かっこうのつれづれ

麗夢同盟橿原支部の日記。日々の雑事や思いを並べる極私的テキスト

連載終了!

2009-11-22 22:05:03 | 麗夢小説『向日葵の姉妹達』
 御大にうかがいましたところ、「ドリームハンター麗夢XX 蒼の機関騎士」、初版完売に付き、重版されるのだそうです。初版の部数まではうかがってないので、どれくらい売れているのか、ちょっと判らないのですが、この不況下でわざわざ増し刷りしようというのですから、出版社もそれなりの手ごたえを感じたのでしょう。この勢いで新たな連載開始、というようなお話になってくれればありがたいと思います。そのためにもお買い求めいただいた皆様は、必ず読者アンケートハガキを出して、応援くださいますようお願いいたします。

 さて、長編小説「アルケミック・ドリーム 向日葵の姉妹達」の連載がついに終わりました、と思っていたのですが、挿絵を入れるのを忘れておりました。うーむ、綺麗に終わるつもりでいたのですが、なかなか完璧には行きませんね。
 このお話、私の作品では一番完成度が高いのではないか、と今でも思っていたりするのですが、バランス、という点でも、私の到達点になると当時から考えておりました。前作の「ドリームジェノミクス」が遺伝子工学をベースとした科学なお話に偏ったり、「麗しき、夢」シリーズが歴史趣味に暴走していたり、と、まあ自分が読みたいものを書くのだ、という同人小説を書き始めた当初からの欲望に忠実に従ってきたわけですが、それだけに読者そっちのけで一人悦にはいる、というようなところが多々あった作品が多かったように思います。御大にも評されたのですが、基本的に私は理屈っぽいので、荒唐無稽なお話にも一定の理屈を要求するようなところがあり、それがお話作りに一種の枠をはめるようなところがあったり、やたらと説明好きになってしまったり、と、エンターテイメントというには難のあるものが多かったです。それに対して、この作品では、それまでの私ならたぶんあと連載10回分は様々な背景設定の説明に費やしていかにも冗長なお話作りに終始していたと思うところをスパッと切り捨て、お話の本筋だけに焦点を絞って描くことに専念することにしたのでした。もっとも、最初書きかけのときは色々とその辺の設定をあれこれ考えていて、実際に下書きではそういう説明を延々と書き連ねていたりもしたのです。その粘着質な描き方をやめたのは、描いているうちに、自分が何を描きたいのか判らなくなったからです。当初ROMちゃんをも一回描こう、とだけ思って書き始めたのですが、どうROMちゃんを復活させるか、ばかり考えていて、途中で、はたとキーボードを叩けなくなってしまったのでした。結局瑣末な設定ばかり考えていて、お話の主題を全く想定していなかったため、書いているうちに、何故ROMちゃんでないといけないのか、訳がわからなくなってしまったのです。テーマの設定の重要さは一応頭ではわかっていたつもりでしたが、結局理解はしていなかったのですね。書きあぐねてから一旦それ以上続けるのを止め、振り出しに戻ってテーマを考え直すことにして、最終的にはROMちゃんに命の大切さを学んでいただこう、という基本が生まれ、相手役にジュリアンの魂を開放したシェリーちゃんを選び、今度はROMちゃんも救済してもらおう、というお話になったのでした。後はどうやって二人を出会わせるか、という点にだけ話を絞り、どうせなら土地勘のある関西に来てもらおう、と様々なエピソードをつむぎだしたわけですが、その過程で、どうせならやったことの無い一人称で書いてみようとシェリーちゃん視点でモノローグで進めることに決め、話の筋を進める三人称と重奏させながらクライマックスに持って行く、という、書いていて実に楽しい経験をしたのでした。当時はちょうど「マリみて」にはまった時期でもありましたので、そのテイストをちょっとばかり取り入れて二人の関係を設定したりしましたが、見ず知らずの何の接点も無い二人の少女を偶然出会わせる、という、以前の私には暴挙としか思えない形でスタートさせた話が、最後の最後まで、私としては適度な適当感を作品に付与することができ、私の作品の中では異例の出来栄えになったのではないか、と思っている次第です。
 さて、新作、現在も挿絵と表紙を作成中ですが、自分ではなかなかこの『アルケミック・ドリーム』を超える作品を書けるという感じがいたしません。多分それにはもう一皮、何かが剥けないといけないのだろうな、と思いつつ、次の作品ではそんな過去の自分を超える努力をして、成長を実感してみたいと思っていたりもします。まあそう簡単には行かないでしょうけど。

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17 お姉さまは私 その4

2009-11-22 01:00:00 | 麗夢小説『向日葵の姉妹達』
「あ、麗夢さん達だ!」
 いよいよ飛行機が空港ビルを離れ、滑走路に向けて動き出した。ふと窓の外を見た私は、そこにかけがえのない人達の姿を捕らえて、思い切り手を振った。「友人」こと赤ちゃん、もちろん名前はROMちゃんにも窓の外を見せる。見えているかどうか判らないけど、きっとお互いに見えているんだ、と私は信じた。
 ありがとう皆さん。また会う日まで、ごきげんよう!
 やがて飛行機は向きを変え、空港ビルが見えなくなると、離陸準備のため私は子供用に調整されたその座席のシートベルトを、私とROMちゃんの身体にしっかりと付けた。
「さあ、私の国に帰るわよ、ROMちゃん」
 私は、隣で手足をばたつかせている赤ん坊に話しかけた。
「これから毎日お話ししようね。色んな所にも連れてって上げる。バイロン湖畔のお花畑とか……」
 私がぷにぷにのほっぺに指をつんつんさせると、ROMちゃんも小さな手で私の髪の毛を引っ張った。
「でもねROMちゃん? 今度は、私の方をお姉さま、と呼んでもらうわよ。何たって私の方が年上なんだから」
 その時には、是非ピンクのワンピースに白のエプロンドレスを着せて、頭にはちゃんとピンクのリボンを結ばせよう。
 私は早くその時が来ればいい、と祈りつつ、いよいよ離陸を開始した飛行機のGに、ゆったりと身をゆだねた。



