美奈は驚きつつも、心のどこかでああやっぱり、と言う安堵と似た気分を味わった。この男から感じる一種の威圧感は、自分と同じ力、それも恐らく遙かに強い力、その強さを無意識に感じ取っていたからなのだろう。
「その通りだ。私は君と非常によく似た力を持っている。他人の夢に入り、人々の安らぎを乱す夢魔を倒すことができる唯一の力。ドリームガーディアンと呼ばれる太古の血を継ぐ能力者の一人が私だ。君も一人、そんな人を知っているはずだ」
麗夢さんのことだわ! 美奈は瞬時に相手の言わんとするもう一人の人物を思い起こすことが出来た。つまりこの人は、麗夢さんのことも知っていると言うことになる。
「面識はない。だが、同じ能力者として注目はしていた。まあいずれ会うことになるだろうが、今はまだその時ではない。まずは、君達三人の能力を開花させるのが先だ」
「三人?」
美奈が一体誰のことかと問いかけようとしたその時だった。美奈の背後から、快活な女性の挨拶が投げかけられた。
「おっはよー高原博士!」
驚いた美奈が振り返ると同時に、高原が近づいてきた二人の人物に挨拶を返した。
「おはよう、白川君、ハンス君。紹介しよう、君達の新しい仲間だ」
「へぇ、貴女が美奈ちゃんね。よろしく。私は白川蘭。世間じゃ、夢見小僧って名前の方が良く知られているんだけどね」
すらりとしたややつり目の顔が、天真爛漫な明るい笑みを浮かべている。その隣に立つ男性は、見事なプラチナブロンドの髪を頂く、長身の美青年だ。
「ヨロシク、美奈サン。ワタシハ、ハンス・ゲオルグ・ヴァンダーリヒトイイマス」
さりげなく出された真っ白な右手に、思わず美奈も自分の手をさし出した。その手をすっと取って、膝を折ったハンスが軽く指先に口づけをする。仰天のあまり顔を赤くして手を引っ込めた美奈に悪戯っぽく笑いかけながら、蘭がハンスの肩をひじで押した。
「また!、ハンスったら、後で哀魅ちゃんに言いつけちゃうぞぅ」
「オー、ユメミコゾウサン、ソレダケハ勘弁シテ下サイ!」
ハンスは両手を胸の前で組み合わせて命乞いをするかのように蘭を見上げていった。
高原は苦笑いしながら美奈に振り返ると、二人を改めて紹介した。
「見ての通りの二人だが、それぞれやはり君や私と近い能力を持っている。彼女は多数の人間の脳に集団幻覚を生じさせる能力に長けている。こちらのハンス君は、以前ある人の夢に入り込み、そこから肉体を復元した経歴の持ち主だ。しかもその祖先はかの有名なドラキュラ伯爵だときている。なかなか興味深い素材とは思わないかね?」
「はあ・・・」
返答に困った美奈が曖昧に頷くと、ハンスとじゃれ合っていた蘭が、高原に言った。
「で、この美奈ちゃんの能力は何なの? 博士」
「彼女の能力は、物理的距離に左右されない遠隔入夢能力とでも言うべき力だ。恐らく遠く離れた他人の夢と自分の夢を瞬時にバイパスする通路を作り出す事が出来るのだろう」
「ふーん、それはすごいわ。そんな力があったら、私もいちいち現場まで行かなくても泥棒できるのに」
「人ノモノヲトッテハ駄目デスヨ、ユメミサン」
「いちいち固いこと言わないの! それより、実験の準備は進んでいるの、博士?」
「もう少しだ。彼女の協力を得ることで、飛躍的に進展させることが出来るから、今日明日には準備が整うだろう」
「早くしてね! 私、ここの生活そろそろ飽きて来ちゃったから」
「私モ、早ク帰ラナイト哀魅ニ叱ラレマス」
努力するよ、と笑う高原に、二人は異口同音に念押しして、奥のテーブルに歩いていった。
「あの、実験って、何ですか?」
おずおずと問いかけてきた美奈を見下ろし、高原は言った。
「君達の能力を飛躍的に高め、あらゆる夢魔に対抗する力を付けるための実験だ。これが成功すれば、夢魔の女王程度の化け物は、文字通り指一本で簡単に倒せるようになるだろう」
美奈は自分の耳を疑った。あの夢魔の女王は、麗夢が大変な危険を冒した末、やっとの思いで倒すことが出来た強敵だ。それを指一本で倒すなんて、それもこの私が!
