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孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

セルボアとコソボが「領土交換」を検討 EUは「禁じ手」と憂慮 トランプ大統領は同意か

2018-09-04 23:29:32 | 欧州情勢

(セルビア人が集住するコソボ北部ミトロビツァの目抜き通り。セルビア国旗がいくつも掲げられていた=2017年11月16日、松井聡撮影【2017年11月28日 毎日】)

W杯での“双頭の鷲”問題
今年6月に行われたロシアワールドカップで、スイスチームの選手のゴールパフォーマンスから、ある政治問題が話題となりました。

****スイス2選手の“ゴールパフォ”が物議「終わったはずの問題に火をつけた」【ロシアW杯****

現地時間22日にロシアワールドカップ・グループリーグE組第2節の試合が行われ、スイス代表はセルビア代表と対戦し2-1の逆転勝利をおさめた。

この試合で見せたスイス代表2選手のゴールパフォーマンスが物議を醸していると、22日にスイス紙『ノイエ・チュルヒャー・ツァイトゥング』が報じている。
 
(中略)(スイスチームのゴールを決めた)ジャカとシャキリが見せたゴールパフォーマンスが政治的意図を持っているとして物議を醸している。

同紙はタイトルに「ジャカとシャキリは政治的感受性が欠けている」とつけ、「ジャカとシャキリがゴールパフォーマンスでセルビア人を挑発した。彼らは、終わったと考えられていた問題に火をつけた」と報じている。
 
ゴールパフォーマンスで見せたポーズは、アルバニアの国旗に描かれている“双頭の鷲”を意味する。ジャカの両親はコソボより移民してきたアルバニア人で、兄のタウラント・ジャカはアルバニア代表だ。一方でシャキリはコソボ出身。
 
コソボは紛争の末にセルビアから独立した国だが、セルビアは独立を認めていない。ただ、アルバニア人が多数占めていることからアルバニアはコソボの独立を支持している。2014年に行われたセルビア対アルバニアの試合で乱闘騒ぎが起き、没収試合になったほど政治的問題は深刻だ。
 
ジャカとシャキリは相手が他ならぬセルビアだったからこそ、このようなゴールパフォーマンスをしたと考えられている。(後略)【6月23日 フットボールチャンネル】
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セルビアとコソボの対立は、スラブ系セルビア人とコソボの大半を占めるアルバニア人の間の民族対立でもあります。そこでアルバニア系を象徴する“双頭の鷲”が問題となりました。

旧ユーゴの民族問題の癒えない傷
記事では「終わったはずの問題」という表現が使われていますが、そのように言うにはまだまだ傷跡が生々しい問題です。

直接には、EU加盟をめざすコソボ・セルビア両国は、関係改善を加盟の条件とされているということもあります。

それ以上に、旧ユーゴスラビア解体の過程で「民族浄化」と呼ばれる大量殺りくが繰り返された結果、両国を含む旧ユーゴスラビア諸国にあっては、民族間の憎悪が消えておらず、セルビアとコソボの関係以外でも、ボスニアヘルツェゴビナのように国内における民族和解が進まず苦しんでいる国もあります。

問題とされているコソボ独立はもう10年前のことになりましたので、若い方のなかにはご存じない方もいるでしょう。そこで、簡単にセルビア・コソボの関係についておさらい。

下記は、元外交官で在ユーゴスラビア連邦共和国大使を務めた経験もある美根慶樹氏によるものです。

****W杯ゴールパフォーマンスが波紋 「コソボ紛争」を振り返る****
(中略)
セルビアにとってコソボは聖地
コソボは2008年2月、独立を宣言しました。それまではセルビア共和国に属する自治州でした。面積も人口も新潟県よりやや小さく、少ないくらいで、住民の9割以上はアルバニア人です。宗教はイスラム教であり、言語は「アルバニア語」で、セルビアなどスラブ系の言語ではありません。

しかし、コソボはセルビア人にとって聖地です。バルカン半島は中世のころからキリスト教とイスラムの両勢力が相接し、せめぎ合う地域でした。

17世紀の末、コソボ付近でオスマン・トルコ軍とオーストリア軍が激しい戦闘を行い、住民のセルビア人が多数殺害されました。そして、3万人とも言われるセルビア人が北へ逃れて行きました。これを契機に、コソボのアルバニア化が始まり、アルバニア人が住民の大多数を占めるに至ったのです。