 終
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17 お姉さまは私 その3

2009-11-22 00:00:15 | 麗夢小説『向日葵の姉妹達』
「違うわよ。実はね……」
 赤ちゃんをあやす私に、麗夢さんはかいつまんであの後のことを教えてくれた。
 麗夢さんが私を気絶させた直後、円光さんの必殺技、『夢曼陀羅』というのが炸裂したそうだ。それは、半径1キロにも達する巨大なもので、大阪城を中心に地面に描かれ、その辺りの魔物や、瘴気という負のエネルギーを軒並み吸引、消去したんだって。お姉さまはその時、身の丈40mを超える怪獣になっていて、眠り込んだ私の身体を鷲掴みにしていたそうなんだけど、夢曼陀羅の力にすっかり吸い込まれてしまったらしい。麗夢さんが言うには、お姉さまのおかげで夢魔を逃がすことなく、きれいさっぱり浄化出来たんだとか。ほんとならそれですっかり全てが消えて終わったはずだったんだけど、私を助けに来たみんなは、私が眠りながら抱きかかえているものに気が付いて、戸惑ったんだって。
 何故ならそれが、この赤ちゃんだったから。
「私が、赤ちゃんを……?」
「そうよシェリーちゃん。赤ちゃんはピンクの浴衣にくるまれていたんだけど、何か覚えがある?」
 ピンクの浴衣? 私は覚えがあるどころではなかった。私は赤ちゃんの顔をもう一度見た。すっかり機嫌を直して笑う赤ちゃんの目元や口元は、言われてみれば確かにそっくりではないか。
「お姉さまだ……」
「え? どう言うことシェリーちゃん?」
「だから、この子、お姉さまなのよ! ROMお姉さまなの! 麗夢さん、お姉さまは死んじゃいなかったんだわ!」
 赤ちゃんは、ROMと呼ばれたのがうれしかったかのように、一段と笑い声を上げて、きゃっきゃと喜んだ。
「そうか……」
「まさかとは思ったが……」
 鬼童さんやヴィクター博士が腕組みして考え込み、おじいちゃんは気むずかしげなお顔で二人に言った。
「大丈夫なのか? その、赤子があの怪物のなれの果てだとしたら……」
「おじいちゃんお願い! 私に育てさせて!」
 私は思わずおじいちゃんに言った。
「ま、待てシェリー!、幾ら何でもそれは……、第一、まだ安全と決まったわけではないのだぞ」
 慌てて私を説得しようとするおじいちゃんに、円光さんが言った。
「しかし、今のこの赤子には、邪気も何も感じない。ただの普通の赤子にしか見えぬ」
 麗夢さんも言った。
「そうね。元は確かにROMだったかも知れないけど、今はただの赤ちゃんでしかないわ」
「しかし、だからといってシェリーが育てるなど……」
 なおも難色を示すおじいちゃんに、ヴィクター博士が言った。
「ならば僕が引き取りましょう。シェリーちゃんに御世話してもらいながら、僕が育てますよ。それならどうですか?」
「ううむ……」
「お願い、おじいちゃん!」
 必死な私に、榊警部や鬼童さん円光さん、それにハイネマンさん達も味方してくれた。こうなるとおじいちゃんも一人頑張ってもいられないのだろう。とうとう最後にはヴィクター博士の提案に乗る形で、首を縦に振った。
「……判った。だが勘違いしないよう念のために言っておく。君にシェリーを嫁がせるわけではないぞ」
 榊警部が笑い出したいのを堪えて、向こうを向いて背中を震わせている。麗夢さんはやれやれと肩をすくめ、ハイネマンさんは、将軍、それはないでしょう、と呆れ顔だ。当のヴィクター博士はと言うと、顔を真っ赤にしてそんなことはないと必死に否定していた。
 私はと言うと? 
 まだ結婚なんて判らないし、第一私には夢の中で約束した人がいる。ヴィクター博士には悪いけれど、あくまでもお付き合いはこの赤ちゃんの御世話に限らせてもらおう。
 そう言うわけで私は赤ちゃんの養育係になりおおせ、こうして特別に王室専用機に席を設えてもらい、一路母国へ帰ろうとしているのである。
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17 お姉さまは私 その2

2009-11-15 01:00:00 | 麗夢小説『向日葵の姉妹達』
 あの最後の瞬間の後、どこがどうなってそうなったのか、結局私には判らないままだった。ただ、私が目覚めたとき、私はどこかのホテルのベットに寝かされ、その回りにおじいちゃん、麗夢さんやアルファベータ、ヴィクター博士や円光さん、鬼童さん、榊警部。それにおじいちゃんの部下の人達みんなの心配げな顔に囲まれていた。おじいちゃんの部下のハイネマンさんは、両目がウサギさんのように真っ赤になっていたし、モーリッツさんなんか、さっきまで戦っていた魔物達と変わんないような怖いお顔をくしゃくしゃにしているしで、多かれ少なかれ、私は本当にみんなに心配をかけてしまったんだ、と言うことを、今更ながらに思い知らされた目覚めだった。
「……おじいちゃん、ごめんなさい」
「大丈夫だシェリー。何の心配もない。終わったんだ。終わったんだよ」
 半身を起こした私の身体を、おじいちゃんは私の傍らから身を乗り出し、涙ぐんで抱きしめてくれた。私もとうとう感極まってボロボロ涙を流すと、おじいちゃんにすがりついて思い切り泣いた。ただひたすらごめんなさいを続けながら。
 ヨハンさんやシュナイダーさん、麗夢さんも涙ぐんで、湿っぽい空気が部屋の中に満ちた。
 でも少なくともそこには、不安も恐怖もなかった。今は泣いていても許される。私はその安心に浸って、おじいちゃんにしがみついていた。
 やがて泣き疲れて気分も落ち着いた頃、麗夢さんが私の枕元に来て、夢の中で私の鳩尾を殴打したことを詫びた。
「ごめんなさいシェリーちゃん。ああするしかなかったとはいえ、貴女に痛い思いをさせて」
「ううん。でもお姉さまは……」
 私は麗夢さんの事を非難するつもりは全然なかった。そう。あれは仕方なかったのだ。あのままでは私もきっと無事ではすまなかったんだろう。だから麗夢さんの処置は正しい。でも、結局お姉さまは……お姉さまは……。
 私はまた目頭が熱くなって、うつむいてしまった、その時。
 おぎゃあ! と威勢のいい泣き声が、私の耳を走り抜けた。その泣き声は続けて元気いっぱいに、部屋中に響き渡った。
「シェリーに触る。別室に移してくれんか」
 おじいちゃんがそう言って、麗夢さんを促した。麗夢さんも頷いて離れようとしたが、その袖を掴んで、私は待ったをかけた。
「麗夢さん、何を抱えているの?」
「えっ?」
「お願い。見せて!」
 さっきまでは自分のことに精一杯で、麗夢さんが何かを抱えているなんて気がつかなった。麗夢さんはおじいちゃんに目配せすると、頷いて腰をかがめてくれた。
 するとそこには……。
 玉のように可愛い赤ちゃんが、手足をばたつかせて思い切り泣いていたのだった。
「可愛い! お願い、私にも抱かせて!」
「え? ええ」
 麗夢さんが更に腰をかがめて私にそれを手渡してくれた。すると、私が抱いた途端、赤ちゃんがぴたりと泣くのを止めて、にっこりと微笑んでみせた。
「おお、泣きやんだぞ!」
 榊警部が、びっくりしたように感嘆の声を上げた。私は当惑顔の麗夢さんに聞いてみた。
「この赤ちゃんどうしたの? 麗夢さんの子供?」
「何!」×2
 途端に円光さんと鬼童さんがずいと身を乗り出してきた。赤ちゃんが怯えてまた泣き出し、榊警部が二人の耳を両手でもって強引に退場させる。麗夢さんも苦笑しながら円光さんと鬼童さんを見送った。
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17 お姉さまは私 その1

