
(ドイツ・ケムニッツ 極右支持のデモ参加者は「難民流入を止めろ!」と書かれたプラカードを掲げた 【8月28日 BBC】)
【スウェーデン 「移民を助けるのか、それとも(スウェーデン生まれの)我々を助けるのか」】
人権・寛容などの価値観を重視する欧州民主主義を代表するような二つの国、スウェーデンとドイツがともに、これまで政権を担ってきた既成政党の支持が減少し、代わって極右とも称される排外的政党が台頭しています。
その背景は、これまた両国とも同じように、これまでの寛容な移民・難民受け入れに対する国民の不満です。
****与野党とも過半数届かず=「反移民」極右は伸長―スウェーデン総選挙****
9日投票のスウェーデン総選挙(一院制、定数349)は、10日未明(日本時間同日午前)までに開票がほぼ全て終了し、与野党いずれの陣営も過半数を獲得できなかった。
一方、「反移民」を掲げて支持を集める極右スウェーデン民主党は伸長した。次期政権に向けた連立交渉が難航するのは必至の情勢だ。
ストックホルムからの報道によると、得票率はロベーン首相の社会民主労働党(社民党)率いる左派の与党連合が40.6%、穏健党を中心とする中道右派の野党連合は40.3%。社民党は単独で第1党の座をかろうじて守ったが、得票率は過去最低水準の約28%で、長年政権党として高福祉高負担を実現してきた同党の退潮が顕著になった。
ロベーン首相は10日未明、野党の退陣要求を拒否。「有権者の意思と選挙制度を尊重し、首相として落ち着いて仕事をする」と述べ、新政権づくりへ超党派の協力を呼び掛けた。
一方、民主党は2014年の前回選挙時(12.9%)を大幅に上回る17.6%の票を獲得し、社民、穏健両党に次ぐ第3党の座を維持。一部で予想された第1党への躍進はなかったが、オーケソン党首は「われわれがこの選挙の勝利者だ」と強調。「他党と協力し、話す用意がある」と政権入りに意欲を示した。ただ、どの党も民主党との連立を否定している。
ネオナチ運動にルーツを持つとされる民主党は近年、中東などから難民や移民が大量に流入する事態に不安を抱く国民の受け皿として急速に支持を広げてきた。
外国人に寛容な姿勢から「欧州で最も開かれた国」と言われるスウェーデンだが、移民問題をめぐり大きく右寄りにシフトしたことが浮き彫りになった。【9月10日 時事】
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既存政党も国民世論のを受けて、より厳格な移民・難民政策へシフトせざるを得ない流れにあります。
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「人道大国」を自任してきた人口1千万人のスウェーデンでは難民らを積極的に受け入れてきた。
中東やアフリカの紛争地などから人の波が欧州に押し寄せた2015年も、ドイツと並んで積極的に迎え入れ、約16万3千人の難民申請を受け付けた。
だが社会の動揺も大きく、政府は受け入れ制限へ方針転換。反移民の民主党が支持を伸ばすなかで、各党がより厳しいスタンスを打ち出さざるをえなくなっている。【9月10日 朝日】
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スウェーデンは近年のアフリカ難民・移民だけでなく、これまでも多くの難民を受け入れてきましたが、その結果、「移民を助けるのか、それとも(スウェーデン生まれの)我々を助けるのか」という形で、国論が二つに分かれています。その片方の声を代弁したのが躍進した民主党です。
****<スウェーデン総選挙>移民政策、国論二分「極右選択肢に」****
(中略)民族的な多様性を巡り、国論が二分している。
スウェーデンは積極的に難民を受け入れてきた歴史がある。1990年代の旧ユーゴスラビア紛争や2003年のイラク戦争時には数万人の難民を受け入れた。13年9月には欧州では最初に内戦状態に陥ったシリア難民の全面的受け入れを発表。
一方で、外国生まれの移民の割合は人口1017万人のスウェーデンで約18%に達している。
右翼政党に詳しい同国マルメ大のヘルストローム准教授は「移民・難民が急増した結果、移民を助けるのか、それとも(スウェーデン生まれの)我々を助けるのかという形で意見が割れている」という。
