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孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

パキスタン  米圧力でアフガニスタンにおけるイスラム勢力支援を変えるか?

2018-09-05 22:50:17 | アフガン・パキスタン

(デビッド・ホール駐パキスタン米大使(右)と会談するイムラン・カーン首相(左)=8月24日、イスラマバードの首相官邸(AP)【9月4日 産経】)

アメリカ 軍事支援停止でパキスタンにアフガン・イスラム勢力との決別を迫る
アフガニスタンにおけるアメリカのタリバンとの戦いに関して、隣国パキスタンはアメリカに協力姿勢を示し、アメリカは2002年以降、テロ対策などでパキスタンに約330億ドル(約3兆6千億円)を支援してきました。

しかし、パキスタンはその一方で、タリバンやその強硬派「ハッカーニ派」を陰で支援してきたとされており、アメリカ側はイスラム武装勢力がパキスタン内に身を隠しているともみています。

パキスタンのイスラム勢力支援は、アフガニスタンにおいてインドに対抗する影響力を保持したいという国軍、特にその中枢である軍情報機関「統合情報部」(ISI)の意向によるものと考えられています。

パキスタンのそうした背信的とも言える行為に対し、アメリカ側は“オバマ前政権も、14年には約21億8千万ドルだった対パキスタン支援を数年かけて大幅に減額し、17年は5億3千万ドルまで縮小。さらに、トランプ政権は軍事支援の全面停止にも言及しており、「国際軍事教育訓練」(IMET)の枠組みで米軍がパキスタン将兵に米国内で訓練を施すプログラムも停止された。”【9月3日 産経】と、パキスタンへの圧力を強めてきました。

アメリカにとって、アフガニスタン戦略を有効に機能させるためには、パキスタンのタリバン支援を止める必要があるのは自明のことではありますが、一方で、パキスタンとの関係を決定的に悪化させることは、内陸国アフガニスタンへのパキスタン経由の補給路を失うことにもなり、対応が難しいところでもあります。

そうしたなかで、今年1月にはパキスタンについて「ウソと欺瞞(ぎまん)しか我々によこさない」と非難していたトランプ大統領は、3億ドル(約334億円)の軍事支援停止を決定しました。

中国との関係を強化してきたパキスタンにとっても、アメリカとの決定的対立は困難な選択であり、カーン新首相の対応が注目されています。

****米支援停止でパキスタン窮地 決定に反発もタリバンとの関係遮断困難****
米国が決定した3億ドル(約334億円)の軍事支援停止を受け、パキスタンのカーン政権が対応に苦慮している。

支援打ち切りに反発する一方、米国が求めるアフガニスタンのイスラム原理主義勢力タリバンとの関係遮断は、国内で強い影響力を持つ軍の意向もあり簡単ではない。

経済状態が急速に悪化し、米国との対立は避けたい局面の中、カーン首相のかじ取りが注目される。
 
「私たちは対テロ戦で大きな犠牲を払った。3億ドルは平和と安定を創出するという共通目的のためにパキスタンが支出したものだ」
 
パキスタンのクレシ外相は2日、記者団を前に支援取り消しについて不満を表明。5日のポンペオ米国務長官のパキスタン訪問時に議題にすることを明らかにした。

同時にクレシ氏は「パキスタンは2国間関係の発展に努力する。ポンペオ氏の意見にも当然耳を傾ける」とも発言。米国との良好な関係を望む姿勢を強調している。
 
パキスタンは2014年、当時のシャリフ政権が、発足時に掲げたイスラム武装勢力「パキスタンのタリバン運動」(TTP)との対話路線からテロ掃討へ方針転換した。

だが、アフガンで跋扈(ばっこ)するタリバン内の最強硬派ハッカニ・ネットワークなどについては、米国はパキスタン軍が秘密裏に支援していると繰り返し批判。パキスタンは同グループに隠れ家を与えているとされる。
 
パキスタン軍は、宿敵インドに対抗してアフガン国内で足場を作るために、タリバンを育て、支援してきた。軍の支援を得て7月の総選挙で勝利したとされるカーン氏は、軍の意向を無視できない。
 