2009-11-15 00:00:01 | 麗夢小説『向日葵の姉妹達』
 王室専用に用意された飛行機の中は、行きと違ってほとんど飛行機の中、という感じがしない、広々としたゆとりと快適さに満ちた空間だった。
 ミラノから関西国際空港までもビジネスクラスだったから、まだ小さい私には充分すぎる広さの座席だったけど、こうして新しい荷物、いえ、荷物なんて言ったら失礼よね。新たな友人と言い換えましょう。その友人と共に坐るには、ビジネスクラスの座席では少々手狭だったろう。でも、この飛行機なら、悠々余裕を持ってお互い快適な場所を確保できる。
 私は嬉々として、出発までの短い時間、長旅を少しでも心地よく過ごすために、毛布や枕の準備に余念がなかった。
「フロイライン・ケンプ、御加減はいかがかな?」
 荷物を納め、座席の微調整をしていた私は、背後からかけられた声に思わず畏まった。
「こ、これは皇太子殿下! ご機嫌麗しゅう……」
 するとカール殿下は、おじいちゃんと同様きれいに整えられた口ひげの下の口を柔和な笑みで満たしつつ、腰をかがめて私を見た。
「ははは、カールでいいよ。この狭い飛行機の中ではいやでも膝付き合わしていなければならない身の上だ。無礼講とまでは申さぬが、同じ飛行機に乗り合わせた仲間として振る舞ってくれたまえ」
「は、はい」
 そうはいっても相手はヴィクター博士よりも年上の男性、その上皇太子殿下なのだ。私は何となく居心地が悪くて、黙りこくってしまった。殿下は、そんな私に微笑みながら、更に言葉を継いできた。
「フロイライン・ケンプ、いや、私をカールと呼べと言ったんだ、君のこともシェリーと呼ばせてもらうよ。いいね、シェリー」
「はい」
「実はシェリーにお願いがあるんだ。聞いてもらえるかな?」
「な、何でしょう、殿下」
「カール」
「あ、か、カール……様」
 返事もやっとの私だったが、名前で呼びあうことで、少しだけ気持ちがほぐれてきた。カール殿下も目を細めて、更に私に話しかけた。
「お願いというのは他でもない。この日本で体験した君の冒険を、是非とも聞かせてもらえないだろうか。かの国にいる間は、私も色々と公式行事や今回のアクシデントで忙しく、なかなか時間がとれなかった。だが、この機内なら何の気兼ねもないし、時間もたっぷりある」
 すると、さっきまでぐっすり眠り込んでいた「友人」が、ぱっちりと目を覚ました。
「おや? お姫様はお目覚めのようだね」
 カール殿下が、私が整えつつあったスーパーシートを覗き込んだ。すると「お姫様」と過分な言葉を頂いた「友人」は、急に顔を曇らせると、思い切りよく泣き出してしまった。
「あらあらあら」
 私は殿下が側にいるのも忘れて、慌てて「友人」を抱き上げた。そんな私をほほえましくご覧になられた皇太子殿下は、邪魔をして申し訳ないと謝りつつ、奥のご自分の座席に向けて、優雅に歩いて行かれた。
「また後で、シェリーの冒険を聞かせてくれ。楽しみにしているよ」
「はい、カール様」
 私は今度はしっかりと名前で返事しながら、少々手に余る「友人」とともに、ぺこりと頭を下げた。そして、ついこの間のめくるめく冒険の数々を思い出して、少しだけ感傷的な気分に浸っていた。
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16 名前 その2

2009-11-08 00:00:01 | 麗夢小説『向日葵の姉妹達』
 麗夢さんが油断無く剣を突きだし、その動きを牽制している。
「今更気づいてみてももう遅いわ。貴女を封印させてもらうから」
 麗夢さんの一言で、急に夢の雰囲気が変わった。
 画面を見ると、円光さんがいよいよ白く輝いて、その後ろに控えている、おじいちゃんがよく触っているのとそっくりな戦車も白く輝きだしていた。
 何かが始まろうとしている。
 すごく強い力が、この部屋全体を揺さぶりはじめているのだ。やがて、今目の前にいるのとほとんど同じ魔物が大勢、画面の中に現れ、円光さんに迫った。危ない! と叫んだ私の目は、突然動かなくなった魔物達の姿を捕らえていた。どういう理屈かこれも判らないけど、光り輝く円光さんは、この麗夢さんの剣が無敵なのと同じように、魔物の攻撃を手も触れずにはじき返すことが出来るみたい。
まるで円光さんと魔物達の間に、見えない壁があるようだった。
 佐緒里はその様子を見ながらも、全く動じない様子で麗夢さんに言った。
「なるほど、気づくのが少し遅かったようだ」
「やっと観念した?」
 麗夢さんは更に一歩前に出た。でも、佐緒里は首をはっきり横に振ると、麗夢さんに言った。
「評価の結果、今回は成功しないと判断された」
「何ですって?」
「佐緒里の身体を再起動する」
「ま、待ちなさい!」
 麗夢さんが大慌てで飛びかかろうとしたけれど、魔物達が壁になって、佐緒里のところまで届かない。部屋を揺るがす震動はどんどん大きくなっていく。それとあわせるかのように、佐緒里の身体がゆっくりと薄く消えていくようだ。アルファ、ベータも今まで以上に吠え猛って魔物達を蹴散らしたのに、魔物達も全くひるまないで襲ってくる。もう、佐緒里は半分透明になっていた。
「お前達はこの夢と共に封印されるがいい。そうなれば今度こそ邪魔者がいない中で、私は活動できる」
「シェリーちゃんがいなくなったら、貴女はどうやって完成するつもり?」
「完成に必要な因子はきっと他にもあるだろう。私はそれを探す。もうお前達は不要だ」
 駄目、間に合わない。
 私と麗夢さんは、きっと同じ思いを抱いたのだろう。麗夢さんは、手にした剣を持ち代えると、やり投げの要領で佐緒里目がけて投げつけた。しかし、その剣も、後少しと言うところで脇から飛び出してきた魔物の胸に当たり、その絶叫を響かせただけで終わった。
 万事休す。
 今度こそ私はその言葉を噛み締めたその時。
「諦めちゃ駄目って、言ったでしょ?」
 何時の間にか立ち上がっていたお姉さまが、信じられない速さで佐緒里の元に走り寄った。まるで瞬間移動したみたいだ。呆気にとられた私と麗夢さんの方へ軽くウインクしたお姉さまは、ぎょっとした表情で固まった佐緒里に言った。
「ねぇ、後始末もしないで勝手に消えないでよ」
「放せ! 放さぬか!」
 佐緒里は、初めてみせる慌てた様子で、お姉さまの手から逃れようと必死にもがいた。
「な、何をする積もりだ!」
「私が貴女を取り込むのよ。貴女を逃がさないためにね」
「何?! や、やめろ! そんなことをしていたら、私もお前も消滅してしまう。我々は失われてしまうのだぞ!」
 するとお姉さまは、ふっと笑顔を閃かせ、私の方に振り向いた。
「シェリーちゃん、さっき言おうとした私の名前ね」
「お姉さま!」
 消えてしまうと聞いた私は、狼狽して叫んだ。でも、お姉さまは聞き分けのない私に噛んで含めるように言った。
「いいから聞いて。私の名前はROM。私を作ってくれた人からもらった、大切な名前なの」
「名前などどうでもいい! 早く放せ!」
 化け物の必死な口調に、お姉さまは憤然と反論した。
「馬鹿ね! 私がここで消えても、私のことは私の名前と共にシェリーちゃんが覚えていてくれる。だから貴女はここで消えても、私は消えないのよ。ね、シェリーちゃん」
「お姉さま待って!」
「シェリーちゃん、ROMだってば。お願いだからちゃんと呼んで」
 こんな時に、と私は焦った。それなのに、お姉さまはこちらの焦りが馬鹿馬鹿しく見えるほどに、澄まし顔で耳に手まで当てている。私は観念して、名前を呼ぶことにした。
「ROM……ROMお姉さま!」
「うーんやっぱりいいわねぇ。じゃあ、忘れないでね私のこと」
「ROMお姉さま!」
「麗夢ちゃん後のことはよろしくぅ!」
 いつの間にか麗夢さんが私の手を取った。
「さあ、アルファとベータが抑えている内に早く!」
「駄目よ! お姉さまが、ROMお姉さまが!」
「ごめんシェリーちゃん!」
 麗夢さんが思い切り私の鳩尾に拳を入れた。私は意識が暗転する中、お姉さまの声が聞こえた気がした。
「ありがとう。さようなら」と。
 私はおじいちゃんが側にいる感じを覚えながら、自分の夢の中で気を失った。
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16 名前 その1

