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孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

インド  変化への模索 社会的弱者の権利擁護、性犯罪者登録制度、公的医療保険制度“モディケア”

2018-09-28 22:08:33 | 南アジア(インド)

(“モディケア”制度導入の記念式典で医療カードを渡すモディ首相【9月25日 The Times of India】

宗教的不寛容が強まる社会にあって、相次ぐ同性愛・女性の権利に関する最高裁判決
インドにおいて、イギリス植民地時代に制定された古い法律によって制約されていた同性愛者と女性の権利について、これを見直す司法判断がインド最高裁から2件連続して出されています。

****同性間の性行為禁じる法律は違憲無効、インド最高裁が画期的判断****
インドの最高裁判所は6日、同性間の性交渉を違法と定めた刑法第377条について、違憲無効とする画期的な判断を下した。英植民地時代の1861年に制定されたこの法律をめぐっては、長年にわたり法廷闘争が続いていた。

ディパック・ミスラ最高裁判所長官は、「この法律はLGBT(性的少数者)のコミュニティーへの嫌がらせの手段となってきた」と指摘した。
 
インド刑法第377条では、「自然の秩序に反した性交」を禁じている。活動家らは1990年代からこの条文の廃止を求めて法廷闘争を繰り広げてきた。今回の最高裁判断を受け、インド全土のLGBTコミュニティーは祝賀ムードに包まれている。

「言葉では言い表せない!」と、虹色のスカーフを巻いた大学生は叫んだ。「ここまで来るのに長い時間がかかったけれど、ようやく私は自由だ、皆と同じ権利があるんだと言える」
 
保守的なインドでは同性間の性交渉がタブー視されてきた。特に地方部では、同性愛を嫌悪する風潮が根強く残っている。【9月6日 AFP】
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****夫は妻の主人ではない」、婚外関係禁じた法律に違憲判決 インド****
インド最高裁は27日、男性が既婚女性と性的関係を持つことを刑法で禁じた158年前の法律について、違憲とする判決を言い渡した。女性の権利を訴える側からは、画期的な勝訴と受け止められている。

「セクション497」と呼ばれるこの法律では、相手の女性の夫の許可なく既婚女性と性的関係を持った男性に対し、5年以下の禁錮を定めていた。

最高裁の判決ではこの法律について、時代に逆行し女性差別に当たると判断。裁判長は判決文の中で、「夫は妻の主人ではない」「一方の性がもう一方の性に対して法的支配権を持つことは間違っている」と認定した。

判決は裁判官5人の全員一致で言い渡され、同法は憲法で規定された基本的人権の侵害に当たると指摘している。
同法では、自分の妻と性的関係を持った相手の男性を夫が告訴することが可能だった。一方で、自分の夫と関係を持った女性を妻が告訴することはできなかった。

原告側の弁護士はこの判決を、「結婚と家庭における女性の地位にとって大きな勝利」と位置付ける。問題の法律は主に、既に関係が破綻(はたん)している夫婦の間で、夫が妻を脅す目的で利用されていたという。

同法については社会の安定を保つために必要だとする意見もあり、インド政府は廃止ではなく改正して、両性にとって平等な刑罰を定める方針を打ち出していた。

しかし最高裁判決では、同法がなくなれば不倫が増えるという主張を退け、「夫婦のいずれにも平等に、結婚の尊厳を守る責任がある」と指摘した。【9月28日 CNN】
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“最高裁判事は「夫は妻の所有者ではない」と述べ、姦通を罰する法律は男女の家庭での役割に対する「偏見」に基づくものだと批判。「婚姻関係の破綻」に際し、妻が夫以外と性的関係を持つことについて、法で処罰すべきでないと強調した。一方、姦通行為について、引き続き離婚の理由にはなり得るとの判断を示した。”【9月28日 時事】

インドでは、カースト制による社会的束縛に加え、女性の権利が大きく制約されていることから、いわゆる名誉殺人など、多くの深刻な問題を抱えています。

今回の最高裁判断は、社会的弱者の立場にある少数者や女性の権利を回復することで、インド社会の改善に資するものであるといえます。

ただ、いつも取り上げているように、現実の社会情勢はモディ首相のもとでヒンズー至上主義が強まり、保守化・不寛容の風潮が強まる流れにあり、どこまで今回判決がインド社会実態に影響できるかは不透明です。

