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彼女がその名を知らない鳥たち

2017年11月15日 | 邦画(17年)
 『彼女がその名を知らない鳥たち』を渋谷シネパレスで見ました。

(1)蒼井優の主演作ということで映画館に行ってきました。

 本作(注)の冒頭では、マンションの1室で、十和子蒼井優)が電話をかけています。
 十和子が、「そろそろ何とかしてもらわないと」「電話もこれで3回目」と言うと、電話の相手(デパートの時計売り場の店員)は「何分、メーカーが操業停止しておりまして」と答え、それに対し十和子が「それは先週聞きました」「なんだか私がゴネているみたい」「誠意が感じられません」「責任者と話がしたい」と言うと、相手は「責任者は今席を外しています」と答えるので、十和子は「では、私の方から電話します」と言って、電話を切ります。

 十和子は、マンションの部屋から出て外の廊下を歩いていると、陣治阿部サダヲ)から電話が。
 十和子が嫌そうに「何?」と訊くと、陣治は「今、うちか?」と尋ねます。それに対し十和子が、「電話かけてこないで」と言うと、陣治は「晩飯、何買ったら良い?」と尋ねます。それに対し十和子は、「うるさい!」と言って、電話を切ります。

 次いで、場面はレンタルDVDの店。
 十和子が、「見れないんです、これ」「途中で画面が止まってしまうから」「途中まで見た時間をどうしてくれるんですか?」と文句を言っています。
 その時、店の外に男の影を見て、十和子は店を出ます。
 すると、また携帯に陣治から電話がかかってきます。
 十和子が「いい加減にして!」と怒ると、陣治は「何かあったのか?」と訊くのですが、十和子は電話を切ってしまいます。

 ここでタイトルが流れます。

 十和子と陣治が住むマンションの部屋。
 十和子は、TVのディスプレイにDVDを映し出して見ています。
 映っているのは、ベッドで寝ている十和子。黒崎竹野内豊)の声が、「起きて」「十和子、起きて」「何時間寝ているんだ」などと言っています。

 そこへ陣治が「只今」と部屋に入ってきます。十和子は、慌ててDVDを仕舞います。
 陣治は、「天ぷら買ってきた」「今、うどん作るから」「天ぷらうどんにしよう」「ビール飲んでて待っていて」と言いながら、台所のシンクで顔を洗います。

 2人でちゃぶ台で、陣治が作った天ぷらうどんを食べます。
 陣治は、口の中に指を入れて歯を抜き出し、ちゃぶ台の上に置きます。
 それから、「今日は1日しんどかった」「主任がうるさくて」「うちの会社でまともに図面が描けるのは俺だけなのに」と陣治が言うと、十和子は「一国一城の主になるというのはどうしたの?」と混ぜっ返します。陣治が「まあ、見てな」「十和子のためならなんでもする」と答えると、十和子は「50にもなるのに、よく言うわ」と応じます。

 こんなところが、本作の始めの方ですが、さあ、これからどのように物語は展開するのでしょうか、………?

 本作は、『ユリゴコロ』の原作者が書いた小説を映画化したもので、同作では、サイコパスの女が主人公でしたが、本作は、とても共感を呼ばない嫌な女を主人公として、彼女の周りに集まるこれまたおかしな男たちとの関係を描き出します。とてもありそうもないお話しながら、全体がラブストーリー物のサスペンスに仕上がっているのは面白いなと思いました。

(本作はサスペンス的な要素が多く盛り込まれている作品にもかかわらず、以下においてはいろいろとネタバレしておりますので、未見の方はご注意ください)

(2)このところ、“イヤミス女王”と言われる沼田まほかる氏(注2)の著書を映画化した作品を、2本立て続けに見ています。一つは、先月見た『ユリゴコロ』であり、もう一つが本作です。
 タイトルが異なるとはいえ、同じ著者の小説を映画化しているのですから、雰囲気が似てくるのは当然でしょうが、さらに、『ユリゴコロ』に出演していた松坂桃李が、本作でも重要な役柄を演じています。

 もう少し申し上げれば、『ユリゴコロ』は、サイコパスである美紗子吉高由里子)が主人公であり、彼女によって何人も殺され、“イヤな”雰囲気を醸し出していますが、本作の主要な登場人物も、人から毛嫌いされる者ばかりなのです。
 すなわち、本作の主な登場人物の十和子は、上記(1)からわかるようにモンスタークレーマーですし、マンションで陣治と一緒に暮らしていて、陣治の稼ぎでそれが可能なのにもかかわらず、陣治のやることなすことを絶えず口汚く罵る大層身勝手な女です。
 また、十和子よりも15歳年上の陣治の方も、粗野で卑屈であり、見た目も至極不潔な男です。



