ばあさまの独り言

ばあさまから見た世の中のこと・日常生活のこと・短歌など

カラス考

2017年10月09日 | 随筆
 カラスと言えば、皆さんはどういう印象をお持ちでしょうか。カラスは賢い鳥であり、また狡い鳥であり、世界的には、吉兇を占う鳥のようでもあります。
 万有百科大事典20「動物」小学館(昭和49年初版)によると、南アメリカとニュージーランドを除く全世界に分布しているとあります。全100種類位と言いますが、私達が身近に見るものは、はしぶとカラスとはしぼそカラスのようです。
 日本では民俗学的には、カラスは神意を表す霊鳥とされ、建国神話では、神武天皇の道案内をする大カラスが見え、鳴き声や供物の食べ方から吉凶を占う習俗も盛んである、とあります。ヨーロッパでは、カラスは忌み嫌われる鳥であり、ギリシャ宗教では、予言する鳥として出ています。(同上百科事典)
 ところで、日経新聞の2017/7/23付の朝刊に、遊遊漢字学『「烏」が「鳥」にならない理由』( 阿辻哲次 漢字学者)が載っていました。
 <カラスはだいたいどこでもきらわれ者と相場が決まっているようだ。日本の昔話でゴンベが蒔(ま)いた種をほじくるのはカラスだし、またこの憎らしいカラスは木の枝に止まって、「アホー、アホー」と人を馬鹿(ばか)にしたように鳴く。だいたい意地悪でずるがしこい人物の代名詞的に使われる。 カラスは動物の死肉にむらがる習性があって、嫌われる理由は不気味な色だ>と書いています。
また<「甲骨文字」の時代から、《烏》は《鳥》より横線が一本少ないのも、「純黒」の故で、烏には「反哺(はんぽ)の孝」という美徳があり、ひな鳥が成長し、自分で餌を採って来られるようになると、育ててくれた老いた親の分まで餌を採って差し出すという。 カラスがもし「反哺の孝」を実践し、親を大切にしているのなら、ほめてやりたいが、生ゴミの袋を荒らすカラスは、自分でとった餌を自分で食べている。こんなカラスはさっさと追い払うに限る。>とあります。
 何時もこの「遊遊漢字学」は小気味よい文章で、私の未知な分野の話も載っていて、朝の楽しみの一つです。
 この辺りの烏は人怖じしないので、ゴミ袋を漁っている直ぐ傍を歩いたとしても、少しばかり離れるだけで、通り過ぎればただちに寄ってきて啄み始めます。
 ご近所の或る人は、カラスが突然頭の上をぶつかるように低空で飛んだので、たまたま近くにあった小石を投げて追い払いました。すると、次の日もその次の日も、同じと思われるカラスに追いかけられたと言います。私達がウォーキングで出会うカラスも、道路に降りているカラスは、ジロリと睨みつけて避けようとする気配を見せないことが多く、変に手出しをして怖い思いをしたくないので、目を合わせないようにしてソッと通り過ぎます。
 しかし困ったカラスも、最近何故か数が減った気がします。先の百科辞典に載っている、北海道の羅臼海岸の写真のような、多くの群れは見たことがありません。
 都市化が進んだせいか、雀も激減した気がしますし、ヒヨドリ・ムクドリ・土鳩、カッコウなども、声を聴くことが以前より少なくなりました。電線にズラリと一列に連なる雀やムクドリの様子も見られなくなって、何となく懐かしい土鳩やカッコウや、耳に優しい小鳥たちのせわしい鳴き声が消えてゆく様で、(鳴く時期が決まっているものもありますが)静かな秋の空は寂しいです。
 八咫烏(ヤタガラス)と言って、足が三本のカラスが、日本の神話に出て来ます。神武天皇が熊野から大和に進もうとして山中で道に 迷ったとき,天照大御神(あまでらすおおみかみ)が八咫烏をつかわして, 天皇の軍を導き,山中を抜け出させたといいます。
 このヤタガラスはサッカー日本代表のシンボルマークでもあります。 明治時代、日本に 初めて近代サッカーを紹介した中村覚之助氏が、熊野那智大社がある和歌山県那智 勝浦町出身だったということで、日本サッカー協会は、1987年より日本代表のシンボルマークに決めました。
 火蟻とか、セアカゴケグモとか毒を持つ昆虫や、大形の外来魚など、いつの間にか日本に上陸して、生態系が崩れる心配もありそうですから、昔から身近なカラスなどは、可愛い方に入るのかもしれません。
 カラスには、私達の良く知らない能力もあるようです。
1)人間の言葉の真似をする鳥といえば九官鳥やオウム、インコなどですが、カラスもなつくと九官鳥以上に上手に人間の言葉を真似できるようになるそうです。また、人間の言葉も犬と同レベル程度には理解ができるのだとか。
2) 30年位生きることがある。犬や猫と比べるとかなり長く生きることができるようで、ペットとして飼うと長い間一緒に過ごせるという長所があります。
3) 木の実や貝を自動車にひかせて食べる。車のが少ない道路では高い場所から何度も落として中身を食べることもあるのだとか。
4) 木の枝を使って虫をほじくり出す。カラスは道具を使うことができると言われています。例えば、小さい穴に入った虫を食べるために、木の棒で中身をほじくり出して食べることが可能です。
5)覚えた知識を仲間や子に伝達できる。子は親の行動を見よう見まねで覚えることができますし、身の回りの危険や食料の場所などを何らかの手段で伝達し、共有することができます。
6)数字を6まで認識できる。数字を間違えなければエサを与えるという実験をおこなってカラスをトレーニング結果、6までの数字を認識できるようになったという研究結果があるそうです。
7) 仲間が死ぬと集合して危険を判断する。カラスは仲間が死んだ場所に集まる習性があります。これは「カラスは仲間の葬式をする」という都市伝説につながるのですが、実際は仲間で集まってその場所が危険な場所かどうかを判断し、危険だと判断した場合はその場所に近づかなくなったり、警戒をするようになるそうです。
8)遊ぶことができる。カラスはいろいろなことに興味を持ち、遊びを楽しむことができます。人間の動きを真似して公園の滑り台で遊んだりする様子が何度も確認されているのです。
9)人間になつきやすい。害鳥というイメージが強くなってしまっているカラスですが、実は人間にとてもなつきやすいのです。エサをあげたりすると「この人はエサを与える人」と認識し、近づいてきたり、肩に乗ったりしてくることもあります。
10) 助けると恩返しされる場合も。アメリカのシアトルで子供が毎日カラスにエサをあげていたら、カラスがビー玉やキレイな石など、さまざまな物をプレゼントとして持ってくるようになったことがあったそうです。これは色の付いた石などを集める習性から来るらしいです。
 真っ黒だとか、ゴミを漁るとか、嫌われ者のカラスですが、こうして調べて見ると、愛すべき長所もあって、「全ての生物は、必要があって、生まれて来ている」としみじみと思わせられます。何も人間だけが、地球を支配する生き物なのではなく、皆仲良く共存して、輪を描くように食べたり食べられたりして存在しているのですね。
 「虫がないている いまないておかなければ  もう駄目だというように鳴いている しぜんと  涙をさそわれる」八木重吉の詩ですが、ふと気付けば、このように<生の営みに励み切なく生きて居る>というような状態の季節は何時の間にか過ぎていて、コオロギ位しか残っていないようです。
 またこの「すだくような虫の音」を聞くには、一年待たなければなりません。身近なカラスの様子に心を寄せて、親しい気持ちで過ごすのも良いのではないか、と思っています。



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