しかし、セルビア教会はコソボに留まりました。現在も多数残っていますが、アルバニア人によって破壊された教会も少なくありません。教会の周囲はアルバニア人に囲まれており、非常に危険な状態になっているところもあります。(中略)

民族浄化、そしてNATO空爆
第二次世界大戦後に「ユーゴスラビア(ユーゴ)」を建国し、指導してきたチトー大統領は1980年に死去。1987年から大統領となったミロシェビッチはコソボ内のセルビア人の保護を重視しました。

それだけでなく、ミロシェビッチは「大セルビア主義」、つまりユーゴの諸民族をセルビアを中心に統合するという考えの主張者であり、そのため、各地域で反感を買い、セルビア人と他の諸民族との対立は激化しましたが、ミロシェビッチは強引にコソボをセルビアに編入し、司法、警察権などをはく奪しました。

そして1997年、あるアルバニア人教師が殺害される事件が発生すると、これが口火となって、アルバニア人側はコソボ解放軍(KLA)を結成し、両者の間で激しい戦闘になりました。

その頃のユーゴは紛争で解体され、クロアチアなど4共和国が離脱した後、残ったセルビアとモンテネグロが新しいユーゴ連邦を構成していました。

コソボにおけるセルビアの権益を守るため派遣された連邦軍は、装備に優れ、またよく訓練されており、次第にKLAを圧倒してコソボのほぼ全土を制圧する一歩手前までいきました。

この間、多数の住民が殺害され、あるいは強制的にコソボの外へ移住させられたのでエスニック・クレンジング(民族浄化)だと言われました。

コソボ解放軍によって殺害されたセルビア人の数は約1000人、コソボ側は軍人だけで5000人が殺害されたとも言われました。
 
コソボにおける激しい非人道的な行為に危機感を抱いた欧米諸国は、アルバニア人に対する攻撃を中止するよう働きかけましたが、ミロシェビッチは頑強に抵抗し続けました。

そこで欧米諸国は、1999年3月、北大西洋条約機構(NATO)軍を派遣し、コソボとセルビア各地の連邦軍および警察の拠点に対して爆撃を開始しました。

ベオグラード市内では、クネーザ・ミロシュ通りという幹線道路沿いに共和国政府、外務省、国防省・総参謀本部のコンプレックス、警察が並んでいますが、その多くが爆撃され、半分近くが吹き飛んでしまった建物もありました。

この激しい攻撃を受け、さすがのミロシェビッチも連邦軍のコソボからの撤退に同意せざるを得なくなりました。NATO軍はそれが実行されるのを見届けてから空爆を停止しました。

2008年、コソボが独立を宣言
ミロシェビッチは翌年の大統領選挙で、野党民主党のコシュトゥーニツァに敗れました。しかし、大統領は代わってもミロシェビッチの考えを支持する人たちは選挙後もかなりの勢力を維持していました。

その背景には、NATOの爆撃の時からセルビアの後ろ盾になっていたロシアと中国が、コソボの独立を認めないセルビアを引き続き支持していたという事情もありました。

一方、欧米諸国によるコソボ支持も変わりませんでした。そこで、セルビアとコソボの間を仲介してコソボの地位を確定するための交渉が国連主導で行われましたが、結果は得られないまま、2008年、コソボは独立を宣言したのです。2018年1月現在で、我が国を含め107か国以上がコソボを承認しています。

この間、欧州連合(EU)は米国と並んで西バルカンの安定のため大きな役割を果たしました。セルビアもコソボもEUへの加盟を希望しており、セルビアとEUはすでに交渉を開始しました。

また,コソボは一歩遅れていますが、準備段階である「安定化・連合協定」は既に締結されました。コソボはこの協定に従いEU加盟の準備中です。

EUはセルビアに対してコソボとの関係改善を求めており、両国の和解が進むことが期待されます。【8月12日 1THE PAGE 】
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要領よくまとめられた記事ですが、ひとつだけ付け加えるとしたら、紛争当時、セルビアは「民族浄化」を進めたとして完全な“悪者”にされましたが、そのような非人道的行為はセルビアだけでなく、セルビアに敵対した民族の側にも大なり小なりはあったとされています。(程度の差はあるのかもしれませんが)

