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孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ミャンマー  国軍の残虐行為を暴くロイター記者2名へ有罪判決 恩赦も可能なスー・チー氏だが・・・・

2018-09-06 22:06:53 | ミャンマー

(9月5日 WSJ)

【「裁判は茶番だった」「ミャンマーの報道の自由にとって暗黒の日」】
ミャンマーにおいて、国軍兵士によるロヒンギャ虐殺を取材中に(策略的手法とも言われている形で)逮捕され、国家機密法違反の罪で裁判にかけられているロイター通信のミャンマー人記者2人に対する地方裁判所の判決が1週間「延期」された・・・・という話は8月27日ブログ“ロヒンギャ帰還が進まないのはバングラ側の責任と突き放すスーチー氏 ロイター記者裁判判決は延期”で取り上げました。

延期の背景として、“国連安保理が(8月)28日に行うミャンマーに関する協議の結果を待つため”云々といった見方もありましたが、結局、ヤンゴンの裁判所は3日、記者2人に対し禁錮7年の有罪判決を言い渡しました。

この判決に対し、国連や欧米からは強い批判がおきています。

****ロヒンギャ取材のロイター2記者に禁錮7年の有罪判決、ミャンマー****
ミャンマーの最大都市ヤンゴンの裁判所は3日、イスラム系少数民族ロヒンギャの難民危機を取材中に国家機密法に違反したとして起訴されたロイター通信の記者2人に対し、禁錮7年の有罪判決を言い渡した。
 
この裁判をめぐっては、報道の自由に対する攻撃だとして激しい怒りの声が上がっている。国連は直ちに記者らの釈放を求めた。
 
ミャンマー国籍のワ・ロン記者とチョー・ソウ・ウー記者は、英植民地時代に制定された国家機密法に違反した罪で起訴され、最長で禁錮14年の刑が言い渡される可能性があった。
 
国際社会はこの裁判について、ミャンマーのロヒンギャ弾圧に関する報道を標的にしたものだと非難している。

ミャンマー西部ラカイン州では、軍が主導する「掃討作戦」によって70万人のロヒンギャが自宅を追われ、隣国バングラデシュに逃げ込む事態に発展した。ミャンマー治安部隊がレイプや殺人、放火など残虐な手法を取ったとの証言が数多くある。
 
記者2人は、いずれも起訴内容を否認。昨年9月にラカイン州の村でロヒンギャ10人が無法に虐殺された事件を明るみに出すため取材の準備をしていただけだと主張している。
 
しかし、イェ・ルウィン判事は「2人は国家機密法に違反した。それぞれ禁錮7年を言い渡す」と述べた。【9月3日 AFP】
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記者2人は昨年12月、ヤンゴンで警察官との夕食に招かれ、その直後の料理店を出た際に国家機密文書所持の容疑で拘束されました。

裁判では、証人として出廷した警察官が、記者との面会は2人を陥れるため仕組まれた「警察の罠」だった、上層部の圧力で拒めなかったと証言する異例の展開となりました。しかし、判決は、資料は「国家の敵やテロリストにとり有益だった可能性がある」として有罪と断定しました。

****国際社会、ミャンマーを非難 ロヒンギャ取材記者への禁錮刑で****
(中略)国際社会からの非難が集中した今回の裁判には、ミャンマー軍がラカイン州で行ったロヒンギャ弾圧に関する報道を封じ込めようとする政府の狙いがあるとみられている。

国連の調査団は先週、ミャンマー国軍の総司令官がロヒンギャに対する「ジェノサイド(大量虐殺)」を指揮したと非難する報告書を発表していた。
 
国連や米国、欧州連合とその加盟国の英仏は今回の判決を強く批判し、両記者の釈放を改めて要求。各人権団体からも批判が相次いだ。
 
ミチェル・バチェレ国連人権高等弁務官は「私は衝撃を受けた。裁判は茶番だった」と断じ、「ミャンマーのあらゆるジャーナリストに対し、恐れず仕事をすることができないどころか、自粛するか訴追される危険を冒すかという二択を迫られるというメッセージを送るものだ」と指摘した。
 