 その上、8年前に十和子が心を動かした黒崎や、肉体関係のある水島松坂桃李)は、十和子に酷く不誠実な態度をとったりします(注3)。



 さらには、『ユリゴコロ』が途中からラブストーリー色が濃厚になってくるのと同じように、本作も、後半になるとガラリと様相が一変して、十和子と陣治との思いがけない関係が明らかになってきます。

 その際、要となるのが、『ユリゴコロ』では細谷亮介松坂桃李)の婚約者の友人〕の存在でしょうし、本作では十和子の記憶喪失でしょう。
 ただ、映画『ユリゴコロ』では、細谷を木村多江が演じたことなどで問題が生じているように思えましたが(注4)、本作では、十和子が、ラストに近づくまで8年前の出来事を完全に忘れているという点でリアリティがやや欠けているように感じられました(注5)。

 加えて言えば、最後に陣治が十和子に、「これからは、思い出したことを全部抱えて生きていくんや」「十和子、目を覚ませ」と言いながらも、「俺が助けてやる」「十和子が思い出したこと、俺が全部もっていってやる」と言いますが、そんなことで事態は上手く収まるのでしょうか?
 十和子は、ラストに至り8年前のことをすべて思い出したのであり、いくら陣治が8年前のことを引き受けると言ってみても、それは彼がやったのではなく、十和子自身が引き起こしたことなのですから、十和子が自分でケリを付けなければ立ち直れないように思われます。
 一体、十和子はどのようにケリを点けるというのでしょう?

 ラストでは、最初に3羽の鶏が飛び立ち、その後沢山の鳥が飛び立ちます。
 十和子はそれを見上げるのですが、その鳥は、あるいは、十和子がこれまで直視してこなかった「真実の愛」というものを象徴しているのかもしれません(注6)。
 でも、それを見ることによって十和子はいったい何を得るのでしょうか(注7)?

 とはいえ、それらのことは、酷く特異ながらも愛の形が描き出せれば、どうでもいいことなのでしょう。
 それに、本作における出演俳優の演技合戦は見ものです。
 特に、阿部サダオの演技は、元々演技のとても上手な俳優ながらも、いつも以上に説得力が備わっているように感じられましたし、また松坂桃李も竹野内豊も、十分役になりきっているように思われました。
 ただ、期待した蒼井優ですが、『オーバー・フェンス』でのキャバ嬢とか『ミックス。』での中華屋給仕などを見てしまったせいかもしれませんが、そして、グータラで自堕落な女という役柄上、仕方がないのかもしれませんが、イマイチの感じがしたところです。

(3)渡まち子氏は、「(白石和彌監督は)本作では、欠点を隠そうともしない人間臭い男女を通して愛の本質に迫っている。その気概に、蒼井優と阿部サダヲの2人が凄みのある演技で答えた」として70点を付けています。



(注1)監督は、『日本で一番悪い奴ら』の白石和彌
 脚本は浅野妙子
 原作は、沼田まほかる著『彼女がその名を知らない鳥たち』(幻冬舎文庫)。

 なお、出演者の内、最近では、蒼井優は『ミックス。』、阿部サダヲは『殿、利息でござる!』、松坂桃李は『ユリゴコロ』、竹野内豊は『シン・ゴジラ』、中嶋しゅうは『関ヶ原』(伊賀忍者の赤目役)で、それぞれ見ました。

(注2)例えば、この記事とかこの記事

(注3)黒崎は、借金の返済のために、自分の結婚相手の叔父・国枝中嶋しゅう)とセックスするよう十和子に強要するのです。
 また、水島は、メルヘンチックな作り話(「去年はタクラマカン砂漠に行った」)をしたりして十和子の気持ちを自分の方に向けさせますが、単に、十和子の肉体を求めているだけのことでした。

(注4)映画『ユリゴコロ』についての拙エントリの(2)をご覧ください。

(注5)原作小説では、陣治が十和子に、「自分を守ろ、なんとか生きていことする本能みたいなもんが、十和子に忘れさせたんや」とか、「俺が読んだ本には、えらい難しいこと書いてあったわ。防衛の機制がどうたら、罪障感を伴う記憶の歪曲がどうたら―、要するに、潜在意識下への抑圧いうのが原因になって、いろいろ考えられへんような逸脱行動やら神経症やらが起きているていうことや。せやけど、そんなんピンとけえへん。ええか十和子、これは、昔の人が怨霊とか祟りとか言うたことなんや。ほんまにそんなことが起きたんや。お前が忘れているのをええことに、黒崎の霊がおまえにとり憑いとったんや」と話します。
 こうした陣治の言い方では、結局、「(起きたことは)昔の人が怨霊とか祟り」によるということになってしまいます。
 勿論、それは陣治の言い分にすぎないのであり、それを真に受ける必要はないのでしょう。
 それに、こうした記憶の欠落が実際に起こることもあるのかもしれません(本作の映画では、原作で述べられている心理学的な説明の部分は、陣治の台詞から落ちてしまっていたように思います。とはいえ、陣治は、当初は大手の建設会社のホワイトカラーだったはずで、「悪霊とか祟り」といった非合理な説明を受け入れているとも思えないのですが。それはともかく、十和子の事例は、あるいは、精神科で「解離性健忘症」と言われるものに相当するのかもしれません←例えば、この記事が参考になるでしょう)。
 ただ、それに十分なリアリティを持たせるには、十和子の日常の言動にそれらしいことを振り当てる必要があるのではないでしょうか?
 例えば、本作とは逆に、黒崎と同様の雰囲気を漂わせる水島を見るとものすごい拒絶反応を示したり、凶行場所の駐車場には、足がすくんでしまってどうしても近づけなかったりするといったような。
 でも、本作の十和子は、単に8年前の出来事を忘れているだけで、他の言動はずっと変わりがないように見えます。なにしろ、水島に黒崎の幻影を見てしまうくらいなのですから。