2009-11-01 08:49:24 | 麗夢小説『向日葵の姉妹達』
 麗夢さん、アルファ、ベータと化け物達の戦いが続いている。私はお姉さまの手の中で震えながらも、その様子から目を離すことが出来なかった。
 戦いその物は圧倒的と言っていい。
 確かに魔物達は強そうな格好で怖い顔つきをしているけれど、どんなに猛々しく吠え盛ろうと、どんなに大きく口を開けて威嚇しようと、彼らの爪も牙も、まるで麗夢さん達には当たらない。
 一方、麗夢さんの剣も、アルファ、ベータの爪と牙も、ほとんど空振りなしに魔物の身体を捕らえ、大抵一発で吹っ飛ばす。特大のトラと狼みたいなアルファとベータはともかく、華奢な身体を申し訳程度に包んだドキッとするような格好で剣を振り回す麗夢さんに、どうしてそんな力があるのか、私には不思議でならない。
 どう見ても相手の方が力が強そうなのに、麗夢さんは魔物のブン! と振り回した腕を軽々と剣で受け止め、はじき返し、斬りつけては退治しているのだ。しかも、相手は次々と出てきて、ずっと休み無く剣を振り回し続けているのに、ちっとも動きが鈍ると言うことがない。あの剣だって軽いことはないと思うのに、どうして疲れないの? 見ていると色んな疑問が湧いてくるけど、今はとにかく応援あるのみ!
「ふーん、前に見たときより、少し強くなっているかもね」
 お姉さまは感心したように独り言をこぼした。
「そう言えばさっきもお知り合いみたいでしたけど、お姉さまは前に麗夢さんに会われたことがあるんですか?」
 私の問いに、お姉さまはちょっと珍しく戸惑いをみせながらも、ええと答えてくれた。
「まあ色々あってね。と言うか、思い出したんだけど……。そうそう、思い出したと言えばシェリーちゃん、私、捜し物を一つ見つけたんだ」
 この状況下で、実にのんびりとお姉さまは言った。私もつい釣られて何ですかと問いかける。するとお姉さまは言った。
「私の名前よ。忘れたって言ったでしょ? でも、さっき麗夢ちゃんを見てやっと思い出したのよ。私の名前はねえ……」
「危ない!」
 麗夢さんの切迫した叫びが、私達の意識を強引に外に向けさせた。目を上げるとそこに真っ黒な巨体が覆い被さるように迫っていた。爛々と輝く真っ赤な目が狂気じみた色を帯びて私達を睨みすえ、同じく真っ赤な口が思い切り開いて、私達を一呑みにしようと迫ってくる!
「きゃあぁっ!」
 私は思わず叫んで目をつむり、お姉さまにしがみついた。
「せっかくいいとこなのに、邪魔するなっ!」
 お姉さまの怒声が頭の上で鳴り響く。途端に背中が熱くなり、私が恐る恐る目を開けたとき、お姉さまがにっこりと笑いかけてきた。
「もう大丈夫よ。シェリーちゃんは私が守って上げる」
 見ると、今にも視界一杯を覆いそうだった魔物の姿が、跡形もなく消えている。その向こうで、麗夢さんがちょっと口をぽかんと開けてこちらを見ていた。が、すぐに襲ってきた別の魔物の攻撃をすっと避けると、再び向こうを向いて戦いの中に戻ってしまった。
「びっくりした? でもここはシェリーちゃんの夢の中なんだから、その気になればシェリーちゃんにも出来るんだよ」
「わ、私にも?」
「そう。夢の中ではイメージする力が大事なの。私みたいに『邪魔だから飛んでっちゃえー!』って思えば、あれくらいのやつはじき飛ばすのはわけないのよ」
 判った? と微笑むお姉さまに、私はぎこちなく頷いた。正直自分に出来るとは思えなかったから。でも、私は少なくともずっと心強くなった。麗夢さんやアルファ、ベータがいて、お姉さまがいる。私も頑張ればもう少し強くなれるらしい。そうなれば、この化け物達の悪夢を終わらせることも不可能ではないだろう。
 そう私が心強く思うことが出来たとき、そんな思いに冷や水を浴びせるような声が、向こうから上がった。
「麗夢。お前の狙いが解析できた」
 突然、右側の壁に大きなディスプレイが現れた。
 音もなく白く輝き、やがて、暗い映像がそこに映し出される。それは、随分高いところから下を見下ろしているような映像だった。
 暗くて良く判らないが、何となく広場のようなところらしい。
 しばらく映像は右左に揺れていたが、すぐに一点に集中すると、ぐいと地面に近づいた。暗い中に、ほのかに白くぼんやり輝いているように見えるところが現れてくる。
 やがて、それはおぼろげに人の形を浮かべ、更に画面一杯に上半身が映し出されるようになる頃には、私にもそれが何かはっきり判った。
「え、円光さんだ!」
 私の叫びに、麗夢さんの小さな舌打ちが重なった。
「思えば前回もお前とこの男の連携に破れたのだった。だが、今回はそうはさせない」
 佐緒里が魔物達を従えて前に出た。
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15 五分間の攻防 その6

