孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

メコン川水資源をめぐる流域国の争い 日本も関与している流域開発

2018-09-30 22:19:47 | 東南アジア

(ラオスではまだまだ河とともに生きる昔ながらの暮らしが残っている【室橋裕和氏「ラオス 中国のダム建設で環境破壊も」】)

韓国企業の手抜き工事の可能性も指摘されているセピアン・セナムノイ・ダム決壊
今日午前中、台風24号が鹿児島本土の南方を通り過ぎて行きました。
すでに、フィリピン東には次の台風25号が控えており、これも1週間後ぐらいには24号と同じようなコースをたどる可能性も。

このところの日本は台風、豪雨、地震と災害が続いており、なんだか落ち着かない感も。

インドネシアの地震・津波も、今は死者832人とのことですが、被害が最も大きかった都市の被害状況がよく把握できていない段階での数字ですから、今後、数千人規模に拡大することもありえる状況です。

そんな国内外で災害・事故が相次ぐなかでは、2か月も前のラオスの事故などは印象が薄くもなりますが、ラオスでは7月23日にカンボジア国境も近い南部アッタプーで建設中だったダムが崩壊する事故が発生して話題にもなりました。

周辺の村々が濁流に飲み込まれ、これまでに39人が死亡、97人が行方不明となっています。また6000人以上が避難生活を余儀なくされており、下流域のカンボジアでも5000人あまりが家を失ったそうです。

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建設を請け負っていたのはPNPC(セピアン・セナムノイ電力)という3か国による合弁企業だ。ラオスの国営企業、タイのエネルギー大手であるラチャブリー電力、そして事業主体を担っていたのは韓国のSK建設と韓国西部発電である。

インドシナ半島を貫く「母なる大河」ともいわれるメコン河の支流で建設が進んでいたセピアン・セナムノイ・ダムだったが、工事がおよそ90%ほどまで進んでいたところで決壊。50億立方メートルの水が土砂とともに流出したと見られている。

そのとき、インドシナ半島には台風9号(ソンティン)が襲来、ベトナムで多量の雨を降らせ、首都ハノイでは各地で洪水が発生するなど大きな被害をもたらしていた。

日本と同様、毎年この時期には台風が多く、東からインドシナ半島に侵入してくる。そして半島の背骨のように南北に続くラオスの山岳部で停滞し、周辺は大雨となる。

ダムは7月20日に一部の損壊が発見され、住民の避難がはじまったものの、豪雨のために修復工事ができず決壊に至った。事故の原因については韓国企業の手抜き工事の可能性も指摘されており、今後の調査が待たれるところだ。【後出 室橋裕和氏「ラオス 中国のダム建設で環境破壊も」】
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工事が適正に行われていたのかも問題になるなかで、ラオス政府は新規ダム建設を全面中止し、日本を含む海外の専門家を招いて決壊原因の解明を進め、建設企業などの責任を追及する構えを見せています。

【「東南アジアのバッテリー」として成長を目指すラオス
多くの国が経済的に成長する東南アジアにあって、資源が乏しい内陸国であるラオスはこれまで成長の波から取り残されてきました。

そんなラオスが経済成長の基軸として期待している資源が、大河メコン川の水力を活用した「電力」で、相次ぐダム建設で「東南アジアのバッテリー」ともいわるまでになっています。

****ラオス 中国のダム建設で環境破壊も****
(中略)そんなラオスで好調な産業が「売電」なのである。メコン河やその支流などを利用した水力発電ダムを次々に建設、電力を周辺諸国(おもにタイ)に輸出している。その発電量は6390.9MW(2016年)に達しており、「東南アジアのバッテリー」ともいわれている。

2016年には中国によって、北部ルアンパバン県にナムカン3ダムが建設されるなど、新たに4つのダムが稼動をはじめた。国内には42か所の発電施設があり、さらに各地で建造が続く。

中部のボリカムサイ県では、関西電力によってナムニアップ1水力プロジェクトが進む。やはりメコン河の支流であるナムニアップ河に、発電容量計29万kwの発電所を2基、建設する。電力はこちらもタイへと輸出される。

大林組やIHIインフラシステムなどが計画に参加し、運転開始は2019年1月の予定。このダムの総貯水容量は約22億立方メートルで、日本最大級である黒部ダムの10倍以上という規模になる。