一方、外貨準備高が急減し、国際通貨基金(IMF)への援助要請が議論される中、IMFを主導する米国との関係を悪化させたくない状況だ。既にポンペオ氏は、IMFのパキスタン支援に懸念を表明している。
 
パキスタンの政治評論家のハサン・リビ氏は「米国は明確なテロ対策強化を求めており、曖昧な対応では米国を刺激しかねない」と分析。5日のカーン氏とポンペオ氏との会談の行方を注視している。
 
一方、タリバンは4日、ハッカニ・ネットワークの創設者であるジャラルディン・ハッカニ指導者が死亡したと発表した。長年療養中で、実権は既に息子に移っていることから、同グループに与える影響は限定的とみられる。【9月4日 産経】
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“5日のカーン氏とポンペオ氏との会談”については、まだ報道は目にしていません。

上記記事にもあるように、ポンペオ米国務長官はIMFのパキスタン支援に懸念を表明しています。

“中国の「債務のわな」の典型例であるパキスタンの問題にどう対処するかも今後の米戦略の行方を占う懸案となりつつある。

というのも、パキスタンが中国からの債務の重圧から逃れるため、米国主導の国際通貨基金(IMF)に支援要請する可能性が高まっているからだ。
 
中国の対パキスタン融資計画の総額は620億ドル規模。ポンペオ氏は「中国への返済のために米国の血税も入ったIMFの資金を使う理屈が立たない」と突き放したが、「テロとの戦い」などで連携する同盟国のパキスタンが債務危機に陥れば南アジア情勢の不安定化につながりかねず、米政権は難しい選択を迫られそうだ。”【8月4日 産経】

今回の軍事支援停止で、アフガニスタンでのイスラム勢力支援、中国との関係などをにらみながら、パキスタン・アメリカ双方ともこれまで以上に微妙なかじ取りが求められています。

もっとも、そうした“複雑・微妙な問題”に対し、委細構わず一刀両断に切り込み、力づくで相手に譲歩を迫る・・・というのがトランプ流です。それが効果をあげる可能性も、また、滅茶苦茶にしてしまう危険性も。

軍の意向で権力の座についたカーン首相に大転換は期待できるか?】
一方のパキスタン・カーン首相の方は、軍の支持で今の地位をつかんだと言われており、軍の意向に対し独自性を発揮できるかが問題です。

****クリケットの元スター選手はパキスタンに変化を起こせるか****
7月25日のパキスタン議会下院の選挙では、クリケットの元スター選手のイムラン・カーン率いるPTI(パキスタン正義運動)が第1党となり、政権交替の見通しとなった。PTIは8月6日、同氏を正式に首相候補に指名した。
 
イムラン・カーンはパキスタンの既存の政治の枠組みを打破し、腐敗の温床であるパトロネッジ(patronage)のネットワークを終わらせることを掲げて選挙を戦った。

これは彼が20年前に政界に飛び込んで以来の政治的スローガンに他ならない。彼が率いるPTI(パキスタン正義運動)はシャリフ一族およびブット一族の政党を圧倒して第一党となり、政権を担当することを確実にした。

それは、彼の執念と政治的習熟の賜物でもあろう。カリスマ性のある指導者の登場は、いやが上にも変化への期待を高めようが、それを実現出来るかは別問題である。
 
他方で、彼の成功には暗い影がつきまとう。パキスタンの政治は常に背後で軍が糸を引いて来たが、今回の選挙ほど軍とその情報機関ISIが図々しく介入したことはないといわれている。

軍はPTIがメディアへの特別のアクセスを得られるよう工作した。資金的にPTIを支援した。著名なジャーナリストにPTIを支援するよう圧力をかけた。他党から当選可能な人物のPTIへの鞍替えを工作した。投票所の管理にも軍が関与したという。

従って、選挙は正統性の問題を免れない。そもそも、政権党であるPML−N(パキスタン・イスラム教徒連盟シャリフ派)の前首相ナスワズ・シャリフは牢獄にあった。

カーンはシャリフの腐敗追及の急先鋒であったが、恐らく背後に軍の策謀もあって、昨年シャリフは首相の座を追われ、その後、去る7月6日、禁固10年の判決が下り、7月13日に収監されている。
 
