあえずこの3連休は毎日何千字かづつアップしてみようと思っています。その後は一応毎週1回、金曜か土曜日に定期的にアップするとともに、場合によってはその間で不定期にもう一回くらいはさんでみるのもよいか、などと考えているところです。結構分量の多い本ですので、それくらい考えておかないと、下手をすると新年ではなく、新年度が明けるまで終わらない可能性がありますので、毎回の分量をどうするのか、が当初からの課題であり、目下のところ最大の検討部分なのです。とはいえ、今うちにはブラウザがFirefoxしか稼動してませんので、他のではどう見えているのか、現状では確認できないのが残念です。IEどっかにあったはずなのに、うっとおしいから、とデスクトップからショートカットアイコンを削除したとき、どうにかしてしまったみたいです。つい先ほど、実行ファイルをハードディスクから探し出してダブルクリックしてみたのに、なんとかdllがないとか何とかぬかして動こうとしなかったため、それ以上の追求が面倒になってしまいました。まあアクセス解析によるとIEで観ている方が結構いらっしゃるみたいなので、きっとそれなりには見えていることでしょう。仮にヘンな見え方をしているとしても、それを修正する方法はにわかには思いつきませんし。



 
コメント (2)
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