莫大な発電量を持つラオスでは電気料金は安価で、家庭用の場合1kw/hあたり0.05〜0.08米ドルだ。東京0.16〜0.25米ドル、プノンペン0.15米ドルと比べてみるとその安さがわかる。
工業用の電力も同様で、1kw/hあたり0.078米ドル。東京0.12米ドル、プノンペン0.21米ドルよりはるかに安い。

大電力を必要とする工場にとっては大きな差となり、これを「売り」にして外資の製造業を誘致する動きもある。日系企業はいまのところ、首都ビエンチャン郊外のビタ・パーク経済特区、南部サワンナケートのサワンセノ経済特区などに少数が進出するに留まっている。

しかし今後は、タイやベトナム工場との分業体制が進むと見られ、ラオスの役目も大きくなるかもしれない。発電を軸にしたラオス経済は、この3年間の平均GDP成長率が7%を超えた。まだまだ後発国ながら、山地に刻まれた川筋はこの国の未来でもあるのだ。【9月30日 室橋裕和氏 Japan In-depth】
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開発モデルの原型を提示したのは日本
ラオスが電力開発に傾注するようになったきっかけは、数多くの日系企業が関わり、日本のODA(政府開発援助)のもと、世界銀行などの融資によって1968年から建設が進められたナムグム・ダムだそうです。

ラオスに現在の開発モデルを提供したのは日本ということにもなります。

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(中略)この発電ビジネスに旨味を見出したラオス政府は、諸外国の支援によるダム建設を次々に進めるようになった。事故を起こしたセピアン・セナムノイ・ダムもそのひとつだ。

そしていま、ラオスに対して大きな影響力を持っているのは中国である。発展が続いているとはいえ国力の弱いラオスは、国際会議やスポーツの大会などの会場建設も難しい状態で、そこへ中国が手を貸した。

例えば2009年にビエンチャンで開催されたSEA GAMES(東南アジア競技大会)のスタジアムは中国が建設したものだ。2012年のASEM(アジア欧州会合)で使われた迎賓館とコンベンションセンターも同様だ。

その見返りに、中国はビエンチャン中心部の開発権を得たといわれる。こうした手法でラオス経済に深く食いこんでいるのだ。

北部のタイ・ミャンマー国境に位置するメコン河沿いの一帯は、99年間の予定で中国に租借され、ジャングルを切り開いてカジノやコンドミニアムが建設されるなど乱開発が続いている。「国土の切り売り」と国内外からの批判も強い。

そして中国は、メコン河とその支流域で、複数のダム建設計画を進めている。中国国内の電力需要をまかなう目的と、「一帯一路」構想により周辺国への影響をより強めるためだ。

しかし急激な開発によって、環境破壊を引き起こしている。水質汚濁だけでなく、大量の水を人為的にコントロールすることで、河に生息する魚たちは産卵場所を見失い、漁獲高が減るといわれている。

すでに「メコンの主」でもあったメコンオオナマズはその数を大きく減少させ、ワシントン条約の保護リストに入っている。カワゴンドウ(イラワジイルカ)も絶滅の危機にあるといわれる。このまま計画が進めば、2040年までに流域の漁獲高は半減するという試算もある。

中国は自国の領内、雲南省やチベットを流れるメコン河にもダムを多数建設しており、さらに増やす計画だ。これにより下流で起きているのが、大規模な「水不足」なのである。

ラオスからメコンを下っていくとカンボジアに至るが、近年ではメコンから引きこむ農業用水の減少に悩まされている。雨季の季節にはメコンが氾濫し、これが栄養分たっぷりの農地をもたらしてくれるのだが、水量は年々減っている。

さらに深刻なのはベトナムだ。メコンが無数の支流に分かれて南シナ海に注ぐベトナム南部のデルタ地帯では、塩害が発生している。河の水量が減り、水位が低下したことで、海水が流れ込んできてしまっているのだ。

メコンデルタは世界有数の農業地帯として知られている。(中略)このメコンデルタが塩害や水不足によって不作となれば、問題はことベトナム一国の経済不振に留まらない。世界的な食料不足を引き起こす可能性もある。