現在のコソボ政府の中核を占めるコソボ解放軍(KLA)にも、相当の非人道的行為はあったとされています。

そうした事情から、セルビア側には、欧米によって自分たちが不当に“悪者”扱いされているとの意識もあるでしょう。

EUはセルビア・コソボ両国に関係改善を求めており、一定に交渉も行われていますが、両国間の反目は大きなものがあり、容易には消えません。

【「民族の分断」を象徴する街
その対立の“最前線”ともなっているのが、コソボ領内に存在するセルビア人が多く居住する地域です。

****<コソボ>安定に課題山積 セルビアと隔たり、高い失業率****
来年(2018年)2月、セルビアからの独立宣言から10年を迎えるバルカン半島のコソボ。

欧州連合(EU)への加盟が悲願だが、条件であるセルビアとの関係改善は難航。サチ大統領ら現政権幹部にはセルビア系住民の虐殺や臓器売買に関与した疑いがあり、特別法廷が近く審理を開始する。

失業率は高止まりし、多数派のイスラム教徒の中で過激派が伸長。難問山積の現地を訪ねた。

11月中旬、コソボ北部ミトロビツァ。灰色の雲が空を覆い、小雨が舞う。白い息を吐きながらイバ川にかかる長さ100メートルほどの橋を北側へ渡ると、目抜き通りに掲げられた多数のセルビア国旗が目に飛び込んできた。

川を境に、北はセルビア系、南はアルバニア系が分かれて住む。「民族の分断」を象徴する人口約7万人の町だ。
 
「アルバニア人はめったに北側には行かない。セルビア人がすぐに襲うから」。南側に住むアルバニア系男性(53)はこう明かす。

北側に住むセルビア系男性(45)も「アルバニア人は私たちを追い出そうとしている。紛争では20万人のセルビア人がコソボを追われた。自分たちの土地を守らなければ」と警戒心を隠さない。
 
紛争中や直後の行方不明者の問題も未解決だ。アルバニアとセルビアがそれぞれ支援する武装勢力による市民の誘拐や虐殺が横行し今も1600人以上が行方不明だ。

捜索を訴えるNGO「ミッシング・パーソンズ・コソボ」のケルキナイ代表(80)は「両国政府の協力が不十分で容疑者は訴追すらされない。被害者のために歩み寄ってほしい」と話す。EUは両政府にこの問題などの解決を求めるが、隔たりが大きく進んでいない。
 
コソボ政府は、戦争犯罪の総括も迫られている。セルビア側の指導者の多くは、旧ユーゴスラビア国際戦犯法廷(オランダ・ハーグ)で裁かれたが、アルバニア側は不十分だとの指摘がある。

EU主導の特別法廷が近くハーグで始まり、サチ大統領ら紛争当時の武装勢力幹部が審理の対象になる見込み。大統領が有罪になれば、政治混乱は必至だ。
 
失業率が30%に上るなど、経済停滞も深刻だ。国連開発計画(UNDP)は、高失業率がイスラム過激派伸長の一因だと指摘。

警察当局によると、2014〜16年にコソボから過激派組織「イスラム国」(IS)に加わった戦闘員は314人で、欧州の中では人口当たりで最も高い割合だ。
 
地元のシンクタンク「バルカン・ポリシー・リサーチ・グループ」のラシティ事務局長は「コソボは独立宣言から日が浅く、すべての課題を自国だけで解決するのは難しい。不安定化すれば、地域への影響は大きい。国際社会が協力することが重要だ」と語った。【2017年11月28日 毎日】
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【“領土交換” 現実対応ではあるが、パンドラの箱を開けることにも
上記記事あるように、コソボ領内にはミトロビツァのようにセルビア人居住地域があります。
同様に、セルビア領内にもアルバニア人居住地域があるようです。

