かっこうのつれづれ

麗夢同盟橿原支部の日記。日々の雑事や思いを並べる極私的テキスト

ちと早いですが週末予定があるので更新しておきました。

2007-09-28 11:20:39 | Weblog
 連載中の「ドリームジェノミクス」、一応週末更新の予定なのですが、ちょっとただいまから出かけなければならず、帰宅が日曜未明になりますので、万一出先で更新できなかった場合に備え、アップしてみました。
 もし更新できる環境が手に入りましたら、明日もう一度更新できるかも? と考えています。地域有数の都市ですし、駅前にネット喫茶くらいはあると思うのですが、私が住んでいた頃にはもちろんそのような代物は一切なかった(というかインターネット自体存在してなかった)ので、行って見るまではなんとも判りません。
 とにかく無事帰ってこられますよう、行って参ります。
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2.美奈 その2

2007-09-28 11:12:03 | 麗夢小説『ドリームジェノミクス』
 一人の男が、今にも飛びかかろうとした姿のまま硬直していた。今目の前にいるこの男だ。
 腕や足は盛り上がった筋肉がぴくぴくとけいれんして、限界まで緊張している。
 怒りと絶望に満ちた形相に、脂汗をだらだらと流し続けている。
 口は絶叫を瞬間凍結したまま大きく剥き出され、涙にまみれた眼球は、目の前の光景を噛みつかぬばかりに必死に見据えている。
 その視線の先に、真の闇と形容出来る陰惨な影がわだかまっていた。長大な鎌をかつぐ、全身を覆う襟の高い黒マント。豊かな銀髪がはみ出した黒いシルクハット。猛々しい鷲鼻の下で薄い唇が奇妙にひねり上がり、目の前の男をあざ笑っている。と、にわかにその右半面が崩れ、醜悪な頭蓋骨を露出した。ぽっかりと空いた眼孔に漆黒の闇が溢れ出し、その夢を間違うことなき悪夢へと塗り替えていく。
 美奈は怖気を震いながら、あれが死神というものかも知れない、と思った。死神が、男に襲いかかろうとしているのだ、と。だが、案に相違して死神の鎌は男には向けられなかった。
 いつの間にか死神の前に、一人の女性が男の方を向いて跪いていたのだ。さらさらの黒髪が印象的な、和風美人の趣のある女性だった。その女性がすらりとした裸身を白く輝かせながら、じっと何かを待つように目を閉じている。
 男の脂汗が一段と量を増した。声は一切聞こえない。だが、何を言おうとしているのかは美奈にも判る気がした。逃げろ! と、止めろ! だ。男は全く動かない体の自由を取り戻そうともがきながら、目の前の死神と女に叫び続けていた。美奈は恐ろしさのあまり逃げ出したいと思う一方で、縛り付けられでもしたかのようにその光景を見つめていた。
 やがて、死神が無慈悲で冷酷な光を放つ鎌の刃を大きく振り上げた。半分髑髏の顔に残忍な歓喜が炸裂した瞬間、鎌が白い一閃を残して思い切り振り下ろされた。男の顔が驚愕と怒りと恐怖に一段とゆがみ、無音の絶叫が口から迸った。それを追いかけるように、黒髪の首がその膝元に転げ落ちた。鮮やかな赤が無彩色な闇にけばけばしい彩りを叩き付ける。飛沫が男の頭から降り注ぎ、全身へ無数の赤い斑点を染み付けた。
「きゃっ!」
 思わず美奈は叫び声を上げ、口元に両手を添えてその場に立ちつくした。その瞬間、男の凄まじい顔が、ぎょろりと美奈を睨み付けた。美奈は、信じられぬ思いでその目を見つめ返した。未だかつてこんな事は無かった。夢の中に侵入した美奈の存在に気がつく者など、一人としていなかったのだ。
「君は、誰だ?」
 今、繰り広げられた光景からは想像できない、静かで落ち着いた声が美奈の耳に届いた。が、それは恐怖に竦んでいた美奈の呪縛を解いたに過ぎなかった。美奈はその瞬間、自分でも訳が分からぬまま泣き声を上げて、その夢から逃げ出したのである。その後ろから、男の「待ってくれ!」という声が、美奈の足を余計に急がせた。こうして美奈は今までで一番恐ろしい夢から逃げ出したが、その後しばらくして麗夢と出会い、そして夢魔の女王という極めつけの恐怖に巻き込まれる中で、すっかりこの男の事を忘れていたのだった。
「な、何のことか判りません・・・」
 美奈の足が更に一歩下がった。もう一突きするだけで、美奈はわき目もふらず家に向けて走って逃げたことだろう。対する男は、そんな美奈の限界に達しつつある緊張を理解しているのか、あくまで静かに、落ち着いた口調で話しかけた。
「君が警戒するのは良く判っている積もりだ。だが、私は夢魔の女王ではない。君に危害を加えるつもりは一切ないんだ」
 この人、夢魔の女王のことを知っている?!
 美奈の中で点滅していた黄色いシグナルが、その瞬間赤に切り替わった。この男は危険だ。早く、一刻も早く離れないといけない!
「わ、私、早く家に帰らないと・・・」
 既に半身になって逃げ出そうとしている美奈に、男は慌てることなく言った。
「君の力を借りたい。君が助けてくれれば、夢魔達を完全に消滅させることが出来る」
 その言葉に、美奈の足が止まった。
「どう言うことですか、それは」
 すると男は、初めて安堵に弛んだ顔を見せて、美奈に言った。
「文字通りの意味だよ。君の協力があれば、夢魔の存在そのものを、この世界から完全に消し去ることが出来るんだ。だから是非君の力を貸して欲しい。その、人の夢を渡り歩く力をね。そのために君をずっと捜していたんだ」
 美奈は、麗夢が身を削って夢の平和を守るために闘い続けていることを思い起こした。この人の言うとおりなら、あの麗夢の危険極まりない苦労も終わる時が来ると言うことだろうか?
 男の口の端に浮かぶ幽かな笑みに吸い込まれるように、美奈の足が再び男の方に向いた。いや、美奈は既に男の「力」に呑み込まれていた。恐怖と不安のシグナルを発していた自由意志は、いつの間にか美奈の中から失われていた。
「さあ、一緒に来たまえ」
 すっと出された右手に頷きながら、美奈は自分の手を出した。そして男に誘われるままに元来た道を引き返し始めた。やがて、夕闇迫るその住宅街から美奈の姿が忽然と消えた。同時に楽しく希望に満ちた日常生活も、泡となってその場から失せた。
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