その天晴(あっぱ)れな独創によって、大塚久雄は戦後進歩的文化人の最初に現われた原型としての歴史的な役割を担うことになりました。稲垣武(いながきたけし)が『「悪魔祓(あくまばら)い」の戦後史』(平成6年8月15日・文藝春秋)に詳しく描きだしてみせたピンからキリまで、浮塵子(うんか)のごとく飛び跳ねた戦後進歩的な文化人の発言様式は、すべて大塚久雄の真似であり、敷衍(ふえん)であり、拡大であり、誇張であり、複写であり、替え唄でありました。 . . . 本文を読む
「これは敗戦の副産物ではないかと思う。すなわち一つの戦争の破壊があまりにも悲惨で、打撃が大きかったために、生活そのものに追われて思考の余地を失ったこと、一つにはアメリカの巧妙なる占領政策と、戦時宣伝、心理戦に災いされて、過去の一切があやまりであったという罪悪感に陥り、バックボーンを抜かれて無気力になってしまったことである」(パール判事) . . . 本文を読む
われわれは戦争の再来はたしかに避けたい。若い男女の性の悲惨をくりかえさせたくない。全世界の戦時「慰安婦」の苦難に「祈り」を捧げたい。そこまでは誰でも納得しよう。しかし旧日本軍の行動だけが、「比類なく罪深い」といわれると、話が変わってくる。21世紀のわが国の国益の基本に関わる、政治的次元の問題がここで突如として出現するからである。『朝日新聞』はどうしてそれが分らないのか。あるいは分っていて、承知で日本を貶めようとしているのか。 . . . 本文を読む
当時の明人から見た倭寇の特徴は、身軽なことであった。重い鎧を着ていないのだから、防御の弱さを速さで補ったのであろう。伏兵が上手で、明軍の後ろにまわって挟み撃ちし、毎度、少数の軍で大軍を破った。まだ戦闘がはじまらないうちは、三々五々に分散しているが、一人が扇を開いて合図すると、いたるところから伏兵が出てきて統制ある行動に移る。これを蝴蝶(こちょう)軍という、と書いてある。 . . . 本文を読む
渡部昇一の、その平衡感覚と良識と、いつも身をのりだして語る平易な話法と、ヒマワリにたとえたい明るさと、かならずワサビをきかせるおだやかな美徳は、現代にもっとも適(あ)っている。自分の親を譏(そし)る者を、どこの誰が信用するか。自分の国を非難する者を、いかなる外国人が尊敬するか。わが国と、わが国民とを、深く信頼する誠実から、渡部昇一の独創的な見解が、常にコンコンと湧きでるのである。 . . . 本文を読む
面(つら)が乾いている、という表現を用いて司馬遼太郎(りょうたろう)は越後(えちご)長岡藩の河井継之助(つぎのすけ)を評している。たかだかとした自負心が内にあって、しかも野心と我慾(がよく)とは吹っ切れている、という涼やかな爽(さわ)やかな至誠の気配であろう。 . . . 本文を読む
書物は選び抜かれた人たちばかりが集まる社交界にわれわれをいざない、すぐれた人たちに紹介してくれる。われわれは彼らの言葉や行動を目のあたりにし、まるでその人たちが現実に生きているような気になる。自分もその思想に参加し、ともに喜び、悲しみ、共鳴し合う。作者の経験は自分の経験となり、彼らが描き出した舞台を背景に一緒に主役を演じているような気分になるのである。 . . . 本文を読む
実際に行動を起こすよりも、先に延ばすほうが楽な状況を以下にいつくがあげてみよう。◇行きづまってしまっていて、これ以上力を発揮することができないことがわかっていながらその仕事にすがりついている。◇気まずくなってしまった人間関係にいつまでもしがみついている。先へいけばうまくいくだろうと期待するだけで何もせず、そのまま結婚生活(あるいは未婚の状態)を続けている…… . . . 本文を読む
古来、傑出した人物は誰もが、注意深く読書する習慣があった。そして、この習慣をそなえずして、ひとかどの人物になることは不可能である。ベーコンいわく、「読書は充実した人間をつくり、会話は機転の利く人間をつくり、執筆は緻密な人間をつくる」と。 . . . 本文を読む
現在は、その根を過去の中に持ち、祖先の生活と手本はわれわれにいまなお大きな影響を及ぼす。同時に、われわれの日々の行動も子孫の人格形成に貢献している。現代に生きる人間は、それに先立つ幾世代の文化によって育てられた果実にほかならず、はるか遠い過去とずっと先の未来とを行動と手本によって結びつける磁石の役割をになっている。 . . . 本文を読む
いい考えを持ち、真剣な努力を重ねても、なかなかにこれが世間に認められないときがある。そんなときには、ともすると世間が冷たく感じられ、自分は孤独だと考え、希望を失いがちとなる。だが悲観することはない。めくらが千人いれば、目明きもまた千人いるのである。そこに、世間の思わぬ暖かさがひそんでいる。 . . . 本文を読む
宇宙の心と一つに人間の心がなれば、ここに初めて宇宙の本体も本質も明らかになってきて、当然の帰結としてこの宇宙の心が「真善美」以外の何ものでもなく、そして同時に人間の心の本質もまた「真善美」以外の何ものでもないことがわかってくる。 . . . 本文を読む
祖母はずっと家計簿をつけていた。家計簿といっても、大学ノートに線を引いただけのもので、それはいつも、仏間のコタツの上に置いてあった。中学生の頃だったか、何気なくそれを開いてみた私の頬には、気付けば涙が流れていた。 . . . 本文を読む
何年か前に、スタンフォード大学病院でボランティアとして働いていた時の話よ。ライザっていう女の子はほとんど回復の見込みがない難病にかかていたわ。彼女が助かるためのたった一つの方法は、5歳の弟に血を分けてもらうことだったの。実は、その弟も同じ病気にかかったけど、奇跡的に助かったものだから免疫ができていたのね。 . . . 本文を読む
雪は降りながら全てを包み込みます。音さえも。その時のあまりの静けさが、それと気付かせてくれるのです。家も、木も、草も、やわらかい雪の下にうまった一面の銀世界は本当に美しいものです。その柔らかさ、美しさ、静けさが、絵本に描かれています。 . . . 本文を読む