保守化・不寛容の風潮が強まる現状にあるからこそ、今回判断がそうした流れへの歯止めとしての意味があると言えば、そのようにも言えますが。

後を絶たない性暴力事件に性犯罪者登録制度
社会的弱者の権利に関係する話で、インドでは女性や女児に対する性暴力が以前から大きな問題となっています。

****帰宅中の印女子大生が拉致され集団レイプされる、顔見知りの犯行****
インド北部ハリヤナ州で、講義を終えて帰宅中の女子大生が3人の男に拉致され、レイプされる事件が起きた。警察が14日、明らかにした。
 
警察によると、この女子大生は停留所でバスを待っている際に拉致され、薬を飲まされてレイプされたとみられている。
 
現地警察関係者によると、容疑者3人は女子大生と同じ村の出身で、顔見知りだという。
 
大半を農村地帯が占めるハリヤナ州は保守的な土地柄とされ、ナレンドラ・モディ首相率いる右派与党・人民党が議会の多数派を占めている。
 
女子大生の母親は14日、報道陣とのやり取りで、モディ首相が2015年にハリヤナ州で立ち上げた運動「娘を守れ、娘に教育を」に言及し、「わが国の首相は、娘を守れ、娘に教育をと言うが、どうすればそうすることができるのか?」と問いかけた。
 
母親は「告訴を受理されるまで、たらい回しにされた」と明かし、「私たちの望みは、娘のために正義が果たされることだけだ」と訴えた。【9月15日 AFP】
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性暴力自体も当然問題ですが、「告訴を受理されるまで、たらい回しにされた」とあるように、この種の性犯罪に対する警察当局の反応が非常に鈍いことも大きな問題です。

もし、被害者が低カーストの女性だったりすると、警察に相手にされないといったことも起こります。

****7歳女児がレイプされ重体、性的暴行多発のインド****
女性らに対する性的暴行事件の多発が社会問題となっているインドの首都ニューデリーの警察は19日、市内で7歳女児がレイプされ、病院で手術を受けたものの重体となっていると報告した。

21歳の男が逮捕された。暴行の凶器には金属製の水道管が使われたという。

ニューデリーの女性問題担当当局の責任者によると、女児は貧困家庭の出身で公園に誘い出されて被害を受けた。襲われた後、激痛を訴え、出血が激しかったという。

インドの国家犯罪統計局によると、同国内で2016年に発生したレイプ事件は前年比で12%増の3万9000件。13.5分ごとに1件起きている計算となった。

インド政府は今年4月、未成年者の強姦(ごうかん)や集団レイプの加担行為に死刑判決を下す暫定法案を提出。ただ、ニューデリーではまだ、発効していないという。

年少の女児への暴行も今回が初めてではない。ヒマラヤ山脈に近い遠隔地のカトゥア地区では今年1月、強姦後に殺されたイスラム教徒の8歳女児の遺体が見付かる事件が発覚。地元では怒りが広がり、宗教的な抗争への懸念も深まっていた。

少女は薬を飲まされた後、集団暴行を受け、絞殺されていた。警官3人に元政府役人1人を含むヒンドゥー教徒の8人が逮捕されていた。

また、ビハール州では今年7月、15歳の女子生徒が学校の校長、教師2人と少年16人に半年間にわたって再三レイプされたとの被害を告発していた。【9月20日 CNN】
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性暴力は日本を含め、世界中のどの国でもある話ですが(もちろん、その発生率などは差異がありますが)、上記のような女児に対する性暴力が相次ぐとなると、インド社会固有の要因もあるのでは・・・とも思えます。