それなら、いっそのこと両国がそうした地域を交換したら・・・というのは誰しも考えるところで、実際、そのような検討がなされているようです。

ただ、そうした“領土交換”は、居住する民族に応じて国境線を変更するということでもあり、EUにとっては種々の問題を新たに惹起する“禁じ手”でもあります。

****<コソボ>セルビアと領土交換検討 欧州は強い懸念****
2008年にセルビアから一方的に独立を宣言したコソボとセルビアの間で、「領土交換」が検討されている。

セルビア系住民が多数派を占めるコソボ北部とアルバニア系住民が多数派を占めるセルビア南部を交換し、両国の関係正常化を目指すというのだ。

だが民族対立の末、1990年代に紛争が起こった旧ユーゴ諸国で国境を変更するのは「禁じ手」。ドイツなど欧州諸国から強い懸念の声が上がっている。
 
セルビアのブチッチ大統領とコソボのサチ大統領は7日に、欧州連合(EU)の仲介を受けブリュッセルで会談することを決めた。領土交換を議論するとみられる。
 
98〜99年のコソボ紛争を経て、「独立」したコソボと独立を認めないセルビアの対立は根深く、EUが支援する両国の関係正常化はこれまで大きく前進することはなかった。

原因の一つがコソボに住むセルビア系住民約15万人とセルビアに住むアルバニア系住民約6万人の処遇だ。

ブチッチ氏とサチ氏は、セルビア系住民、アルバニア系住民が集住する地域を「交換」することで、障害を取り除くことを検討している。
 
これまでも領土交換の話は浮上したことがあるが、米国や欧州諸国が強く反対してきた。国境線を引き直した場合、両国内で民族間の緊張が高まる可能性があるほか、今も民族対立を抱えるボスニア・ヘルツェゴビナ、マケドニアなどの近隣諸国に悪影響を及ぼしかねないからだ。
 
今回、領土交換を検討する機運が高まったのは、米国が態度を変更したからだ。ボルトン米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は先月24日の記者会見で「もしセルビアとコソボが合意できるなら、領土交換(の選択肢)も排除しない」と述べ、両国の協議を後押しする考えを示した。

米国がなぜ意見を変えたのか不明だが、トランプ米大統領の意向が働いた可能性もある。だが欧州諸国は「(両国民の)傷を再び顕在化させることになる」(マース独外相)など反対の姿勢を崩していない。
 
セルビアとコソボが悲願とするEUへの加盟には、両国の関係正常化が条件。そのため、ブチッチ氏とサチ氏は国内の反対勢力からも理解を得られる妥協点を見いだそうとしてきた。もし領土交換が実現すれば、両者とも国内に「一定の成果」をアピールすることができる。
 
「年内」の関係正常化を公言してきたブチッチ氏は先月25日、オーストリアで開かれたパネルディスカッションで「我々はセルビアとコソボの将来を考えている。他の国々に迷惑はかけない」と強調。

7日の協議後、コソボを訪問することも決めた。サチ氏も「(両国が)新しい歴史を作るときが来た」と交渉妥結に強い意欲をみせている。【9月4日 毎日】
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「領土交換」は、民族対立から紛争に発展したり、国内少数派への差別・迫害が起きることを防止する現実的対応とも考えられます。

ただ、その発想は、居住する民族によって国境線を線引きするということでもあり、異なる民族が国家内で共存するという理念とは基本的に異なります。

理念の問題はともかくとしても、現実にそうした交換を行えば、民族国家同士の対立は固定化されることにもなります。

また、交換対象地域以外の場所で暮らしていた少数派住民はどうなるのか?という問題も出てきます。
コソボ領内にはミトロビツァ以外で暮らすセルビア人も存在しているでしょう。

「交換」は「コソボはアルバニア人の国家」ということを是認することでもあり、そうした少数派の住む場所がなくなり、結果的に追い出されるという新たな「民族浄化」にもなりかねません。セルビアにおいても同様です。

また、同様の問題を抱える地域は他国にもあり、国境線の見直しは連鎖を引き起こしかねない危うさを伴います。

両国合意のうえでの「交換」ならまだしも、例えば「ロシア人が暮らすクリミアは本来ロシアであるべき」といった主張からの一方的併合をも助長しかねず、新たな領土問題を惹起する懸念もあります。

トランプ大統領が今回の「交換」に賛同しているのでは・・・と推測されるのは、イスラエルの「ユダヤ人国家」を支持し、本音ではクリミアのロシア帰属を是認していると言われていることにも合致します。

あるべき姿・理念より現実対応を重視するトランプ流ではあります。その対応が惹起する問題には委細構わず・・・という点でも。

「アメリカは白人の国家だ」という思いもあるのでは・・・・。
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