上流の中国がダムを開閉するたびに、下流に悪影響を及ぼす。これからラオスに建造されようとするダムもそれを拍車をかけるだろう。

ラオスでは、2020年までには水力をメインとした発電所の総数は75を 数えるといわれ、総発電量は1万MWを突破する。発展を続けるASEAN(東南アジア諸国連合)の電力需要を満たす規模になるという が、その代償は大きなものになるかもしれない。【同上】
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メコン水資源をめぐる中国・流域国の争い
このメコン川の水資源をめぐる流域国の対立は以前からある話で、このブログでも何回か取り上げたことがあります。(2012年11月11日ブログ“ラオス メコン川本流でのダム建設を強行 強まる中国の影響力 対中依存軽減の取り組みも” 2012年5月16日ブログ“ラオス メコン川ダム建設を延期 東南アジア国際関係の縮図”など)

****メコン川上流を支配する中国、下流域諸国の生命線を握る****
カンボジアの漁師、スレス・ヒエトさんはメコン川の恵みで生活している。大勢の人の暮らしを支えているメコン川だが、中国が東南アジア諸国への物理的・外交的支配力強化のために利用するダムの脅威にさらされている。
 
ヒエトさんはイスラム教を信仰するチャム族の一員で、カンダル州を流れる川に浮かぶぼろぼろのボートハウスに住んでいる。ヒエトさんの1日の漁獲量は年々減少しているという。(中略)

こうした嘆きがチベット高原からミャンマー、ラオス、タイ、カンボジア、ベトナムを通過し南シナ海に流れ込むメコン川流域の村々から聞こえてくる。
 
全長約4800キロのメコン川は世界最大の淡水漁場で、アマゾン川に次ぐ生物多様性を誇り、流域に暮らす約6000万人の胃袋を支えている。
 
しかし、源流の管理は上流の中国に委ねられている。

■中国に抵抗できない下流域諸国
米環境団体インターナショナルリバーズによると、中国政府はすでにメコン川上流に6基のダムを設置し、南部に建設が予定されている11基のダムの半数以上に出資している。
 
複数の環境団体はダムによる川のせき止めによって、大勢の人が洪水の被害を受け避難を余儀なくされるのはもちろん、魚類や重要な栄養素、堆積物の移動が妨げられることで魚の生息環境に深刻な脅威をもたらすと警鐘を鳴らしている。
 
メコン川下流域の国々では近年魚類資源の激減が報告されており、その原因はこうしたダムにあるとする批判もある。専門家らはメコン川の生態系の基本データが欠如していることやその複雑さから、確定的な結論を出すのは時期尚早だと指摘している。
 
しかし下流域の貧しい国々の経済の生命線を中国が握っているという点で専門家の意見は一致している。(中略)
 
現地で瀾滄江と呼ばれる源流を支配する中国政府はメコン川の一部をせき止めることができるほか水位の調整も可能で、下流がその影響を受ける。
 
2016年に中国側のダムの水門を開き、ベトナムの深刻な干ばつの緩和に一役買ったことで示されたように、交渉における強力な切り札となっている。【2月11日 AFP】
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ベトナムも単に「被害者」というだけでなく、もともとラオスはベトナムの影響力が強い国ですから、ラオスでのダム建設にはベトナムもかかわっています。

****ベトナム、ラオスのメコン川流域に巨大水力発電ダム建設計画****
急速な産業発展に伴いエネルギー不足に悩むベトナムが、隣国ラオスに20億ドル(約2300億円)規模の巨大水力発電ダムを建設するプロジェクトを立ち上げる。

今年度8.4%の経済成長率を遂げたベトナムは、電力需要が毎年倍増する勢いだ。しかし、水力発電の供給元となる水源が国内には乏しいことから、水源豊富な隣国ラオスに目をつけた。

ダム建設予定地は、ラオス北部の古都ルアンプラバン近郊のメコン川(流域。ベトナム電力大手ペトロベトナム電力総公社(PVパワー)は、翌年4月をめどに事前調査をまとめるとしている。完成すれば、現在ラオスで稼働中の既存ダムを超える最大規模のダムとなる。(後略)【2007年12月26日 AFP】
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無秩序な砂採掘によるメコンデルタ消滅の危機も
さらに言えば、メコンデルタの環境を危機においやっているのは中国・ラオスのダム建設だけでなく、ベトナム自身の無秩序な砂採掘も大きく影響しています。

****無秩序な砂の採掘でメコンデルタが危機、ベトナム****
2017年のある午後、ベトナム、ティエン川のほとりで小さなコーヒーショップを営む67歳の女性ハ・ティ・ベさんは、息子とともに川がのんびりと流れるのを眺めていた。その時だ。突然、すぐ下の地面が水中へと崩れ落ちた。(中略)