国民所得に占める税と社会保障負担の割合を示す国民負担率は約57%と高く、民主党は福祉予算の振り分けに不満を持つ層に支持を広げている。
その結果、「10年前には誰も投票しようとは考えもしなかった民主党が選択肢の一つになっている」と説明する。
また、民主党は「スウェーデン人らしさ」を強調して、自国の文化や伝統の価値観の重要性を主張。「支持者に収入などによる偏りはほとんど見られず、左派政党の元支持者も取り込んでいる」という。一方、民主党の主張に対する反発も強く、「世論は二分されている」と指摘する。【9月9日 毎日】
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英BBC放送は10日「スウェーデンと欧州にとって歴史的」と伝えています。
また、ロイター通信は、同党が第2党になるなど大躍進するには至らなかったことにEU当局は安堵していると報じたとも。【9月10日 共同より】
今回は政権には直接は関係しない“躍進”ですみましたが、次回はそれではすまなくなる可能性があります。
すでにデンマークでは排外的右派ポピュリズム政党「デンマーク国民党」が閣外協力で政権を支える立場にあり、少数与党の現政権は“デンマーク国民党の支持を得るため、デンマーク国民党からの提案のほとんどを受け入れており、デンマークの政策を管理しているのはもはやデンマーク国民党だとする意見が多い。”【ウィキペディア】とも。
イタリアでは難民排斥的な右派「同盟」が、ポピュリズム「五つ星」とともに政権を獲得しています。
【ドイツ 相次ぐ難民絡みの事件で過激化する排斥運動】
ドイツの政治状況も、スウェーデンとよく似ています。ドイツで台頭しているのは排外的極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」です。
****大連立組む独2大政党、支持率過去最低に=世論調査*****
9日に公表された世論調査によると、メルケル首相率いるキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)と、その連立相手である社会民主党(SPD)の支持率の合計が過去最低となった。
世論調査会社Emnidが独紙ビルトの依頼で行った調査によると、CDU・CSUの支持率は1%ポイント低下し、29%だった。昨年9月の連邦選挙では32.9%の票を獲得していた。
SPDの支持率は2%ポイント低下し、17%だった。昨年の選挙時には20.5%の票を獲得した。
CDU・CSUとSPDを合わせた支持率は46%で、2005─09年、および2013─17年も含め、大連立を組んだ時期の中で最低となった。(中略)
極右野党、ドイツのための選択肢(AfD)の支持率は15%で、前週から横ばい。左派党は1%ポイント上昇し10%。
緑の党は14%で変わらず。企業よりとされる自由民主党(FDP)も9%で横ばいだった。【9月10日 ロイター】
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2017年9月24日に行われたドイツ連邦議会選挙で、「ドイツのための選択肢」は政党名簿投票分(間接投票の比例代表)で12.6%を獲得し、94議席を獲得。加えて、“旧東独南部のザクセン州では直接投票の小選挙区で3人当選”【ウィキペディア】というように、西側に微妙な感情を持つ旧東ドイツで特に大きな勢力を形成しています。
2013年に発足した当時は、ドイツの血税をつぎ込むユーロ救済策への批判がメインの主張で、排外的運動ではないとしていましたが、排外的極右運動“ペギーダ”と連動する形で右傾化を強めてきました。
AfD台頭の背景は、スウェーデン同様、急拡大した移民・難民受け入れに対する不満です。
****ドイツ東部で極右デモ激化 移民めぐる緊張浮き彫り メルケル首相決断から3年****
ドイツ東部ケムニッツで移民排斥を主張する極右支持者らのデモが激化している。移民によるドイツ人男性の殺害事件が発端で、「反極右」を訴えて対抗するデモとも衝突した。
メルケル首相が難民・移民受け入れで象徴的な決断を下して4日で3年。移民流入は減ったが、社会の緊張が改めて浮き彫りになった。