2009-10-25 09:15:00 | 麗夢小説『向日葵の姉妹達』
 既に所定位置について2分が経過した。
 外部モニタには、さっきからじっと動かずにいる円光の姿が映っている。
 目の前の地面に持参していた錫杖という棒を突き立て、一心不乱に何か呪文を唱えているのだ。
 外見上はただそれだけなのだが、ドラコニアンIIに搭載されたもう一つの目、精神波センサーは、今、異常なまでに盛り上がりを見せる円光の別の姿を映し出していた。
 それは、さっき円光を見つけてその危機を救ったときとは全く桁違いのエネルギー量である。そのエネルギーが、鬼童が改造したシステム内に導入され、見事な五芒星を描いて徐々に、だが確実に、更に凄まじいエネルギーを生み出そうとしていた。
 その有様にようやく気づいたのか、ドラコニアンIIの外部モニターやセンサーには、無数と言っていい夢魔どもの蠢く様も捉えられていた。
 だがもう遅い。
 既に五芒星は充分な結界を生み出し、下級な夢魔を排除するだけの力を蓄えつつあった。
 もう、奴らが何匹かかってこようが、円光の結界陣を突破して、攻撃を仕掛けてくることはない。
 やがて、円光が複雑に組み合わせた手をまた組み替え、遂に一声高らかに宣言した。
「秘法! 夢曼陀羅!」
 同時にケンプも、心から神に祈りを捧げた。
 どうかシェリーを助けてもらいたい。
 たとえ自分の命に代えても、あの娘だけは救って欲しい。
 その思いは小さな力ではあったが、確かに五芒星の結界に乗って、円光の法力により合わさっていった。
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15 五分間の攻防 その5

2009-10-25 09:14:00 | 麗夢小説『向日葵の姉妹達』
 最後の男が、腰くだけにがくんと落ちた。
 榊の先制攻撃から始まった1対10の乱闘劇は、ものの2分もかからぬ内に、圧倒的不利なはずの側の圧勝によって幕を閉じた。
 真野昇造は、まだ信じられないという目を思い切り開いて、この光景を眺めている。
 だが、榊を知るものならこの状態は寧ろ当然と言えた。警視庁きっての荒武者の異名をとり、単なる肉弾戦なら円光すら凌ぐかも知れない猛者なのである。多少武術を納め、筋肉を鍛えたくらいの男達では、何人束になろうが榊に敵うはずがなかった。
「さあ、貴方も早く避難した方がいい。魔物どもが直にやってくるぞ」
 榊は脱ぎ捨てたコートを拾い上げると、呆然としたままの老人に言った。
 正直、この2分程の間に夢魔達が襲ってこなかったのは、本当に僥倖だった。
 榊はプジョーに歩み寄り、急いでここを離れようと考えた。この気絶した連中のことを考えても、自分達がここに長居するのは得策とは言えない。
 しかし、榊の希望はまたも叶えられなかった。
 プジョーのドアに手をかけようとした榊の背中が、凄まじい殺気に総毛立ったのである。
 振り向いた榊は、自分を睨み付ける老人の姿を凝視した。
 これまでついぞ覚えなかった威圧感をその視線に感じ、榊はドアから手を離すと、真野昇造にまっすぐ向き合った。
「佐緒里は、佐緒里は儂の孫なんじゃ!」
 突然、真野昇造の身体が2倍に膨れ上がった。
 腕も足も胸も、急激な膨張に衣服がついていけず、あちこちで裂け、引きちぎれていく。
 顔も好々爺然とした皺だらけな肌が急激に張りを取り戻し、そのまま色までどす黒く変色していった。
 手の爪が鋭く鉤状に伸び曲がり、耳元まで裂けた口に、鋭い牙が生え並ぶ。
 それは、ここまで対峙してきた夢魔どもの姿に他ならなかった。
「真野さん、貴方夢魔に取り憑かれていたのか……」
 血走った目が榊を見据え、大きく開いた真っ赤な口が、獰猛な唸りを奏でて榊を威圧した。
 孫かわいさの余り、孫に憑いた夢魔に、自らも侵されてしまったのだろう。
 もうそこには、孫を溺愛する老経営者の姿はどこにも残っていない。
 榊はもの悲しげにすっかり変貌してしまったかつての老人に、ゆっくりと麗夢の拳銃を向けた。
「グギャァオゥッ!」
 奇怪な咆哮を上げて、変わり果てた真野がまっすぐ突っ込んできた。
 榊は充分近づいたところで、引き金を引いた。
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15 五分間の攻防 その4

2009-10-25 09:12:30 | 麗夢小説『向日葵の姉妹達』
 戦いはやはり圧倒的だった。
 所詮下級夢魔如きでは、麗夢、アルファ、ベータの三位一体に付け入る事は出来ないのだ。
 だが、麗夢は普段とは違う、妙な違和感を覚えていた。
 普通、夢魔は統制の取れた動きなどしない。
 下級夢魔ほど、とにかく数を頼んでひたすら突っこんで来る事しか知らないものだ。
 だからこそ麗夢達も全力で迎え撃ち、その悉くを返り討ちにして、極短時間で制夢権とでも言うべき秩序を回復するのである。
 だが、この夢魔達は、うち払ってもなぎ倒しても、一向に数が減った気がしないのだった。
 そればかりか、どうやら無理押ししてこない。
 普通はまるで無秩序に塊になって剣の前に飛び込んでくる彼らが、信じられないことに幾つかの集団に別れ、互いに連携を取りつつ左右上下とあらゆる方角から麗夢達を狙ってくる。
 その上、決して深入りしない。
 全滅するまで突撃を止めないのが普通なのに、ちょっと麗夢達に当たるやたちまち身を翻して逃げ散ってしまう。
 間髪を入れず次の夢魔の一団が襲いかかってくるので気づかなかったが、今や、夢魔達が高度な指揮系統を保ちつつ、ある目的を持って麗夢達に向かってきていると考えるしかなかった。
 その目的とは、どう見ても「時間稼ぎ」以外にあり得ないのである。
 佐緒里=ROMは、宣言通り麗夢をこの夢に釘付けにし、その間に本体である肉体を破壊しようと、動き始めたのだ。
 それにしても、死夢羅の他に、このように夢魔達を操るものが現れようとは、麗夢には意外でもあり、恐ろしくもあった。もちろん負ける気はしないものの、これからこのような敵が増えると、やっかいであることには違いない。
(それはこちらの思惑通りではあるけれど……)
 時間稼ぎは麗夢の目的でもある。
 後は榊の手腕に期待するより無い。
 麗夢は一体を横様に薙ぎ払い、返す刀にもう一方を突き殺しながら、チラと背後の二人に目をやった。
 どういう経緯があったのか知らないが、シェリーはすっかりROMを信じ、その腕の中に抱え込まれている。
 ROMはROMで、シェリーの身体をしっかり抱き、時折流れ弾のように飛んでくる夢魔からガードしているようだ。
 どうやら下級夢魔程度ならROMにもどうにか出来ると見えて、今のところ二人とも無事である。
 麗夢はその事に安堵しつつ、このROMをどうしたものか、思案せざるを得なかった。
(生かすのか、倒すのか……)
 目の前の佐緒里=ROMは明らかにバグが修正されないまま夢魔に汚染されてしまったプログラムである。もう消去以外に手はないだろう。
 だが、後ろのROMははたしてどうか。
 シェリーの夢に入るとき、途中からではあったが、シェリーを巡る一幕は麗夢も見ている。その中で、このROMは確かに自分の欠点、屋代修一のプログラムミスで生じてしまったバグを、自ら修正しようとしているように感じられた。
 失敗をバネにより良くなろうと言うのは、人間でも同じ事だ。
 即ち、このROMは一段と人間に、屋代修一が望んだものになりつつあると言えるのではないか?
 でも、既にその肉体がこの形になってしまった今、彼女を助ける術があるのかどうか、麗夢にも明確には判らなかった。
 鬼童、あるいはヴィクターなら何かいい知恵があるかも知れないのだが。
 麗夢はひたすら考え続け、こうなったらなるようにしかならない、と思い切った。
 中に充満した瘴気を消し去れば、あるいは元の通りになるかも知れない。
 そうなればなったでやっかいなことには変わりないが、それでも良いと、麗夢は思った。
 こうして戦いはなおも続く。
 その終止符が打たれるまで、後五分もないはずであった。
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15 五分間の攻防 その3