在ヤンゴンの米国大使館は声明を出し、今回の問題は「ミャンマーにおける法の支配と司法の独立をめぐる深刻な懸念」を招くと指摘。「両記者に対する有罪判決はミャンマー政府が掲げていた民主的な自由を拡大するという目標からの大幅な後退」だと批判した。
 
国際ジャーナリスト組織「国境なき記者団」は、今回の「いかさまの裁判」とその判決を「ミャンマーの報道の自由にとって暗黒の日」と評した。【9月4日 AFP】
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アメリカのヘイリー国連大使は「ミャンマー軍が大規模な残虐行為に及んだことは明白」「自由な国では、人々に事実を伝え、指導者に説明責任を課すのが責任ある報道機関の責務だ。自らの職責を果たしていた記者2人に対する有罪判決はミャンマー政府にとって新たな汚点となる。われわれは引き続き彼らの即時かつ無条件での釈放を求めていく」【9月4日 ロイター】と批判しています。

まったくヘイリー国連大使の言うとおりだと思います。では、アメリカ国内で報道機関をフェイクニュースとして攻撃している“あの”大統領はどうなんだ?・・・という話にもなりますが、今回はその件はパスしましょう。

国軍の大規模な残虐行為を認めないミャンマー
「ミャンマー軍が大規模な残虐行為に及んだことは明白」というのは、外の世界では共通認識となっています。

国連人権理事会が昨年3月に設置した調査団は8月27日、報告書を発表し、「ミン・アウン・フライン総司令官をはじめとするミャンマー国軍の最高幹部らに対し、ラカイン州北部でのジェノサイドに加え、ラカイン、カチン、シャンの3州における人道に対する罪や戦争犯罪についての捜査および訴追を行わなければならない」と、“ジェノサイド”(大量虐殺)という言葉を使って、無差別殺人、村の焼却、未成年への虐待、女性への集団レイプといった「国際法下で最も深刻な犯罪」を糾弾しています。

記者らの活動は、この国軍の“犯罪”を暴こうとするものでした。

当然のごとく、ミャンマー側はこれを否定しています。

****ミャンマー、ロヒンギャ「大量虐殺」に関する国連調査報告を否定****
ミャンマーは29日、同国軍によるイスラム教徒の少数民族ロヒンギャに対するジェノサイド(大量虐殺)疑惑に関する国連の調査報告を否定した。

国連調査団は27日、ロヒンギャを標的としたレイプや性的暴力、大量殺人、断種措置などの人道に対する罪やジェノサイドが「大規模に犯された」とする証拠を列挙した。

28日に行われた国連安全保障理事会の会議で、米国を含む数か国がミャンマー軍の指導部に対し、こうした疑惑について説明責任を果たすよう求めていた。

しかしミャンマーは29日、ロヒンギャ危機に関して見せてきた傲然(ごうぜん)とした態度で国連の求めをはねつけた。同国の民政指導部と軍指導部のこのような態度は国際的な非難を集めている。

現地英字紙「ミャンマーの新しい灯」によると、ミャンマー政府のザウ・ハティ報道官は、「わが国はFFM (国連事実調査団)のミャンマー入国を認めていない。したがって国連人権理事会決議の承諾も受け入れもしない」と語った。

ハティ報道官によると、「国連機関やその他の国際組織によってでっち上げられた虚偽の主張」に対応するためミャンマーは独自の独立調査委員会を設置したという。

ハティ報道官はミャンマーは人権侵害を一切容認していないと述べる一方、調査を開始するには虐待疑惑の記録や日時などの「有力な証拠」が提供されなければならないと述べた。【8月29日 AFP】
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ミャンマー側が設置した独自の独立調査委員会とは、メンバーに大島賢三・元国連大使が起用された委員会でしょう。(8月17日ブログ“ミャンマー ロヒンギャ問題の独立調査委員会に日本人起用 真価を問われる日本外交”)

その目的は“「国連機関やその他の国際組織によってでっち上げられた虚偽の主張」に対応するため”という話になると、日本も関与した委員会はミャンマー側に都合のいい形で利用されそうです。

なお、ミャンマー側は「わが国はFFM (国連事実調査団)のミャンマー入国を認めていない」としていますが、そのこと自体が事実を隠蔽しようとする行為に思われます。

強まるスー・チー批判 「私たちは、外の人々とは異なる目でこの問題を見ている」】
こうした“後ろ向き”の対応を容認するスー・チー国家顧問に対する評価も厳しいものになりつつあります。