8000人集結
ケムニッツ中心部では1日夕、約8千人が集まり、「メルケルは去れ」とのプラカードや国旗を手にした人々がデモを繰り広げた。
参加者は極右や移民受け入れに反対する右派「ドイツのための選択肢」(AfD)の支持者ら。デモ終了予定時刻を過ぎ、解散を求める警官隊と参加者が対峙する場面もみられた。
一方、先立つ同日午後には移民排斥に反対する約3千人のデモも付近で開催。双方の衝突などを避けるため全国から警官約1800人が動員された。
大きな混乱はなかったが、18人が負傷。極右らのデモでは放水車や装甲車も配置され、独メディアは「非常事態」とその緊張感を伝えた。
発端は8月26日未明、市内の繁華街でドイツ人男性(35)が刺殺された事件だ。警察は容疑者としてイラク人(22)とシリア人(23)の男2人を逮捕。ともに難民申請が却下された後も国外送還されず、別の犯罪歴もあった。
市内では直後から事件への抗議デモが相次ぎ、27日には地元の極右グループが呼びかけたデモに国内各地から約6千人が結集。
予想を上回る動員に警察は対応しきれず、「反極右」を訴えるデモと衝突し、約20人が負傷した。極右のデモではナチス式の敬礼をとる参加者もおり、外国人への襲撃も起きたと伝えられる。
経済遅れが背景に
ドイツでは2015年9月4日、メルケル氏がハンガリーに滞留した移民・難民らを例外的に受け入れることを決断。国内外で称賛されたが、移民大量流入やテロ発生を受け、その是非をめぐり世論は分断した。
反移民感情は特に旧東独地域で強く、ケムニッツのあるザクセン州は極右支持も根強い。背景には旧西独地域と比べ、経済などがなお遅れているとの住民感情も指摘されている。
政府報道官は「ドイツに過激主義の場所はない」と極右デモを非難。独紙フランクフルター・アルゲマイネは「このままでは過激主義を利する」と政治的な対応を促した。【9月2日 産経】
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事件が起きた26日未明には、移民に反発する人々が暴徒化し、移民と見なした人に暴行を振るったりもする事態に。
メルケル首相の報道官は26日の襲撃について「路上での暴徒の集まりも、異なる背景を持つように見える人を追い回すことも、憎しみをまき散らそうという試みも、わが国には居場所はない」と強く非難しています。【8月28日 AFP】
9月1日のデモについては、以前はこうした排外的デモの参加者は少なく、移民排斥に反対する側の動員が数的に圧倒していましたが、上記記事によれば、移民排斥を訴える側が数的に凌駕するようにもなっているようです。
似たような移民とドイツ人の暴力沙汰が8日に再発し、事態は更に悪化。広範な暴力が懸念される状況となっています。
****アフガン出身の若者とけんか、ドイツ人男性死亡 極右の暴動に懸念****
ドイツ東部の町ケーテンで8日夜、ドイツ人男性がアフガニスタン出身の若者2人と殴り合いのけんかをした後、心臓発作で死亡した。
同地では翌9日、極右勢力が呼び掛けた抗議デモにおよそ2500人が集まり、地元当局は外国人排斥感情の高まりによる暴動を警戒し、冷静な対応を人々に呼び掛けている。
地元警察と検察当局によると、死亡した男性はケーテン市内の公園でアフガニスタン人の男2人と口論の末、けんかになった。男性の死因はけんかによる負傷とは「直接の関係はない」という。報道によれば、男性はかねて心臓の病気を患っており、病院で死亡したという。
検察は、アフガニスタン人2人のうち18歳の男を傷害の容疑で、また、20歳の男を傷害致死の容疑で取り調べている。
ドイツでは2週間前にも、東部ケムニッツで難民申請者とみられる男2人がドイツ人男性を刺殺したとされる事件があったばかり。
ケムニッツでは事件後、反移民のスローガンを叫ぶ極右デモが相次ぎ、参加者らがドイツの法律で禁止されているナチス式の敬礼を繰り返したり、見た目が外国人風の人々を襲撃したりした。
ケーテンでも事件がニュースになるや、極右勢力が「追悼行進」を行うと宣言。警察の推計で2500人が参加してデモが行われたが、午後9時(日本時間10日午前4時)ごろ平和的に解散した。