身分制度や宗教的戒律などで社会的束縛が強いなかで、社会の底辺にある者がそのストレスのはけ口として最も弱い立場の女児への性暴力に走る・・・という構図もあるのでは。

そこには、身分制度や宗教のほか、貧困、格差、教育といった問題も絡んでおり、インド社会の抱える深くて暗い闇の一端がこうした猟奇的ともいえるような事件の形で噴出しているのでは・・・とも思えます。

性犯罪の多発を批判する世論に押されて、性犯罪者登
制度もスタートしているようです。

****インドで初の性犯罪者登録制度、該当者は44万人に****
2018年9月22日、インドで初の試みとなる性犯罪者の登録制度について、北青網は「該当者44万人を登録」とする記事を掲載した。

記事によると、同制度は女性を狙った犯罪の防止を目的とするもので、データベースを閲覧できるのは法執行機関に限られる。

16年にインドでは毎日100件を超える犯罪が報告されており、今年6月に発表されたある調査結果では、「インドは女性にとって最も危険な国」との評価が専門家から出たことが示された。【9月24日 レコードチャイナ】
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運用にあたっては、根拠・証拠もなく疑念だけで登録者がリンチ的処罰を受けるようなことがないよう留意してもらいたいとも思います。

貧困者の公的医療保険を拡充する“モディケア”】
インドの医療事情については、特段の知識・情報はなくとも、インド社会が抱える絶対的貧困の問題を考えれば、多くの人々が十分な医療を受けられない状況に置かれているであろうことは容易に想像されます。

インドの医療技術自体は、それなりのものがあり、医療事情も大きく改善はされているようです。

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(5歳未満の)乳幼児死亡率(出生1000対)を見ると、インドは47.7(2015年)と、日本の2.7(2015年)に比べて非常に高い。

しかしながら、インドはMDGsの基準年である1990年の125.9と比べると、大きく改善していることが分かる。

これを国際比較してみると、後発の新興国であるインドの乳幼児死亡率は世界平均の42.5を上回っているが、同じ所得水準の国・地域のなかでは低めに位置している。

次に妊産婦死亡率(出産10万対)を見ると、インドは174(2015年)と、やはり日本の5と比べて非常に高いが、1990年の556からは大幅に減少している。

乳幼児死亡率と同様に国際比較してみると、インドの妊産婦死亡率は世界平均の216を下回っており、また低中所得国のなかでも低めに位置している。

これら2つの指標だけを見れば、インドの保健医療の水準は大きく変貌を遂げ、低中所得国のなかでは健闘していると言えよう。もっとも先進国レベルには程遠く、インドの保健医療の改善余地は依然として大きい様子も窺える。 【後出 斉藤 誠氏「インド医療事情と医療保険制度~モディケアとは何か」】
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医療保険制度に関しては、以下のようにも。

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インドの医療制度の最大の特徴は、公的医療機関では無料で受診できる点だが、実際には公的医療機関の供給は限られ、民間医療機関で受診する国民は多い。

また公的医療保険制度の対象範囲は狭く、民間医療保険も浸透していないため、医療費に占める自己負担割合は7割弱もの高水準にある。【同上】
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全ての人々が公的医療機関で診療を受けることができれば、自己負担はほとんどなくなるはずですが、公的医療機関の供給が限られており、医師や設備も不足しているため、不衛生な環境下で長時間の診察待ちを強いられることになります。従って、有料でも設備が整っており、アクセスの良い民間医療機関を選択する国民は多いとのこと。

しかし、医療保険制度が不十分・・・・。

こうした状況を改善すべく、モディ首相が“オバマケア”ならぬ“モディケア”を推し進めています。

****印、世界最大の健保制度「モディケア」導入 最貧の5億人対象****
インドのナレンドラ・モディ首相は23日、同国の最貧層5億人を対象に、保険料無料の世界最大の健康保険制度、通称「モディケア」を始動させた。来年に総選挙を控えての導入となった。
 