****天声人語)ジェノサイドの疑い****
(中略)ミャンマー政府は報告書に反発し、調査団の入国も拒んでいる。

これが民主化の星だったアウンサンスーチー氏率いる政権の姿である。軍にものが言えないのか、多数を占める仏教徒の世論におじけ付いているのか

法の支配の下で平穏に暮らし、人間としての尊厳を維持する。それが民主化で求めることだとスーチー氏はかつて書いた。少数者はその枠外にあるというのだろうか。【9月3日 朝日】
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“多数を占める仏教徒の世論”とあるように、国民世論も国軍の行為を正当化しています。
スー・チー氏は、この状況について「私たちは、外から眺めていて、成り行きに影響されない人々とは異なる目でこの問題を見ている」とも語っています。

****ロヒンギャ危機めぐる国際的非難、ミャンマーの反発****
イスラム系少数民族ロヒンギャへの処遇をめぐり、国際社会から不名誉な非難を浴びせられてきたミャンマーでは、多くの人が困惑し、傷つき、憤り、やり場のない気持ちを抱えて過ごしている。

国連のみならず交流サイト最大手の米フェイスブックからもやり玉に挙げられた。だが、仏教徒が大半を占めるこの国で、無国籍のロヒンギャの苦境に寄せられる同情の声はあまり聞かれない。
 
昨年、ミャンマー軍がロヒンギャの武装勢力を取り締まるという名目で行った作戦で約70万人のロヒンギャが暴力にさらされ、世界を震撼させた。

だがミャンマー国内では、軍が侵入者である「ベンガル人(ロヒンギャの蔑称)」から国を守ってくれたとして、幅広い支持を集めている。侵入者とは、ロヒンギャに不当に押し付けられた呼び名だ。
 
国連調査団は先月27日、ミャンマー国軍の総司令官と高官5人をジェノサイド(大量虐殺)の容疑で、捜査および訴追するよう要求する報告書を発表。アウン・サン・スー・チー国家顧問についても、ロヒンギャ保護のために声を上げなかったと名指しで非難した。
 
それでも国民は、反イスラム的思想と軍が捏造(ねつぞう)し広めた歴史によってゆがめられたこの問題に沈黙を守っている。
 
首都ヤンゴンの食堂でAFPの取材に応じた船主の男性は、「民主主義のためなら軍と喜んで戦ったが、ラカイン州のことで戦いたくはない」と話した。「被害を受けた人たちを気の毒には思う。でも、テロから国を守ることの方が重要だ」と続け、ロヒンギャの武装勢力を根絶する目的で行われた軍による「掃討作戦」は正当性がある、という政府の説明を繰り返した。
 
ミャンマーは2011年に軍政から準民主主義にかじを切り、半世紀近く無縁の存在だった自由が国民にもたらされた。だが多くの人は、ロヒンギャ問題で、国営メディアやフェイスブック、政府の方針に従った報道をする新興メディアを情報源として頼っている。

愛国心やいまだ強い影響力がある軍に対する不信感から批判が控えられ、政治問題が再びタブーになりつつある兆候も見られる。

■「外の人」には分からない問題
今でもミャンマーで絶大な人気を誇るスー・チー氏は先月、シンガポールで演説し、国内の状況について次のように述べた。「ミャンマーは過渡期にある。私たちは、外から眺めていて、成り行きに影響されない人々とは異なる目でこの問題を見ている」

国連が軍幹部の訴追を求めたことに呼応し、フェイスブックは前例のない措置を取った。ミン・アウン・フライン軍司令官と17人の軍幹部らのアカウントを停止し、52ページを削除したのだ。これらのアカウントのフォロワー数は1200万人近くに上っていた。(後略)【9月6日 AFP】
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恩赦も可能なスー・チー氏 ただ、2人の記者のことを「裏切り者」と呼んでいた
話を有罪判決を受けた記者の件に戻すと、スー・チー氏は裁判に介入することは(表向きは)できませんが、恩赦という形で記者を解放することは可能です。その対応が注目されます。

