かっこうのつれづれ

麗夢同盟橿原支部の日記。日々の雑事や思いを並べる極私的テキスト

8.能力喪失・・・ その1

2007-11-16 22:53:28 | 麗夢小説『ドリームジェノミクス』
 程なく到着した研究所で、鬼童は満面の笑みで二人を出迎えた。
「円光さんも一緒か。さあ、どうぞ」
「お邪魔いたす」
 麗夢を巡って熾烈なライバル争いを演じている二人ではあるが、当の本人の前ではあくまで紳士的に振る舞う事を互いに約している。ただ、笑顔の割に二人の眼光は鋭く、自分の頭上で見えない火花の一つや二つ飛び散ったのは間違いないと、麗夢は思った。
「あれ? 今日はアルファとベータはご一緒じゃないんですか?」
 二人を通した鬼童は、その足元にいつもの可愛らしい毛玉が二つ、ついてきてないことに気がついた。
「あの子達には、続けて美奈ちゃん達を探して貰っているの。それより鬼童さん、大変なのよ」
 麗夢の真剣な眼差しに、鬼童も頭に浮かんだ(これで円光がいなければ完璧なのに・・・)、と言う思いを慌ててかき消した。
「こちらもちょっと面白いことを発見しましたよ」
 鬼童はあらかじめ用意して置いた和風のティーセットを運んでくると、二人に熱いお茶を淹れ、残りを自分専用の湯飲みについで席についた。
「さて、まずは大変って、一体どうしたんです? 麗夢さん」
「それが、私の力が弱くなっているの」
「麗夢さんの力?」
「そうだ。麗夢殿の、人の夢に入って超常の力を発揮する、あの力だ。拙僧は麗夢殿の気がここ数日著しく弱くなっていることに気づき、こうして同道して参った」
「そうそう! おかげで危ういところを助けて貰ったの。でも、今までこんな事なかったのに、どうしてなのか、鬼童さんなら何か判るかも知れないと思って・・・」
「うーん、もう少し詳しく教えてくれませんか? その、危ういところって、何です?」
 鬼童は、麗夢の危険を察知して助けることができる円光の能力に、いつもながらの軽い嫉妬を覚えた。麗夢はそんな鬼童の複雑な思いを知ってか知らずか、促されるままにさっきの危うかった夢魔退治の一件を詳しく話した。円光も、夢の外からの様子をできる限り詳しく説明し、その嫉妬心を煽りながらも、貴重なデータを鬼童に示した。
「・・・なるほど、で、確認しますけど、その夢魔が実は死夢羅級の大物が化けていた、とか、そう言うことはないんですね」
「うむ。外から見た限りでは、麗夢殿の力を掣肘するような結界も張られている様子はなかった」
「そうよ。私も夢に入るまでは、こんな雑魚すぐに片付けちゃおうと本気で思っていたんだから」
 鬼童は顎に手を当ててしばしの沈黙を保った。二人の期待の視線が集中する中、やがて鬼童はがたりとイスを引いて立ち上がった。
「とにかく一度検証してみましょう。麗夢さん」
「検証?」
「ええ。残念ながら僕にも今のところ漠然とした仮説以上の事は思いつきません。ですから、麗夢さんの力が本当に弱くなっているのか、弱くなっているとしたらどれくらい弱まっているのか、はっきり計測してみたいんですよ」
 麗夢と円光は、その「漠然とした仮説」だけでも聞きたいと思ったが、「速断は禁物です」と釘を差され、鬼童について睡眠実験室へ入った。
「この間は僕の夢に入って貰いましたが、今日は円光さんの夢にしましょう。万一のことがあっても、君なら大丈夫だな、円光さん」
「・・・心得た」
 『この間』の出来事を知らない円光は、腑に落ちない顔のまま、実験用リクライニングシートに収まった。隣のシートには麗夢が座り、手早く鬼童が、その頭にフレキシブルアームの先についた大きな筒状の装置をセットした。ちょっと見には昔の美容院を思わせる光景だが、もちろんこれはパーマをかけるための機械ではない。筒には液晶表示パネルと幾つかのLED、タッチパネル方式のキーボードが備わっており、何本ものケーブルがあちこちから生え、フレキシブルアームを伝わって計測機器類まで伸びている。夢の研究で大脳の状態を調べるために鬼童がアレンジした測定装置である。内部には百を超えるセンサーが設置され、近赤外線を照射して内部の血流を捉える装置や脳波計などにより、脳の活動領域を観察できる仕組みになっている。鬼童は慎重に麗夢の頭と装置のセッティングを調整すると、次に円光のものも入念に調整を施した。
「では始めて下さい」
 装置のセットと機器の調整が済んだところで、鬼童は二人に眠りに入るよう合図した。麗夢と円光はそっと目をつむり、夢の世界へと旅立っていった。

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