僻地外科医先生からコメントを頂戴しまして、長くなるので記事にしました。
続々・本当に血尿であったのか
コメント頂き有難うございます。僻地外科医先生のご指摘は勉強になります。
ただ、若干の疑問点がございます。
①透析用Wルーメンカテーテルについて:
先生の想定では、血液吸着の為に挿入されたであろうWルーメンの存在を前提とされておられるのであろうと思います。これは事実なのでございましょうか?先生の仰る説明を総合しますと、右大腿静脈(?)に挿入されていた透析用Wルーメンの「カテ先で血管壁を穿通しピンホール大の損傷があった」ということかと思います(同側同部位でなければ、CT像の血腫形成の説明にならないと思いますので)。
仮定として、血液吸着前に挿入されたとされる透析用カテの穿刺を「穿刺1」とし、判決文にもあった午後4時45分頃の中心静脈カテ挿入の為の穿刺を「穿刺2」とします。
a)判決文には穿刺1のことについて一度も記述がない
b)鑑定の記述(「右橈骨静脈にルート確保」の記述は見られた)からも判決で触れられてない
c)穿刺1でブラッドアクセスがあったなら、同側同一血管にCVを入れる意味とは何か(想定し難いのでは)
d)穿刺2の血管損傷の有無について検討され、判決や鑑定で穿刺1を全く問題としないのは疑問
e)ピンホール大の穴が痙攣発作で形成され、10ml/分程度の出血が継続すれば、CT像で約1000ml程度分の血腫が確認できうるのでは
f)判決文(P16)で「カテーテル留置後血尿ないし血腫が生じるまでの間に、痙攣が起きたことを認めるに足りる証拠もない」として被告側主張を退けていることから、もし穿刺1の留置があったのであれば被告側主張は検討され判決中で述べられるはずでは
これら疑問点があるので否定的なのではないかと思えましたが、透析用カテが入っていたという別な情報があるのであれば、判決しか読んでないので私には判りません。少なくとも血管穿刺について、穿刺1の「ミスがあったのか、なかったのか」ということを一度も述べないというのは不自然です。そもそも最初の穿刺時に問題があれば、穿刺2のみで問題の有無を検討したとして「過失がなかった」という結論が出ても、本来的に過失検討の意味がないからです。もし穿刺1が行われていたとすれば、必ずその検討はなされなければならずであり、それが判決文中に一度も記述がない、などということはないのではないかと思えます。
②CT像の血腫について:
これは先生のご指摘のように、若干ながら見られていました。判決文にあったのを見落としておりました。判決文中のP14のH意見書(H医師によるもの)から、次のように書かれておりました。
『膀胱周囲の後腹膜付近に新しい出血に一致する血管外の造影剤の溜まりがあることからすれば、出血部位は上記部位であったと考えられること』
カテ周囲の血腫様の像については解釈が分かれるものの、仮に穿刺2での血管損傷があったにせよ(試験穿刺を行っているなら確実にピンホールより大きな穴(22Gくらい?)が開くのではないかと思います…)、そこからの出血よりも後腹膜の出血の方が主原因であるということを主張するのは可能であるように思われます。
③テオフィリンのPDE阻害作用について:
この記述は誤りを含むものでした。PDE阻害作用は、非特異的作用であるようです。またPDEのタイプは11種発見されていた、ということのようです。
Q4-2 PhosphodiesterasePDE阻害作用とAdenosine拮抗作用
FPJ : Vol. 126 (2005) , No. 2 121-127
論点としては有り得ると思いますが、ペーパー上でのことですので、どう評価されるかは判りません。
アデノシン拮抗作用がどう捉えられるか、というのも、何とも言えないです(血中濃度が高くでも凝集抑制作用はさほどでもないのでは、と言われる可能性はあるかもしれません)。