****スー・チー氏の選択:記者恩赦か沈黙維持か****
スー・チー氏は収監された記者には「非同情的」

ミャンマーのアウン・サン・スー・チー国家顧問兼外相は、イスラム系少数民族ロヒンギャに対する民族浄化問題で既に自身への評価が損なわれている中、軍の残虐行為を報道したため収監された2人の記者について、恩赦を認めるべきか決断を迫られている。

その間にもミャンマーでは、独裁体制へ逆戻りするのではないかとの懸念が強まっている。(中略)

スー・チー氏の今後の行動は、ミャンマー民主化運動の指導者だった彼女にとって試金石となる。彼女は、ロヒンギャに対する軍の残虐行為を非難しなかったことで、国際社会から批判された。

スー・チー氏は、彼女が率いる文民政権には軍に対する監督権限がないと主張しているが、最近の国連のある報告書は、この軍の行動に明確に反対しなかったとして彼女の責任を指摘した。軍の迫害によって、1万人のロヒンギャが殺害され、70万人以上がバングラデシュへと追いやられた。

記者らの問題では、スー・チー氏が早急に恩赦の決断を下すかどうかが、注目されている。彼女の民主主義の信念が依然確固たるものかどうかを示すことになるからだ。
 
スー・チー氏は、2人の記者を釈放しないよう軍からの無言の圧力を受けている。(中略)
 
スー・チー氏の腹心であるタウン・トゥン国家安全保障顧問は6月、シンガポールで行われた安全保障会議で、政府として恩赦を検討すると述べ、「秘密をもらすわけにはいかないが、時間を与えてくれれば、われわれのすることがいずれ分かるだろう」と話していた。

同氏によると、スー・チー政権は2017年、国会議事堂付近でドローン(小型無人機)を飛ばしたとして収監された2人の記者に恩赦を与えているという。(中略」)
 
米国の前ニューメキシコ州知事で、今年1月までロヒンギャ危機でミャンマー政府を支援する国際諮問機関のメンバーだったビル・リチャードソン氏は、スー・チー氏が2人の記者の釈放を実現させるかは疑問だとの見方を示した。スー・チー氏は記者らが置かれた状況に非同情的だったという。
 
リチャードソン氏は、「わたしが直接彼女にこの問題を提起すると、彼女は怒り出し、興奮してわたしに黙るように言った」と述べ、「彼女はこれが国家機密法違反だと本当に信じているのだとわたしは理解した」と付け加えた。

同氏によると、スー・チー氏は2人の記者のことを「裏切り者」と呼んでいたという。
 
リチャードソン氏は、タウン・トゥン氏が恩赦を認めるようスー・チー氏を説得できることを願っていると述べたが、政府が外国の圧力に屈したと思われることを望んでいないため、あまり期待できないと語った。(中略)

スー・チー氏は、記者たちの事件で公式に発言するのはまれだ。ただ同氏は日本のNHKとの6月のインタビューで、自分自身はミャンマーの司法プロセスを信用していると述べ、ロイター通信記者2人の起訴を擁護していた。
 
ミャンマー人ジャーナリストたちは、スー・チー氏の下で報道の雰囲気はかつての軍事独裁政権下と同じ程度に抑圧的になったと述べている。

そんなジャーナリストの一人で、ジャーナリスト保護委員会のメンバーであるTha Lun Zaung Htet氏は「ワ・ロン氏とチョー・ソウ・ウー氏のケースについてミャンマー政府が独裁者のように行動していると言える」と述べ、「報道の自由は、終えんの段階にある」と語った。【9月5日 WSJ】
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“人権・民主主義に関する欧米的価値観を共有するスー・チー氏は国軍の横暴を何とかしたいのだけど、軍への権限がなく、国民世論の圧力もあって身動きがとれない”・・・といった見方もありますが、上記記事のス・チー氏の言動を見ると、スー・チー氏自身がロヒンギャに対する嫌悪感を有しており、ロヒンギャ過激派のテロ行為に対応するためとする国軍の行為を一定に是認しているように見受けられます。

そうなると、記者への恩赦もあまり期待できません。
仮に行われたとしても、スー・チー氏の人権や報道に関する信念に基づくものというより、国際政治をにらんだ極めてテクニカルなものということにもなります。




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