(注6)直視してこなかったがために、十和子は「その“鳥の名”を知らない」のでしょう。
 そして、その“鳥”を目で見たからこそ、その鳥たちを見上げる十和子の顔は輝いているように思えました。
 とはいえ、ラストで、十和子と陣治との生活の楽しかった部分が回想として流れますが、それは「愛」の真実の反面であり、もう一つの半面をも十和子は直視しなくてはならないものと思われます。
 陣治は、「もっと真っ当な男を見つけて、俺を産んでくれ」「俺はタネナシやけど、お前の体の中に入れるから」と言いますが、ということは、陣治は、十和子が自分との真実の関係を忘れることを望んでいるのでしょうか?でも、そんなことになったら、同じことの繰り返しになるだけのように思えるのですが。

(注7)『ユリゴコロ』でも、ラストは、細谷が亮介の父親・洋介の病室に赴くところで終わっていて、その後どうなるのかはわかりません。
 しかしながら、物語の結末の先の話など詮索するまでもないでしょう。
 本作についても、その後お十和子がどうなるのかなどどうでも良いことなのかもしれません。



★★★☆☆☆

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Unknown (atts1964)
2017-11-21 08:31:29
白石監督の秀逸のドラマ作品だったと思います。蒼井優、阿部サダヲという、優れた演技の二人を堪能できましたし、ミステリー調なんですが、実は愛のドラマだったいうラストの衝撃が切なくて。
いつもTBありがとうございます。
Unknown (クマネズミ)
2017-11-21 21:56:16
「atta1964」さん、コメントを有難うございます。
おっしゃるように、「ラストの衝撃が切な」かったと思います。ただ、あの終わり方だとすると、十和子は、自分がしたことをまっすぐに見ることが出来るのか疑問に思われるところですが。
Unknown (ふじき78)
2017-12-08 23:18:23
> 本作では、〇〇〇が、ラストに近づくまで8年前の出来事を完全に忘れているという点でリアリティがやや欠けているように感じられました

ちなみに私、記憶喪失の経験があります。ちょっとした事故にあったのですが、事故前後の記憶がすっぽり抜け落ちました。だから、あの〇○○さんのあの辺りの記憶(多分、会ったくらいまでの記憶はある)はそんなに違和感ない。あー、私も〇〇〇さんみたいに〇〇してたらどうしよう。
Unknown (クマネズミ)
2017-12-10 06:04:59
「ふじき78」さん、コメントを有難うございます。
おっしゃるような「記憶喪失」は、誰にでも起こるように思います。ただ、本作の十和子(蒼井優)の場合、黒崎(竹野内豊)のみならず、水島(松坂桃李)についてもそういうことが起こるような感じもし(陣治がそう期待しています)、そういう点もあって幾分リアリティが欠けるように思ったところです。
Unknown (ふじき78)
2017-12-10 09:22:35
水島の件はあくまで陣治の希望なので。その通りになったらリアリティに欠けるでしょうね。

確か何回も都合よく記憶喪失する富田靖子主演の「ジューン・ブライド」という映画があった筈だ、というのを無理やり思いだしました。
Unknown (クマネズミ)
2017-12-10 09:42:18
「ふじき78」さん、サイドのコメントを有難うございます。
早速、富田靖子主演の「ジューン・ブライド」のあらすじをMovieWailerで調べてみると、同作(1998年)は、「事故で記憶を失った女性が、記憶を思い出していくことでおぞましい過去が明らかになっていくラブ・サスペンス」のようで、富田靖子扮する主人公の池野千尋は「数度に渡って記憶を失っている」ようですね。このような作品が過去にあるのであれば、本作などはある意味で可愛らしいものかもしれません。
それにしても、「ふじき78」さんは、20年ほど前の作品をよく覚えていらっしゃいますね!

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