④現象の説明として
後腹膜血腫については
・外傷がなくても原因不明に起こること
・出血源は不明である場合が多いこと
・出血傾向ではなくても起こること
以上から、カテ挿入に伴う血管損傷の有無には無関係に(後腹膜腔に)「出血し得る」でしょう(H医師の意見書とも整合的です)。
即ち、剖検時の血腫の存在はこれで説明可能(CT像でカテ周囲の血腫は血管損傷であったかもしれませんが)、
というのが私の立場です。
これに、凝固異常の存在(活性炭の影響、テオフィリン中毒?…等々)があれば(ヘパリンも5時10分頃に5000Uをbolusで入れるようですし)、「なお一層止血困難な後腹膜出血」となるのは不思議ではない、ということです。出血を助長する要因が存在したので、大量出血となったのであろうな、と。それがなければ、途中で出血の勢いは弱まっていた可能性はあったのではないかな、と。
血尿については、中心静脈穿刺や腹腔内出血の存在とは無関係に、ミオグロビン尿で説明できます。たとえ横紋筋融解症ではなかったとしても、痙攣後ですので有り得なくはないのでは、と。血管損傷で漏れた血液が”膀胱内に戻って”尿中に出る、という想定よりも説得的です。実際、痙攣を起こすまでは「血尿」は認められていませんでした。
原因薬物はテオフィリンか他薬剤なのかは不明ですが、テオフィリン中毒による痙攣に備えて多分ジアゼパムを痙攣発作前から入れていたと思われます。判決文中P4の争点2において、原告側主張(カテ挿入前に薬を入れておけ)に対して被告側は『挿入以前に相当量の抗痙攣薬が投与されていた』と述べており、午後4時20分より前までに使用されていたのであろうと思われます。そしてP11では、『午後7時頃から全身性の痙攣が見られたが、セルシンの投与により改善した。』と述べられているので、多分、この時以前にもセルシン(ジアゼパム)を使っていたのではないかな、と推測しています(ミダゾラムのような別なベンゾジアゼピン系かもしれませんが)。これも横紋筋融解症(それとも悪性症候群?)のリスクとなっているのであれば、原因薬物を特定できないにせよ、現象の説明としては採用可能であると思います。
続々・本当に血尿であったのか
コメント頂き有難うございます。僻地外科医先生のご指摘は勉強になります。
ただ、若干の疑問点がございます。
①透析用Wルーメンカテーテルについて:
先生の想定では、血液吸着の為に挿入されたであろうWルーメンの存在を前提とされておられるのであろうと思います。これは事実なのでございましょうか?先生の仰る説明を総合しますと、右大腿静脈(?)に挿入されていた透析用Wルーメンの「カテ先で血管壁を穿通しピンホール大の損傷があった」ということかと思います(同側同部位でなければ、CT像の血腫形成の説明にならないと思いますので)。
仮定として、血液吸着前に挿入されたとされる透析用カテの穿刺を「穿刺1」とし、判決文にもあった午後4時45分頃の中心静脈カテ挿入の為の穿刺を「穿刺2」とします。
a)判決文には穿刺1のことについて一度も記述がない
b)鑑定の記述(「右橈骨静脈にルート確保」の記述は見られた)からも判決で触れられてない
c)穿刺1でブラッドアクセスがあったなら、同側同一血管にCVを入れる意味とは何か(想定し難いのでは)
d)穿刺2の血管損傷の有無について検討され、判決や鑑定で穿刺1を全く問題としないのは疑問
e)ピンホール大の穴が痙攣発作で形成され、10ml/分程度の出血が継続すれば、CT像で約1000ml程度分の血腫が確認できうるのでは
f)判決文(P16)で「カテーテル留置後血尿ないし血腫が生じるまでの間に、痙攣が起きたことを認めるに足りる証拠もない」として被告側主張を退けていることから、もし穿刺1の留置があったのであれば被告側主張は検討され判決中で述べられるはずでは