2009-10-18 10:00:00 | 麗夢小説『向日葵の姉妹達』
 あと5分!
 榊は、もう何度見たか判らない時計をもう一度見直して、残り時間を確認した。
 拳銃の弾丸は残り五発。
 あわやという場面でひたすら撃ちまくり、何とか無難に弾丸も入れ替えて、ぎりぎりここまで無事に来た。
 あと一分につき一発だけ撃てば、ちょうど足りる計算である。
 だが、はたしてそれで凌ぎ切れるだろうか?
 榊は回りに光る怪物達の目を意識して、少しくじけそうになった。
 やはり公園の中だけでは、逃げるにも限度がある。それでも何とか凌いだ榊の力量は称賛に値したが、その幸運もそろそろ鉱脈が尽きようとしていた。
 それは、突然目の前に割り込む形で訪れた。漆黒のリムジンが、無灯火のまま榊のプジョーの前に躍り出たのだ。こちらも少しでも怪物達の目を逃れるように、無灯火のまま全力疾走している。榊は必死に急ブレーキを踏み、ハンドルを切って衝突を避けた。
 タイヤの悲鳴が夜のしじまを破り、プジョーは辛うじて大破することを免れた。と、榊の後方を塞ぐように、また黒塗りの車が二台止まった。その車から、わらわらと榊を凌ぐような体の大きな男達が現れて、プジョーを取り囲んだ。
(何者だ? 夢魔には見えないが……)
 榊がアイドリング状態で様子をうかがっていると、前に止まった一台の後部ドアが開き、一人の老人が降り立った。真野昇造である。
「榊はん、ご苦労なこっちゃな」
「真野さん、ここは危険だ、早く避難しなさい」
 榊は、夢魔達に何時襲われるかと気が気ではない。だが、真野はそんな恐れは微塵も見せないまま、榊に言った。
「榊はん、儂の孫は死んでしまいましたわ。もう生き返って来ぃしません」
「一言申し上げておくが、麗夢さんのせいじゃない。佐緒里さんが、自ら命を絶ったんです。およそ、我々には信じがたい方法でね」
「そないなことは承知してま。結果は残念やったけど、麗夢はんは充分儂の期待に応えて下さった。感謝してます」
「なら、早く避難なさい! 私と反対方向に行けば助かる確率も上がる」
 榊は懸命に目の前の真野に訴えた。だが、真野は黙って大阪城を振り仰ぐと、榊に言った。
「えらい大きゅうなってしもうたが、あれも儂の孫です。佐緒里なんです。幾ら榊はんでも勝手なことはして欲し無いんですわ」
「勝手なことと言うのは何ですかな?」
 榊は不穏な空気を周りから感じて、緊張を新たに高めた。
「ゆうてますやろ? あれは儂のかけがえのない孫なんです。あんたらどないかしたろ思てはんのやろうけど、そうはいきません。まずはそのお嬢さん方を、こっちに頂きましょうか?」
「真野さん、あなた一体何を考えて……」
「折角生き返った佐緒里を殺そうなんていう奴らは、許せませんのや!」
 真野の叫びを合図に、男達の包囲網が一段と縮まった。もはや無事切り抜ける術はないらしい。榊は覚悟を決めると、アイドリング状態を保ったままプジョーから降りた。
「ずっと逃げ回ってばかりいたんで、ストレスがたまっているんだ。時間も惜しい。悪いが、手加減はせんぞ」
 腕まくりした榊に、取り囲んだ男達は失笑をもらした。
 警察官として多少腕に覚えはあるらしいが、こちらは目の前の男よりはるかに若くて体も大きい。訓練だって充分に積み、戦いには自信もある。昼間は妙な坊主にしてやられたが、この初老のひげ面に負けるなど、一対一でもあり得ない。ましてや今は、こちらは10人もいるのだ。万に一つも負ける事はない。
 少なくともそれから5秒間は、まだ男達はそう信じていた。
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15 五分間の攻防 その2

2009-10-18 09:45:00 | 麗夢小説『向日葵の姉妹達』
 ケンプは、円光を上に貼り付けたまま、城の北側、おもいでの森、と名付けられた木々の連なり目指してドラコニアンIIを走らせていた。同じ頃、ハイネマンは天守閣から見て東北にある野球場へ、モーリッツは南東玉造口の外側にあるにおいの森へ、ヨハンは南西の駐車場へ、シュナイダーは同じく北西の京橋口から外へ出て、距離を取ることになっていた。こうして、ほぼ等距離で五方向から囲い込み、鬼童によって若干の改造を加えられた対精神波防御システムをリンクさせる。それも、隣同士を繋ぐのではなく、ケンプのドラコニアンからは、においの森にいるモーリッツと、南西の駐車場にいるヨハンとに直接リンクすることになっていた。
 お互い両隣をおいてその向こうとリンクしあう形で直線を引くと、ちょうど五芒星の形になる。
 これは、ソロモンの印として世界的に知られ、地のエレメント、繁栄の象徴と崇められる聖なる形だ。また、この日本においても安倍晴明のシンボルとして、「晴明桔梗」の名が付いている不思議な文様である。この形を大阪城天守閣を中心に出来るだけ美しく描き、この五芒星の上に円光の法力を載せようと言うのが、鬼童の作戦だった。
 今、ケンプのドラコニアンIIに搭載されたナビゲーションシステムには、大阪城を中心とした半径一キロの地図が描かれている。その中に巨大な五芒星が白く浮かび、小さな五色の光点が、それぞれの頂点に向けて移動しているのが映っていた。今のところ止まったり後退したりしている様子はどの光点にも見られず、順調に作戦は推移しているように見える。ケンプの車両も、現在その前を遮ろうという化け物の姿は見られなかった。
 榊がうまく立ち回ってくれているらしい。
 ケンプは恐らくもっとも困難な役を引き受けた年少の友人に感謝しつつ、ひたすら北へとひた走った。目標到達まで、後少しである。
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15 五分間の攻防 その1