崩壊の主な原因は、浚渫(しゅんせつ)船だ。メコン川の主な支流の1つであるティエン川では、濁った水面にいくつもの浚渫船が浮かび、やかましいポンプを使って膨大な量の砂を川底から集めている。

コンクリートの原料である砂は、急成長するベトナムの都市で、建築材料として欠かせない。その需要は急増しており、ベトナムの河川だけでなく、極めて重要な穀倉地帯メコンデルタにも大きな混乱を起こしている。
 
メコン川を始めとするベトナムの川沿いの町や村では、浚渫によって川岸が崩され、田畑や魚の養殖池、商店、民家が水中に消えている。ここ数年で数十平方キロの稲作地が失われ、少なくとも1200世帯が移住を余儀なくされている。政府当局は、こうした崩落地帯から移動が必要な人口を、メコンデルタ地域だけで約50万人と推定している。
 
浚渫の被害を受けているのは人間だけではない。一帯にすむ魚や植物などの命を奪っている。「子どものころ、魚やカタツムリを捕まえて食べたものですが」と、ハ・ティ・ベさんは振り返る。「浚渫船が来るようになって、魚もカタツムリもいなくなりました」(中略)

ベトナムでは、砂の採掘がさらなる危険をもたらしている。貴重なメコンデルタを緩やかに消滅させつつあるのだ。2000万人が暮らし、ベトナムの全食糧の半分を生産し、他の東南アジア諸国が消費する米の大部分を供給する土地が、危うい状況にある。
 
メコンデルタでは毎日、サッカー場1.5個に相当する土地が失われている。気候変動による海面上昇もその原因の1つではあるが、もう1つの大きな原因はデルタからの砂の採掘だと、専門家らは考えている。
 
昔からメコン川は、中央アジアの山々にある土砂を下流のデルタ地帯に運び、補充する役割を担ってきた。しかし近年は、メコン川流域の国々がこぞって大量の砂を採取している。(中略)

一方で近年、メコン川に5基の大型ダムが建設され、加えて中国、ラオス、カンボジアでもメコン川に12基のダムが建設予定だ。ダムができれば、デルタに流れ下る土砂はさらに減る。
 
言い換えれば、デルタ地帯の浸食は続いているのに、自然の作用による堆積は途絶えているということだ。「土砂の流れは半減しています」と、世界自然保護基金(WWF)のメコン川保全プログラム研究員マルク・ゴワショ氏は話す。「このペースだと、今世紀の終わりにはデルタの半分近くが消えているでしょう」と、氏は危惧している。(後略)【3月20日 ナショナル ジオグラフィック】
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砂の違法採掘が賄賂によって当局の規制をすり抜けているという国内問題もあります。

10月東京で日メコン首脳会議 「質の高いインフラ」整備などで「人間中心の社会」の実現
国際的にみると、メコン川流域の開発は、中国と日本のこの地域への影響力をめぐる競争の舞台ともなっています。

****メコン流域6カ国が首脳会議 開発に7兆円****
コン川流域の中国、タイ、ベトナムなど6カ国が参加する「メコン川流域開発計画(GMS)」の首脳会議が31日、ベトナム・ハノイで開かれた。域内のインフラ整備などに向け、2022年までに総額660億ドル(約7兆円)規模に上る200以上の開発プロジェクトを推進することを盛り込んだ協力文書を採択した。
 
採択した「ハノイ行動計画」は、流域各国の連結性を強化するため、各国を結ぶ「経済回廊」を拡充することを呼び掛けた。
 
GMSは、日本などが主導するアジア開発銀行(ADB)が旗振り役となり1992年に発足した枠組み。【3月31日 共同】
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来月、東京でも。

****日メコン首脳、連結強化で協力へ 10月の東京会議で戦略採択****
メコン川流域のタイ、ミャンマー、ベトナムなど5カ国と日本が10月に東京で開く「日本・メコン地域諸国首脳会議」で採択する「東京戦略2018」の草案内容が28日、判明した。

日本とメコン各国の協力分野の新たな3本柱として(1)インフラ整備を通じた域内各国の結びつきの強化(2)格差や貧困のない「人間中心の社会」の実現(3)「緑のメコン地域」の実現―を挙げ、インフラ整備や人材育成、気候変動対策などで共に取り組むとしている。
 
外交筋によると、「質の高いインフラ」整備などを進めるほか、情報通信技術などソフト面の結びつきの強化でも協力する。【9月28日 共同】
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