これら疑問点があるので否定的なのではないかと思えましたが、透析用カテが入っていたという別な情報があるのであれば、判決しか読んでないので私には判りません。少なくとも血管穿刺について、穿刺1の「ミスがあったのか、なかったのか」ということを一度も述べないというのは不自然です。そもそも最初の穿刺時に問題があれば、穿刺2のみで問題の有無を検討したとして「過失がなかった」という結論が出ても、本来的に過失検討の意味がないからです。もし穿刺1が行われていたとすれば、必ずその検討はなされなければならずであり、それが判決文中に一度も記述がない、などということはないのではないかと思えます。
②CT像の血腫について:
これは先生のご指摘のように、若干ながら見られていました。判決文にあったのを見落としておりました。判決文中のP14のH意見書(H医師によるもの)から、次のように書かれておりました。
『膀胱周囲の後腹膜付近に新しい出血に一致する血管外の造影剤の溜まりがあることからすれば、出血部位は上記部位であったと考えられること』
カテ周囲の血腫様の像については解釈が分かれるものの、仮に穿刺2での血管損傷があったにせよ(試験穿刺を行っているなら確実にピンホールより大きな穴(22Gくらい?)が開くのではないかと思います…)、そこからの出血よりも後腹膜の出血の方が主原因であるということを主張するのは可能であるように思われます。
③テオフィリンのPDE阻害作用について:
この記述は誤りを含むものでした。PDE阻害作用は、非特異的作用であるようです。またPDEのタイプは11種発見されていた、ということのようです。
Q4-2 PhosphodiesterasePDE阻害作用とAdenosine拮抗作用
FPJ : Vol. 126 (2005) , No. 2 121-127
論点としては有り得ると思いますが、ペーパー上でのことですので、どう評価されるかは判りません。
アデノシン拮抗作用がどう捉えられるか、というのも、何とも言えないです(血中濃度が高くでも凝集抑制作用はさほどでもないのでは、と言われる可能性はあるかもしれません)。
④現象の説明として
後腹膜血腫については
・外傷がなくても原因不明に起こること
・出血源は不明である場合が多いこと
・出血傾向ではなくても起こること
以上から、カテ挿入に伴う血管損傷の有無には無関係に(後腹膜腔に)「出血し得る」でしょう(H医師の意見書とも整合的です)。
即ち、剖検時の血腫の存在はこれで説明可能(CT像でカテ周囲の血腫は血管損傷であったかもしれませんが)、
というのが私の立場です。
これに、凝固異常の存在(活性炭の影響、テオフィリン中毒?…等々)があれば(ヘパリンも5時10分頃に5000Uをbolusで入れるようですし)、「なお一層止血困難な後腹膜出血」となるのは不思議ではない、ということです。出血を助長する要因が存在したので、大量出血となったのであろうな、と。それがなければ、途中で出血の勢いは弱まっていた可能性はあったのではないかな、と。
血尿については、中心静脈穿刺や腹腔内出血の存在とは無関係に、ミオグロビン尿で説明できます。たとえ横紋筋融解症ではなかったとしても、痙攣後ですので有り得なくはないのでは、と。血管損傷で漏れた血液が”膀胱内に戻って”尿中に出る、という想定よりも説得的です。実際、痙攣を起こすまでは「血尿」は認められていませんでした。