今年に入り連邦予算で発表されたこの制度は、インドの人口12億5000万人のうち、最貧の40%が対象となる。
 
最低所得の1億世帯には、重病の治療を受ける際の医療費として、インドでは大金とみなされる年間50万ルピー(約78万円)が支給される。
 
モディ首相は同国東部ジャルカンド州の州都ランチーで開かれた制度導入の記念式典で医療カードの手渡しを行い、インドにとって歴史的な日だと強調した。
 
制度の運用にあたり、中央政府と29州政府の負担総額は年間約1800億円になる見通し。予算は需要に応じて段階的に増額される。
 
過重負担がのしかかる公的医療制度では、施設と医師が慢性的に不足しており、大半の人は金銭的余裕さえあれば民間医療機関を利用している。ただ診察料は1000ルピー(約1560円)で、1日の生活費が250円に満たない数百万人にとっては高額だ。
 
政府の推算によると、平均世帯支出の60%以上が薬代や治療費に充てられており、最貧家庭の多くは医療サービスを一切利用していない。
 
英医学誌ランセットに今月掲載された報告書によると、インドで低水準の医療に起因する死者数は推計で年間160万人に上るとされ、世界最多となっている。【9月24日 AFP】AFPBB News
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非常に結構な話ですが、財源はどうなっているのだろうか?・・・というのが最初の感想。
そのあたりを含め、“モディケア”については、以下のようにも。

****インド医療事情と医療保険制度~モディケアとは何か*****
(中略)現在、全国的に導入されている医療保険制度は、公務員を対象とした中央政府医療制度(CGHS)と、一部の民間企業の従業員を対象とした従業員州保険制度(ESIS)、そして貧困層が政府支援を受けて民間保険に加入できる国家健康保険制度(RSBY)がある。(中略)

NHPS(モディ首相が進める貧困層を対象とした国家健康保護計画、通称モディケア)は貧困層にかかる医療費の自己負担を軽減することを目的とした制度であり、現行のRSBYを拡張したものだ。来年度以降、RSBYはNHPSに改名される。制度変更のポイントとしては、主に以下の2つが挙げられる。

1つは制度が適用される対象者の拡大だ。現行のRSBYで対象となる貧困層は約6千万世帯(1世帯の人数制限は5人)だが、NHPSでは更に拡大して約1億世帯(人数制限なし)が制度の恩恵を受けることができるようになる。

(中略)新たに対象となるのは最大で3.5億人程度になりそうだ。これは全国民の4分の1程度であり、うまくいけば医療保険制度のカバー率は25%程度上昇することになる。

もう1つは1世帯当たりの医療費上限が50万ルピーまで引き上げられることだ。これは現行のRSBYの3万ルピーの約17倍であり、貧困層がより手厚い恩恵を享受することができるようになることを意味する。

一方、政府の費用負担は重くなる。公費負担は現行のRSBYの187.5億ルピー(2016年度予算)から、NHPSでは500-600億ルピーまで拡大すると見込まれている。

またNHPSの政府の負担割合は、一部の州を除いて中央政府60%、州政府40%とされ、RBSY(中央政府75%、州政府25%)と比べて州政府の負担がより大きくなる仕組みになっている。州毎に財政余力が異なるため、モディケア導入に消極的な州政府もあるようだ。

政府はNHPSをオバマケアになぞらえて「モディケア」と称した。確かにNHPSは政府の補助を受けて民間医療保険に加入できるようになる点ではオバマケア同様の制度であると言えるが、既にRSBYが存在していることを踏まえれば、NHPSに目新しさはない。

しかしながら、従来に比べて最大3.5億人が新たに医療保険制度の恩恵を受けられるようになる影響は大きい。NHPS導入により、医療保険制度の国民カバー率は現行の2割強から5割程度にまで達すると予想され、野心的な医療保険制度の改革と評価できる。

インドの医療保険制度は着実に拡がっているとはいえ、制度の対象から外れる国民は多く、NHPSの給付金額には世帯ごとに上限もある。

NHPS導入により、インドの自己負担の割合は今後低下するとはいえ、世界的に見て大きい水準であることには変わりないだろう。インドは、全国民が容易に医療へのアクセスが可能となるユニバーサル・ヘルス・カバレッジの実現を目指している。今後、目標達成に向けて政府は更なる取組みが求められる。【3月20日 斉藤 誠氏 ニッセイ基礎研究所HP】
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