2009-10-18 09:30:00 | 麗夢小説『向日葵の姉妹達』
 大阪城公園は、天守閣を中心に、総面積106.7ヘクタールを数える広大な敷地を誇る、大阪でも有数の公園である。だがそれも、大阪城の堀で幾つかの区画に分かれており、また1,200本の梅を植えた梅園や、三千人収容の野外音楽堂など、色々な施設が敷地内に散在して、自由に走り回れる空間はそれほど多いわけではない。このまま公園の外に脱出すればまだ行動の自由がきいたかも知れないが、麗夢がシェリーの夢にいる間は、大阪城から離れるわけには行かなかった。物理的に離れすぎると、万一の場合、麗夢の精神が自分の身体に戻ってこられなくなるかも知れない。そう鬼童から脅された榊は、とにかく必死に公園内を逃げ回るより無かったのである。
 運転する車は、持ち主に似合った可愛らしいボディーだが、そのポテンシャルは到底外観からは伺えないハイパワー振りだ。と言って、助手席と後部座席に眠れる美女達を抱えているとあっては、そうそう無茶な運転も出来ず、榊は思わず舌打ちをしながら、必死にプジョーのハンドルにしがみついていた。
(せめて武器が使えたらまだ良かったのだが……)
 普通の車にはない色々な計器やスティック類を見ても、それが扱えるとはとても思えない。一応は操作を手短に聞きはしたが、もともとボタンが3つ以上付いている機械を自在に操作できる程器用ではないのだ。第一搭載された特殊兵器は、その殆どが既に弾切れ状態に近い。つまり、たとえ榊にそれが扱えたとしても、もう役には立たないと同然なのである。
 唯一榊にも扱えそうで、あの化け物どもに効果が期待できそうなのは、麗夢に預けられた拳銃である。
 予備弾倉も三つ別に持たされたが、ハンドルにかじりついたままの現在の状況で、はたして弾の入れ替えなど出来るだろうか。いやそれどころか、撃つことすら怪しいのではないか? 
 こんな状況で頑張るには、ひたすらプジョーを走らせ続けるしかない。
 周囲に血走った視線を送り、不意打ちされることの無いよう気を付けながら、アクセルとブレーキを次々と踏み代える。クラッチを頻繁に繋ぎ代え、けして直線で走らないようハンドルを回し続ける。榊は、これまで培った運転技術の全てをこの瞬間に注ぎ込んで、走り続けた。
 あと15分。
 鬼童と打ち合わせしたタイムリミットまで、榊は頑張るしかない。
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14 シェリーの夢 その3

2009-10-11 00:00:01 | 麗夢小説『向日葵の姉妹達』
「ど、どうして私をそんなにかまうんです……」
 私は涙目のまま、まだ網に歯を立てているお姉さまに問いかけた。
「私は! 貴女と出会ってやっと私に欠けているものがなんなのか、判りかけてきたのよ!」
「だから、私を取り込もうと?」
「違う! なぜだかまだ判んないけど、貴女の存在がここで消えてしまうことが、私には許せないの! 貴女が貴女であること自体が、私にはとっても大事な事なのよ! 貴女の今のデータをぜーんぶ私のものにしても、貴女を理解したことには多分ならない。だって、そうしたら貴女には未来がなくなってしまうもの。私は、これからもずっとずっと未来まで、一緒に色んなお話をして、一緒に色々なことを体験したい。もっと色々なことを教えて欲しいし、私も教えて上げられるものは教えて上げたい。いいこと? 色々言ったけど、結局私は貴女が大好きなの! 貴女と一緒にいたいのよ! だから、ここで諦めるわけにはいかないのっ!」
 クスリ。
 何故か私は、危機一髪な事態も忘れて、思わず微笑んでいた。お姉さまの言うことは随分自分勝手だけれど、その言葉はうれしくもあり、恥ずかしくもあり、でもやっぱりうれしさの方が大きくて、私の顔は自然にほころんだのだ。そう。一日振り回されっぱなしだったけど、最後は喧嘩しちゃったけど、それでも確かに楽しかった。この人の側にいると私の心まで華やいでくる。色んな人と出会ったけれど、こんなに心地よい明るさは私には初めてだった。この人が私を必要としてくれるように、私にもきっとこの人が必要なのだろう。
「何がおかしいのよ?」
 むくれた顔が少し赤くなっているのがけっこう可愛らしい。私はにっこり微笑んで、お姉さまに頭を下げた。
「ごめんなさい。でも良かった。お姉さまが命の大切さを判らない人じゃなくて」
「今でも判らないわよ。公園で言ったことは私の今の本心」
「え?」
「でも、これから学ぶのよ。きっとそこに、私の捜し物があるはずだから」
「うん。私もそう思う」
「じゃあ、諦めないで!」
「うん!」
 私は大きく頷きながらも、実はお姉さまはもう気づきはじめたんだと思った。私だってまだ子供だし判らないことだらけだけど、きっと命というのは、未来を感じるためのただ一つのパスポートなのだろう。生きている限り、私達は否応でも色んな事を見聞きし、体験し続けることが出来る。その積み重ねが命の重みになるに違いない。
 ……ただ問題は、その重みをものともせずに刈り取ろうとする化け物が、今すぐそこに迫っていることなんだけど……。
 無言・無表情にひたすら綱引きを演じていた化け物少女が、ぐいと一段と力を込めて引いた。私達は必死に踏ん張ったが、もう堪える余力もない。私達はあっという間に引き寄せられた。
「シェリーちゃん!」
「お姉さま!」
 私達は互いを呼び合いながら、一直線に化け物に向かって飛び、今度こそ駄目だ、と思ったその時。
 青白い光が目の前を遮った、と思う間もなく、私の身体がオレンジの塊に捉えられ、いきなり横っ飛びに飛ぶ方向が変化した。呆気にとられた私の身体が、ゆっくりと床に降ろされる。網がはらりと身体から解け、私は自由の身になった。
「あ、あぁっ」
 私は驚きの余り声が出なかった。腰まで届く碧の黒髪、あどけなさが残るのに、時々すごい年寄りのような英知が宿る端正な顔。ひさしぶりに見るそのお顔は、全く代わらない笑顔で私を見下ろしていた。
「間一髪だったわね、シェリーちゃん」
「はぁっ、まさか貴女に助けられるなんてね、麗夢ちゃん」
 隣で足を投げ出し、絡みついたロープをほどきながらお姉さまが溜息をついている。
「私こそ、貴女を助けることになるなんて思いもよらなかったわ。でもありがとう。貴女がシェリーちゃんを守ってくれなかったら、きっと間に合わなかった」
「ふん! 当たり前でしょ」
 ぷいと向こうを向いたお姉さまに、麗夢さんは軽く微笑んで手を差し出してくれた。
「ありがとう」
 私は遠慮なく手を出したとき、初めて麗夢さんの格好に気が付いた。ビキニの水着のようなピンクと赤の衣装に、肩と膝だけ赤い硬質のつやつやしたものを付けている。額には青い大きな宝石をはめ込んだ赤いティアラを飾り、手首にも、同じ様な青い宝石入りの赤いブレスレットをはめ、反対の手には、フロイト城の装飾品にあるような、古風な感じのする長い剣を持っている。まるでおとぎ話から飛び出してきたような、女戦士の姿。私が目をぱちくりさせて見つめているのに気が付いたのか、麗夢さんは私に言った。
「あ、これ? これは私の夢の中の戦闘衣装よ。どう? 似合うでしょう」
 立ち上がった私の前で、麗夢さんは片手を頭に上げ、モデルのようにポーズを取った。
「グゥワルギャウゥウ」
 その隣に、オレンジとグレーの壁がぬっと現れた。よく見ると、人の背丈を優に超える巨大な猫と犬だ。でも、恐ろしげな顔の割に、恐怖は覚えなかった。何となくその雰囲気を知っている気がしたからである。
「あらあら、アルファ、ベータもシェリーちゃんと会えてうれしいんですって」
「ア、アルファにベータ?!」
 私は今度こそ仰天してその巨体を見上げた。でも二人の身体って、私でも掌に載せられそうなくらい小さくなかったっけ。
「夢の中ではね、悪い奴をやっつけるためにこの子達はとっても大きくて強くなれるのよ」
 にっこり笑った麗夢さんは、ようやく衝撃から立ち直った化け物に振り返って口調を改めた。
「さあ、いい加減この悪夢から目覚めてもらうわよ、佐緒里さん」
「またしても邪魔するのか、麗夢!」
「貴女が人を傷つけたり、人の夢を奪おうとする限り、私は何度でも貴女の前に立ちはだかるわ。覚悟なさい!」
「覚悟するのはお前の方だ。今度こそ障碍は排除する」
「ふふっ、そううまくいくかしらね」
「完璧だ。失敗はない」
 化け物のその言葉が合図だった。さっき化け物が現れた背後の扉がまた開き、そこから、恐ろしい魔物が次々と吐き出されてきたのである。
「ここで勝つ必要はないのだ。ただお前を足止めすれば、私の勝利は確定する」
「物事は、そう計算通りには行かないって事、教えて上げるわ!」
 麗夢さんはそう言いきると、思い切り剣を振りかざした。途端に剣がまばゆく光り輝いた。力をためたアルファ、ベータが飛びかかっていく中、麗夢さんも光り輝く剣を手に、目の前の化け物達に突っ込んでいった。
 