原因薬物はテオフィリンか他薬剤なのかは不明ですが、テオフィリン中毒による痙攣に備えて多分ジアゼパムを痙攣発作前から入れていたと思われます。判決文中P4の争点2において、原告側主張(カテ挿入前に薬を入れておけ)に対して被告側は『挿入以前に相当量の抗痙攣薬が投与されていた』と述べており、午後4時20分より前までに使用されていたのであろうと思われます。そしてP11では、『午後7時頃から全身性の痙攣が見られたが、セルシンの投与により改善した。』と述べられているので、多分、この時以前にもセルシン(ジアゼパム)を使っていたのではないかな、と推測しています(ミダゾラムのような別なベンゾジアゼピン系かもしれませんが)。これも横紋筋融解症(それとも悪性症候群?)のリスクとなっているのであれば、原因薬物を特定できないにせよ、現象の説明としては採用可能であると思います。
まず、大前提に誤解があるようですので、そこを修正しましょう。
「仮定として、血液吸着前に挿入されたとされる透析用カテの穿刺を「穿刺1」とし、判決文にもあった午後4時45分頃の中心静脈カテ挿入の為の穿刺を「穿刺2」とします。」
私が言っている透析用のカテーテルとは、この血液吸着に使ったものを指します。血液吸着と血液透析は手技的には全く同じものです。違うのは血液吸着に使うのは活性炭などのカラム、透析に使うのは透析用カラムでそれ以外は回路も機械もブラッドアクセスの方法も用具も全く同じです。
従って以下の回答は穿刺1=血液吸着に使った透析用カテーテル、穿刺2=その後に右大腿から穿刺した中心静脈カテーテルと考えて下さい。
a) は上の大前提の部分で回答になっていると思います。
b) 非常な難問ですが、一般的な診療の流れからして、最初のカテーテルを抜いてしまっていることが考えにくい・・・と言うのが私の考えです。ブラッドアクセスに用いるカテーテルの太さは通常11~14Fr.(4~5mm弱。3Fr=1mm)です。これを抜いたあとは凝固能異常が無くても、圧迫止血にそれなりの時間と手間を要します。来院してから亡くなるまでの9時間そこそこの間にそれだけの余裕があったとは考えにくいです。
で、仮にCT前に抜いていたとしても何らかの中心静脈アクセスが有る状況で抜くだろうと考えられますので、穿刺2を入れるときに抜くのが一般的な治療の流れだと思います。従って穿刺2(午後4時45分頃)の前に全身性間代性痙攣(午前4時20分頃と午前4時40分頃)が有ったと考えるのが妥当だと思います。
c)ここも難問でモトケンブログでもちょっと議論になりました。まず最初に入れたカテーテルは心停止などの超緊急時にボスミン(アドレナリン)を投与する以外には使いたくなかったであろう・・・と言うことは想像に難くありません。なぜならば、血液吸着中に管内凝固を起こしているわけで、薬剤注入すると下手をすれば血栓を血管内に押し出す可能性があるからです(A側から入れるとしても、カテーテル壁の血栓を押し出すかも知れない)。その直前に痙攣もあったことですし、何らかの中心静脈カテーテルが欲しいと言うことはやはり救急に長くタッチしてきた人間として理解しやすい行動です。
さて、ここでどこから中心静脈カテーテルを入れるか・・・です。最前に痙攣があった状況ですから、鎖骨下静脈や内頸静脈からの穿刺は出来るだけしたくありません。といって、左大腿静脈穿刺は右大腿静脈穿刺に比べはるかに高度なテクニックを要します。従って他にアクセスルートがないので右大腿を穿刺したというのは十分あり得ることです。
d)これは医療者ならば誰でも同じ疑問を抱くと思いますが、裁判では「どちらかが主張した以外のことは争われない」のが原則です。で、判決文を見ますと
「Dは抗凝固剤であるヘパリンの投与を受けており」・・・とあることからして、この大腿静脈カテーテルが穿刺2であることは明白です。従って原告が主張しなかった穿刺1は争点にならなかったのでしょう。原告が主張しなかった理由までは分かりませんが、膀胱出血が始まった時間から、出血の原因が穿刺2によると思いこんだのではないでしょうか?