結果は恐らく軍の思惑通りになったとの観測が行われている。すなわち、カーンのPTIは確たる第一党の座を獲得したが、単独で政権を組成し得る程には強力ではなく(全342議席中116議席)、従って、軍としては操縦し易い政権が出来るということである。

軍の庇護があって勝った彼には軍に逆らう余地はなく、軍の言いなりとなり、軍がカーンを厄介者だと思えば放り出されることになろうとの観測もある。

7月27日付けフィナンシャル・タイムズ紙社説‘A victory for Imran Khan offers Pakistan change’は、カーンはその政治的資産を使って変化を試みることは出来るが、パキスタンの抱える問題は余りにも大きく、大転換は期待出来ない、と分析している。
 
或るパキスタンの専門家の説明を借りれば、パキスタンの政治は2つのグループで動く。
一つは土地所有者と産業人から成る文民のエリートのグループで彼等は政党と組んでいる。もう一つは軍である。

政党というが、要するにパトロネッジのネットワークであって、その政治力を使って恩恵と財物をネットワークのメンバーに配分している。

高度に紛糾し、時に暴力的となるパキスタンの政治は政策問題についてのアプローチの違いを反映しているのではなく、国家の資源の支配を巡るネットワークの間の闘争である。

それぞれの政党のメンバーは自己の利益の追求が優先するので政党間の移動は全く普通のことである、というわけである。

もし、本当にカーンが社会のこの構造にメスを入れ、真の福祉社会で置き換えることを試みるというのなら、それは画期的なことに違いない。
 
外交については、彼は殆ど何も語っていない。米国と米国のテロとの戦いに対する反感、アフガニスタンのタリバンの主義主張への同調を示す断片的な発言はあるようである。そうでなければ、軍と歩調を合わせられる筈もない。

アフガニスタンの戦争を巡る米国とのギクシャクした関係、インドとの関係調整、深まりつつある中国依存について、カーンの登場による何等かの変化を予想させる根拠は見当たらない。

彼が当初の2、3の外遊先にいずれの国を選ぶかが、彼の外交の先行きを暗示しよう。【8月21日 WEDGE】
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カーン政権にとってIMF支援を受けるうえでアメリカとの関係は重要ですが、国軍にとっても、これまで巨額の支援をアメリカから受けてきており、それをすべて中国に切り替えるというのも難しいのでは。

とは言え、なんだかんだ言われながらもアフガニスタンでのイスラム勢力支援を続けてきた軍が方針を変えるものか・・・。

【「和平に向けた比類なき好機が目の前にある」? パキスタンが方針を変えればそうかも
アフガニスタンでは、駐留米軍トップのニコルソン司令官が退任、オースティン・ミラー氏が指揮権を引き継いでいます。

アメリカはアフガニスタン政府とタリバンとの和平を求めていますが、2015年を最後に両者の直接協議は進んでいません。

しかし、ニコルソン司令官は退任にあたり、「和平に向けた比類なき好機が目の前にある」とも。

****アフガン和平「比類なき好機」=米、元大使の特使就任調整****
アフガニスタン駐留米軍のニコルソン司令官は22日、首都カブールからビデオ回線を通じて記者会見し、アフガン政府と反政府勢力タリバンにとって「和平に向けた比類なき好機が目の前にある」と述べ、米軍が双方の対話を後押しする意向を示した。
 
ニコルソン司令官は、アフガン政府とタリバンが6月に3日間の停戦で合意したことなどに触れ、「和平プロセスは前進している」と強調。

さらに、トランプ大統領が約1年前に公表したアフガン新戦略は「機能している」と指摘し、2001年以降続くアフガン戦争に政治決着を図れると楽観した。司令官は9月に後任のミラー陸軍中将と交代する。
 