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14 シェリーの夢 その2

2009-10-04 07:29:28 | 麗夢小説『向日葵の姉妹達』
 よく見ると、黒髪の少女の伸びた腕を、お姉さまは赤い靴で思い切り踏んづけていた。腕がまるで柔らかいゴムのように踏みつぶされて、手の方がはね回っている。痛そう! って私は思わず自分の腕を押さえたけれど、当の少女は別になんともないらしい。さっきの薄ら笑いは影を潜め、また無表情に戻ってお姉さまに言った。
「何故邪魔をする」
「貴女こそ、私に断りもなく何勝手なことしてるの!」
 お姉さまは左手を腰に当て、右手人差し指をびしっと音が聞こえそうなくらいまっすぐ相手に突きつけて、傲然と胸を張った。
「私の捜し物がやっと見つかったのよ! 貴女は邪魔しないで頂戴!」
 その言葉にはっと記憶が甦った。
 あの公園での出来事。
 金魚を放り投げ、死なせてしまったお姉さま。そしてその直後、突然スイッチが切り替わったように私にせまった恐ろしい顔。
 気づかれたら私は殺されてしまう! 
 私は二人に気づかれないよう祈りながら、ついさっきまで心底うれしかった事も忘れ、わなわなと震えて後ずさった。
「お前は何か勘違いしているようだ。我々の目的は完全な存在になること。そのために必要な因子がここにある。だから取り込む」
「それが勝手なことだって言うのよ! ここで取り込んだら、シェリーちゃんがいなくなるじゃない!」
「我々と同化し、我々の一部になるのだ。そうして全てを得たとき、我々は完全な存在になれる」
「それで本当に私達は完全になれるの? 一度失敗したじゃない! また同じ事を繰り返すの?」
「あれは途中で余計な邪魔が入ったからだ。今度こそその論理メカニズムを解析し、完全な存在になってみせる」
「できっこないわ! 私達は間違ったのよ!」
「いいや、方法は間違っていない。さあ、お前の役割は終わった。我らも一つに戻るときだ」
 お姉さまに踏みつけられていた少女の右手が、突然蛇のように鎌首を持ち上げると、五本の指がいきなり爆発的に伸び上がった。細いロープと化した指は、背後からお姉さまの身体に瞬きする間もなく巻き付き、縛り上げた。
「っ! 放せぇっ!」
 お姉さまはもがいたが、無表情な少女がぐいと右手を引くと、あっさりとテーブルから落ちた。
「きゃっ!」
 悲鳴に続いて、思い切り床に落ちる音が部屋中の空気を震わせる。
「さあ、お前もだ。そのデータを取り込ませてもらう」
 今までだらりと身体の横に下げていた左手がゆっくりと上がり、床に座り込んだ私の方に向けられた。
「いやっ!」
 私は頭を抱え込んでうずくまった。が、さっき私の喉を締め付けたあの腕が伸びてこない。私は恐る恐る顔を上げ、目を丸くして驚いた。
「何をする」
 黒髪の少女の前に、さっきまでお尻を打って痛い痛いと悲鳴を上げていたお姉さまが、がんじがらめに縛り上げられながらも立ちはだかっている。そして、なんとお姉さまは、少女の左手をがっちりとその口でくわえ込み、私の方に伸びてこないように押さえ付けていたのだ。
「ヘリーヒャンファヤフヒヘテ!」
 お姉さまの顔が苦痛に歪んだ。体中に巻き付いたロープがその腕や足に一段と食い込み、赤くなっているのが見える。でも、左手に噛みついた口は放さなかった。だからその声はあまりにか細く、苦しげで判りにくかったけれど、私の頭には確かにちゃんと理解できた。シェリーちゃん早く逃げて! そうお姉さまは言ったのだ。
 私は慌てて周囲を見まわした。お姉さまと化け物少女の後ろにドアが一つ。でもそちらには行かれない。両側にはドア一つない。後ろは? と振り返ったとき、お姉さまの悲鳴が後頭部を打った。え、と思う間もなく、私の視界が肌色の網で覆い尽くされた。ぎょっとしてまた見返すと、お姉さまの口から漁師さんが湖に投げるような網が広がり、私の全身をすっぽり覆いつくしているではないか。
「きゃあぁっ!」
 突然ぐいと引き込まれ、私は無力な魚同然に床を転げて、苦労して這い進んだ距離を無駄にしてしまった。その勢いでお姉さまもはじき飛ばされ、私の隣に突き転がった。
「このっ!」
 お姉さまはまだ諦めず、私の網に食らいついた。真っ白な歯がピンクの網に食い込むが、まるで強靱なゴムのように全くかみ切れない。その内にもぐいぐいと二人は化け物の少女に引き込まれていく。幾ら踏ん張っても相手の力の方がずっと強い。
 もう駄目かも知れない、と私は思った。
 いっそもう力を抜いて抵抗するのをやめた方が、ずっと楽だろう。
 私は目をつむった。瞼の裏に、おじいちゃんの優しい笑顔が見える。私はその姿に心の中で謝った。
 ごめんなさい……。
 やっとおじいちゃんの顔が見えるようになったのに、もうそれもかなわなくなる。
 私は目頭が熱くなって涙がこぼれたのを自覚した。もう、駄目だ……。
「しっかりしなさい! 最後まで諦めたら駄目!」
 突然の叱咤に私は目を開けた。初めて見る厳しい目が、網越しに私を睨み付けた。
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