e)CT上血腫があった可能性は十分あると思います。ですが、これは証拠を見てみないと何とも言えません。
f)については穿刺1のカテーテルをいつ抜いたか、について書かれていない以上何とも言えません。しかし、ごく一般的な治療の流れとしてb)のように痙攣の時点では抜いていない方が考えやすいです。しかも、血液吸着を開始したのが午後2時30分、ヘパリンに変更して再度吸着を開始したのが午後3時40分で、回路凝固が起こったのが午後4時です。痙攣の初発が午後4時20分ですから、この20分の間に抜いたというのは通常は考えにくいと思います。従って、この点で裁判官の判断は決定的に間違っていると私は考えます。
ご丁寧にご回答下さり有難うございます。私のような素人の言い分にお付き合いを頂いて、申し訳なく思います。
先生のご主張は「透析用Wルーメンカテ」が留置されていた、という前提ですので、これを確かめる方法がない今の状況では、結論が出せないのかもしれません。
一応、記事の初めの方に「血液吸着の為に挿入されたであろうWルーメンの存在を前提」と書いておりまして、穿刺1は血液吸着を行う前に行っていたこと、このカテを使って血液吸着の回路に接続されていたであろうという想定をしておられること、これらについては理解していた積もりでした。
ただ、このカテが入っているにも関わらず、もう一度CVを入れ直すというのがちょっと疑問に思えたのと、判決や鑑定に一切触れられていないことが不自然に見えたもので…
血液吸着がいずれかの動脈(例えば橈骨動脈?)から行われた可能性はあったのではないのかな、と思ったもので。鑑定での「輸液は右橈骨静脈…」云々という書き方を見て、他に薬剤投与可能なルートはなかったのだな、と判断いたしました(もしあるのであれば、AやBから入れた可能性云々といった表現になるのではないのかな、と)。
また、
http://blog.goo.ne.jp/critic11110/e/328674ddeae4e27ea9fbeaf98b79ac97
に書いたのですが、カテ先で血管壁を突き抜いた例は見つけられませんでした。この要因は別にあるので、必ずしも報告されるとも限りませんが、論拠としてはやや弱いかなと思いました。
>血液吸着がいずれかの動脈(例えば橈骨動脈?)から行われた可能性はあったのではないのかな、と思ったもので
これは常識的にあり得ないです。たとえ一次透析といえど、やむを得ない事情もないのに動脈ラインをとって(しかも回路を回すためには少なくとも18Gの太いものを)使うと言うことはあり得ません。下手をすればその橈骨動脈が閉塞してしまうリスクを冒すことになります。橈骨動脈は掌動脈弓で尺骨動脈とつながってますから、一般的には閉塞しても大きな問題を起こしませんが、掌動脈弓がない人もいますので、この場合には拇指~示指・中指の壊死を起こすことがあります。麻酔管理などで動脈ルートが必要な場合も、必ず掌動脈弓が機能していることを確認(Allenのテスト)してから行います。これ以外でも、動脈からのブラッドアクセスは、その末梢の血流障害・壊死を来す可能性があるため、一般的に行われません。慢性透析の患者さんで動脈穿刺をしないために内シャントを作る理由もこのためです。
大腿静脈がどうしても使えない事情があるならばともかく、最初にトライするところは通常は右大腿静脈でしょう。従ってこの患者の最初のブラッドアクセスルートは右大腿にあったと考えてほぼ間違いないと思います。
>ただ、このカテが入っているにも関わらず、もう一度CVを入れ直すというのがちょっと疑問に思えたのと、判決や鑑定に一切触れられていないことが不自然に見えたもので…
判決・鑑定に触れられていない理由については、私には何とも言えませんが・・・。
もう一度CVを入れ直す理由については分かります。一つは上に書いた理由ですし、もう一つはブラッドアクセスカテーテルが太すぎることでしょう。血圧が低下してきた状況ですので、何らかのカテコールアミンや鎮静剤の持続投与ルートが欲しいというのは治療の流れとして理解できます。しかし、投与カテーテルが太すぎると流量が安定しない、流量のコントロールがしにくいという問題が出てきます。このため、透析用ブラッドアクセスカテーテルは一般にカテコールアミン投与ルートとしては不適です(透析中に側管から流す場合を除く。このケースでは回路が回らなかったのですから、当てはまらないです)
>カテ先で血管壁を突き抜いた例は見つけられませんでした。
医学中央雑誌を調べても載ってませんでしたが、なんと「医療訴訟ケースファイル」にはいくつか事例が載っています(苦笑)。