「で、でも、どうやってそんなことが出来るんです? 私なんか力もないし、闘うなんてできっこないです」
「夢魔の女王の時は、破邪の剣で一矢報いたじゃないか」
「そ、そんなことまでご存知なんですか・・・?! あ、あの時は夢中で、それに相手も油断してたし・・・」
たじたじとなって否定しようとする美奈の肩に、高原は力強く手を置いた。
「心配いらない。君には確かにその力がある。君が受け継いできた遺伝子にその力は眠っているんだ。だから安心したまえ」
私の遺伝子? なおも不安げな美奈に高原は言った。
「君だけじゃない。私や、あの二人、いや、実は人類そのものにもこの力が眠っている。私の研究は、その力を目覚めさせ、誰もが夢魔などと言う汚らわしい化け物に日々の安らぎを奪われたりしないようにするためのものだ。そして、この研究をベースに、我がドリームジェノミクス社が誰でも安心して使えるドリームガーディアン遺伝子、DGgeneの高発現因子を提供する事になるのだよ」
高原は今にも高笑いを始めそうな昂揚した笑顔を美奈に向けた。美奈は、またもあの威圧されるような不安感を覚え、その目を避けてうつむいた。
「その通りだ。私は君と非常によく似た力を持っている。他人の夢に入り、人々の安らぎを乱す夢魔を倒すことができる唯一の力。ドリームガーディアンと呼ばれる太古の血を継ぐ能力者の一人が私だ。君も一人、そんな人を知っているはずだ」
麗夢さんのことだわ! 美奈は瞬時に相手の言わんとするもう一人の人物を思い起こすことが出来た。つまりこの人は、麗夢さんのことも知っていると言うことになる。
「面識はない。だが、同じ能力者として注目はしていた。まあいずれ会うことになるだろうが、今はまだその時ではない。まずは、君達三人の能力を開花させるのが先だ」
「三人?」
美奈が一体誰のことかと問いかけようとしたその時だった。美奈の背後から、快活な女性の挨拶が投げかけられた。
「おっはよー高原博士!」
驚いた美奈が振り返ると同時に、高原が近づいてきた二人の人物に挨拶を返した。
「おはよう、白川君、ハンス君。紹介しよう、君達の新しい仲間だ」
「へぇ、貴女が美奈ちゃんね。よろしく。私は白川蘭。世間じゃ、夢見小僧って名前の方が良く知られているんだけどね」
すらりとしたややつり目の顔が、天真爛漫な明るい笑みを浮かべている。その隣に立つ男性は、見事なプラチナブロンドの髪を頂く、長身の美青年だ。
「ヨロシク、美奈サン。ワタシハ、ハンス・ゲオルグ・ヴァンダーリヒトイイマス」
さりげなく出された真っ白な右手に、思わず美奈も自分の手をさし出した。その手をすっと取って、膝を折ったハンスが軽く指先に口づけをする。仰天のあまり顔を赤くして手を引っ込めた美奈に悪戯っぽく笑いかけながら、蘭がハンスの肩をひじで押した。
「また!、ハンスったら、後で哀魅ちゃんに言いつけちゃうぞぅ」
「オー、ユメミコゾウサン、ソレダケハ勘弁シテ下サイ!」
ハンスは両手を胸の前で組み合わせて命乞いをするかのように蘭を見上げていった。
高原は苦笑いしながら美奈に振り返ると、二人を改めて紹介した。
「見ての通りの二人だが、それぞれやはり君や私と近い能力を持っている。彼女は多数の人間の脳に集団幻覚を生じさせる能力に長けている。こちらのハンス君は、以前ある人の夢に入り込み、そこから肉体を復元した経歴の持ち主だ。しかもその祖先はかの有名なドラキュラ伯爵だときている。なかなか興味深い素材とは思わないかね?」
「はあ・・・」
返答に困った美奈が曖昧に頷くと、ハンスとじゃれ合っていた蘭が、高原に言った。
「で、この美奈ちゃんの能力は何なの? 博士」
「彼女の能力は、物理的距離に左右されない遠隔入夢能力とでも言うべき力だ。恐らく遠く離れた他人の夢と自分の夢を瞬時にバイパスする通路を作り出す事が出来るのだろう」
「ふーん、それはすごいわ。そんな力があったら、私もいちいち現場まで行かなくても泥棒できるのに」
「人ノモノヲトッテハ駄目デスヨ、ユメミサン」
「いちいち固いこと言わないの! それより、実験の準備は進んでいるの、博士?」
「もう少しだ。彼女の協力を得ることで、飛躍的に進展させることが出来るから、今日明日には準備が整うだろう」
「早くしてね! 私、ここの生活そろそろ飽きて来ちゃったから」
「私モ、早ク帰ラナイト哀魅ニ叱ラレマス」
努力するよ、と笑う高原に、二人は異口同音に念押しして、奥のテーブルに歩いていった。
「あの、実験って、何ですか?」
おずおずと問いかけてきた美奈を見下ろし、高原は言った。
「君達の能力を飛躍的に高め、あらゆる夢魔に対抗する力を付けるための実験だ。これが成功すれば、夢魔の女王程度の化け物は、文字通り指一本で簡単に倒せるようになるだろう」
美奈は自分の耳を疑った。あの夢魔の女王は、麗夢が大変な危険を冒した末、やっとの思いで倒すことが出来た強敵だ。それを指一本で倒すなんて、それもこの私が!
「で、でも、どうやってそんなことが出来るんです? 私なんか力もないし、闘うなんてできっこないです」
「夢魔の女王の時は、破邪の剣で一矢報いたじゃないか」
「そ、そんなことまでご存知なんですか・・・?! あ、あの時は夢中で、それに相手も油断してたし・・・」
たじたじとなって否定しようとする美奈の肩に、高原は力強く手を置いた。
「心配いらない。君には確かにその力がある。君が受け継いできた遺伝子にその力は眠っているんだ。だから安心したまえ」
私の遺伝子? なおも不安げな美奈に高原は言った。
「君だけじゃない。私や、あの二人、いや、実は人類そのものにもこの力が眠っている。私の研究は、その力を目覚めさせ、誰もが夢魔などと言う汚らわしい化け物に日々の安らぎを奪われたりしないようにするためのものだ。そして、この研究をベースに、我がドリームジェノミクス社が誰でも安心して使えるドリームガーディアン遺伝子、DGgeneの高発現因子を提供する事になるのだよ」
高原は今にも高笑いを始めそうな昂揚した笑顔を美奈に向けた。美奈は、またもあの威圧されるような不安感を覚え、その目を避けてうつむいた。
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