ザクセン・アンハルト州のライナー・ハーゼロフ州首相は、「ケーテンを第2のケムニッツにしようとするどんな試みにも抵抗しなければならない」と独DPA通信に語った。(後略)【9月10日 AFP】
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こうした移民排斥の動きに連動して右傾化を強めているのが、CDUの姉妹政党で連立与党の一角を占めるバイエルン州のCSUで、その党首ゼーホーファー内相は、「移民が“すべての問題の母親”」と移民排斥行動に共感を表明。
移民に暴力をふるう極右勢力を“ネオナチ”とか“移民恐怖症”と非難したメルケル首相サイドに対し、怒りに駆られた人々はナチズムではないと擁護しています。【9月6日 VOICE OF EUROPEより】
移民政策をめぐって、強硬な対応を求めるゼーホーファー内相とメルケル首相の間で6月に“内紛”があったのは周知のところです。
【社会に定着する難民も 送還政策の緩和を求める産業界 必要とされる覚悟と計画】
一部に移民・難民が関与した暴力事件が発生している一方で、多くの移民・難民がドイツ社会に根付き、少子化で労働力不足に悩む産業界も難民送還を進める政府に対し緩和をもとめるという側面もあります。
****ドイツ、根付く難民たち メルケル首相、受け入れ決断から3年****
欧州に押し寄せる難民の受け入れをドイツのメルケル首相が決断してから3年が過ぎた。
その後、難民排斥を掲げる右翼政党が台頭したものの、国内では4人に1人が職を得て社会に溶け込んでいる。経済界からは送還が決まった人々の引き留めを求める声が上がり、政府も検討を始めた。(中略)
政府機関の労働市場・職業研究所によると、就労可能年齢(15~64歳)の25・4%がブリムコさんのようにドイツ国内で働き、生活基盤を築きつつある。
■求人しても「ドイツ人来ない」
難民の増加は、新興右翼政党「ドイツのための選択肢」(AfD)の台頭をもたらした。押されるようにメルケル政権は難民の認定を厳しくし、送還を加速させている。
だが一方で難民はドイツ社会にとって、なくてはならない存在になりつつある。
「彼らがいなくなったら、どうすればいいのか」
南部シュツットガルト近郊で機械メンテナンス業を営むマルクス・ウィンターさん(51)は嘆く。(中略)
ドイツは好況が続き、特に南部は完全雇用に近い。ウィンターさんによると、働き手を求めてもドイツ人は応募しない。企業の間では難民の引き抜きさえ行われている。「彼らは税金や社会保障料を納め、ドイツ社会に貢献している。なぜ送還しなければならないのか、全く理解できない」
■政府、難民申請者認める新法検討
「少子化と労働者不足に対応するために新たな移民法の制定を要求する」 独アウトドア用品大手「ファウデ」のアンツィエ・フォンデービッツ社長は昨年9月、メルケル首相あてに、こんな手紙をしたためた。求めたのは、すでに就労した難民希望者に滞在許可を与えることだ。(ユ中略)
同社発の運動の輪は瞬く間に広がり、110社が名を連ねて有力政治家への働きかけを強めている。そこで労働社会省は、就労意思のある難民申請者に広く滞在を認める新法の検討を始めた。内務省が反対していて予断を許さないが、年内にも結論を出す予定だ。
ドイツは戦後の高度成長期、トルコなどと二国間協定を結び、多くの労働者を受け入れた。移民系と呼ばれる人々の割合は全人口の約24%に達する。
今回の難民たちの行方は、どうなるのか。
フンボルト大のヘルベルト・ブリュッカー教授は「シリアやイラクなど難民の母国の現状を考えると、多くはドイツに残り、永住する可能性がある。難民申請を拒否されても、すでに働いている場合は、恩赦で滞在を認めることになるのではないか。かつてトルコ人労働者の子どもたちにドイツ語教育を施さず、社会の分裂を招いた反省を生かし、今後は差別のない社会をいかに構築するかが重要だ」と話す。【9月6日 朝日】
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移民・難民を受け入れる以上は、人道主義だけでなく、“差別のない社会をいかに構築するか”という真摯で計画的な取り組みが必要で、そうした覚悟も計画もなかったことが種々のトラブルを生み、排斥的な極右勢力の台頭を招いています。