大阪地裁 平成13年 (ワ)第3309号
IVHカテーテルが心房を貫き心嚢穿刺から心タンポナーデになった事例
大阪地裁 平成14年 (ワ)第9797号
内頸静脈から穿刺した血液濾過カテが右心房を貫き心タンポナーデとなった事例
あの柔らかいIVHカテーテルで下大静脈よりはるかに壁の厚い右心房を貫くのですから、ブラッドアクセスカテーテルが下大静脈を貫かないという理由はないでしょうね。
引き続きコメント有難うございます。
橈骨動脈の想定ですが、これは私個人の勝手な推測に過ぎませんので、当てにはなりません。先生のご指摘のように、普通であれば右大腿静脈が選択され易いであろう、というのはその通りと思います。しかし…という印象です。これについては、これ以上検討しても前進はないと思います。
>IVHカテの裁判例
文献を当たるよりも、見つけられるというのは悲しい現実を見るようですね(苦笑されるのは判ります)。留置したカテ先なのか、ガイドワイヤーなのか、といった違った要因があるのかもしれませんね。判決文を読んでないので判りませんが。
そうであっても、カテ関連の裁判例が少なくないので、トラブル発生は確実に存在するのは事実でしょうね。製品の性状にも要因がある(手技的問題ではないもの)のであれば、賠償保険の一部負担を求めるといったことも考えねばならないかもしれません。
>留置したカテ先なのか、ガイドワイヤーなのか、といった違った要因があるのかもしれませんね。判決文を読んでないので判りませんが。
この判決文は判例検索システムに引っかかってこないのでお示しできませんが、判決要旨を見る限り、心房を貫いたのはカテーテルそのものでガイドワイヤーではありません。
>ガイドワイヤーではありません
となれば、やはり製品そのものの「欠陥」とも見えます。過失の負担について、医療行為部分と製品部分について詳しく検証してみることが必要になるのではないでしょうか。
>となれば、やはり製品そのものの「欠陥」とも見えます。
おそらくご理解の上でおっしゃっていると思いますが・・・。
例えば、透析用ダブルルーメンは比較的固くて腰があり、前の私の発言のセリフを用いれば「強く突き立てれば皮膚をも貫く」ような構造になっています。
でもこれは意味があってそう言う構造なんですよ。セルディンガー法という方法で挿入するためにはある程度先端が鋭く、克つある程度強靱な構造でなければ血管内に挿入することが出来ません。じゃあ、セルディンガー法そのものが間違っているという結論を導くかも知れませんが、セルディンガー法でなければ現在のところ完全に血管を露出してカットダウン法という方法で挿入するしか有りませんが、カットダウン法ではそれより末梢の静脈を犠牲にするしかないという重大な問題点があります。
セルディンガー法はそれに比べればはるかに患者さんへの侵襲が少なく、克つ今回のような「異常事態」でもなければ通常は安全なものです。で、どんな治療・診断行為にも合併症は「つきもの」なのです。
合併症が起きたから「医者が悪い」「器具が悪い」というものではないんですよ。もちろん、器具自体に欠陥がなかったか、医師の行為に落ち度がなかったかの検証はおっしゃるとおり必要だと思いますが、私が知る限りにおいて、ほとんどの合併症はやむを得ざるものだと思います。
お返事が遅くなりました。
>合併症が起きたから「医者が悪い」「器具が悪い」というものではないんですよ。
仰ることはよく判ります。悪い、と言っているのではなく、「何が原因か」ということは検証するべきと思いますので、製品に相応の危険性があったのであれば、それを無視することはできないでしょう。賠償保険の負担の問題、というのはそういうことです。
IVHカテが心房壁を突き抜ける、ということと、透析用ダブルルーメンの鋭さは関係のないことではないでしょうか。IVHカテでさえ突き抜けるのであるから、ということを意図されているのではと思いましたが(違いましたらお詫び致します)、製品に問題があって改良の余地があるのであれば、情報を集めて製品の性状を変えるとかを考えるべきでありましょう。
透析用ダブルルーメンについては、
・その存在が証明されること(本当に留置した)
・手技的問題や操作によらず留置カテで穿通した
の両方が必要です。この両方とも、ここでは確かめようのないことでしょう。
手技的要因ではなく、製品の性状に起因するものであるのなら、医療側だけがその賠償責任を有するのではなく、製品製造・提供側にも一部賠償責任を求めるのは検討に値するのではないでしょうか。