一方、ロイター通信によれば、ポンペオ国務長官はハリルザド元駐アフガン米大使をアフガン担当特使に据える方向で調整している。

米政府代表団は7月、カタールの首都ドーハでタリバン側と接触したとされており、アフガン生まれのハリルザド氏をタリバンとの交渉役にすることで対話ムードに勢いをつけたい考えとみられる。【8月23日 時事】
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「和平に向けた比類なき好機が目の前にある」かどうかはともかく、パキスタンが本気で和平をタリバン側にもとめれば、これまでとは違った展開にもなるでしょう。

もっとも、もう一方の当事者であるアフガニスタン政府の内情も相当に厳しいものがあり、タリバンとの交渉をリードできるかは疑問です。

****苦境に立たされるアフガン大統領 主要4閣僚相次ぎ辞表、タリバン攻勢、米国も「失望感****
10月に総選挙、来年4月に大統領選を控えるアフガニスタンで、閣僚の辞意表明が相次ぎ、政治情勢が不安定化している。

米国もガニ大統領に失望感を深めているとされ、ガニ氏の求心力低下がささやかれる事態だ。治安状況も改善の兆しがなく、「内憂外患」を抱える中、選挙の順調な実施が不安視されている。(中略)

主要閣僚の辞意で、指摘されるのがガニ氏の求心力低下だ。イスラム原理主義勢力タリバンとの和平交渉も進まず、ガニ氏は21日からのイスラム教の犠牲祭に合わせて停戦を呼びかけたが、タリバン側は拒絶。メンツをつぶされた格好だ。
 
政府軍は米軍や北大西洋条約機構(NATO)軍の支援を得て武装勢力側に攻撃を仕掛けてはいるが、劣勢が続いており、士気の低下も著しいという。
 
ガニ氏に対して米国は失望感を募らせているとされ、7月下旬にはタリバンと独自に接触した。「米国はガニ政権を見捨てはしないだろうが、見限りつつあるのかもしれない」(外交筋)との見方もある。

来年の大統領選で、米国は再選を目指すガニ氏よりも、アトマル氏を推すとうわさされており、さらに政局は混迷の度を増しそうだ。
 
隣国パキスタンでイムラン・カーン首相が誕生したこともガニ氏の懸念材料だ。カーン政権では、タリバンを支援しているとされるパキスタン軍が強い影響力を持つ。

軍はアフガンを不安定化させるためタリバン支援を強化したい意向で、カーン氏は黙認する可能性が高い。アフガン側ではカーン氏を「タリバン・カーン」と揶揄(やゆ)する報道もなされており、パキスタンの動向に神経をとがらせる。
 
政治や外交に不安を抱える中、21日には大統領府周辺にロケット弾が撃ち込まれるなど、テロが続発する。選挙日程にも影響を与えそうで、既に9日にタリバンの大規模攻勢を受けた南東部ガズニ州では、総選挙の延期が検討されている。有権者登録施設を狙う攻撃も相次いでおり、ガニ氏の苦悩は続きそうだ。【8月27日 産経】
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“アフガンを不安定化させるためタリバン支援を強化したい”パキスタン国軍がトランプ政権の圧力を受けて方針を変えれば、状況は大きく好転します。

ロシア主導の和平促進国際会議は延期
タリバンもこのところ和平交渉をにらんで外交的な動きを強めており、ロシア主導の和平促進国際会議に出席を表明するという異例の対応を見せています。

ただ、その会合は延期されています。

****<ロシア>アフガン和平促進の国際会合 延期を発表****
ロシア外務省は27日、9月4日にモスクワで予定されていたアフガニスタンの和平を促進するための国際会合を延期すると発表した。開催日は未定。

会合にはアフガン政府と武装闘争を続ける旧支配勢力タリバンが出席の意向を示しており、行方が注目されていた。

露外務省によると、ラブロフ露外相とアフガンのガニ大統領が27日に電話協議し、会合の延期を決めた。アフガン政府は声明で「更なる準備と、会合をより効果的なものにするため延期された」と述べた。【8月28日 毎日】
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ロシア主導に反発するアメリカの意向を受けて、アフガニスタン政府は欠席するとされていましたが、“ラブロフ露外相とアフガンのガニ大統領が27日に電話協議し、会合の延期を決めた”ということで、何らかの変更があったのか・・・そのあたりは知りません。
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